■二〇二六年七月七日 ◎物部由衣、式条桐
緩やかにやってくる夏の夕暮れ。二人の姿は賀茂大橋にあった。
木陰のベンチに座って休んでいたはずだが、由衣はいつの間にか寝入っていたようだ。
式条桐の肩にもたれかかっていたようで、目を覚ますやすぐに離れた。肌を撫でるような生暖かい風に当てられて汗がじんわりと滲む。
体の内が心なしか熱くなり、顔が紅潮しているのも感じる。
思わず桐と腕一本分くらいの距離を取ってしまう。恥ずかしさのあまりに死んでしまいそうだった。
桐は苦笑いを浮かべている。膝の上には開きっぱなしの本が置かれている。由衣が寝ている間はずっと読書に耽っていたようだ。
「ご、ごめんなさい。すっかり寝てしまって……」
由衣は桐の顔を先ほどチラ見しただけで、すぐに俯いてしまった。とてもではないが、直視できそうもない。この処理困難な感情をどうすればいいのか由衣はすっかり困っていた。
この気持ちは何なのか。果たして決着がつくものなのか。今の由衣に見当がつくはずもなかった。ただただ紡ごうとする言の葉はするりと解けてしまい、感情の奔流が洪水になって溢れでようとする。しかし、それはいずれも形なきものである。水面に落ちる滴のようなものだ。
「日陰にいたけど、やっぱり熱いな。今度は図書館にでも行こうか」
「は、はいぃ」
由衣は消え入りそうな声で返事をした。
夏の始まり。若い二人の約束はそれからしばらくして果たされる。
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