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003 激突

公園で妙な呪文を唱える男。

なんだろう、その後ろ姿を目にした瞬間、懐かしさがこみ上げてくる。

おかしい…どうして…

まさか…

リシアはすぐさま目を閉じ、魔力探知をその男にかける。

「…これは、間違いないわ…」

姿かたちは違えど、その男の体内から契約の気配を感じる。魔力は今のところ皆無だが、契約を感じた以上、間違うはずがない。

契約、それは魂に刻む二人の誓い。

リシアはふと昔のことを思い出す。

それは彼女がまだ幼い頃の話…




気付けばそこにいた。親は誰なのか、どうしてここにいるのか、彼女は何も知らない。そもそも自分は親から生まれてきたのかすらも知らなかった。

目的もなく、ただこの世界を彷徨っていた。

歩いて歩いて、一つの村を発見した。

小さき彼女はそこに向かい、おぼつかない足取りで一歩、また一歩。

そして、村に着いた。

どうしてなのか、この村は誰もいない、活気がない。

「おい!まだ生き残りがいるぞ!」

兵士らしき者が隣の木小屋から出てきて、彼女の存在に気付き、大声を上げる。

「殺せ!なんぴとも逃すな!」

瞬く間に、彼女の周りに数人の兵士がやってきて、彼女を囲んだ。

「子供とて、容赦するな。この村にいる連中を皆殺しとの命令だ。」

彼らの甲冑は、すでに血で染められて真っ赤になっている。

「悪く思うなよ、恨むならこの世を恨め!」

一人の兵士が手に持っている刀を振りかざし、彼女の首を狙って振り下ろす。

運がいいなのか、彼女はこの一撃を辛うじて躱した。

「悪あがきしてもお前を助けるやつはいない。おとなしくその首を切らせろ!」

また一振り、今度こそ外さないってこの兵士は確信している。

その時だった。

一本の槍が目に留まらない速さで空を飛んできて、その兵士の体を貫通し、命を終わらせる。

「な、なんだ!何が起きた!」

周りの兵士たちが突然の出来事にうろたえ、武器を握りしめる。

「遅かったか。」

男性の声がこの場で響く。その声からはすべてを支配する力を感じる。

黒い鎧を身につけ、大剣を手に持つ男性はこちらに歩いてきた。

圧迫感、無力感、そして絶望。

兵士はみんなひれ伏し、抵抗しようともその術がない。

「もう大丈夫だ。怖くないよ。ほら。」

男性はにっこりと笑顔になり、さっきまで殺伐とした雰囲気がまるで嘘みたいに消えた。

「ヒロキリス様!お一人で突っ走りすぎです!」

男性の後を追うように、数十人を連れて駆けつけた一人の女性が不満を口にする。

「ハンナ、遅いぞ、待ちくたびれた。」

「あなた様が速すぎます。」

「いきなりなんだが、この子は任せる。この村の生き残りらしい。」

「それは構いませんが、次はお一人で敵陣に突っ込まないでください。何があったらどうしますか。」

「平気平気、俺は強いからな!はははは!」

「はぁ。」

大声で笑う男性とため息をつく女性。

言っても聞かないと知り、女性は目を彼女に向ける。

「君、名前は?」

彼女は首を振って、何も答えない。その幼い手で、男性のマントを掴み、後ろに隠れる。

この状況を見て、男性は笑わずにはいられなかった。

「ははは!どうやら俺の方が好かれてるみたいだ!」

「じゃああなた様にお任せします。」

男性はしゃがみ、彼女の頭に手を置く。

「ね、俺たちと来る?」

彼女は返事しない、ただ男性をじーっと見つめているだけ。

「ぷっ!」

女性はこれを見て、笑いが漏れる。

「笑うな!これはその…きっとまだ怖がってんだ!」

男性は頭をかいて、何か手はないか考える。

「あった。契約だ。契約を結ぶぞ!」

思いついた男性に、女性は驚いて反対する。

「いけません!彼女はまだ子供です。奴隷契約は…」

「誰が奴隷契約と言った。俺が結ぶのは、生死契約だ。」

男性と彼女の足元に魔法陣が出現し、広がっていく。

「俺はお前を信じる、だから、お前も俺を信じろ。俺は、味方だ。」



「ふふ、あの頃のハンナはかわいらしかった。」

昔のことを思い出し、リシアは暖かい気持ちになった。

生死契約、それは一度だけ結ぶことが可能な契約。互いに生死を感じることが出来る他、相手の気持ち、精神状態、体の調子など、いろんなことも感じるようになる。

前にいた世界では、この契約は一般的に愛し合う男女が結ぶもの、会ったばかりの小娘にこの契約を強制的に結ばせるとは、あの方も神経が太い。

この生死契約があるから、リシアは確信することができる。なんとなくわかるんだ、あの方はまだ生きている、と。

でも魔力を感じない、だからリサに魔力の根源を追跡するマシーンを開発させた。

全部がうまくいって、本当によかった。

目の前にいる見方によって不審者とも捉えられるこの男は、きっとあの方だ。僅かだが生死契約の力を感じる。




「ふむ、今日はこんなところか。」

呪文の練習はした、決めポーズもいくつか試した、かなりの戦果だ、これ以上望むのはさすがに欲が深い。

「あとは目標だな。とりあえず、世界征服でもしてみるか。」

「かしこまりました、我が主。」

突然現れ、片膝をつく少女。

「だ、だだだ、だだだだだっ!」

「だ?」

「誰だよお前は!いきなり出てきてびっくりしたじゃないか!」

なんだ、家出か?それとも夜のお遊びから帰るところか。いずれにせよ、こんな夜中にまだ寝ないとは、禿げるぞお前!

心を落ち着かせ、改めて少女を見る。

長い黒髪、清楚な顔からなんか上品さを感じる。両目はまるで空に輝く星のように、なんというか生命のエネルギーを感じ取れる。

こりゃ優等生って感じだね、やっぱり家の事情で出てきたのかな。

「ようやく見つけました。」

少女は涙目になって俺を見上げる。

「えっと、人違いでは?」

こんな夜中に誰もいない公園で魔法の呪文を練習するやつを探す人はいないと思うよ。自分で言うのはちょっと傷つくけどね。

少女がまた何かを言おうとした時、一つの言葉がこの場の雰囲気を変えた。

「兄貴!そいつから離れろ!」

一人の女の子が猛ダッシュして飛んで、空中で回転してから蹴りを入れる。その狙いはどうやら俺の前にいるこの少女らしい。

え?美希?どうして?何がどうなってるの?

しかし、その風をも切れる強い勢いを持った蹴りは、いとも簡単に防がれた。

「リシア様はルルが守る。」

また一人、女の子が突然現れた、今度のはメイド服を着ている。彼女は片手で美希の足首を掴んで、振り払った。

「くそっ!」

悔しそうに罵る美希、俺は思わず訂正を要求する。

「美希、女の子がそんな言葉を言っちゃだめだぞ!」

「バカ!今はそんなところじゃない!」

現状はこうだ。俺の右前方に美希、左前方に謎の二人が立っている。互いに距離を取って警戒し合っている。

三角形だねこれ、でも安定感を感じないぞ。

「リシア様、どうするの?殺す?」

「いや、殺すのはまだ早い、聞きたいことがある。」

「じゃあ半殺しね。了解。」

そのやりとりを聞いて、冷や汗をかく美希。

(さっきの蹴りの感じからして、あのメイドはかなり強い…でも問題はあのメイドの隣にいたあれだ。いったい何なの?あたしの感が言ってる、あれを敵に回したら、間違いなく死ぬって!正直、怖い…でも、兄貴を守らなきゃ!)

美希は歯を食いしばって、メイドの隣をめがけてまたダッシュした。

「またリシア様に危害を加えるつもり?そうはさせないよ!」

メイドの少女が素早く走り出して、俺の目には残影しか見えなかった、これは人間に出来る技なのか?

次にその姿を確認した時、メイドの少女はすでに美希の腹に蹴りを入れていた。

「くあっ!」

美希は悲鳴を上げ、三十メートル後ろまで蹴飛ばされた。

「美希っ!」

俺は急いで美希が倒れていたところに向かい、意識不明な彼女を支える。

「お、お前!俺の妹に何しやがる!」

俺は怒りのあまり、自分の無力さを忘れ、ただ怒りに任せて怒鳴った。

メイドの女の子はすでに俺の前に立っていた。いつからここまで来たのかまったく気付かなかった。

「あんたに用はない。死ね。」

冷たい目で俺を見ているメイド。

俺はもう、死ぬのか。

「ルル!やめさない!」

「リシア様?」

メイドの主と思われるあの家出少女がこっちに歩いてきた。

メイドの少女を下がらせ、俺の目を見つめて、彼女はこう言った。

「申し訳ございません。なにか誤解が生じたようです。どこか落ち着ける場所で話しませんか?約束します、妹さんに危害を加えません。」


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