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002 到来

私立ウェルドン高等学校。

東京で偏差値の高さで有名、全国でも五本の指に入るとまで言われている。

「今年はA組か、悪くないね、僕に相応しい。もしS組があればもっといいけど。」

「なにバカなこと言ってんのよ、アニメ見すぎ!恥ずかしいんだから話しかけないで!」

「いや、独り言だけど…」

学校のクラス分けを見て、僕はやや満足。

妹の美希もA組、一年の。

「あら、魔王様、ご無沙汰しております。」

背後から声をかけられ、僕たちは振り向く。

「おお、久しぶりですね、財務官殿。」

「財務官?」

話が見えないのか、美希は少し困惑する。

「美希、紹介しよう、こちらは我が軍の財務係、いつも資金を援助してくれたよ。」

僕の紹介を聞いて、美希は改めて目の前にいる女の子を見る。

にっこり微笑んでいて、顔かたちが整っている。青い瞳、そして長い金髪が風に靡く。簡潔にまとめると、外国の美人である。

「こちらの方は?」

金髪美人財務官は美希を見つめている。心なしか、その目つきが鋭く見える。

「美希、僕の妹です。」

「大森美希です、兄がいつもお世話になってます。」

美希が軽くお辞儀をする。礼儀正しい我が妹よ、誇りに思うぞ。

「妹…ね…」

「はい?」

小声で呟いたので、美希は聞き取れなかった。

「いいえ、何でもありませんわ。初めまして、わたしはエレノア・ウェルドン、この学校の生徒会長をやらせていただいています、よろしくお願いしますね。」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。その…」

「エレノアとお呼びください、苗字で呼ばれるのは少々好きではないので。」

「分かりました、エレノアさん。」

二人が挨拶を済ませたのを見て、僕はエレノアに寄り添ってさらに付け加える。

(こそこそ)「ここだけの話、財務官殿。」

(こそこそ)「なんですの?」

(こそこそ)「美希は妹だけでなく、我が軍の将軍でもあるんですよ。」

バーン!

鞄を振りかざして脳天に一撃、それを食らった僕は五メートル先まで飛ばされ、地面に伏している。

「全部聞こえてるんだからね!あとそれは子供の頃の遊び、恥ずかしいんだから言わないでよね!このバカ兄貴!」

「ご、ごめん…ぐぅぅ」

僕は息も絶え絶えな様子で謝り、かなりのダメージでしばらく動けないのだ。

「なんかすみません、うちのバカ兄が変なこと言って。」

「いえいえ、あなたのお兄さんとお付き合いしている間はとても楽しかったですわ。」

「ならよかったです。その、さっき話してた資金援助ってなんですか。」

「ああ、それね。部活の予算が下りないから、わたし個人が少しだけ、ね。」

「部活?」

「お兄さんに聞かされてないですの?一年の時に部活を作り上げたんです、魔王部。」

「なんですか、そのわけがわからない部活は。」

「だから部費がないんです。ちなみに部員は今のところ、魔王役の拓希くんと部費を管理しているわたしだけ。」

「だから財務官ですか、なんだか納得しました。」

「美希ちゃんって呼んでもいいですか。」

「はい、いいですよ。」

「美希ちゃんは入らない?魔王部。」

「…遠慮しておきます、あたしは陸上部に入るつもりです、中学の時も陸上なんで。」

「残念です。魔王が拓希くんでよかったと思っていますよ、こんなに優しい魔王、きっとどこの世界にもいないんですからね。」

「あの…何の話ですか?」

「気にしないでください。魔王部はいつでも美希ちゃんを歓迎するわ。」

そう言って、エレノアは踵を返してどこかに行ってしまった。

僕は頃合いを見計らって、そそくさと立ち上がった。あのまま地面に這いつくばったらきっと美希に蹴られるに違いない。

「あ、兄貴、起きた?」

「ええ、おかげさまで。」

「あたし、準備があるから先に行くけど、一人で大丈夫?」

「美希は新入生代表だから、いろいろあるだろう。僕は大丈夫さ、いってらっしゃい。」

「うん、行ってくる。なにかあったら絶対あたしに言うんだよ。」

美希の背中が見えなくなるまで見送り、僕は一人になった。

一人か…もう慣れた…




東京、とある山の頂。

空間に亀裂が生じ、その亀裂から烈風が山頂を平がんと勢いで吹き荒んでいる。

この現象は一時間も続いだ。

幸いに今は深夜、山を登る登山者たちはすでに家のベッドでいびきをかいている。ゆえにこの不思議な出来事は誰にも目撃されていなかった。

亀裂が走り、やがて穴が開いているようになり、中から光に包まれた球体が現れ始めた。

風の勢いが弱まり、静かになっていく。球体の表面を覆っていた光もその眩しさを失いつつあり、最後は消える。

まるで何も起こらなかったように、いつもの山、いつもの景色…二人を除いて…

「ここが…他の世界…」

空を見上げて、リシアの瞳に映るのは満月。今日はいい日だ。

「へぇ、びっくりしたよ。でも、山だね、どう見ても山だね。ルルたちのいる世界と変わんないじゃん。」

好奇な眼差しで周りを見てみると、ルルは残念そうに言った。

リシアも、周りを見てから、遠くに夜の明りに染められている町を眺める。

「まず情報が欲しい、わたくしたちはこの世界についてまだ何も知らないわ。ルル、偵察を任せる。」

「はい。」

「騒ぎを起こしてはならない、どこに敵がいるか分からない今、慎重に動く必要がある。いいわね。」

「ルルに任せて、最速で情報を集めてくるよ。」

言葉とともにルルの姿が消えた。

「無事に着いたことを向こうに連絡するか。」

耳に下がっているイアリングに触れると、リサの声が脳裏に浮かぶ。

「リシア様?無事なの?」

「ええ、心配してくれてありがとう。こっちに着いたからとりあえず連絡してみた。」

「よかった…リシア様、そっちの世界はどうなんですか。」

「そうね、この世界は…」

二人は世界を隔て、僅か数分間話した。その後イアリングが魔力が切れて機能しなくなった。どうやら一日に数分間しか使用できないというのは本当らしい。

もっと話したいけど、致し方ない。

「さて、わたくしは少し、散策をするか。」

遠くに映る町の明りは、リシアを誘っているように鮮やかだ。



深夜、大森家。

「美希はもう寝た、音を立てず慎重にっと…」

今は夜の三時、僕はこれから拠点に向かい、そこで魔力の修行をする。

しかも今夜は満月、月のエネルギーも吸収できる。なんと素晴らしい。

抜き足差し足忍び足、音に注意しながら僕はゆっくりと階段を下りる。

「クリアだね、美希は起きていない、これで邪魔はされないはずだ。」

家を出て、僕は近くの公園に向かって歩く。

ズボンのポケットからマスクを取り出して、顔に装着!

今この瞬間から、僕は僕じゃなくなり、俺になるのだ!

「なにそれ、一人称が僕から俺に変わっただけじゃん」と美希につっこまれたことはあるけど、俺は気にしない。

眼帯、マスク、そして俺。三角形が一番安定するって言われているのと同じ、この三つを合わせて初めて本当の俺になるのだ。



「あのバカ兄貴、また夜に出かけた。まったく懲りないんだから。帰ってきたらお仕置きするから覚悟してよね。」

耳はいいから誤魔化しは効かないっていつも言ってるのに、本当にバカなんだから。

「はぁ、寝よ。」

目を瞑って寝返りを打つ。だがいくら時間が経っても寝付かない。

「この胸騒ぎは…いったい…」

突然感じたこの不安な気持ち、美希は落ち着かせようとしたが効果が薄い。

「やっぱり兄貴を連れ戻そ、なんか今夜はやばいな気がする…」



同時刻、公園。

「闇よ、俺の命令に従い、その力を顕現せよ!」

近所迷惑にもなる変な大声が聞こえて、リシアは声の出所に目を向ける。

「まさか初めて出会ったのが魔法使いとは…しかし妙だな、魔力を感じないんだが。」

とりあえず行ってなにか情報を探ってくるか。

そう思ってリシアは公園へと歩き始めた。


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