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同棲七日目、お仲間到来。~魔王視点~

魔王視点です。

前話見てない方は先にどうぞ。

 

 ヒモにしたい。


 開幕早々にして爆弾宣言をかますのは、ここ一週間専業主婦を極めている魔族最強の女のセリフである。途中魔王幹部との戦闘もあり、一般の主婦とは言えないが、家事スキルは更に磨きがかかっただろう。


 しかし待って欲しい、と彼女はいう。

 いつからそんな将来希望を唱えただろうか、本当に心の内で望むものはないかと考えた時、好きな人を思いっきり甘やかして残りの人生を謳歌することだと結論付けた。


 決して、民を導き、国の発展に尽力することではない!!

 だって世界が滅ぼうが、自分が幸せならそれでいいでしょ!?


 と。


 ここまででは理解に苦しむだろう。


 ───なんと、彼女は魔王だった。



 遺伝子レベルで身体に刻まれた「服従」の欲がここに来て留まるところをしらない。無論、国民からの畏怖を集め服従させることではない、ただ一人の男を私物化したいと思う、曲がりに曲がった考えが彼女が出した答えの着地地点であった。


「この前はゆーに、それはもう格好良く守られちゃったけどあれは違うわ。魔王の名に恥じないよう、私が優位に立つべきよ。服従させて、ペットの様に可愛がって~。えへへっ、それからぁ、心行くまで鑑賞するの。絶対にこの家から出させないわよ~っ」


 既に恥である。


 最近はその男、ユウと同室で眠ることが多い魔王だったが、目覚めのだらしない顔を見られる訳にはいかないと数十分早起きするのが日課である。そして、未だぐっすりと眠る彼の寝顔を堪能し、「可能ならその時が永遠に続いてくれたらいいのに」という甘ったるいセリフを、時間停止魔法によってごり押し解決しようと考え中であった。



 部屋に戻ると、惜しくもユウは起きていたので毎朝の至福の時間は残念ながらお預けになってしまった。


「朝から元気ね、ゆー。ねね、今日は何して遊ぶ?」


 そう自分で言っておきながら、最近は遊びすぎたなと記憶を掘り起こして考える。魔界領はそれを統治する魔王であっても知り得ないような、濃度の高い魔力や特殊な環境によって信じられない光景を生み出す場合が多々ある。


 それを二人で探索というのも中々新鮮で楽しいのだ。


「んーここ一週間遊びまくったしな」


 ユウも同じ感想を抱いていたらしい。


「別に今日くらいゆっくりしてもいんじゃないか?」


「ダメ、時間は無駄にできないわ!」


「いやでも俺達使命とか責任とか、ありとあらゆる物を投げ捨ててここにいるんだし……溢れ余るくらいの時間はあると思うんだが?」


 ぐうの音も出ない。

 しかし、ここで負けてしまっては今日のデート分がチャラ。

 いつ何時も、楽しむことを忘れず、素敵な体験を共にしたいと思うのが、魔王以前に女という性別に産まれたが故の性というものだ。


 こほんと咳払いをして、持論を説く。


「だからこそ、時間を大切にするの。本来こうしてゆっくりしていられないはずの時間を使っているのだから、せめて遊び尽くさないとっ」


「そんなこと言って、自分が遊びたいだけじゃん」


 ダメだわ……反抗期よ。ちょっと躾が必要かしら。

 考えを読まれたのか、ユウは素直に身体を起こした。


「分かった、分かった。じゃあ───」


 瞬間、息を呑む。


「「()()()()」わ」


 数秒で、人間の可能性を指摘すると、ユウが代表して出向くこととなった。魔族に対する悪感情を刺激して交戦になるとまずい。それに、仮に彼らが勇者パーティーであった場合、お互いが不利益を被るのは目に見えている。


 必然的に身を隠す必要が出た訳で、咄嗟に飛鉱機龍(イカロス)を格納する隠し部屋へ続く通路で彼らの様子を見守ることにした。


「(あら、でも確かゆーって所属パーティーに裏切られて路頭に迷った挙句、この家に来たのよね。あれは勇者の身分を隠して、匿ってもらう為の方便かしら)」


 無論、そんなこと言われずとも匿うどころか隔離する。監禁する。



 ───コンコンコン。


 来た。


「ちょ、あんたなんでノックなんてしてんのよ」

「え~だって勝手に入ったら失礼だし」

「言ってる場合か!?」



 男一人に女二人……? 女が二人。

 いやいや、まだ慌てる段階ではないわ。


 一抹の不安が押し寄せた。

 扉が開かれた瞬間、ユウは明るく出迎えた。




「りゅーくんっ!?」


「りゅうっ!」


「リュウ、生きてたのか!?」


「ティアにローラ、アッシュも……久しぶり。悪いが今はユウと名乗っている。その名前は捨てた」


「あぁ……良かったぁ、みんな無事だったぁ〜」


 ぎゅぅうとティアと呼ばれた少女が抱き着いた。


「(ぎゃああああああ!?)」


 え、開幕早々ありえないでしょう!?

 人間ってそんな易々と身体を触らせるものなの!?


 この小動物みたいに甘えてくる感じといい、スキンシップも極端に多い雌犬。忌まわしい性格の持ち主で、重度のトラブルメーカーだ。


「こらこら、俺の服で涙を拭くな」


「だってぇぇ……っ」


 確信犯、あの女は処しましょう。後で必ず。


「───良かった、無事だったのね」


 クールな聖女様だ。主に戦況を冷静に判断し、的確に治癒魔法を使って味方を支援する正にパーティーの要。それ故頭も切れてるはずでこの場合は危険人物。


「(わざとらしく涙なんて浮かべちゃって、あざとくないかしら)」


 男はこういう女に騙されやすい。

 魔王の知識層は深いのだ。


「なんだよ。お前も寂しかったのか?」


「……そんな口が叩けるくらいなら、あんたは無事みたいね。あーあ、心配して損した」


 あら、案外そっけない態度。てっきりゆーのことが好きなのかと……。

 ちょっと失礼なこと考えすぎちゃったかしら。


「おいおい、ローラ。リュウがいなくて毎晩毎晩夜泣きしてた癖に我慢しなくていいんだぜ?」


「ちょ、馬鹿あんた。それを言うなっ!」


「とアッシュは言ってるみたいだが本当かなぁ?」


「まじ殺す」


 前言撤回。クールに見せかけた「つんでれ」というやつだわ。人間はこうやって多重にトラップを仕掛けるのね、侮れないわ。



「アッシュも元気そうだな」


「あぁ、リュウ……じゃなくてユウも無事でよかった。こんな所でスローライフを送ってるなんて、思いもしなかったぜ」


「他に行き場所が無かったんだから仕方ないだろ? あの時こっちは割と瀕死だったんだぞ? ガルバドスの毒を貰ってさ」


 ガルバドスは、勇者の仲間にすら危害を加えていたらしい。


「俺達も結構痛い目を見た。俺は全身噛まれまくって四十度越えの発熱が三日続いた。本気で死ぬかと思ったぜ」


「他のふたりは無事だったのか?」


「ボッコボコに殴られたり、服を剥かれたりと散々だったがな。悲鳴はおろか表情ひとつ変えなかったもんで、興味を無くしちまったらしい。奴が去ってからはローラが渾身の治癒魔法をかけてくれて事なきを得た。今生きてるのも割と奇跡だぜ」


「あんな奴に触られても何も思わなかったわよ、せいぜい虫が纏わりついてんのかな〜くらい」


 聖女が屈すれば、パーティーは全壊。命を奪われる覚悟で必死に耐え、見事ガルバドスの魔の手から守り抜いたようだ。人の男に群がる害虫かと思っていたが、多少見直した。


「ありがとうな、ローラ」


 ぎゅっ……。


 あるぇ!!!??

 浮気、浮気よねこれ!?


 ローラになんと自分からハグ。


「(私だって全然やってくれないのに!)」


 なにかコツがあるかもしれない。

 あとで彼女から聞き出そう。


「ちょ、あんたっ、えっ何してんのよ!?」


「あーー! ローラだけずるいっ、あたしもっ!」


 随分と賑やかな雰囲気だ。まさかその背後に、本来討伐する目的であろう魔王がいることなど夢にも思っていない彼らは、目の前でイチャイチャ、イチャイチャ。


「ちょ、離しなさいよユウっ」


「ダメだ。あのクソ野郎の成分が抜けるまではこうする」


「あーー、もう抜けた抜けたからっ! もぅ、こんなに抱きつかれたら逆にもっと欲しくなっちゃう……」


「あ? 何だって?」


「もう禁止、十分だからぁ〜っ!」


 死のう。もうこの世で生きる価値はないわ。

 怒りよりも虚無が先にやってきた。


 その後はリビングで思い出を語り合っていた。

 心は既に荒み、並大抵のことでは治せない。


 ゆーには慰謝料を要求するわ。返済には時間がかかるかもしれないけれど、ちゃんとそれは『愛』によって償ってくれれば許してあげなくもない。


 旧友との再会でテンションが上がっているだけ。

 そうに違いない。


 寛大な心で今はひとまず溜飲を飲んだ。


「で、ゆうくんは今一人で住んでるんだよね」


「え? あ、あー。うん、そだよ」


「へぇ、じゃあ久しぶりに皆でお泊まり会なんてのもいいかもね。見た所部屋もいくつか余ってそうだし」


 苦し紛れに答えが寧ろ状況を悪化させた。


「ははっ、そりゃあいい! 正直こっちは野営続きであんまり眠れてねぇんだ。悪いが部屋を貸してくれると嬉しい」


「あ〜、まぁ別にそれくらいなら……いいのか?」


 いい訳ないでしょう!?

 こっそり抜け駆けして寝取られかねないもの!!


 計算外だった。

 まさか、仲間とこれほどまでに親交が深いとは。


 ここでの同棲がなかったら、彼にはきっとティアかローラのいずれかが彼女として横に座っていたことだろう。ほんの僅かにこちらが早かった。


 恋は戦。早い者勝ちだ。



「ユウ、ちょっと御手洗借りるね」


 ローラが視界から消える。



「しっかし、一人にしちゃかなり広いよなこの家。自分で作ったんだろ?」


「あ、ああ。『亜空間収納(インベントリ)』とか使えば割と何とかなったな。大きさは適当だよ適当」


「怪しいなあ。もしかして女とか匿ってたりしてな、あはは!」


「へぁ!?」


 変な声が出た。

 驚かないでよ、もう。


「むっ、本当なの! ゆうくん!?」


「いやいや誤解誤解。信じてくれよ〜」


 浮気した時もこうやって誤魔化されるのかしら。

 と、そんな変な憶測を抱いたところで。


「あっローラ。お帰り───」


「ねえ、ユウ。ここにあるコップと歯ブラシ。誰の?」


 あ、何も片付けてない……。

 状況は最悪の方向へ。


「明らかにこれ女物のやつよね、可愛らしいピンク色。もう一個は青色で区別してあったからこっちがあんたのやつ」


 はいそれ私のやつです。


「偶然見えちゃったのよ。トイレから帰る時洗面所の前を通るからさ。開けっ放しだったから何気なくみただけなんだけど」


「いやあ、なんでだろうな〜、不思議だな〜」


 ダダッと神速の動きでキッチンに向かうティア。

 魔王から見ても目を見張る動きで、


「隊長! こっちには食器やフォークが二組見つかりました。間違いありません、ゆうくんは何かを隠しています!」


 昨日の夜に使った食器です、食器棚にまだ直してません。


「ははーん、ってことはユウ。俺達が苦しんでいる中お前は女と二人で同棲してた訳か」


「アッシュ、お前まで! 助けてくれてもいいじゃんか!」


「いや、こっちとしちゃこの上なく羨ましいシチュエーションだからよ。嫉妬だ嫉妬、だからせいぜい苦しめ」


「こいつぅ……!」



 ど、どうするのかしら、ゆー。


 何やら覚悟を決めたような素振りで口を開いた。


「認めるよ、確かに俺は女の子と過ごしてる。だが特別な意味は無い。近くで気を失って倒れていた少女を助けたんだ。ティアより小さいちんちくりんの5歳も同然の女の子だ。恋愛感情なんて微塵も抱いてないよ」


 ちんちくりん? 5歳も同然。


 私って、そんなに魅力なかった……?


 夜もすでに複数回経験していて、感想がそれ?

 あれ、目から汗が……。


 冷静になれば分かった。同棲相手が決して恋愛対象に当てはまらず、保護という形をとっているのなら、彼は信義則に則り、人として義務を果たしているだけになる。悪化した状況を一回で覆す最強の言い訳だったのだが。


 もう、我慢できなかった。


「(ゆ~っ!)」


「いや。出てきちゃダメじゃん」



 魔王、人生最大のピンチ。








次話の投稿は0時です。

ここから完結へ驚きの展開が待ち受ける!?

超急展開なのでお見逃し無く。


ブクマ・評価宜しくお願いします。

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