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同棲二日目、騙し合う朝食ルーティーン。

本日2話目になります。

 ちゅんちゅん。

 小鳥の囀りが聞こえる。


 穏やかな朝の日差しが窓から入り込み、意識が宿る。


 はて、ここはどこだっただろうか。

 見知らぬ天井に見知らぬ部屋。ベットに寝かされている様だったが、眠った記憶がまるでない。


 まだ夢を見ているのだろうか。



 チュドォォンンンンンンッッ!!!!



「はっ、え、なになに!? 何が起きたのっ!?」


 爆音で完全に目が覚めた。

 隕石が落ちたのかと思うぐらいの衝撃だったぞ!?


 その拍子に思い出した。

 ここは、人界じゃない……魔界だ。


 魔王幹部との交戦で足を負傷し、撤退もままならず訳もわからず森に逃げ込むと不思議な一軒家があったのだ。


 そこには、魔族らしき少女がいて……。


「あら、起きたのね?」


 丁度、その魔族であるマナが寝室に顔を出した。

 なるほど、あれから一晩明かしてしまったらしい。


「今、すごい爆音が聞こえたんだけど……大丈夫だった?」


「そうなのっ、私気付かなかったわ」


 おかしいな。あんなにもハッキリと聞こえたのに。

 まあいい、そろそろ起きよう。


「朝食を作ってあるわ、一緒に食べよっ」


「行く〜っ!」


 ここは天国かな。

 父さん、母さん。俺は魔界にて天国を見つけたよ。


 ダイニングには、卵や謎の肉のサンドが置かれてある。想像した見た目通りの、実に朝食らしいもの。

 これなら人間でも食べられそうだ。


「悪いな。あれから俺、寝ちゃってたみたいで」


「そうそうっ、話し込んでたら急に倒れちゃって。余程疲れてたみたいだからベットまで運んだのよ?」


「うっ……その節はどうも」


 しかし、本当に魔族と朝食を共にしている。

 口に放り込むと、パンと半熟の卵が絶妙に混ざりあって、口の中が蕩ける程の旨みに包まれる。


「美味いっ」


「あはっ、良かった〜!」


 もういい、ここに住もう。

 昨日は泊まり、今日も泊まれば実質同棲。

 今日を乗り切れれば明日以降も安泰な生活だ。


 故に、どう泊まりの話題に持っていくかが重要だ。

 彼女のヒモとしての生活も十分魅力的だが、泊まらせてもらうならそれなりの対価を支払うべきだ。



「昨日も含め随分に世話になっているからな。なにか手伝えることは無いか? お礼がしたいんだ」


 そう言うと、彼女は「別にいいのに〜」と困った顔で呟いた。生粋のお人好しは、同居人の一人や二人、別に気にしないのかもしれない。


「そうはいかない。何でもいいんだ」


「そぉ〜? じゃあ……」


 仕方ないとばかりに、外を見て。


「森に出て、今日の分のご飯を取ってきてほしいかな。ついでにそこら辺の邪魔な木も切ってくれると嬉しいわ。あ、全部はダメよ、森は大切にしないとっ」


「よし来た。任せてくれ」


 と、その前に。

 食べ終わって手を合わせる。


「ごちそうさま」


「あっ、私絵本で見たことあるわ。確か人間が食べ物の恵みに感謝して唱える不思議な呪文ね」


 げっ、人間知ってるのか。

 てか情報源(ソース)は絵本かよ。

 どこまでも箱入りなお嬢様なことで。


「本来はいただきますも言うべきだったな、あはは。俺も聞いたことがある程度で真似しただけだが」


 と、あまりにも苦しい人間じゃないアピール。

 ここで話を掘り起こされると問題なので足早に部屋を出た。


「すぐ戻るっ!」


 戻ると宣言しておくことで、断りづらい状況を予め作り出す。外に出ている間に行方を眩ませるなどしてくれるなよ。


 暗にメッセージを忍ばせて家から駆け出した。

 なるべく周囲の探索を行おうと考えていた。ここに来てあまりにも都合のいい方向に話が進んだ。


 木々は実に背が高く上空をすっかり覆っている。

 その麓には、薄らと背丈の小さいきのこや山菜が実っている。ある所には、確実に食べられそうな果実まで。


 バカ正直に収集など出来ない。

 勇者御用達の『亜空間収納(インベントリ)』に片っ端から食材を詰め込んで蓄えておく。

 普段使いの剣の他、魔王すら一撃とされる勇者の聖剣もこの中には入っていた。


 聖剣を取り出し、魔力を注ぐ。

 空間を薙ぐと、衝撃が高所の木の実を襲いぽとりと落ちる。空間無視の斬撃は未だ健在のようだ。


 あとは森林伐採だ。

 万が一仲間や敵が現れると折角の安息地が台無しだ。なるべく遠くの影響にならない場所の木を聖剣で切り飛ばす。


 豆腐よりも簡単にスライス出来た。

 断面が綺麗すぎるだろうか。


 拳で二、三度殴って凹凸を作って偽装工作を施した。


「終わったな」


 暇だ。


 すぐに帰ってもどうせ怪しまれる。

 適当に時間でも潰すか。


 予防線として結界を張ることにした。

 行動の妨害が主な目的ではなく、接近した者を炙り出すための罠的な要素が強い。全ての魔力を使って、家の周囲を覆っていけば、それなりに時間と労力も食うだろう。


「やるか」


 こうして、日が暮れるまで念入りに結界作成に務めた。



 ややあって、


「ただいま」


 肩で息をしつつ、()()()へと戻る。

 自然な疲れが演技の必要性を奪った。


 怪しまれることはあるまい。


「こんな、日が暮れるまで作業していたの!? 良かった……帰ってこないんじゃないかって心配していたのっ」


 ぎゅっ、と腰にマナは手を回した。

 動物特有の温かみが骨の髄まで染み渡る。


「恩返しがしたかったんだ。でも、俺運動音痴でさ。お陰でもう夜になっちゃったよ」


「もうっ、馬鹿ぁ〜」


 何この役得。

 食材は予め顕現させて、重そうに運ぶ姿も見せた。

 実際にはものの三分の成果だが、一日ひたすらに頑張っていたと考えてしまうだろう。


「早く家に入って、ご飯にしましょうっ」


 腕を引っ張って中へと入る。

 戸締りの為か、即座に鍵を閉める彼女。

 こんな人気ない場所でも念入りなことだ。


 そして、今日もまた無事に一日お泊まりした。



 □■□



 チュドォォンンンンンンッッ!!!!


 目の前の巨大な野鳥に、中級魔術【炎獄(イグニス)】を放つとひらひらと力なく倒れた。


「あら、少しやり過ぎたかしら」


 魔術は久しぶりに使ったので加減を忘れていた。

 魔王たる才覚は、魔術の腕にも現れていたのだ。


 ともかく今日の朝食は決まり。

 家の近くに巣食っていた魔物、木の上には奴の卵らしき物まで見られる。チキンと卵が一気に手に入った。



 家に帰ると、ユウはまだ寝ていた。


「(おかしいわ……盛りすぎたのかしら、()()())」


 とりあえずと飲ませた昨日のお茶に睡眠薬を仕込んでいたのだが、あまりにぐっすりと寝てしまったので少々心配になってきた。

 しかし、昨日の時点でもう帰ると言われるより、既に同棲したという既成事実を使った方が今日も泊まりやすいのは自明。


「(そう、あれは致し方ない犠牲だったのよ……っ)」


 すると、ユウが目を擦りながら起きた。


「あら、起きたのね?」


 やっぱり可愛いわぁ……ショーケースに飾りたいくらい。

 時を止める魔術でも試してみようかしら。


 今のところ催眠術は試してないが、そのうち試そう。

 無理矢理襲われるシーンとかやってみたいもの。


 ※彼女は魔王です。


「今、すごい爆音が聞こえたんだけど……大丈夫だった?」


「そうなのっ、私気付かなかったわ」


 だってそれやったの私だし。

 と正直に言う訳にもいかず、はぐらかす。


 ちなみに魔術で音速を弄って、先の爆音が時間差で伝わるよう計算してある。要はアリバイ作りだ。変に力を持っていると知られたら、妙な警戒心を持たせかねない。


「朝食を作ってあるわ、一緒に食べよっ」


「行く〜っ!」


 あー、ほんと可愛いわ。

 首輪付けてペットとして飼おうかしら。もう最高!


 だんだんと魔王たる威厳が無くなるのを感じながらも、その背徳感が逆に彼女を刺激するのであった。




「昨日も含め随分に世話になっているからな。なにか手伝えることは無いか? お礼がしたいんだ」


 と言い出したのは朝食後。

 別に働かずヒモになってくれても全然結構なのだが、「ご主人様の為に働きたいワン」と言うのなら仕方ない。


「森に出て、今日の分のご飯を取ってきてほしいかな。ついでにそこら辺の邪魔な木も切ってくれると嬉しいわ。あ、全部はダメよ、森は大切にしないとっ」



 適当に役目を与え、帰ってくるという約束を交わす。

 家への帰還を任務としつつ、その範囲内で外を探索してもらうのも悪くない。束縛しすぎは禁物だ。


 しかし、万が一知り合いの魔族と鉢合わせの危険もある。

 本来森を伐採しようが焼き払おうがどうだって構わないが、今ばかりは視線妨害という重要な役目は果たしてもらねばなるまい。


 森は大切だと最もらしい理由をつけて彼を放つ。


 ごちそうさまをすると彼は行ってしまった。

 実際は人間のルーティーンなどはそこそこ知っているが、妙に知識があるのは人間と最前線で戦う魔界軍の一味だからと勘繰られては面倒だ。絵本と言って誤魔化した。



 さて。


 一時間経過。


「頑張ってるのね」


 二時間経過。


「遅いわね」


 三時間経過。


「困ったわ……っ、家出した!?」



 結局半日以上待てど暮らせど帰ってこない。

 逃げられてしまった。睡眠薬のことも実はバレていたのかもしれない。それでもめげず部屋の掃除や家事をこなして。


 日が暮れる前の黄昏時。


 はあ、はぁ……っと息を切らした彼が戻った。


「ただいま」


「こんな、日が暮れるまで作業していたの!? 良かった……帰ってこないんじゃないかって心配していたのっ」


「恩返しがしたかったんだ。でも、俺運動音痴でさ。お陰でもう夜になっちゃったよ」


 健気〜っ、めちゃくちゃ推せる〜〜っ!!

 何だこの可愛い生き物は。

 この国の天然記念物に指定して大々的に保護しよう。


「もうっ、馬鹿ぁ〜」


 合法的に彼の腰に手を回す。

 あまりに自然なスキンシップ。


 匂いを擦り付けておこう。


「早く家に入って、ご飯にしましょうっ」


 その前に、家の鍵を閉める。

 魔術を使って多重封印も仕掛けた。


 ちゃんと管理しよう。そうしよう。

 今日で確信した。逃げられたら困るわ、絶対に。


 そして、今日もまた無事に一日お泊まりした。

 



マナさんの暴走が止まりません!?


次回は明日の0時を予定しています。明日は3話投稿いたしますので、是非ともブクマして頂けると助かります。好きなタイミングで評価の方をお待ちしております!

気軽な感想、率直なご意見もよければ是非。

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