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同棲再び、代償に波乱を呼び込むようです。

 

 調印式は無事始まりを迎えた。

 妙につやつやした顔で式典へと向かったマナは国王様と歓談を交わし、実に有意義な時間が流れていく。アルベルトを退けた後は特にこれといった働きかけもなかった。


 それもそのはずで後に聞いた話、アルベルトは反対勢力を根こそぎ葬り去っていたらしい。魔王幹部の中ではガルバドスと並んで実力者だった彼は、徹底的に他勢力を黙らせ、実力行使に出たという。大きな改革の際に犠牲は付き物だが、汚れ役を進んで買って出たのだ。


 転送魔法にて、会談中の様子を眺める国民達の様子もとても和やかである。一か月前までは夢にも思わなかった和平への道がすぐそこまでやって来ているのだ。


「では、今回の条約締結に際し、条文について今一度精査の程をよろしくお願いいたします」


 簡単に纏めると、双方の不可侵を約束する事柄。あとは、貿易や国境移動の自由を主なテーマとして条文が長々と綴られている。無論、事前に目を通しているはずなので反対意見など出るまい。


「なんだこれは!?」


 うそん。

 国王様が声を上げた。


「この……文化交流という名目で人材の交換をするのは理解したのだが、その下にいかにも手書きで書き加えられた、『結婚に関する誓約』という条文はなんだ!」


 主犯は最早自明である。マナが映像に向かってウインクした。


「『魔族と人間双方の繁栄を祝する婚約の契りを式典の場で執り行うことで、以上の条文全てが有効の証とする』ですと!? なんのおつもりですかな……」


 国王様は既に押されムードである。

 ざわざわと国民達も騒ぎ立て始めた。それだけではなく、急遽魔族側が提示した条件に、式典に関与していた全人員が困惑を始めている。


「なんのつもりなんだ、マナは」


 外で見ている分だと詳細までは分からない。

 さて、どう動く。



「言葉通りの意味ですわ。具体的には、私とそちらの勇者様との婚約を此度の式典の演目に追加していただきたく思います」


「勇者と魔王様の結婚!?」


「魔族と人間が共に手を取り合いこの先を進んでいくならば、それを象徴すべき人材もまた必要だと私は考えています。そちらの勇者様は人望も厚く、相応の実力もお持ちのようですね。是非とも彼を我が夫として迎え入れたいのですが、如何でしょうか?」


 完全、論破……!


 ここで思い出してほしい。

 勇者としては魔王のヒモになってやると意気込んではいたが、対する魔王は相手を篭絡させ我が物とするのが最大の目的である。それを全国民が関心を持って見守る式典の最中婚約の話題を公表することで、後の解消は世界中に波乱を起こす可能性がある。


 和平の存続を盾に、当初の目的は遂行される。


 そう、この状況は魔王が狙って生み出したものだ。


 かくて既成事実は作られ、婚約は確実のものとなる。

 全ては勇者を、ユウを逃がさない為の策略!


 この勝負、マナの勝利に終わった。


「嘘、だよな。結婚? 俺まだ二十歳にもなってないのに?」


 いくら何でも早すぎやしませんかね、マナさんや。

 こういう結婚の申し出とかって普通は男から覚悟を決めていうもののはずが、たった今全国民に知れ渡った挙句、既に後戻りもできそうにもないんだが!?


「ははは……」



 だが、まだ全てが終わってはいなかった!



「ならん。勇者は是非とも我が娘と結婚してもらう予定なのだ。此度の活躍に最大級の褒美を与えなければ、我々王族のプライドが許さんであろうが!」


 まだその話続いてたんだー!

 出来ればその話は保留にして今度お茶しながらでも。


「はい? ゆーは私の物よ、誰にも渡さないわ」


「悪いがこれだけは譲る訳にはいかんぞ」


 あれれ、おかしいな。さっきまであんなに和やかな雰囲気だったはずが、今すぐにも全面戦争に突入しそうな勢いだぞ~?


 お願いなので誰か止めてください。



「魔王様の言う通りです。勇者は魔王様にこそ相応しい人物だ。彼は我々魔族を誰よりも理解し、誰よりも愛する心を持っておられる。彼を他において魔王様の結婚相手に務まる者などおりませんよ」


 ここに来て傍に控えていたアルベルトが参戦。ただでさえ一触即発の雰囲気に更に油を注ぐ大馬鹿者が現れた為に、いよいよ収拾がつかなくなってきた。


「いいえ、わたくしのご意見も聞いてくださいまし!」


 国王様の近くへ歩み寄るのは、向日葵の如きブロンド色の長髪が映える一人の少女だった。年齢は十五歳前後で、まだ幼げの残る容姿だった。しかし、身のこなしや腕や頭へ装備する豪華な華奢品は、彼女が格式の高い人物であることを想像させた。


「誰です、貴女は?」


「わたくしは国王の娘、第一王女ルミナリエと申します。わたくしは、勇者様のご活躍を耳にする度に心を躍らせ、ご尊顔を拝する度にその勇ましさに鼓動が高鳴る日々を暮らして参りました。将来は勇者様との婚約を目標に、常日頃から淑女としての嗜みを身に刻んでおります。魔王様が、勇者様をご慕いになるのは結構ですが、正妻の座はわたくしにお譲り頂きませんでしょうか」


 ルミナリエ王女は国民の目に触れず、王宮の中でひっそりと暮らし続けていた。友達もおらず、日々王族としての振る舞いを学び、国民に支持される為立派な王女になるべく邁進を続けていた。彼女からすれば、そこに突如横槍を入れる形で現れた魔王なる存在が、我慢ならないようだ。



「ううん……普通に悪くないんだよな」


 なんていうか、メチャクチャ可愛いし健気だし。

 いかんいかん、何心を揺らしているんだ。これでは、女性が現れる度にフラフラと魅了され続けるダメ男みたいじゃないか!


 ※既にダメ男です。


「ねえ、ゆー! どうするの!」


「勇者様、是非わたくしをご指名ください!」


 映像に向かって語り掛ける二人の美少女。

 外で傍観するだけのはずが、どうしてこうなった。


 ひとまず向かおうとして、


「待って」


 腕を引き留められた。ローラだ。


「私も行く。二人とも話したいし」


「まあいいけど、なんなんだよ」


「何でもいいでしょう! ほら、行くわよ!」


 この人生。ずっと女性に振り回されてばかりだ。

 全国民が見届ける中の修羅場とか、どこに需要があるんだ。


 やむを得ずに記念建物の中へと入る。

 中は外以上に重苦しい雰囲気ですぐにも帰りたい。


「勇者様、ようやくお会い出来ましたっ」


 ぎゅうと、小さな腕を回して飛びついてきた。

 熱狂的なファンというか、既に眦に涙を浮かべていて、正直振り払うにも躊躇するレベルだ。


「ゆー、早速浮気?」


「いやいや、これは違くてですね。なんというか、そう不可抗力的な。あははー、軽々しく『不可抗力だ』とかいう奴は一回滅びてしまえって思ってたけど、まさか自分が言う羽目になるとは」


「茶化さないで、どうするのっ」


「どうって言われてもなあ、今即断するのもあれだしなー」


 勿論、マナのことは好きだし、愛している。その気持ちに偽りはないが、これ程真っ直ぐな好意を向けられては、男として来るものもある。


「はあ!? つまりあんたは、ルミナリエ様の事を保留するつもりなんだ。そんなことで、よく勇者~なんて言われてるわよね。勇者なら勇者らしく、きっぱりと決めなさいよ」


 何故か部外者なはずのローラから苦言が飛んで来る。


「じゃあ、マナで」


「『じゃあ』ってゆーにとって私は、消去法や妥協で選ばれる女なのっ! 酷いわ、ゆーっ! さっきはあんなにも熱烈に私を愛してくれたのに」


 マナって時々とんでもないこと口走るよね。


「熱烈にって……まさかあんた、さっきの時間で」


「違う違う、本当違うから」


「勇者様、分かりました。ならばわたくしは、正妻の座を諦めます。ですが、せめて側室としてでも傍にいることをお許しください」


「うわ、王女相手に二股かけようとしてる」


 一つ言わせてほしい。




「じゃあ、どうしろって言うんだよぉおおお!!!!!」




 結局その日、お互いの熱が冷めるまで、二時間の時間が要したのである。その様子を見ていた国民達は面白がって今回の一件を『勇者ハーレム事件』と呼ぶようになった。


 #勇者ハーレム事件


『マジ面白かった』

『とんだ公開処刑だろあれ』

『結局どうすんのかな勇者様。誰と結婚すんのかね』

『俺ならルミナちゃん一択』

『マナちゃんもクソ可愛いじゃん。魔族っ子とか最高だろ』

『お前ら一旦不敬罪で処されろ。ちなローラ』





 和平は無事に締結された。

 そして、勇者と魔王の同棲生活も再びスタートだ。


 例の隠れ家はどうしても二人きりになりたい時以外は利用しない。というか、利用できない程多忙な生活が続いている。魔王としての職務は重なり、配下の人員補充や人間側の重鎮達との挨拶が連続する日々が続いている。


 魔族に対する差別もゼロとはいかないようで、そういった差別が横行しない様に、各種イベントを開催して盛り上がりを見せている。


 現在はティアが開く料理教室にアルベルトが参加している。なんでも彼はお菓子作りに興味があるようで、どの生徒よりも熱心だと聞いている。


 アッシュは闘技場にてトーナメントに参加している。魔王幹部がごっそりと抜け、アルベルトもお菓子に熱中している様なので、優勝は確実かと思われたが、決勝で惜しくも敗れたらしい。



「はあ~大変だねぇ、皆」


「あんたは早く手を動かしなさい。まだ目を通すべき資料が山積みになってるじゃない。そんなんじゃ、今日も自由時間は無しだから」


「ひぃぃ……ローラ秘書鬼すぎませんかね」


「無駄口は叩かない」


「くそぅ」


 ローラは魔王の秘書となった。元々頭が回る方だし、経理もかなり出来るようで、今では完全に魔界軍はローラ頼りになってしまっている。勇者としての肩書きや署名が必要な書類はこうして尻を叩かれながら必死に書いているのだが。


「マナはどこいったんだよ~!」


「きょ、今日はまだ……外出中みたいね」


「残念だ。膝枕でもして、癒して欲しかったなぁ」


「なら、私がしてあげようか?」


 ぽんぽんと黒タイツを纏ったしなやかなな膝をこちらに向けて来た。来客用のソファーに座り、悪魔的な囁きで心を惑わせにくる。


 くぅ、抗えない……!

 まるで重力がそこに作用したかのように、自然と膝へ。

 疲れて重い身体は一瞬でローラの膝に収まった。


「よしよし。全く、しょうがないわね」


 優しく髪を梳いてくれる。

 疲れも相まってだんだんと眠気が。


「ユウ……」


 だんだんと、ローラの柔らかな唇が近づいてくる。

 これも抗える気がしないぃ……


 バァンと扉が開かれた。マナが相当お怒りの様子。


「ちょ、そこの秘書!? なに人の夫を堂々と寝取ろうとしているのっ」


「まだ暫定でしょ。それにユウも満更でもなかったし」


「ゆー、これは本当にお仕置きが必要だわ」


 なんでこんなことになった。

 俺の平穏な日々は? ヒモ生活は!?


「ただいま戻りました。勇者様、実はわたくし先日闘技場での決闘試合に優勝して参りまして、優勝賞品に魔剣を頂いたんです。試しに使ってみた所、それはもう凄い切れ味で、偶然古竜が討伐出来ました!」


 王女様は世界最強格へのし上がっていた。

 彼女の言う淑女とはなんなのか、最近は分からない。


「また来たの、貴女。はあ、いい加減お子様はゆーの相手にならないと何度いったら分かるのかしら。先が思いやられるわ」


「自分のこと棚に上げているけど、この中で一番女性的なのは私だから。確かマナさんって、ちんちくりんの5歳程度って言われてたっけ」


「なんですって……! ゆー今から貴方を蹂躙するけれど抵抗しないで貰えるかしら。勿論手足は縛っておくからそのつもりで」


「どのつもりで!?」


 こうして、同棲生活という夢は波乱を呼び込んだのである。

 その後どうなったのかは、彼らのみぞ知る所である。




次回で最終話になります。

ここまで付いてきて下さった皆様、ありがとうございました!

近々、今度はハイファンタジー小説の新作も投稿しようと思います。

良かったらそちらも見に来て頂けると嬉しいです。

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