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同棲一日目、同棲の為の策を弄する。

新作始めました。現在は予約投稿で完結近くまで書いておりますので、安心してお読みください。


Twitter(@TGIyuzu) もやっていますので、是非。

 魔界領イルビス


「くっ……」


 ここに、苦痛に喘ぐ一人の若者がいた。

 魔王幹部との決戦の末、彼は足を負傷した。毒の効果もあってか、徐々に足の感覚は失せていく。戦闘どころか走ることもままならない状況。共に来ていた仲間には、自分を置いていくように指示し、彼は一人敵地に残った。


 身を隠す隙を仲間達は作ってくれた様で、なんとか彼は魔王幹部の追撃を逃れ生き長らえている。



 ここまでで既にお気付きだろう。


 ───そう、彼は勇者だった。



「解毒薬もない、放置すれば最悪足が腐って二度と戻らなくなってしまう……そうなったら、勇者は卒業か」


 卒業、卒業か。

 それも悪くないのかもしれない。


 勇者という称号を与えられ、好きでもない戦闘に身を投じ、誰の為でもなく無為に命を張るのはもう飽きた。

 ここらで死んだことにして、残りの人生を自由に生きてみるというのも案外悪くないのかもしれない。

 まあ、その結論がこんな敵地のど真ん中で出すものでは無いと十二分に理解しているつもりだが、今となっては後の祭りだ。


 敵に見つかるとまずい。

 まずは、落ち着ける場所を確保しなければ。



 勇者は片足を引き摺りながら何時間と歩いた。

 地図もない人類未踏の土地。ここがどこなのかはさっぱり分からない。禍々しい紫の木々が立ち並ぶ森林の隘路を抜け、巨大な岩壁の麓に行き着くと、その窪みに一棟の住宅が姿を現した。


「誰か住んでいるのか?」


 最悪、力ずくで制圧し無力化してしまえば問題ない。玄関は開いているようなので躊躇なく中に。


 勇者の特権という名の不法侵入だ。

 建材こそ知らぬ物だが、間取りという考え自体は魔族にも浸透しているらしい。リビングらしき場所に行き着き、ソファーへと身体を委ねる。


 正直発熱もあって、思考が纏まらない。

 予想以上に症状は深刻なようだ。


「俺、死ぬかもな……」


 そして、一度目を伏せ次に目を開いた時───。


 ()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()


「は!?」


 落ち着こう。

 冷静になって考えろ。


 布に包まれた豊かな双丘に行きそうな目を制し、無理やり彼女の頭の部分へと持っていく。


 角が生えていた。

 よく見ると、臀部からは尻尾。


 ()()()


 急いで剣を構える。

 想定していた通りの戦闘。


 生き残るには、彼女を殺すしかない!



 あ。逃げた。

 凄く恥ずかしげに顔を赤らめて。


 具体的には、洗面所のドアを閉め、その次の瞬間にはするすると布が擦れる音が絶え間なく聞こえる。

 生着替え中だという。


 突入出来ず困っていると、その娘は改めてリビングへと戻り、続いて負傷した足へと目を向けた。


「ご、ごめんなさい。まさかお風呂の最中にお客さんが来ていたなんて思いもよらなくて……。あら、怪我をしているのね。少し待ってて、今回復魔法を唱えるから」


 何やらブツブツと唱え始めた。

 魔界語の様だったが、やや聞き取りづらい。

 方言みたいなものか。勇者になる際一通り魔界語の勉強はしているので聞き取れないはずはない。


「終わったわっ」


「いいのか、助けてもらって?」


「随分痛そうだったから、当然の処置よ」


 随分お人好しな魔族な様で。

 身長は150cmくらいの小柄な体躯。褐色系の皮膚に、惹き込まれるようなシルバーの双眸。よく見ると、背中からも小さな羽が生えているようだ。


「(なら今はこの好意に甘んじるとしよう。大方こいつは、魔族の子供、それも人間も知らない様な箱入り娘だ。その気になれば三秒で殺せる。警戒する必要も無いな)」


 十分な交戦能力は無いと判断し力を抜く。

 魔族の成長過程には疎い上、戦うのは成長しきったオスの個体が大半な為、彼女が成熟しきっているのかは未だ不明だが。


 よく見ると顔は整っていてかなりのタイプ。

 なんなら、面倒見も良い博愛主義と来た。


「(もういっその事、ここで暮らそうかな)」


 故郷に戻れば勇者の生活が待っている。

 自由になった足をぷらぷらと揺らしてみせると、その少女は屈託のない笑みでこちらを見つめていた。


「良かったっ」


 はー。魔族より天使に見えてきた。


「名前、なんて言うの?」


「マナ。貴方は?」


「俺は……そうだな。ユウだ」


 即興で考えた偽名だが、まあいい。

 本名を伝えて万が一正体がバレるのは御免だ。


「ゆーはどうしてここに?」


「あー、実はさ。俺仲間に裏切られたんだよね」


 ありもない話を作ってしまった。

 足を負傷し、動けないので撤退する際の囮として使い、彼らはそそくさと逃げてしまったと。


 ここに居座る大義名分を作るには、まずは行き先がなく路頭に迷う未来を暗に示してやることだ。


 彼女の良心に漬け込んだクズなやり口だが?

 勇者としての尊厳などありはしないが!?


「そんな……っ、大変だったんだね。よしよし」


 慰めてくれた。頭を優しく撫で、癒してくれる。

 天使を通り越して神かもしれない。


「ゆっくりしていって、今お茶出すから」


 そんなこんなで、居場所確保。

 あわよくば、今晩はここに泊めて欲しいものだ。


 □■□



「くっ……」


 ここに、苦悩に嘆く一人の少女がいた。


 魔王幹部の独断専行、容赦なく人類を殺し長きに渡る人魔の対戦はこれまでの記録で最も悲惨な状態へと変わった。


 戦争を遊びと捉え、己が満足する戦いを好む。ある時は早々に返り討ちにあい、ある時は資金を無断使用する。


 制御しきれない部下の魔族、統制できない思想。


 人類と魔族の融和という本来なし得ない理想は、魔王城にいても遂行出来ないと考え彼女は一人逃亡した。



 ここまでで既にお気付きだろう。


 ───そう、彼女は魔王だった。



「魔族を統治する使命を捨てたとは即ち、国を捨てたも同然の行為。今この世界に私に味方をしてくれる存在なんてないわ」



 分かって尚、逃亡する道を選んだ。

 これ以上、二つの種族が訳もなく戦う様を見たくないから。


 行先はなるべく魔族の目に付かない辺境の森にでも身を隠そう。

 勇者の襲撃の際に、身を隠す為の別荘近くにあったはずだ。




 用心を重ね、部下の誰にも知らせていなかった森の中の住処。

 それとなく結界も張って準備完了。これで一時的な安全は保障された。




 付近の木材を使い、魔法を使って数日ともせず建てた家。

 1LDKの少し小さく、それでいて生活に必要な要素は確保してある。



 今後何不自由なく生きる為の最低限度の設備だ。



「はあ。いろいろ緊張して汗かいた。お風呂にでも入ろうかしら」




 極東の人間が好き好んで入るという風呂。

 実は、彼女も大の風呂好きであった。



 生を実感できるというか、生き返るというかなんというか。

 不快な汗を流し、一息つく。我ながら、風呂を整備して良かったと思う魔王。




 何気なく、バスタオル姿のままリビングの方へ。

 蒸し暑い脱衣所から開放的な広間へと移動するのは自然の摂理だ。


 ……。



「(ん!?)」


 誰かいる~~っ!?

 めちゃくちゃソファーで寛いでる~~!!



 思わず漏れそうになった声を抑える。



 落ち着こう。

 冷静になって考えるのよ。




 外見は、まだ二十歳かそれ以下。

 見た所装備は一振りの剣があるが、それ以外は目立った物はない。肌はどの魔族よりも白く特徴たる角や尻尾も見当たらない。



 ()()()



 彼は、閉じていた目を開けると真っ先に……、

 胸の方へと目をやった。



 今にも見えそうな、半裸の姿。

 そうだった、バスタオル姿だった。戦闘なんて出来ない!



 急いで洗面所へと戻る。

 着替えながら考える。


「(人間、どうしてこんな所に? 仲間は? それに、結界はどうして発動してないのよ! まさかシャワー浴びてて気付かなかったとか。いや……大丈夫、私を狙いに来た刺客ではないはずだわ。じゃなきゃ、ソファーで眠ったりしない)」


 そう、彼は偶然森林を抜け、家に転がり込み、我が物顔で寛いでいただけ。

 あれ。十分変な気が。



 人前に出られる程度に服を着こみ、再び彼の前へ。



「ご、ごめんなさい。まさかお風呂の最中にお客さんが来ていたなんて思いもよらなくて……。あら、怪我をしているのね。少し待ってて、今回復魔法を唱えるから」


 早口で捲し立てる。


 もう何も考えられないっ、ふにゃああ〜っ!!

 回復魔法を唱えるってそもそも私『()()()』だし。唱える必要ないのに〜っ!!


 平静を装って適当にブツブツ。

 今は落ち着く時間が必要だ。


「終わったわっ」


「いいのか、助けてもらって?」


「随分痛そうだったから、当然の処置よ」


 多少声が上擦ったが問題ない、想定の範囲内だ。

 さて、問題はこの男何者かということである。


「名前、なんて言うの?」


「マナ。貴方は?」


「俺は……そうだな。ユウだ」


 マナ、などと安直な名前を言ってしまった。

 まあ、本名から魔王と正体をバレる訳にはいかない。

 彼はユウと名乗った。


「ゆーはどうしてここに?」


「あー、実はさ。俺仲間に裏切られたんだよね」



 何たることか、彼はパーティーの仲間に裏切られ、負傷した状態でも構わず置き去りにされてしまったと。

 仮に人間の領地まで送り届けたとて、彼が待っているのは魔王としての責務を捨てた自身と同じ境遇。


 除け者にされ、虐げられる未来。


「そんな……っ、大変だったんだね。よしよし」


 己を重ね合わせ、気の毒に思った彼を慰める。

 警戒を解くと目に映るのは、未だあどけない少年の姿。


 あれ、もしかして……結構可愛いのかも。

 より正確には、外見が超タイプだった。


 一瞬で心が奪われた。恋の始まりの予感。


 よし、決めた。

 ()()()()()()()()()()


「ゆっくりしていって、今お茶出すから」


「(人間の素性を知れる大チャンスよ、その気になれば三秒で殺せるはず。こちらが警戒する必要も無いわ)」


 引き止める為のお茶出し。

 こうやって人と会話するなど、考えもしなかった。


 きっと独り身は寂しくなる。

 あわよくば、今晩はここに泊まってほしいものだ。 




本日の21時にもう1話投稿致します。

出来れば、感想やブクマ、評価など宜しくお願いします〜!


読み始めって下さった皆様、ありがとうございました。

本作は全13話程度での完結を予定しております。一日、2話か3話の投稿になると思いますのでご支援の程よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは ツイッターから来ました。 全体的にテンポがよく、読みやすい文章でした。 ユウとマナの関係が今後どうなるのか、非常に楽しみです。 [気になる点] 二人の視点をわけるのであれば、…
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