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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ダンス

作者: kaHo

僕の家はお母さんと僕だけの、所謂母子家庭だ。

だが、そんなに寂しいとは感じたことがない。

お母さんはいつだって僕の話を楽しそうに聞いてくれるし、料理も美味しい!

でも、僕は一人っ子のせいなのか、一人でするようなことが好きだった。

本を読んだりとか音楽を聴いたりとか。

皆で遊ぶのは楽しいのは楽しいけど、一人の時間も大切にしてるんだ。

だって、本や音楽にはその中にある世界があるから、実体験できないいろんなことがあるからワクワクドキドキがとまらないんだ!

ーーー

そんな僕が小学5年生のこと。

お母さんはあることに夢中で僕の話は聞いてくれるけれど、そっけない態度。

そのあることがもうすぐ始まろうとしていた。

「け、健一、テレビ!テレビつけて!」

とお母さんが言い出す。

僕は、はいはいと言いながらテレビをつける。

「あー、いつ見てもカッコいいわー。カイト君♡」

とお母さんは食事もまともにとらず両手を頬につけて、まるで目までハートになりそうな勢いだ。

本当に呆れる。

確かにメジャーなアーティストで僕も世界観は好きだが、ただ踊ってるだけの人達の一人ではないか。

僕はささっと夕飯を食べては、自分の部屋に籠もる。

先程のメジャーなアーティスト『TRUE』の曲を聴く。

確かにこの音と世界観がマッチして好きなんだけど、踊ってる人を見ても何も感情を抱くこともない僕。

ただの『カッコいいだろ俺様アピール』が気に入らない。

音楽に踊りは必要あるのだろうか?

ふと、疑問に思う僕だった。

ーーー

月日は流れ、俺は中学2年生になっていた。

母は未だにTRUEの『カイト』に夢中であった。

いや、更にミーハーになり、常に『カイト』がいなければ生きていくのは難しそうである。

ネットでグッズなどをちょいちょい買っては幸せそうなのか、グッズ等を見るとニヤついている。

そんなある時。

母がすごくご機嫌よく迎えてくれた。

「おかえり♡」

というと何故かもじもじする母。

気味が悪い。

「た、ただいま……」

恐る恐る言いながら、去りたいところを母の言葉で止められることに。

「健一、お母さんねーうふふ……なんと!TRUEのコンサートが当たりました!やったわー!!」

「はっ?」

俺は母が何を言っているのか一瞬わからなかった。

しかし、母は続けてこう言うのだ。

「ずーと当たらなかったんだけどね。やっとTRUEに会えるのよー!あっ健一も大丈夫よ、二人分のチケットは当たったから♡」

と、ジジャーンという音がなってもおかくしくないであろう。

母はチケット二枚分を見せる。

母は見て見てと言わんばかりに、自慢げにキャッキャッしている。

「……はっ?お、俺も行くの?」

とつい、母のミーハーにはツッコミきれずに疑問を投げかける。

「そうよ!」

と、間髪いれずに母が言う。

「いや、俺はいいよ!と、友達!……友達と行ってきな、な?」

と俺は拒否した。

すると、母は、

「健一と行きたいの!だってほら、母子家庭で苦労かけてるでしょ?たまの休みも必要よ!ね?!」

と、子離れできてない母がしつこく駄々をこねる。

少しだがひと悶着あったが、母の強いミーハー心は止められず、行く羽目になったのだ。

俺が承諾すると、キキとして母はぴょんぴょん飛び跳ねるかのように、キッチンへ。

はぁ、疲れる。

今日は、早く寝よう。

ーーー

ライブ当日。

『カイト』の顔に下には『LOVE』と書いた、手作りうちわを母は持参。

俺は恥ずかしくなり、母と距離を取ろうとしたところ、

「どうしたの、健一?会場はあっちよ、あっち!」

と俺は母に手を引かれた。

これでは年の差カップルみたいだ。

会場につくといるはいるは人だらけ。

よくもまぁ、こんなに人気なのか理解不能である。

アーティストさんはいいが、グループは踊ってる人が多いせいか、グッズを買うのは皆踊ってる人ばかり。

母が、記念に何か買ってあげるというので、仕方なく俺は特権付きCDを買ってもらった。

母が手に入れたチケットはファンクラブのものでーいつ入ったんだよ、全くー、席は前から2列目。

しかしながら、間近で見るとステージは思いの外大きい。

ここで、生の歌声を聴けるのは嬉しいかも、と内心思っていたら暗闇になり音が鳴り出す。

パンッ!!

という音とともに、目の前でTRUEのメンバーが弾け飛ぶ。

歓声が凄い。

だが、俺はそれよりも踊ってる人に目がいってしまった。

この曲は、俺も知っている。

切ない恋のメロディと歌詞が、ふと頭の中に世界観が出る。

そして、何故かその世界には登場しないであろう踊ってる人達が、俺のちっぽけな世界を広げていく。

あぁ、なんて素晴らしい世界なんだ。

言葉では言い表せないくらい、こんなにも切なく表現いろんな世界観ができるのであろう。

俺は、踊ってる人達が繰り広げる世界観に圧倒された。

ありとあらゆる曲が流れそのたびに踊ってる人達の世界観が次から次へと変わっていく。

俺が呆けていると、気づけば終わっていたのだろう。

母が、

「健一、どうしたの?帰るわよ?」

と、俺の肩を揺らす。

はっと我に返り俺は帰路する。

家に着くと、ベットに寝転び目を閉じる。

今日見た世界観、あれは素晴らしかった。

ドキドキが止まらなくなり、今日は就寝するのが遅くなりそうだ。

次の日、俺は特権付きCDを手に取り、蓋を開く。

その特権とは、あの一体感があるような個人の表現でもあるかのような踊ってる人達の練習動画DVDだった。

母がいない間、何度も何度も踊りを模索するところや最後の打ち合わせの踊りを見ると、世界観に色んな意味があるとわかる。

狭いアパートで、俺は好きな世界観の踊りを真似てみたりしていた。

俺は踊りに興味がなかったので、その時踊り手をダンサーという言葉を知る。

それからというもの、テレビでは歌もメロディは勿論、ダンスに釘付けになる。

その異変に、母は気づいたのであろう。

ある日突然学校から帰ると、

「健一、これとかしてみない?」

と、母が一枚のチラシを俺に見せた。

「ダンスクラブ?」

俺は、そんなものがあるとは知っていたが、母に負担をかけまいと一人でなかば練習をしていたのだ。

母は、それを知っており、俺にこう告げる。

「ーーーだから、プロになるには厳しいわよ?貴方は何でも好きなことは熱心な子とは知っているわ。本気で目指しているならお母さん応援するから、ね!」

と、優しい眼差しで俺の両手に握る。

俺は、母に感謝しながら、

「俺、ダンスしたい。ありがとう、母さん!」

何故か涙が溢れた。

ーーー

あれから3年。

俺は高校2年生になっていた。

ダンスは、色んなダンサーのYoutubeやDVDを見てきた。

今では、俺は俺にしか出せない世界観のダンスをしている。

グループには入ってはいないが、大会には出ていてそこそこの成績を出している。

母とは、TRUEの話で今も盛り上がっている。

そんな幸せが壊れたのは、またライブに連れてってくれるという日の前日。

母が急にキッチンで洗い物をしているとき、倒れたのだ。

俺は駆け寄り、

「母さん?母さん、おい母さん!」

そう言いながら、揺するが返事がない。

その後のことはご近所の方が対応してくれて、俺は頭が真っ白になりいつの間にか母は病院のベッドで寝ている。

医師によると、母はガンであり手の施しようがないと言われた。

ここ一年、毎月母は病院来ていたのだが急にガンが進行したとのこと。

俺は知らなかった。

ずっと笑顔で、カイトさんのことや俺のダンスを指摘してくれたりして。

俺の夢を応援してくれてた間、俺母さんになんで気づかなかったんだ?

母さんの病室の椅子で、俺は自責の念に負われていた。

数日後、母は目が覚めたとの知らせが。

急いで、母に会いに行った。

「はぁ、はぁ、……。母さん!大丈夫か?」

と、ドアを開けては開口一番に聞こえたのが、

「あらやだ、石田さん!」

「でもそうでしょ?」

と、クスクスと笑い声だった。

俺は心配しながら、

「……母さん?」

と近寄ると、

「あぁ、やだ、健一じゃない!どうしたのよ?」

と素っ頓狂な顔をして、また看護師さんと母は笑って話をしている。

看護師さんが失礼しましたと言いながら病室を去ると、

「母さん、ごめん。お、俺気づいてなくて。ダンスはもうや……」

辞めると、俺がいいかけたときだった。

「母さん、健一がダンス辞めること許さないからね!!」

と母に怒気のある声で言われた。

「でも、母さん!ガン何だよ?それもかくさなかったら助かってたかもしれないのに、なんで?なんでたんだよ!?」

と俺は、情けないような涙声で言うと、

「どっちにしろ、母さん助かってないんだよ。お金なくてね、健一になぁんも連れて行ってやれなかったんだよ。情けない親だよ全く。でもね、母さんは健一の夢だけは叶えるって決めたんだ!健一!覚悟あるんだろ?なら、そんなうじうじしてないでダンス頑張りな!」

そう母は言った。

「ほら、今日もダンスレッスンの日だろ?こんなところで油売ってないで早く行った行った!」

と、手で俺を払うように言う母。

俺は、情けなくなりダンスレッスンに身が集中出来てなかった。

数が月後、ダンスレッスンの先生から、

「石田くん、君確かTRUEが好きだったよね?」

帰り際に聞かれた。

「……はい」

俺は、ここ数ヶ月ダンスに集中できていない。

それを気にかけてくれたのか励ましに来ているようだが、俺には何も活力にはなれないと思ってた。

次の言葉を聞くまでは。

「実はね、今度TRUEのカイトが辞めちゃうんだけど、そのカイトの代わりのオーディションがあってね。石田くんにどうかと思ってね。良かったらチラシ渡しておくよ」

と、俺はオーディションのチラシを手にした。

これだ!

俺は直様、

「先生、ありがとうございます!」

深々とお辞儀し、母の元へ向かう!

ここから自転車で20分のところだ。

これを言えば、母はきっと喜ぶに違いない。

早々と俺は病室に向かい、

「母さん!俺これに出てみるよ!」

と、病室のドアを開けながら言った時だった。

母さんから返事がない。

そっと母の顔を見たが青白く、触ると冷たい。

ピーという音が聞こえるが、母の顔から目が離せなかった。

看護師と医師が駆けつけたが、俺は泣きながら母の遺体を抱きしめて誰かに気にすることもなくわんわん泣いた。

ーーー

それから、俺は母の弟、つまりは叔父とその奥さんである伯母さんに付き添われて葬儀を済ませることができた。

俺はオーディションを受けるかどうか決めかねていたが叔父が、

「姉さんから聞いてるよ。ダンサーを目指してるんだってね。まだ君は未成年だ。これからのことは僕たちに任せて、君は夢に向かってダンスを続けなさい!」

そう優しく言ってくれた。

「でも、俺……」

戸惑っていると叔父が、

「姉さんの遺言でもあるんだ。君は君の夢に向かってダンサーになってほしいとね。」

と背中を押してくれるように言ってくれた。

「お、俺ーーー」

ーーー

数日後。

「最終オーディションの2人まで来ましたが、石田さんダンスが終わった今の気持ちをお聞かせください」

と言われ、

「夢であるダンサーになることをここまでこれたからには、受かりたいと思ってます!そして、背中を押してくれた皆さんに感謝の気持ちを込めてダンスの世界観に入れました。正直、ここまで来れるとは思ってませんでしたが、夢であるダンサーになる気持ちは誰にも負けません!」

とTRUEのメンバーの前ではっきりと述べた俺。

「そこまで、覚悟決まってるんだね。凄いな。もし受かったなら、誰に最初に伝えたいてますか?」

と問われた。

俺は直様、

「母親です」

と応える。

「ほぅ、じゃあお母様は今日の会場に来て応援してくれてるのかな?」

と言われ、

「はい」

と応える。

TRUEのメンバー達は顔を見合わせ話し合いながら、頷いていた。

「では、合否はーーー」

ーーー

『次はTRUEの皆さんです!どうぞ!』

とテレビの放送が始まった。

『えー、ではTRUEのメンバーになったばかりのケンイチさんからお話を聞かせてもらいましょう!』

少し恥ずかしいが、それを遮るように従姉妹の中学生が、

「あっ、健兄ぃ出てるよ!ほらほら!」

とリビングで騒がれる。

「こらこらご飯時何だから静かになさい」

と叔母もとい義母が言う。

俺は『石田』から『渋谷』に名字が変わるも、オーディションは見事合格したのだった。

だが、これからが始まりであり、終わりのない人生を歩んでいこうと俺は誓っている。

亡き母の想いを胸に

ーーー

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