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今度乱暴に乗ってやる

 俺の視線の先で、それは起こる。


 剣道部エースが長刀を振り下ろしてきた。


 相手は重心を前に預け、深く振り下ろしてきている。フェイントではない。


 カウンターの発動限界ギリギリの刹那、叶恵の銃剣が長刀を払い、相手の喉に銃剣の切っ先が当たる。


「うっ!」


 試合終了のブザーは鳴らないが、電離分子装甲は貫通出来た。

甲冑戦は相手の電離分子装甲を貫き、電離分子皮膚が一定以上の攻撃を検知すると勝敗が決まる。


 だが一定値に達しなかった攻撃が全て無駄なわけではない。


 電離分子皮膚が一定値に達しなくても、攻撃を受けた分だけその一定値のハードルが下がる。


 叶恵が喉を突いた事で、多分、あと二、三回同じ場所を突けば叶恵の勝利だ。


「おのれ、一年生が!」


 相手が積極的に攻めて来る。


 薙いで、振り下ろし、突き、流れるような連続攻撃だった。


 叶恵はその一つ一つを取捨選択して、カウンターの一撃をお見舞いする。



 見てからカウンターするっていうのは、他の剣士よりも発動が遅いという事。


 でも超反応力を持つ叶恵は、カウンターの発動が間に合わず斬られるギリギリの刹那を見極められた。


 二度目の刺突がまた相手の喉を襲う。


 相手はパッと見、平常心に見えて、俺の目には彼女の焦りが映る。


「いくわよ! これで、とどめぇ!」


 叶恵が自ら鋭い突きを放つ。


 相手がしめた、とばかりにカウンター態勢に入る。


 でもこれこそが後ジャンの真骨頂。相手が動いてから……こちらの手を変える。


 叶恵は相手の刀がカウンターの予兆を見せたとほぼ同時に、銃剣を縦に構えた。


「な……に?」


 相手の長刀は空ぶり、だが叶恵の体は前に進んでいる。


 叶恵は銃剣を縦にしながら、銃床を引いて短く持ち直していた。


 無名の一年生が、剣道部エースを手玉に取る光景は、観客もさぞ異様に映った事だろう。


「ったく、一生に一度しか無い高校一年生のゴールデンウィークを汗臭く過ごしやがって。これで勝利の女神が微笑まないわけがない。観客に見せてやれ、戦女神の笑顔を!」

「これが本当の」

「ッッ!?」

「とどめぇっ!」


 至近距離から振り下ろされた銃剣の刃が、剣道部エースの喉に叩きつけられた。


 試合終了のブザーが鳴って、実況者が試合終了を告げた。



 観客に手を振ってから今までの試合同様、叶恵はセコンド席の俺に笑顔で手を振ってくれた。


 その時、俺の耳裏に取りつけたLLGから骨伝導でオオクニヌシの声が聞こえる。


『ところでマスター』

「なんだオオクニヌシ?」

『剣道部のエースでしたら、多分相手もゴールデンウィークを犠牲にしていると思うのですが』

「…………」


 俺は無感動無表情で一言。


「今度乱暴に乗ってやる」

『え!? そんな乱暴にだなんて、でもマスターがお望みなら……ポッ』

「うわぁ……ついてけねぇ」

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