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リハビリ中だからな

「心配してくれてありがとう。でも、なんていうか俺、そういうのもよく解らなかったんだよな? 子供の頃から戦場生活だから、逆にこれが普通っていうか、価値観は人それぞれだろ?」


 叶恵の顔から、僅かにマイナスの感情が抜けて、かわりに不思議そうな空気が強くなる。


「いや、たぶんこんな事を言ったら変な人とか、変わった人って思われるかもしれないけどさ。俺の家って軍事甲冑を発明した家系だろ?」


 俺の家は別に科学者一家ではない。ただ二〇〇年前のとある天才が、従来のパワードスーツとは一線を画する、高性能な実戦型軍事用パワードスーツを完成させた。


「だからなのかな、子供の頃から軍事甲冑には興味あったし、テレビで試合中継もよく見てた。漫画の主人公みたいに何か特別なきっかけがあったんじゃなくて、自然の成り行きで軍事甲冑に詳しくなって、覚えて、強くなって、中一で全国優勝した時は嬉しかったよ。その後、軍の人が来て兵隊にならないかって言われた時も抵抗は無かった。俺の家は軍属が多かったから家族も反対しなかったし」


「それは酷くない? 自分の子供を戦場に行かせるなんて」


「俺が自分で行きたいって言ったんだよ。それに誰も俺が死ぬなんて思ってなかったみたいだし。不自然な程の信頼っていうのかな、でも実際俺は軍神なんて呼ばれる強さで敵無しで、やれ軍神だリヴァイアサンだ万軍殺しだって言われてこの通りだ。実際には母さんが反対して『無事に帰る根拠がない』って言って、父さんが言ったんだ」


 今でも、あの時の言葉は覚えている。


「『根拠ならある、お前が産んだ俺の子だ』ってね。それからずっと戦場生活だけど、青春を犠牲にしたとか、俺も他の子みたく遊びたいとかは思わなかったよ……」


 そうだ『遊びたい』とは思わなかった。


「むしろヒーローになるっていう少年の夢が叶ったんだぞ」


 ああそうだ『ヒーロー』にはなった。


「まぁ俺は少年でもヒーロー目指していたわけじゃないけどさ、やっぱ男だし、遣り甲斐は感じていたよ」


 そう、最初は感じていた。


「心配してくれてありがとうな、叶恵」


 俺は優しく笑いかけて、叶恵は震えながらぷるぷると俺を指差した。


「あ、朝更って軍事甲冑発明者の子孫なの?」

「え? 知らなかったのか?」

「知らないわよ、スポーツ選手だっていちいち自分のスポーツの起源や歴史背景把握してないでしょ!」

「いや結構な人は把握していると思うぞ。ていうか俺の特集記事に載ってなかったのか?」

「え? ……ちょっとまって、えーっと記事から単語検索『発明』『開発』」


 叶恵はLLGの投影画面を開いて操作、目を丸くした。


「書いてた……ごめん、あたしあんたの戦果や経歴のところばっか読んでたみたい……」


 ばつの悪そうな顔の前で両手を合わせ謝る。


「いいよ、それに先祖は先祖。俺とは関係無い。偉人の子孫だっていちいち特定されて有名になっているわけじゃないしな」

「あうぅ、でも恥ずい……」

「お待たせ致しました、ご注文の品です♪」


 店員の女の子が俺のハンバーグと叶恵のオムレツを持ってきてくれて、おれはナイフとフォークに手を付ける。


「いただきます」

「あ、そういえば朝更ってリハビリ中なんでしょ? 食べるモノに制限とかないの?」

「ないぞ」もぐもぐ

「へぇ……」


 叶恵の視線が、探るようにして俺をなめまわす。


「ねぇ、朝更ってリハビリ中っていう割には元気よね? どこらへんがどう悪いの?」


「身体能力と運動神経が下がっているんだよ。前の戦いで手足千切れて腹に風穴空いて、運動機能を司る小脳が傷付いたからな」


「なんで生きてんの!?」


「死んで欲しかったか? 普通に馬鹿げた生命力でね。再生ポッドで失った組織は全部元に戻ったけど、調子が戻らないんだ。脳神経は特に再生が難しいし、体が動かしにくい。元の運動神経を取り戻すにはしばらく特訓が必要だ。叶恵との練習試合は俺のリハビリも兼ねているんだよ」


「じゃああたし役に立ってる?」


「ああ、なら協力関係って事でコーチのお礼はチャラに」


「それはダメっ」


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