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ヒロインの部屋にお引越し

 二十一世紀。日本は軍事用高性能パワードスーツ、軍事甲冑を発明した。


 他国でも開発がすすめられたその兵器は、のちに起きた大戦で大量に投入され、その実用性を証明。


 世界最高最強の万能兵器と言われたソレは戦後、バトルスポーツとして発展。


 世界中で人気を博すも、月の資源、領土を巡って起きた戦争で男子プレイヤーの多くは徴兵された。


 結果、国内では女子の部が脚光を浴びた。

戦時という状況もあり、強く美しく気高く戦う彼女達に国民は湧き、少女達は誰もかれもがプロ選手を憧れる時代となった。


   ◆


「朝更の荷物、これだけ?」


 叶恵のクラス代表決定を祝った次の日の夜。

 俺と叶恵は、女子寮の叶恵の部屋で配送業者から俺の荷物を一箱受け取った。


「荷物って言っても、リハビリ中限定の滞在だし。着替えは宿直室に泊っていたこの四日間で家族に送ってもらっていたからな」


 俺は箱を開けて、中のものを取り出し握って見せる。


「荷物はハンドガンの弾とか日用武装の補給品ぐらいだよ」

「それ日用品違う! あ、そうだ、朝更の分の家具」


 叶恵は鋭くツッコミを入れると、壁の量子変換機にタッチ。

 投影画面から量子化情報一覧を俺に見せてくれる。

 学生寮には壁の中に大型量子変換機が常備され、物置代わりに使われている。でも一般家庭に普及するのはまだ先だろう。


「朝更の分のベッドは入っているから、寝る時になったらあたしのベッドの横に再構築してね。あたしはいちいちするの面倒だから再構築しっぱなし派だけど、朝更は?」


 女子寮は基本、広いワンルームタイプだ。今いる部屋は玄関から入ると左手にトイレ、風呂、台所の順に備え付けられている。そのまま進むと一五畳くらいの部屋があって、そこにベッドや机、ソファやテーブルが並んでいる。


「俺は一回一回量子化しているな、その方が部屋も広いし、ん?」

俺のうしろから、柴犬のエイドリアーンがすり寄って来た。


「おー悪い悪い、安心しろ、お前のドッグフードもちゃーんとあるぞ。悪いな叶恵、今まで通り家族に面倒みてもらおうと思ってたんだけど、俺が月に行っている間寂しくて元気なかったらしいんだよ」


 エイドリアーンはしっぽを千切れそうな勢いでふりながら、全身で俺の脚に絡みついて甘えて来る。


「あたし犬好きよ。あたしにも抱かせて♪」

「いいぞ、ほら」

「えへへー」


 柴犬を抱いて、右手でアゴをなでる叶恵。

 目を細めて喜びながらエイドリアーンを愛でる。


「良かったなエイドリアーン」

「え!? この子そんなゴツイ名前なの!? この子メスでしょ、変えなさいよ!」

「いいぞ、今までもゴルドフとかフリードとかヴィクターとかいろんな名前つけてたし」

「お! ん! な! の! こー!」


 叶恵は両眉をキリッと上げて抗議した。


「いいわよもうあたしが決めるから、えーっとね、うん、じゃあサクラちゃん!」


 会心の出来だ、と言わんばかりの笑顔で頭上にサクラを掲げる叶恵。まぁ可愛らしくはあると思う。


「よーしエイドリアーン、今日からお前はサクラだぞぉ」


 俺が頭をなでるとサクラは、


「わふ」


 と鳴いて答える。


「じゃあ今日から俺もこの部屋に住むけどいいのか? 俺はお前を鍛えられるけど、同い年の男子が一緒って嫌じゃないか?」

「嫌じゃないわよ。あたしは、絶対絶対レッドフォレスト杯に出場するんだから。逆にあんたにはコーチとしてビシバシ鍛えてもらうんだから、覚悟しなさいよ」


 パチッとつぶらな瞳でウィンクする叶恵。


「おう、任せとけって、っと、そういえば叶恵。お前なんでレッドフォレストに出たいんだよ?」

「え?」


 叶恵が固まる。


「いまどきの女子がMMBで活躍したいってのは常識だけどさ、お前アメリアと戦う時に言ったよな? 『今年のレッドフォレストに出ないと駄目』って、なんで来年じゃ駄目なんだ?」

「それは……さ」


 叶恵は言葉を濁して口を開き、でもまた閉じる。


「……笑わない?」

「内容による」

「ここは嘘でも笑わないって言いなさいよね!」

「じゃあ笑わない(嘘だけど)」

「うん、えっとね……」


 また言葉に詰まって、叶恵は頭を下げた。


「ごめん、やっぱまた今度」

「いいよそれで」


 俺は思わず表情を緩めながら、叶恵の小さな頭を手でポンポンした。


「じゃ、話したくなったら話せよ、ん?」


 見下ろすと、叶恵の顔が真っ赤になっている。


「ちょ、ちょっと急に何するのよ!」


 両手を振り回してきて、俺は手を引いた。


「どうした?」

「い、いきなり女の子の頭……ポンポンて……ぁう」


 叶恵は胸の前で握り拳を作って、でもすぐに下ろした。


「あれぇ、妹や姉さんや従姉妹や又従姉妹や」

「朝更って女の親戚が多いん」

「姪と従姪と又従姪と同い年の叔母さんは喜ぶのに」

「どこのラブコメ漫画よ!」

「俺んち親戚みんな近所に住んでてしかも男が俺一人なんだよ。基本婿養子取るんだけど女しか生まれなくて、うちの家系図女率九九パーセントだぞ」

「何それ!? 新手の呪い!?」


 叶恵は、ちょっと引き気味だ。

 サクラは俺の足下で首を傾げている。


「っで、頭なでたりポンポン嫌ならやめるぞ」

「え!?」


 叶恵は固まって、黙って、恥ずかしそうにややうつむいて、でも上目づかいに俺を見つめてきて、しばらくすると躊躇いがちに、


「た、たまになら……いいわよ」


 うわぁ、血の繋がって無い女の子の上目づかいって可愛いなぁ……

「そうだ、あたしっていつも起きられなくて学校、遅刻ギリギリなのよね。明日からちゃんと起こしてね♪」

「俺は目覚まし時計代わりか!」

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