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第二話 どうしてこうなった?

 呆気にとられるリリルを他所に、男はリリルの手を引いてどこかに歩き出していた。

 リリルは、助けを求めるようにクロムウェルに視線を向けると、それまで呆然としていたクロムウェルが我に返って、男の前に立ちふさがったのだ。

 

「お待ちください。閣下、リリルをどうする気なのですか!」


 クロムウェルの言った、閣下と言う言葉にリリルは首を傾げていたが、それに気が付くこともなく男はクロムウェルを睨みつけて言ったのだ。

 

「どうもしない。これは、俺が貰い受ける」


「待ってください!! 閣下といえど、大切なリリルを訳も分からずに渡すわけにはいきません」


 クロムウェルがそう言うと、氷のように冷え切った青い瞳で一睨みした後に、鼻を鳴らしてからリリルの手を引いて歩き出してしまったのだ。

 クロムウェルは、そんな男に食い下がろうとしたがそれは出来なかった。

 

 騒ぎを聞きつけたのだろう、宰相と国王陛下がその場に現れたのだった。

 国王陛下の登場に、その場にいた全員が家臣の礼をとった。


「よい。それよりも、これは一体どういうことだ? シュタット将軍」


 国王陛下にそう言われた男は、顔を上げてきっぱりと言ったのだ。

 

「陛下、俺への褒美の件ですか。この令嬢を希望します」


 そう言われた国王陛下は、男に手を掴まれているリリルを見た後に、もう一度男に視線を向けてから、何故か大声を上げて笑い出したのだった。

 

「くっ、くくく、あはははは!! そうかそうか!! なるほどな、分かった。手配してやる。はぁ、しかし、そうかそうか。フェデュイは、そうだったな」


 ひとしきり笑った後に、国王陛下は、リリルに視線を向けて、意外にも優しい声で言ったのだ。

 

「お嬢さん、フェデュイは、こんな男だが、意外と優しいやつだ。友を頼むぞ」


 そう言って、楽しそうにその場を後にしたのだ。

 

 そして、その場に残されたリリルはというと、謎の状況に全く付いて行けずにいた。

 そんなリリルを知ってか知らずか、いまだにリリルの手を掴んだままの男は、再びリリルの前に跪き、その小さな手に口付けをしながら言ったのだ。

 

「名前を教えてくれ」


 そう言って、リリルを見上げた青い瞳は、先ほどまでの冷え切ったものではなく、氷が解けた春の湖のように美しい輝きに満ちていたのだ。

 改めて男をよく見たリリルは、その男の顔面に度肝を抜かれていた。

 

 この国では珍しい黒い髪と、美しいブルーの瞳。そして、彫刻のように整った目鼻立ちにリリルは息を呑んだのだ。

 

(ふぁぁ~。こんな格好いい人って、本当にいるんだ……)


 呆けてそんなことを考えていると、男はリリルの手を握ってその小さく細い指先をぱくっと口に含んでからもう一度問いかけたのだ。

 

「名前を教えてくれないか?」


 少し首を傾げて、眉を寄せたその表情にドキッとしたリリルは、少し後ずさりしながらもなんとか自分の名前を口にしていたのだった。

 

「リリル……。リリル・クロケット……、です」


 リリルが小さな声でそう言うと、男は嬉しそうな顔でボソッと何かを言ったが、耳のいいリリルにはその声が丸聞こえだった。

 

「リリル……。名前も愛らしいのだな……」


 その声が聞こえてしまったリリルは、全身が燃え上がるように熱くなるのを感じた。

 そして、心臓が全力疾走でもした後のように激しく音を立てたことに、不安を覚えたのだった。

 

(あれ? なんでこんなに呼吸が苦しいの? もしかして私、何かの病気なの? 死んじゃうの?)


 リリルが一人困惑していると、男は小さく笑みを浮かべてリリルを見つめて言ったのだ。

 

「では行こうか」


 リリルは、突然見せた男の小さな笑みに鼓動が更に早くなったことに胸に手を当ててから首を傾げていた。

 

(あれ? 胸がまた苦しくなった? なんでこんなに胸が苦しいの?)


 胸を押さえるリリルを見た男は、一瞬心配げな表情になったが、それは本当に一瞬のことで、その表情の変化に気が付く者はその場にはいなかった。

 その後リリルは、男に見送られて男爵邸へと帰ることとなった。

 屋敷に戻る間、リリルは胸がどきどきとして落ち着かない気持ちでいたが、疲れからいつしか眠りについてしまっていた。



 こうして、訳も分からないうちにリリルの結婚が決まったのだった。



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