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3分読み切り短編集

鍋とごはん

作者: 庵アルス

 友人がもやしと豆腐を持って家に来た。

 しかもそれらはスーパーで割引シールが貼られた、所謂見切り品だ。消費期限は、今日。

 夕方になって現れた友人は、今日中に食べきらねばならぬ食材を調理しろというのだ。

「これでなんか作ってください!」

「しゃーないな!」

 相手が苦学生なのは知っているので、哀れんで家に上げる。代わりに動物たちと無人島開拓するゲームでマイル集めてもらうことにした。

 台所に立ち、もやしと豆腐を見つめる。友人がやって来たのは、ちょうど夕飯をなににしようか考えていたときだった。消費しなければいけない食材に、頭を悩ませる。

 しかし友人は、バイト代が出る前とはいえ、だいぶ食費に困っているのだろう。もやしと豆腐、割引されているので、五十円でもお釣りが来る。

 僕としては身体が心配なので、ちゃんと食べて欲しいのだが⋯⋯。

 仕方がないので、少し食材を足してやる。

 豚肉を一口大に切り、油を引いた鍋で軽く焦げ目を付ける。短冊切りにした人参もさっと炒め、鶏ガラスープと味噌を加えて加熱。最後に洗ったもやしと、三角に切った豆腐を入れた。

 味噌鍋である。

 それと塩むすびを出すと、事件が起きたではないか。

「⋯⋯なんで、鍋におにぎりが?」

 友人は不思議そうに問うた。

 僕は首を傾げる。

「え、だって米食べるじゃん」

「鍋で米食わなくない?」

「え?」

「え?」

 友人と、鍋とおにぎりを見交わしながら、僕は不安になってきた。

「僕の家、鍋のときはおにぎり食べるんだけど」

「初めて聞いた」

 友人の反応から、もしや一般的ではないのかと思ったが、そうなのか。

「え、普通食べないの?」

「それがお前の普通なんでしょ、文句はないよ。びっくりしただけ」

「お前の家は?」

「俺の家はうどん入れる」

「うどん⋯⋯は、締めじゃなくて?」

「え?」

「え?」

 変な質問したか、僕?

 友人と目を合わせたまま固まる。

「あ、ウチの鍋締めってないんだ」

「締めない鍋があるの!?」

「だってうどんが汁全部吸うから」

「あ、へぇー」

 一食で終わる鍋もあるんだなぁ、と僕は呟きながらテーブルに着いた。友人に割り箸を渡して食事を始めようとする。

 ところが。

「え、これは一食で終わらない鍋⋯⋯なの?」

 たいへん訝しがられた。

「汁残るじゃん? うどんじゃなくておにぎりなんだし」

 もしかして僕の家の鍋は、他の家の鍋とだいぶ違うのだろうか。友人と話すうち、己の常識に自信がなくなった。

 けれど、友人の方が不思議そうな顔をする。

「これ二食目があるの?」

「明日ラーメン入れようかなって思ってるけど」

「明日⋯⋯?」

「え、みんな汁残ったら次の日になんか煮て食べたりしないの?」

「あっ、次の日に締め入れるんだ!?」

 おにぎりがあるのに炭水化物を煮て食事の最後とするわけがないだろう。僕は何故友人が驚くのか、よくわからなかった。

「え、じゃあ最初からラーメンにすればよかったんじゃない?」

「ラーメンに豆腐ってアリだと思う?」

「ナシですごめんなさい」

「もういいから食べよう」

「あ、いただきまーす」

 友人はモグモグと鍋とおにぎりを食べ始めた。よく噛んで、噛み締めている様を見ると、本当にちゃんと食事してくれよ⋯⋯、と老婆心が頭をもたげる。

「ところでさ」

「うん」

「明日ラーメン食べに来ていい?」

「⋯⋯何時に来る?」

「お、ありがとう!」

2021/01/13

カレー鍋にビーフンを入れたら増えすぎて、鍋いっぱいのカレー味のビーフンになったことならあります。

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