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親友との約束

今回は戦いのその後の話を書いてみました。

「我が友よ、今日も世界は平和だぞ」


黒いロングコートを着込み、腰に長い刀を下げた黒髪の若い男は、もうこの世にいない自分の親友に呟く。

彼は一日に一回、空を見ながらこのセリフを呟くのである。


その男の名はレーゲン。

人間と魔族の長きにわたる戦いを終わらせたメンバーの中の1人である。

そしてそのメンバーの最後の1人でもある。


「それにしても、この言葉を言うのはもう何回目であったのやら」


本人もそう言ってしまうぐらいの時が流れていた。




ーー今から数十年前



今でこそ人間と魔族は互いに手を取り合い助けながら生活しているが、数十年前までは人間と魔族は争っていた。当初こそ人間、魔族それぞれに負けられない理由があって始まった戦いなのだが、それも時が経つと当初の目的は消え去りただ戦いのみが起きて、両陣営疲弊していった。


そんな中、人間達の中でランスという男が長きにわたる戦いを終わらせようと立ち上がった。

彼は仲間達とともに各地を奔走して、人間、魔族の両陣営交渉や時には戦闘を行い、大戦を終わらせたのである。


その後、王となったランスを中心として世界の新たな秩序作りが始まった。

今まで互いを敵だと思っていた同士なので最初こそ上手くいかない事ばかりであったが、それでも彼とその仲間達は諦めず、両種族が平和に暮らしていける世界を目指して尽力し続けた。そんな彼らの熱意に影響された者達が増えていき、またその者達に引かれてという良い循環が出来上がっていった。


「それが今の世界なのであろうな」


そうして少しづつだがしっかりと両種族が手を取り合っていける世界が作られていった。その世界をレーゲンは1人で旅をしている。旅の目的は親友であるランスとの約束を守るためである。


「ランス、お主との約束は守れているだろうか? お主と交わした最後の約束を」


親友と別れて、かなりの時間が経っているが今でも彼と交わした最後の会話は覚えている。




ーーランスが死ぬ前日


レーゲンはランスの寝室に呼ばれた。

本来、王の寝室に入れる人物は限られているがレーゲンは例外的に許されており、更に刀を帯刀したまま入室できるという特別扱いである。


「レーゲンよ」


ベットで上体だけ起こしているランスは一緒に旅をしていた頃から大分かなりを歳をとり、彼が生きてきた年月を容易に想像できる。


「どうした我が親友」


「私の最後の願いをいくつか聞いて欲しい」


「どうしたお主らしくない発言だな」


「私はもう長くないだろ」


「そんなの分からんだろ、第一お主は今、我と普通に話しているだろう」


「自分の身体のことだ、自分が一番分かる。だから私は最後に親友である君に頼みごとをしたいのだ」


と困ったような笑顔を浮かべるランス。

レーゲンもさっき口では言ったが、自分の親友がもう先が長くないことは分かっていた。


「……言ってみろ、聞くだけ聞いてやる」


「君はあとどれぐらい生きていられるんだ?」


「分からん、だたお前の10代先の孫の顔ぐらいは見れるだろう。

ーー我が長生きする存在だと知っているうえでの質問か?」


「ハハッ、そうだな。君はこれから私が想像出来ないぐらい長生きするんだな」


人間と魔族は殆ど寿命に差は無いのだが、レーゲンはかなり特殊でかなり長寿の種族である。見た目こそ20代の若者に見えるが数百年以上生きており、実際は彼自身も正確な歳を覚えてない。


「ったく分かっているなら聞くではない。我の感覚だとそろそろ人生の折り返しであろうな。

そんな我に何の頼みだ? 寿命を分けるならそんな魔法があればお前に分けてーー」


「いや君の寿命を欲しいとは思わない。その命はレーゲン、君の物だ」


「フン、強情な奴め」


レーゲンとしては自分の寿命を分けてでもランスには生きて欲しかったのだが、親友の意思を尊重することにした。ランスは一度自分が決めた事は中々撤回しない性格だとレーゲン自身良く分かっているからである。


「本来なら君の好きな風にこれからを生きて欲しかったのだが、頼みたい事がある」


「何だ」


「どうか君さえ良ければこれからの国を見守ってほしい」


「……」


「あの時のメンバーはもう私と君しかいない。

やっと落ち着いてきたとは言え、まだ不安なところがある国だ。本来なら私がもう少し頑張るべきなのだがどうやら寿命には勝てないようだな、一国の王として情けない」


あの時、平和な国を作ろうとしたメンバーは次々とこの世を去っていき、残りはランスとレーゲンのみとなってしまった。そして次はランスがこの世を去ろうとしている事実をレーゲンは認めたくなかかった。自分の寿命の長さをこれほどまで恨んだのは初めてである。

だがそれを親友に悟られないように彼はいつもの表情で口を開いた。


「一番の功労者のお主が何を言っているのだ。お前がいなかったら我らは揃わなかったであろうし、今国民が笑顔で生を謳歌出来るのはお主、ランス・マドニアスが尽力したからであろう」


「親友にそう言ってもらえるなんて嬉しいな。僕も頑張った甲斐があるね」


ランスはいつの間にか王になる前の皆で旅をしていた頃の口調に戻っていた。


「噂だと城下だと不穏な動きを見せている輩がいるみたいだな、何案ずるなその輩は我が刀の錆にしてやろう」


王であるランスの死期が迫っていると城下で流れ始めると多くの国民は彼の回復を願ったが一部の者達は、これを機に危険な企みを起こそうとしているのがレーゲンの耳に入っている。そんな彼はもうすぐこの世を去ろうとする親友を不安にさせないようにと刀を鞘から少し出すと、ランスは苦笑いを浮かべた。


「レーゲンの強さは僕が身をもって味わっているから大丈夫だね。でもこれからもそんな人達が出てくると思う、君には申し訳ないけどどうかこの国を見守ってほしいんだ」


「……親友の頼みとあれば断る道理はないな、分かった我が親友の頼み引き受けよう」


「レーゲン、ごめん。こんな事君にしか頼めなくて。

もう死ぬ僕にこれぐらいしか出来ないんだ」


「昨日まで次代の教育に老体に鞭を打ってまでもやっていたお主が何を言っている。それに少しは休めと我は何度も言っていたのに無視してまでやっていただろう」


「僕は心配性なんだ。

ーー話は変わるんだけどさ、レーゲンは奥さんを持たないの?」


ランスはたまにいきなり突拍子もない会話を出してくる癖があり、レーゲンは親友のこの癖だけは苦手である。


「本当にいきなり話が変わったな……我は今までもこれからも妻を持たない、無論だが子も生さない」


「相変わらずだねレーゲン」


「我の種族は元々数が少なかった上に大分前に我以外は滅ぼされて、我が最後だ。

それに他の種族と婚姻して子を生したとしても、子は我よりも早くこの世を去ってしまう」


レーゲンの種族はランス達と出会う大分前に他の種族との戦いで滅ぼされた。当時レーゲンはたまたま村を出ていたので奇跡的に助かったのである。そのためレーゲンが死ぬ時こそ、今度こそ彼の種族の絶滅だ。


「この数年で我が親しかった者達は次々とこの世を去っていってな、次はお主ときた。

ーー流石にな、これ以上親しい者達との別れは辛いのだ。分かってくれ親友」


この数年で次々とこの世から親しい者が去っていき、とうとう次は親友のランスがあの世に行ってしまう。レーゲンは親友に最後まで悲しみを出来る限り見せないようにしていたのだが自分が思っていた以上に大きかったのである。


そんなレーゲンを見たランスは申し訳なさそうな顔をした。


「ごめんね僕はここまでしか一緒にいれなくて。もう少し君と一緒に色々としたかった」


「無理を言うでない、それにお主はもう頑張った。ゆっくり休め」


レーゲンもまだランスとしたことがあったが彼が王になってから殆ど休む暇もなく仕事をしていたのを知っているので休んで欲しいという願いの方が強かった。


「個人的にはまだやり残したことがあったんだけどしょうがないね。向こうに行ったみんなに先に会ってくる。こっちであったことを話しながら君を待っているよ」


「あぁ頼んだ、まだ我はそっちにいけないだろうからな」


「あともう一つ頼みがある」


「1つは言わずに何個でも言え、出来る限り叶えてやろう」


ここまで全力で働いたランスの頼みを叶えてやりたいと思うレーゲンである。

そしてどんな願いが来るのかと思っていたのだが親友の口から出てきた願いは予想外の願いであった。


「朝まで僕の話し相手になってもらえない?」


親友からの予想外の願いに少し面食らったレーゲンだったが、彼は近くにあった椅子を持って親友がいるベットの隣に置くと、自身もそこに座った。


「そんな事か、朝とは言わずに一日中付き合ってやろう。

ーーなんせ我とお主の付き合い長くて、話題には事足りないだろうな」


「ハハッ、確かにそうかもね。まず何から話そうか、夜は長いよ」


「あぁ付き合ってやろうーー」


と彼らは出会った時からの出来事、本来なら話題にも上げないような小さな出来事を話し始めた。

互いにこれの会話が最後になるという事を分かっていたのか、そんな些細な事でも話題に出して最後の会話を楽しんだ。



そして日が昇り始めた頃……


「それでさ……レーゲン……」


「あぁ」


「あの時……僕は……君に勝った」


「いやあの時は我が勝ったはずだ」


「いやいや……僕が……」


「分かった分かった、我の負けでよい、お主の勝ちだ」


「……」


「どうしたお主は我に勝ったんだぞ。喜べ」


「……」


レーゲンがそう言ってもランスは返事をせず、瞼を閉じて穏やかに笑っているのである。

その様子を見てレーゲンは親友に起きた事を察した。


「フッ、こんなことでお主に勝っても嬉しくないな。せめて剣の腕でお主に勝ちたかった」


というとレーゲンは椅子から立ち上がり、部屋の扉の前まで移動した。

そして部屋を出る前にもう一度、親友の方に向き直る。


「ランス・マドニアスよ、お主の願い確かにこの我レーゲンが承った。

ーーお主はゆっくり休め、あの世で皆を頼んだぞ」


親友との別れを済ますとレーゲンは、親友が眠る部屋を出たのであった。



そしてレーゲンは部屋を出たそのままの足で、クーデターを計画していた輩のアジトに単身で乗り込み、その一味を1人も残さず切り捨てた。



「--ふぅ、懐かしいな。確か今はお主のひ孫の代だったな。

誇れ我が親友、お前の志は確かに次代に引き継がれているぞ」


ランスがこの世を去った当初こそ小さな争いが発生したが、彼の息子達がランスの教えを忠実に守ったことで大きな争いが起きることはなかった。

……実は裏でレーゲンが幾人かをバレない様に葬ったのもある。


それからというものレーゲンは王国内を旅して各地で問題が起きてないかを見ている。ランスと別れた後、彼は首都に戻っていない。一応世間的にはレーゲンはランスを追うようにこの世を去ったことになっている。もし何か首都で問題が起きようものならいつでも戻れるようにしているが今のところそのような問題は起きてない。


「やはりお主は凄い人物だったのであろうな。親友として誇らしいぞ」


各地でレーゲンは傭兵などの仕事をこなしながら金を稼いで日々を過ごしている。一応歴代の王等一部の人間はレーゲンが生きている事を知っているので金銭的な援助をしようとしているがレーゲンはそれを全て断っている。


「我は既に死人だ。死んだ人間に金を使う必要はないからな。

この命尽きるまで、お主達が必死になって守ろうとした世界を微力ながら守ろう」


まだだいぶ先のことなのだろうが、自分の命が尽きるのかは分からない。

ならその瞬間まで親友達が必死になって作った世界を守ろうと思う。


そしてレーゲンは再び歩き出した。


「確か次の街は海鮮が旨かったはずだな……少し立ち寄るか。

ーーおっと、その前にいつもの言うか」


そして今日もこの男は空に向かってこう言うのである。


「わが友よ、今日も世界は平和だぞ」

楽しんでいただけたらポイントや感想を書いていただけると幸いです。

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