第8話 ダメ押しにもう一手!
体力は尽き欠け、意識も遠のいてくる。
おそらく、出せる攻撃はあと一回。仮に当たったとしても効くかなんて分からない。
それでも俺は再び立つ、せめてあのムカつく鎧野郎に渾身の一発を叩き込まないと気が済まない。
「さて、芝居は終わったか道化?
貴様が型破りな戦いを行おうと、我の前では単なる芸当に過ぎん。
いくらレベル差があろうとこれではn……。」
「黙ってれば、何かとピーピーうるさいんだよ……。
お前を吹っ飛ばす策を思いついた。そんなに自身があるなら喰らってみろ。
でもってついでに……くたばってくれ。【付与魔法】、【電撃】」
解除した付与魔法をもう一度宿し、再び武器を構える。
そして次に鎧騎士に向かい詠唱する。
「【流水】。」
何の変哲もない、ただの水だ。だけど電撃と合わせるなら相性は良い。
それでも自分には効かないという余裕の表れか、避けようともせずに水を被った。
「水で濡らし電気の威力を上げたつもりだろうが、よもやその程度で我を倒せるなどと思ってはおらぬよな?」
(もちろんこの程度で効くなんて思っちゃいない。
けどそれでいいんだ。お前はさっきの俺の言葉通りに水を喰らってくれた。
本命その1は達成だ。)
水は部屋中に巻き散り、部屋にある燭台にのかかり火が消える。
これで、部屋内の光と言えば奥にある複数の扉と自分の電撃のみ
それ以外の場所は視認が難しいほどの暗さになった。
(視界不良、これが本命その2。
ここまで上手くいったら、後はもう一思いにやるだけだ!)
そしてまた、手にした木剣をさっきと同じように思いきり投げつける…ッ!
「何かと思えば、また同じ手か?
ついぞ策の考えも至らずハッタリでもかましたつもりか、下らんッ!」
鎧騎士は先ほどと同じようにまた武器をはじきにかかった。
武器がはじかれる直前を見計らい一言、
「【放出】ッ!!」
宙を舞う木剣から電撃が放出され、濡れた鎧に電気が伝わり少しだけ動きが止まった。
光が一つ消えて、互いの視界が闇に包まれる中、次の一手と追撃をする。
「【跳躍】。」
立つのがやっとの俺の身体を、魔法を使って無理やり鎧騎士の方へと跳ばした。
遠距離が軒並み効果なしならば、後は直接殴るだけだ。
「【付与魔法】、【火炎】……捉えた!」
攻撃する一瞬、そのわずかな時間で敵の鎧を正確に狙って、飛び蹴りを喰らわした。
うまく命中したがまだ足りない。そんなことは自分でも分かっている。
―――だからダメ押しにもう一手。
「移動!!」
俺が捨て身で飛び蹴りを繰り出した理由、外からの攻撃が無駄なら鎧の内側を攻める為だ。
でも鎧の中を攻めるにはどうしても密着しなければならなかった。
だから俺はわざわざ視界を消し、動きを止めて念入りに命中させるように気を配った。
「ぐ、ぬぉぉぉ……。」
火は俺が出した分量より多く燃え盛り、鎧騎士を火だるまに変えていく。
水を電気で分解して、増やした酸素に火を加えて中から燃やす。
火だるまの中でもこちらを睨みつけてくる鎧騎士に対して、最後に一言。
「――ざまぁみろ。」
と言葉を発し、力尽きた俺はその場に膝をついた。
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「………。」
炎が晴れ、鎧騎士は力尽きた道化師をただ見つめる。
体力も魔力も尽きた俺にはもう睨みつけることしかできない。
「……及第点、いやそれ以上か。
格下に肝を冷やされることなど初めてのことかもしれんな。」
それは賞賛と捉えて良いのだろうか?格下と馬鹿にされるのは少し腹が立つが、鎧騎士からすれば事実であるため何も言い返せない。
「それ、で?どうで、したかね…僕、の実力は?」
「特筆したものが見られぬだけで、機転・判断力は中級の傭兵程度か?技量も悪いものではないが、練度に欠けているか。たった1人でここまで仕上げたにしては悪いものではないな。」