第7話 では、2次試験に移ります。
鎧騎士に連れられ、玉座の裏にあった隠し階段を降りていく。
「……おい道化。」
沈黙が続く中、長く暗い階段を降りながら鎧騎士が口を開く。
「貴様、名を何と言う。」
そういや名乗ってなかったな。
自己紹介も無しに戦闘続きだから仕方なくはあったけど。
「ロキ・レインです。」
「違う、元の名だたわけ。」
「……雨宮 黒騎[あまみや くろき]です。」
名前を聞いた途端、鎧騎士は足を止めてこちらを振り返った。
仮面で表情は分からないが一瞬たしかに驚いたような…?
「そうか、まぁどうでもいい。貴様の名称など[道化]で十分だ。」
そう言って向き直り、また階段を降り始めた。
こいつ…!人に名前聞いといて…!
いかんいかん落ち着け。下手に感情出したら殺さねかねない。
「なかなかに手厳しいですね…、ちなみに私は貴方を何と呼べばいいのでしょう。」
「それはこれから決める。貴様はただ黙って付いてこい。」
一方的に話を進められることに、何だコイツと思いながら歩くこと10分。
ようやく階段の終わりが見えてきた。
階段を降りた先には小さな部屋があり
その中には淡く光る扉が複数と、中央に禍々しく光る大きな扉があった。
鎧騎士は、その大きな扉の前で立ち止まり、
こちらに向かって腰に下げた剣で薙ぎ払った。
「……いきなり何をするんですか。」
咄嗟にかがんで剣を回避することが出来た。
何となくどこかで仕掛けてくるんだろうなとは思っていたので、そんなに驚きはしない。
それはそれとして殺す気かお前。
「合格とは言ったがな、弁が立つだけの太鼓持ちなど我の部隊にはいらぬ。
コボルトの将軍を倒すだけの技量は分かったが、どこまでが貴様の実力かは直接量らねば我の気が済まない。」
「……故に、少し遊んでやろう。うまく踊れよ?道化師。」
兜の隙間から睨む鎧騎士を前に、足がすくむ。
遊ぶなどといいつつ、完全に獲物を狩る視線を送ってくる。
当然のごとく逃げられるわけもないので仕方なくこちらも腹を決めよう。
(やってやろうじゃねぇかコノ野郎!)
「【付与魔法】、【電撃】」
武器を構え、属性を付与する。
もし相手が見た目通りの鉄鎧ならば、電撃は有効打になると思う。
鎧騎士はかかってこいと言わんばかりに手招きしている。
ならばこちらはと、持っている木剣を強く握りしめ、
思いっきり投げつける!
敵の得意な土俵で戦う?そんな訳ないだろう。
距離があるならばこちらから近ずく道理は無い。
だが、まさか初っ端から自分の武器を投げてくるなどとは思わなかっただろう。
流石の実力者でも一瞬だけ動揺したらしい。
「甘いわ、たわけ!」
しかし投げた武器ははじかれ地面に落ち、鎧騎士はそれを拾い上げる。
拾った武器とこちらを見合わせ、これだけかと言わんばかりのため息をつき、
まだエンチャントされた木剣をこちらに向ける。
意向返しとも取れるように木剣を構え斬りかかってくる。
(もし、俺のチートの【道具自動仕様】が、書かれた通りに思念だけでつかえるとしたら…ッ!)
1歩、2歩、と鎧騎士が進む速度を読み、タイミングを見計らう。
3歩、4歩、まだ少し遠い。
5歩、6歩、間合いだ。来るッ!
武器の間合いに入り、袈裟斬りに振り下ろされる。
鎧騎士が武器を振るうタイミングに合わせて、こちらも思念する。
(戻れ、不壊の木剣!)
瞬間、鎧騎士の腕から木剣が消え、大きく空振りをした。
消えた木剣は俺の手に戻り、俺の手は既に鎧騎士に振るっている。
(当たれッ!)
大きな隙ができた鎧騎士に一閃を叩き込もうと試みた。
だが、鎧騎士は振りかぶった手をそのまま地面に付き、体を捻らせて攻撃をかわした。
(そんな、今のをかわすのk――。)
攻撃が外れたと認識する間もなく、鎧騎士は捻らせた身体で回し蹴りを放つ。
蹴りをモロに喰らった俺はそのまま壁に叩きつけられた。
その一撃は非常に重く、一発で意識が遠のきそうだ。
(今の当たんないとか、マジか……。
だったら、次はどこから攻める?考えろ、アイツが、こっちに来る前に……。)
朦朧とする意識の中、次の作戦を考える。
今ので自分の戦法の一つがバレた。
即座に考えた作戦は残り4つ、それまでに有効を一打でも与えたい。
「まだくたばってくれるなよ。」
あれこれ思考しているうちに、鎧騎士は容赦なく剣を突き出す。
余裕なく転がって回避し、次の戦法を試す。
「【付与魔法・放出】!」
付与していた魔法を解除し、敵に向かって振るうことで疑似的なソードビームを放つ。
そこまでの距離が無かったため、放出された電撃は鎧騎士に当たり砂煙を起こす。
「や、やったか?」
フラグの様なセリフを使っているのに気付かず、煙を見据える。
まだ舞い上がっている煙の中から剣が突き出された。
木剣で防いだものの衝撃は凄まじく、大きく後方へ飛ばされる。
「効くと思ったか?そんな弱い電撃が。」
視界すら霞んでくる中、それでも尚まだやれと言わんばかりに挑発してくる。
喰らったのはたった2撃。しかしそれだけでもう立つのもキツい。
(玉砕なんて、最も取りたくない作戦なんだけどな。)
体力はもうない。このまま気を抜けば自然とちからつきるかもしれない。
それに引き換え、魔力はまだ余裕がある。
(出してやろうじゃないか、お望み通りに俺の全部を!)
考え抜いた、今できる最善策。
その一度きりのために暗黒騎士は立ち上がる。