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第6話 命がけの面接試験

 休憩を終え、最上階へと続く階段を登り切るところまで来た。

 段を一つ上るたびに前世では感じられないような威圧感が俺に押し寄せる。


 本音を言えば、もう回れ右をして帰りたい。

 すでに2回も死んでいるとはいえ、当然死ぬときは痛いし怖いものがある。

 [ヴァイオレンス・コボルト・ジェネラル]を打ち取り、現在のレベルは[41]。

 スキル振りも生存力が上がるようなスキルを所得しているが、多分これから対面する相手には意味を成さないだろう。


 かといって、このまま帰ろうとしても相手の激昂を買って殺されるだろう。

 先を進み、間近で敵幹部の姿を拝まないことには何も始まらないので、重い足を無理やり前に進める。

 

 (ほんとツラいわ……てか何で俺こんなことしてんだっけ?)


 出そうなため息を堪えつつ、自身の目的も不透明になってきながらもようやく階段を登り切った。

 先ほどの階層と同じように、主要の部屋には大扉が置かれている。

 名目上は[決闘を申し込んでいる]が、本来の目的は[対話]なので扉を開く前にノックをしてみる。

 ……戦いになったらまず死ぬし。


 「……入れ。」


 向こうからも入室の許可が出たので、丁寧に扉を開けさせてもらう。

 面接の様な形になってはいるが実際に「そちらの陣営に入りたいです」と言うようなものなので、よく考えればこちらが正しいのかもしれない。


 ボスの部屋にしては内装は綺麗に整っていた。

 床や壁紙は綺麗なものに張り替えられ、調度品も綺麗に並べられている。

 ここに来る者が少ないのかそれとも単に綺麗好きなのかは分からないが、どう見てもこれから戦う部屋の様には思えなかった。


 「わざわざ入室前に戸を叩くとは、律儀な者よな。貴様を砦に入れる前に「我の元まで来れば直々に殺す」と言ったが、あれは一度忘れよ。

 当初の望み通り、貴様の要望を聞いてやろう。ただし、我が飲むかどうかは貴様次第だがな。

 ……だが、場合によっては始めに言った言葉通りになることを忘れるなよ?」


 幹部である鎧騎士は中央奥の玉座に座りつつ、こちらを見定めるように睨んでいる。

 下手なことを言えば今度はミンチでも甘いかもしれない。とりあえずは始めにやったように礼節を重んじながら演技をしてみようか。


 「此度の謁見をお許しいただき、恐悦至極にございます。(わたくし)めが貴殿に願いたき交渉は――」


 ようやく対話に持ち込める。

 そう思い込み言葉を紡ぎこんだ矢先に、頬を掠めるように一直線に剣が飛んでくる。


 「今は[道化師]の演劇を聞いてやる義理などない。

 次にふざけた振る舞いをしてみろ、楽に死ねるとは思わんことだ。」


 こ、怖えぇ~!殺されるかと思った!チビるかと思った!

 生まれてこの方、人に良い顔してるのは初見じゃバレたことないのに!

 とはいえ、バレてしまったのならば下手な演技は必要ない。

 いつもの目上と話すときのように落ち着いていこう。


 「これは失礼いたしました。それでは率直に申し上げます。

 [(わたし)を魔族の陣営にいれていただきたい。]

 これが私の求める願いですね。」


 「フン、特に動揺も見せずか…。演技ではない物の、道化自体は貴様の(さが)か?

 では問おう。質問は3つだ。

 [お前はなぜ、魔族に味方するのか]

 [お前は何をしたいのか]

 [お前は何者なのか]

 順番はどれでも構わぬ。ただし、虚実を吐こうものならば相応の覚悟はしておけ。」


 前世までの問答ならば矛盾なく貫き通せるレベルの嘘を付ける。

 しかし相手がこちらの真偽を見抜ける以上は、信じてもらえるかは不明だがこちらの情報を明確にした方がいいだろう。

 順番がどれでもいいなら、自身の中で答えが出ている物から選ぶか。


 「では[私が何者か]から始めさせていただきます。

 詳しく証明することは出来ず口頭でしか表せませんが、

 [私はこの世界の人間ではありません]

 この世界で浸透しているかは不明ですが、私は異世界人であるというのが正しいかもしれませんね。」


 「別に良い。異界の地から呼ばれる人間がいることは、こちらでも周知のことだ。」


 異世界転移者は既に知れ渡っているらしい。

 ここで深く質問されては返答を返せなかった。

 死んで生き返るなど、自分の中の常識じゃありえない。

 とりあえず一つ目は問題なかった、次へ進もう。


 「次に[何をしたいか]ですね。ですがこれはあくまで最終目標に過ぎませんが、

 [何者にも命を狙われず、無理に争わなくていい生活]

 が現状の目標でしょうか。」


 「[何者にも]か。貴様の言いたいことの一辺には人間のみではなく、多数の所属を含めてということか?」


 「無論です。それはもちろん必要に駆られれば戦わねばならぬ時もあると思いますし、生物として成長するためにも小競り合いは必要とは理解しています。

 ですが何もしていない、ただ生きているだけで敵対など私の周りでは()()()()()()()()です。

 私自身、争いごとは不得手というのもありますがね。」


 前世でも広い目で見れば差別だの種族だので争いが無いとは言えなかったが、無条件で殺されるほどの理不尽は()()()()()()()()

 アイアム平和主義、暴力で解決とかただの暴君だからね!


 「……解せぬな。まだ幼子が抜けぬような見た目でありながら、どこか既に[諦め]の様なものがある。貴様は一体、何を見てきたのだ?

 物事を悟った…いや、()()()()()()()()()()()よ。」


 「…同族の、私が忌み嫌った部分を少し。」


 そこ掘り下げないでほしかったな~俺は。

 別にいいじゃない俺の昔話なんて。

 とりあえず目上に媚び売って、同期にも下にも良い顔しておけばだいたい何とかなるし。

 毎日やればそれも当たり前になってデフォルトになるし、余計な敵作らないから疲労も減るし。


 「話が少し逸れてしまいましたね。最後の[魔族の味方をするのか]ですが、これが一番不透明な回答になりますかね。

 [人だけの味方をしたくない]

 嘘も無駄でしょうし付け加えさせていただきますが、魔族だけの味方もしません。

 [正しい者の味方]

 が私の望むものですが、正しさなど何を基準にするかで変わります。

 その基準とする部分が私にとっては不透明であるがゆえに、これ以上はお答えできかねます。」


 「尚のこと解せぬな。あらゆる種族に肩入れしたくないのならば[無関心]を貫けばいいだけであろうに。

 大方、この世界に来て獣人族の奴隷でも見たのだろう。あれに嫌気を差すのは異世界人には珍しくないことだ。

 無知のままでいるのは悪とは聞いたことはあるが、争いたくない、関わりたくないなら耳を塞いで閉じこもるままでいる他はあるまいよ。

 今まで耳に入ってきたことさえ、[全て聞かなかったふり]をしてな。」


 確かに言われる通りだ。

 皆嫌い、皆関わりたくないなら誰の目にもつかぬところで静かに死ねば良かった話だ。

 だけど、相手が格上であっても最後の部分は否定したかった。



 「見ないふり、聞かないふり、それは私が見てきた[人間]では普通でした。

 たとえ誰かが目の前で死にかけても、自分には関係ない。どうせ誰かが助けてくれると責任を押し付けあって、結果として私は大切な人を失いました。

 …本当に、誰かが応急処置でもしていればその人は助かったそうです。

 なぜ誰も助けてくれなかったのか、なぜ誰も知らんふりをしたのか。

 そして、なぜ自分には何もできなかったのか。」


 ぽつりぽつりと語りだし、敵将の目の前というのにその言葉は止まらなかった。

 最後の大切なもの失ったあの日、人の良心を信じきれなくなり絶望した。

 それと同時に一緒にいてやれず、何もできなかった無力な自分を深く恨んだんだ。


 「他人は嫌いです。自己の責任しか見ていなくて、平気で人を見捨てるような奴らなんて信用するに(あたい)しません。

 ですがそれ以上に、いざという時に何もできなかった自分が一番大っ嫌いですがね。」



 「……それが同族を信じれぬ理由か、ならば貴様の答えは簡単だ。

 [大切なものを守れる力]

 単純な物理だけではなく、知識も精神も含めた()()()

 貴様はその考えを持っていながら、どこかで無理だと諦めている矛盾がある。

 まずはその歪んだ矛盾を正すことだな。」


 つい熱くなり過ぎた上に、敵に説教を食らってしまったが言われた通りの事なので何も言い返せない。

 ハハハ、やばいなコレ。

 殺されても文句言えないぞ。

 実際に殺されたら文句は言いたくなるだろうけど。


 「ハァ…口に出し終えてから「しまった」というような顔をするな。

 別にもうお前を殺すつもりは無い。」


 「はは、それはもう私のような人間は直々に殺す必要が無いということですか?」


 \(^o^)/終わった~!!もう一回あの世コースだこれは!

 何なの俺はさっきから、人生のRTAでもやってんのか?


 「結論を急ぐな阿呆(アホ)、話を最後まで聞かんか馬鹿者。

 【合格】だ。本日より我がお前の面倒を見る。」


 へ?ごう、かく?本当に?俺まだ死んでないよね?


 「いつまで豆鉄砲くらったような顔をしている。早くこちらにこい、たわけ者。」


 なんかさっきからバカだのアホだの言われてるが気にせず、言われるがままに鎧騎士の後に付いていく。


 ここだけで何回も死ぬ思いをした(一回死んだ)が、当初の目標を達成したことに、今は安堵するばかりだった。

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