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第5話 砦攻略、やりなおし

 目を覚ましたら、数時間前にも見た城の玄関。

 後ろの大扉は閉まったままでクリアするまで出られない状況は生き返っても変わらなかった。


 来た時と変わっている点と言えば、気絶しているコボルトの山が積み上がっていることくらいだ。

 そのおかげか、次の階へ進むための扉は開かれている。


 余計な戦闘を避けるために、急ぎ扉までかけだしたが……


―――バタンッ!

 「ヘブッ?!」


 後一歩というところで扉は急速に閉じてしまう。

 駆け出した勢いを殺せなかったために、俺は凄まじい速度で扉に激突してしまった。


 「痛ってぇ…何で急に閉まったんだ?」


 と、疑問に思ったのも束の間。扉が閉まった原因は直ぐに分かった。


 [グギャwグギャギャwギャハハw]


 なるほど。全員倒さないと上に登れないのはもとより、復活したらもう一度倒さないといけないのか。


 [ギャハwギャハハハハww]


 というか、どう見てもさっきから俺のこと馬鹿にしてるよなアイツ等。

 うん、一回俺にやられたくせに随分と態度がデカいな。よーし…


 「上等だ。もう一回、ブチのめす☆」


 そう言って俺は近場にいたコボルトを、

 ーーー思いっきりブン殴った。


 殴られたコボルトは、壁に大きな音を立てて叩きつけられた。


 やはりレベルがしっかり上がっているからか、自身のレベルより低いコボルトなど、もはや取るに足らず。

 仲間が吹っ飛ばされたのを見たコボルト達は後退りを始める。

 しかし劣勢と感じたら、後ろに下がる行動は死ぬ前(さっき)も見たばっかりなんだが。


 「仕切り直しだ。もう一戦、始めようか。」


 ハッハッハ、怖がらなくて良いんだよ。

 大丈夫。木刀しか持って無いから死ぬことはないさ。


―――30分後―――


 コボルト達は再び山積みにされていた。先ほどは全員倒すまで2時間かかるかどうかの速度だったがレベルと慣れのおかげか、ハイスピードで倒せるようになった。

 防御面も上がっているかと試しにコボルトから数発もらってみたところ、もはや痛みすら感じることが無かった。


 ……先ほどより身体を鍛えたならまだしも、ただ敵を殴るだけで大して活用していない防御面が上がるというのは、身体に異様な矛盾を感じてしまい気持ち悪い。


 「やっぱりレベルシステムって、リアルに当てはめると可笑しいんだね。」


 そう(つぶや)きつつも、多少は上がったと思われるステータスに目を通し始める。現在のレベルは〈35〉、死ぬ前より10もレベルが上がっている。

 しかし雑魚狩りしか行っていないにも拘らず、このレベルのあがりようは一般的なRPGとして考えてもヌルゲーと言わざるを得ない。

 

 しかし、これはゲームではない。自身の命がかかっている以上は、レベルが上がって死ににくくなることは願っても無いことなので、あまり気にしないことにした。


―――――――――――――――――――――――――――――


 さて、さきほどの死んだ場所(デスポイント)まで戻ってきたわけだが、扉を開ける前に少し作戦を立てよう。


 [ヴァイオレンス・コボルト・ジェネラル]。ステータスは詳しく解析できなかったが一番強いのは筋力、次点で防御力だ。

 素早さは遅めではあるが、あの巨体であることを考えるとリーチも含めて十分な速さだろう。


 ならば攻撃の届く片足に攻撃を集中させ、体制を崩したら一気に叩く。

 敵の他の攻撃方法が不明なので単純な作戦になるが、今はこの考えでも問題ないだろう。


 「――よし、行こうか。」


 覚悟を決めて扉を開ける。開けると同時にまた死因(さきほど)と同じように巨大な剣が飛んできた。

 しかし、同じ技を何度も食らうほど俺もアホじゃない。飛んできた剣を横に避け、モンスターに向かって走り出す。


 「”属性付与(エンチャント)”、”自身の武器(メインウェポン)””電撃(サンダー)”、”詠唱終了(セットアップ)”」


 魔法の使い方も物にできた。狙いは一部分の蓄積ダメージ、目標をただ一手に絞り走り続ける。


 「初撃、もらった!」


 足元まで接近し、肌むき出しの左のスネに木剣を殴りつける。

 しかしまだモンスターは平気そうだ、流石に俺の様な雑魚の攻撃一発では強化した武器であっても一筋縄ではいかない。


 だが、モンスターもただ攻撃されて黙っているわけでもない。

 こちらを強く睨みつけ、モンスターは腕を殴り下ろす。だが巨体であるが故に、大振りの拳には避けることが容易な隙間がある。

 姿勢を低くしながらモンスターの裏に回り込み再度左のスネを殴る。


 「Guuu……。」


 いまだ電気を纏った木剣の攻撃は今度はモンスターの表情を歪ませるまでに効いていた。

 痛覚による隙が出来たことで、モンスターからの攻撃はまだ来ない。


 (もう一発!)


 スネを殴る。モンスターは歯ぎしりをしながら痛みに耐えているようだ。

 しかし痛みに耐えることで精一杯なモンスターはこちらに対する攻撃に集中できず空振りをおこす。


 もはや戦闘の流れは完全にこちらのものだ。このチャンスを無駄にすることなく俺は――


 スネを殴る。


 スネを殴る。

 スネを殴る。

 スネを殴る。

 スネを殴る。

 スネを殴る。


 ただ一心不乱に[スネを殴り続ける]。


 「Gyaaaaa!!!!!」


 俺の5倍ほどある巨体のモンスターはついには悲鳴を上げて膝をつき、頭を下げた。

 これで頭部に自分の攻撃が届くようになる。ここまでは狙い通りだが、そこから更に嬉しい展開になってくれた。


 「Guuuu……。」


 ”麻痺状態(パラライズ)”電撃付与の攻撃が蓄積され、モンスターはもう身動きが取れなくなっている。

 元々は頭に攻撃が届くようになったら地道に殴り続けようと思っていたが、これなら大技を叩き込める。


 「”追加付与(ツイン)”、”火炎(フレア)旋風(エアロ)”、”詠唱終了(セットアップ)”」


 木剣を構え直し、付与魔法を追加する。重複された魔法によって強く燃え上がる武器を見つめているモンスターは、[将軍(ジェネラル)]の名前が似合わぬほどに怯えだす。


 「さっきの……お返しだッ!!」


 モンスターの眉間に強烈な突きを放つ。低レベルとはいえ多重に強化された一撃を耐えきることは敵わなかった。

 その巨体はうつ伏せに倒れこみ、再び動く気配は無かった。


 かくして俺は、[ヴァイオレンス・コボルト・ジェネラル]の討伐を果たすことが出来たのだ。

 ここまでオーバーキル気味な攻撃をしたが、殺してはいない。……多分。


 「――無理、ちょっと休憩。」

 

 まだ戦闘で慣れない魔法を無理に使っていたせいか、身体の内側から疲労があふれ出てくる。

 なるほど、これが魔力不足(マインドダウン)というやつか。この状態のままで更に魔法を使えば、そのうち魔力枯渇(マインドゼロ)になって意識不明になると……。

 いや~まだ慣れないことはするものじゃないね。


 次が敵幹部のいる最上階になるはずだ。話し合いで全部解決したいが、多分そうは行かないだろうから少し休憩を挟もうか。


――――――――――――――――――――


 ――場所が変わり、最上階。


 「一体何者なのだ、奴は。」


 始めは実力差が分からぬマヌケな冒険者だと思っていた。そんな弱者が来るほど我はナメられているのかと思い、即座に殺してやろうと思った。……しかし生意気にもこちらに対話を持ち掛け、演劇の達者な決闘を申し込んだ奴を見るのも一興と思い我が砦へ招き入れた。


 前哨戦である大量の雑兵をけしかけた。ただのマヌケならばここで一目散に突っ込み、多勢によって袋叩きにされている。

 あの男は一人ずつおびき寄せ確実に倒しているところを見るに、己の強さの分からぬ愚者ではないと判断した。


 次の戦いでは元砦の主だったコボルトの将と戦わせる。残念なことに、ここで成す術もなく殺されてしまったので、その時点では我の興味は消え失せた。


 所詮その程度の[()()()]だったかとらしくない落胆をし、業務に戻っている最中に下の階から轟音が聞こえる。

 ふと気になったので再度下の階層を覗くと、先ほどの男が将軍に挑んでいた。


 これがただ生き返って再戦しにきただけならば気にも留めなかっただろう。

 [死んでも生き返る]などというのは忌々しい人間の特性だ。

 レベルが上がると強くなるなどというバカバカしい理論を持っているとしても、どうせ一度将軍に負けた時点で我の足元にすら及びはしない。


 「……そもそも奴は、()()()()()?」


 再び見えた男の姿は、[青く、そしてひび割れていた]。

 その不思議な人型の種族に見入ってしまい、最後にはとうとう自分の数倍は格上であろう将軍を討ち果たして見せた。


 一部始終を見て我はこの道化師の要求通りに話を聞こうと考えた。――それに何より


 「スネを殴られ続けるのは、我は御免だ。」


 久方ぶりに、相手にしたら怖いと感じてしまったのだ。

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