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 ねっとりとした闇が僕を包んでいた。闇の圧力がこんなにも強いのだと、暗闇がこんなにも孤独なんだと今まで感じなかったことが感じるほど深い深い闇だ。

 ――ところで、僕はどこにいるのだろう。確か、奈々ちゃんの無惨な姿を見て、意識がなくなって、そして……どうなったのだろう。まったく覚えていない。

 ――夢、だったのかな。

 でも、あんな鮮明に映し出された夢なんてあるのかな。

 ふと思い出してみると、亡骸の奈々ちゃんの幻像がまぶたの裏に気持ちが悪くなるほど鮮明に映し出された。リアルすぎて、吐き気がした。

 何故彼女は死んだのか。それは、彼女の死に方を見たときに自殺だと判断できた。胸、性器の辺りに血が付いていたことから、リストカットだと思う。前テレビでやっていて、ここのところ自殺方法でリストカットの割合が高くなっているらしい。女性は主に胸と性器部分を切るケースが多いと聞いたが、ホントにそうだとは思いもしなかった。

 でも、何で自殺したのかな――

 そこで、思案が途切れる。

 「う……」

 光がまぶしい。目を細めないと視界がほとんど見えないほどだ。

 「あ、おにーちゃん。大丈夫? せんせー! 目を開けました!」

 狭い視界には白い天井と、美希の顔が映っていた。目が霞んでよく見えないが刺激臭と遠くから聞こえる佐久間先生の声からして、どうやらここは保健室みたいだ。

 「意識は大丈夫?」

 体をゆっくり起こし佐久間先生の問いに、朦朧としながら答える。

 「少し、朦朧としています」

 「そう。四条さん、少し頼んでもいい? 私、少し職員室に行ってくるから」

 美希は頷くと、先生は僕を一瞥して保健室を出て行く。佐久間先生は保健の先生で、やさしく、面倒見が良いことで学校では人気の先生ナンバー1に選ばれたらしい。アニメとかで保健室の先生は美人なことが多いが、佐久間先生はそれを象ったかのように美人である。男性層にはその美貌故に人気なのだろう。

 「おにーちゃん」

 イスに座っている美希が心配そうに尋ねてくる。朦朧とした意識のなか、僕は言い戻す言葉を考えようとしたが出来なかった。

 「えっ」

 美希は泣いていたのだ。せっかくの綺麗な顔が崩れていて、とてもではないけれど他の人には見せられない顔だ。

 「えぐっ……えぐっ、心配……したんだよ。いつまでも帰ってこないから、ホントに心配したんだよ……」

 「美希……」

 僕は、ふと昔を思い出した。

 あの時も泣いてくれたな。幼かったせいもあるかもしれないけど、僕のこと心配してくれてそのために泣いてくれて、本当に嬉しかったな。

 今もそう。嬉しいよ。――心配かけてごめんな。

 言葉には出せなかったけど、心底から本当に感謝していた。

 でも、言葉に出来ないかわりに――

 「美希。僕に近づいて」

 美希は素直に応じてくれて、僕にゆっくり近づく。体と体の距離は30センチくらいの間隔で、今にもお互いがくっついてしまいそうだ。美希の顔から一筋の綺麗な涙がこぼれる。

 「美希。心配かけてゴメンな」

 そしてゆっくり、やさしく、感情を込めて、お互い感じ合うように抱いた。

 兄と妹という身内の関係だけどそんなことお構いなしで長い時間、抱き合った。

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