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妹と僕

 HRが終わり、がやがやと教室が一斉にしてざわめいた。ダッシュで教室を出て行く人がいたり、参考書を開いて勉強をし始める人もいる。個々に違う行動を起こすのが放課後だ。たまに、閑散としてしまうときがあるが大概は人がいる。

 そう言う僕は部活は入っていないし勉強もする気持ちではないので、さっさと帰路につくのがいいだろう。

 そう決め、カバンを持ち教室を後にした。

 午前中まで雨が降っていたが、その気配は何とやらで雨が降ったという挙動を微塵も感じさせない快晴だった。水たまりに浮かんだ自分の顔は、風のせいかすわすわと揺れていて、何だかひどく歪んで見えた。

 「おにーちゃーん」

 不意に後ろから声がかかった。しかし、僕は振り向かなかった。いや、相手は言葉と声の高さですでに検討はついているので、あえて振り向かなかった。

 「くぅー。何で無視するの」

 その人影はすでに真横に来ていた。

 「はぁ……大衆の面前で大声出すなよ」

 「えぇーいいじゃん」

 くそ、こいつめ。羞恥を知らんのかこいつは。血筋がつながっているのに僕とは対照的な存在だ。

 と、こいつは僕の妹の美希だ。

 ……多少ブラコン気味ではあるが、僕のことを心配してくれる良い妹でもいた。

 確か3年前くらいだったかな、僕は友達と近くのグラウンドで遊んでいた。遊びに夢中になっていたせいか、暗くなるまで遊んでいた。家に帰ってきたときは親にはこっぴどく怒られたが、美希だけは心配してくれて待っていてくれた。よく見ると目が赤くなっていて、後で聞いた話によると僕がいつまでも帰ってこないんで心配で不安になり、挙げ句の果てに泣いてしまったと言う。僕は嬉しくなりその日、血筋のつながっている妹ながら抱きしめて感謝の意を伝えた。美希は一瞬ためらったが、すんなり受け入れてくれた。

 ――そんな思い出があった。

 その反面、イヤになることがある。

 それは妹の美貌による僕の陰湿ないじめ。

 陰湿というのは……まぁ、陰口ぐらいで特に僕は無視して終わりといった感じですませてしまう。イヤになるのはたまにだ。

 それ故にそれは、やきもちというのでは。

 妹は兄の僕から言うのは何だが、可愛い。なんでも、学校内の女子の中で一位、二位を争うほどらしい。

 ふと、横を見る。

 「うん?」

 めっちゃ、僕のこと凝視してる。ツーと首筋に汗が流れる。夏の日差しのせいか、彼女の視線のせいなのか、混濁してわからない。

 「あ、いや。何でもないよ」

 「嘘。みーの美貌に惚れた?」

 「なわけあるか!」

 ちなみに『みー』とは妹のあだ名である。

 僕も多少はシスコン気味な感じがする。

 ――それより、この学校にはロリコンが多いのか。美希はまだ中1で、まだ入学してから半年も経っていないというのにそう言う情報は学校内に流れている。そうだよ、この学校の男子はロリ好き野郎で溢れているんだ。僕は違うけどね。

 と言うことで、学校のアイドルが僕の横にいるんだから校庭にいる男子どもの羨望の視線はビシビシ刺さってくる。

 「はぁ……」

 ため息を一つつく。羨望の目で見られても、僕はそのアイドルと血がつながっているんだからどうしようもないことなのに。

 「どうしたの? 何かあった」

 美希が訝しげに尋ねてくる。

 「何でも。とにかく、早く帰るぞ」

 美希の小さな手を取り、引っ張った。

 「え、ああ。きゃ、強くひっぱんないで!」

 美希の叫びが校庭に響き、羨望の視線を向けていた男子は僕と妹の成り行きを呆然と見ていた。

 ――なんとか切り抜けた。

 日は昇り、日は沈む。

 幾度となく繰り返す1日が終わる。



 朝起きて、服を着替え、食事を作る。

 およそ普通の家庭なら朝食というモノは母親が作るのであろうが、僕の家庭には母と父と言う存在がなかった。

 母は特発性拡張型心筋症で僕が9,10歳の頃亡くなってしまった。父は母が亡くなってから自分の力で2人の子を育てていくことを謙虚に受け止め、精一杯働いていた。しかし、酒を飲んだ後の父は酷いモノで僕と妹を敵扱いにして、嫌悪し、ときに殴り合いをしたりしていた。僕は意地になって美希を守った。しかし力の差は歴然としているのでいつも押し倒され、あん馬され、悲惨だった。父なんて嫌いだった。

 そんな父も2年前、過労死でこの世を去ってしまった。

 美希は一日中泣いていた。でも、僕は泣かなかった。記憶の中に父の言葉が涙を抑制していたのか、父の存在なんて認めてなかったのか、多分前者だろう。その後したことは、妹をそっと抱いたことだった。父が前、

 「心を動かすためには抱擁しかないんだ」

 と、言っていた。

 妹は心が揺れている。しかたのないことだ。小さい時に母親を亡くし、父親も失った。そんな境遇にあって、正常にいられるのがおかしかった。僕は別で、妹のために尽くさなければならないという使命が頭の片隅にあった。とにかく僕は父の言葉を信じ、抱いたのだ。

すると、美希はすやすや僕の腕の中で寝入った。精神が落ち着いたのだろう。癒されるような寝顔だった。

 「……」

 今となれば懐かしい思い出でもあり、今ここに存在していられるのは生んでくれた母。育ててくれた父の存在があったからだ。これからは自分が妹を大切に育ててあげようと、切に思う。

 人生のにはいろんなことがある。死もその一つだろう。だから、父母の死は認めたくなくても認めなければならない。

 「おにーちゃん。おはよう」

 後ろから美希の声が聞こえた。みっともないパジャマ姿で、綺麗な髪もボサボサになっている。

 「おはよう。もう少しでメシできるから顔でも洗ってろ」

 「うん」

 寝ぼけたような声で美希は洗面所に向かった。僕は視線を戻し、鍋のふたを取った。中からみそのいいにおいがして、食欲をそそる。料理は小さい頃から大好きで、母が亡くなってからずっと食事当番をしてきた。妹の美希も料理は出来るが、厚焼き卵ぐらいの一部の料理しかできない。

 おたまで汁をすくい、味見をしてみる。うん、我ながら良いできだ。

 「おにーちゃん」

 再び後ろから美希の声がした。

 「うん? どうした」

 「歯ブラシ。おにーちゃんの使っちゃった」

 「えぇ!?」

 おいおい、なにやってる我が妹よ。まだ、寝ぼけてるのか。

 「どうしよ」

 ふにゃふにゃした声で問うてくる。

 「どうするって……」

 答えがわからない。消毒するか? いや、そんなことしたら歯ブラシが使えない。新しいの使うか? いや、もったいない。

 ――間接キスになるけど使うか。

 「しゃーない。洗ってもとに戻しとけ。間接キスになるけどいいな」

 「うん」

 頷き、美希は洗面所に再び戻っていった。美希には本当に羞恥というモノがないのか。

 世の中のおにーさんの中には妹loveとかいう変態野郎がうじゃうじゃ虫のようにいるだろう。もっと酷くなれば、妹&ロリloveとかいうこの世の存在価値のない奴も多少はいるかな。

僕はそんな『妹萌えー!』という単語の意味がわからない。確かに、妹は可愛いと思う。でも、『萌え』までいかなくていいんじゃないかな。それ故に、僕はそっち系の類には疎い。

 しかし、さっきの出来事にドキドキした僕である。

 ふと、後ろを振り向くといつの間にか美希がソファーにいて気怠そうに新聞に目を通している。あの調子じゃ新聞の内容も頭に入っていないだろう。

 「さて、出来たぞ」

 振り切るように、僕は満面の笑みを浮かべた。

 幾度となく繰り返す1日が始まる。


どうも、丘です楽しんで頂けたら光栄です。

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