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最強の魔王様は全力で戦いたいので、勇者の息子に生まれ変わりました

作者: 結石

また短編を書かせていただきました。お読みいただけましたら幸いです。

「お父さん!! こっちこっち、早く早くー!!」


 日の光がすっかりと高くなったお昼頃、一人の金髪の少年と一人の年若い金髪の青年が歩いていた。少年は青年よりも少し前を歩いており、青年を父と呼んで急かしていた。顔立ちは似ており、誰が見ても親子だとハッキリと分かった。

 父と呼ばれた青年は先を行く息子を微笑ましくも危なっかしいなと、ほんの少しだけ苦笑して見ていた。


「こらこら、急いで歩くと転ぶぞ? 今日は何をして遊ぶんだ?」


「今日はねー!! あそこ!! あそこのてっぺんの木まで競争だよ!!」


 息子が指を差した先は、はるか遠くの高い場所に見える一本の高い木である……彼等の住んでいる盆地の町は周囲が高い山に囲われており、その木はそんな中でもよく見える、町の名物とも言える木だった。

 普通、子供の脚では決してたどり着けない場所の指定に微笑ましく思いながらも、父親はその申し出を息子の頭を撫でながらも快諾する。息子は嬉しそうに、その顔に無邪気な笑みを浮かべながらはしゃいでいた。


「じゃあねじゃあね!! 僕が合図するから本気で走ってね? 手加減したらダメだよ? ちゃんと本気で走ってね?」


「わかったわかった。ほら、ちゃんと構えて」


 父親のその言葉に、息子は嬉しそうにしながら走り出すために手足を構える。父親もその姿を見てから、息子の隣で走るための構えを取る。

 そして……隣の息子の身体が真黒い光が発せられるのを、父親は横目で視認する。息子の身体が真黒い光ですっぽりと包み込まれた瞬間に、息子は口から元気よく合図の言葉を発する。


「よーい……ドンッ!!」


 ドンのンの字が発音されるよりも前に、ドと発音した直後くらいに息子は走り出し、物凄い速度であっという間に豆粒程度の大きさになってしまう。地面には所々ひびが入り、あまりの速度に周囲の建物が歪んだり、木が大きく揺れて葉を周囲へと散らしていく。

 父親は息子の後姿を見送ると、額に青筋を浮かべて……まるで息子と正反対の真っ白い光を全身へと巡らせる。そして、一歩遅れてその光を纏いながらも息子の後を全力疾走で追いかける。


 良い気分で先を走っていた息子の方は、はるか遠くに置き去りにしてきたと思っていた父親にあっという間に追いつかれる。父親は「ズルはダメだよ」とだけ告げると、そのまま息子を置き去りにするように抜き去って行く。

 悔しさから頬を膨らませた息子は、この速度差はきっと歩幅の差だと考えて、黒い光を器用に操るとそれを足に集中し、一歩の歩幅が長くなるように黒い光を足の形にして、無理矢理に足を長くする。

 足に力を集中した息子は速度を上げると、必死に父親を追いかけるのだが、距離は縮まるのだが追い付くことはできなかった。


 そして、ゴールの木へは父親の方が先に到着し、息子の方は追いすがったものの父親には追いつけずに、自身が提案したかけっこは息子の敗北となった。

 負けた息子は黒い光を全て消し去ると、その顔に悔しさと嬉しさが同居したような、どこか無邪気な笑みを浮かべて地面に大の字になって横になる。


「んー!! 負けちゃったぁ!! お父さんはやっぱりすごいなぁ!!」


「ははは、まだまだお父さんとして負けてられないよ。でも、ライルズ……ズルは行けないよ? さっき、ドンのドのところでもう走り出していただろう」


「う……ごめんなさい。それでも負けちゃったんだから、やっぱりズルはダメだね……。」


 ライルズと呼ばれた息子は、父親に対して反省の言葉を口にする。そして父親は、そんな反省する息子の頭部に優しく手を乗せると、そのままゆっくりと息子の金髪を撫でてやる。

 親子はそのまま微笑み合うと、そのまま木の下で一緒に遊びだした。……黒い光を纏った息子と、白い光を纏った父親の戦いを模した遊びを。


 その時……ライルズの胸中は歓喜で溢れていた。


(ふははは……ふはははははは!! やはり……やはり勇者よ!! お前との勝負は面白い!! 楽しいぞ!! 全力を出して負けるのがこんな悔しくも楽しいとは!! 我はお前の息子に生まれ変わって正解だったぞ!!)


 彼はライルズ……かつて魔王を倒した勇者と、そのパーティ内にいた聖女の間に生まれた息子であり……その倒されたはずの魔王の生まれ変わりであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 我は魔王、魔王だ。この世界が生まれた時からずっと魔王をしており、その役目は一度も変わったことが無い。この世界の初代魔王から最後の魔王まで、姿形や種族は違うが、全て魂は我である。

 何故そんな役割を我が担っているかと言うと、それはこの世界を創った親馬鹿……もとい、創世神様が原因だ。


 創生神様は神の住む世界で、人間達の住む世界を創る。我はそのお手伝いをする役目の神であり、創生神様に比べると下っ端の方の神だ。


 あの方はこの世界を最初に作った時、もしも人間同士で殺しあってせっかく作った世界が滅亡したらどうしようという事を作った傍から気にしていた。気にして気にして気にしすぎて、体調を崩すくらい気にして心配していた。

 他の世界を創っている神様なんて、大抵は創った後は好きにしろと言わんばかりに他の世界の創生に手を出したり、たまにちょっかいは出すけど基本的に放任だったり、むしろ自分をその世界の一員にしたりと好き勝手にやっている。

 こんなに過保護に人間を心配している創生神様は、この人くらいしか見た事がない。


 創生神様は過度の心配性なのか、自分が創った世界への愛が強すぎるのか……どうすれば人間達が長く殺し合わないかをずっと考えていた……そして出した結論が「たまに共通の敵を出して発散させちゃおう」と言う割とありがちな解決方法だった。

 たまに喧嘩するのは仕方ないけど、共通の敵が出れば仲良くするよねと、頭お花畑なんじゃないかと思うようなことを平気の平左で言い出した。


 そして、「共通の敵」の役割に何の因果か我が選ばれた。たぶん近くで突っ込んでいたのが悪かったのだろう。「魔王」として、ちょっとこの世界でたまに暴れてくれない? とか軽い感じで言われてしまった。

 我は断る良い理由も思いつかず、暇だったこともあってその役割を快諾したのだが……それが創生の時からいまだに続く役割になるとは思わなかった。

 もう一人、人間側につく存在として「女神」が選ばれたのだが、今はあの尻軽クソビッチの話は置いておく。ともあれ我は魔王としての役割を創生神様から賜ったので、魔王としての役割を頑張った。


 世界の不満が溜まってきたら我が「魔王」役として出現する。そして人間達からクソビ……「女神」が我を倒す英雄として「勇者」の称号を誰かに与える。

 基本的にあのク……「女神」が見た目の好みだけで「勇者」を選ぶので、大抵かなりのイケメンが選ばれるのだが、その辺りはどうでもいい。

 大事なのはその「勇者」と我が「魔王」として戦うという事だけだ。割とありがちなのだが、それで最初の頃は上手く言っていたのだ……そう……最初の頃は……。


 問題は、我が魔王としての役割をいただいてから暫くしてから起こった……そう……勇者が弱すぎるという問題だ。いや、これでは語弊がある。勇者自体は別に弱くなっていない。その実力はいつもいつも似たり寄ったりだ。だから、勇者は悪くない。

 問題なのは我だ、我が強くなり過ぎたのだ。具体的に言うと勇者をデコピン一発で倒せるくらいに強くなり過ぎたのだ。絶対的な強者となってしまった。


 考えてみたら当たり前の話だ……我は世界の創生からずっと魔王として戦っていた。魂が同じなので経験も創生からの積み重ね……できることもその時の肉体に合わせて増えていった……。

 対して勇者は当代だけで終わりなのだ。人間の寿命は短いから、毎度毎度「女神」が新しい人間を選ぶのだが、当然ながらゼロからのスタートだ。それで我に追いつけるわけがない。


 そこから……我のストレスの日々が始まった。魔王として降臨しては勇者に倒されるのだが、勇者が弱すぎて本気を出せず……どの程度の実力を出していいのかも手探りで……。

 一度勇者を完膚なきまでに滅ぼしてしまいそうになった時は非常に焦った。あの時は、褒めたくはないが「女神」が機転を利かせて「自分が弱体化させている間に!!」みたいな感じで我諸共に女神が倒されるという事で事なきを得た。

 その後、女神は復活するまで長い時間がかかると勇者に言い残し、普段の倍近い期間の休暇を創生神様から分捕っていた。その時ばかりは我も何も言えなかった……。


 他にも、我が力加減を間違えてヤバいことになった事はたくさんある……。


 それから、我はまず最初に「波動」と称して力を1〜5%程度を勇者に放出することにした。その「波動」に何とか耐えられる実力者ならそれを半分の実力として、全然だめならそれを全力として勇者と戦う。

 そして……適当なところで勇者に倒されてめでたしめでたしと終わる。最後に捨て台詞として「我はまたいつか甦る……人間達が醜く争う限り我は不滅だ!!」と言うのを忘れない。


 このセリフを言っておけば、少なくとも世界の不満は百年以上は貯まらない。その間は我と「女神」は休暇をいただいて、別な世界に行って心身をリフレッシュさせる。

 まぁ、あのクソビッチはだいたいが別な世界の良い男探しをしているだけだが……。いや、あいつのことはどうでもいい。


 ともあれ、そんな形で世界は上手く回っていた。創生神様は非常に過保護だが人間や動物を大切に思っており、「魔王」としての役割もそんな創生神様の役立っていると思ったら、全力を出せない事にも耐えられていた。


 一度、我の力を全部リセットできないかと創生神様にお伺いしてみたのだが、創生神様は「そんな!! せっかくそこまで育てた力をリセットするなんてとんでもない!!」と言って取り合ってもらえなかった。

 手加減すればいいんだからそれでいいじゃんとクソビッチにも言われてしまい、結局我の力はそのままだった。


 それからは、このまま全力を一生出せないのかなぁ……とかちょっとだけナーバスになっていたのだ……。


 しかし……前回の魔王役の時だけは違ったのだ。我が今手を繋いで一緒に帰宅している最中のこの勇者、我のお父さんは今までの勇者とは根本から異なっていた。

 そう、我はその時、久しぶりに歓喜に打ち震えたのだ。


 勇者とその仲間達は強かった。何故か異様に強かった。本当、なんで?ってくらい強かったのだ。我は最初にいつも通りの「波動」を1〜5%程度で放出してみた。しかし、彼等はそれを「何やってるの?」と言わんばかりに涼しい顔で、何事も無いように受け止めていた。

 あれ? と思った我はその後徐々に「波動」を強くしていった10%……15%……20%……と徐々に出力を上げていったのだが……彼等は全然、なんともなかった。


 調子に乗った我は一気に「波動」の強さを50%にしたところで、やっと奴らの反応が得られたのだ!!「魔王の力はやはり侮れない!!」と叫びながら!! 我に立ち向かって来たのだ!!

 この時の我の喜びがわかるだろうか!? 今まで最大でも5%程度の力しか出せなかった我が、初めて50%出しても動じないやつらが現れたのだ!

 

 我は頑張った、全力で、全開で、全身全霊で勇者達に相対した! 50%だった力も徐々に上げていき、いつしか100%……いや、我はあの時きっと限界を超えて120%の力を出せていたと思う!!

 手加減も忘れて全力を出して、勇者達と長時間戦って……そして……ついに我は敗北した! 全力を出して勇者に敗北したのだ!! こんなのは最初の頃以来の快挙だった!!


 我は久しぶりの全力の敗北感と悔しさを感じながら、なるべく楽しさと嬉しさを隠しながらいつもの捨て台詞を勇者達へと告げる。


「我はまたいつか甦る……人間達が醜く争う限り我は不滅だ!! ……また会おう!! 勇者よ!!」


 ……最後にいつもと違う台詞を入れてしまったが、概ねいつもと同じセリフなので問題ないだろう。ともかく、我は本当に、本当に久しぶりに充足した気分で敗北ができたのだ。


 そして敗北した我の前に創生神様が現れた。いつもの様に、我を労い次の休暇はどこの世界が良い? また地球にお邪魔する? とかそんなことを言って来たのだが……もう我には休暇を楽しむという気持ちは湧かなかったのだ。

 久しぶりに勇者と全力で戦えたのだぞ!! これでまた休暇を取ってしまっては次にあのような全力が出せる勇者が現れる保証があるのか? いいや無い!! 絶対に無い!!


 だから我は全力で創生神様にお願いした。子供の様にその場で地団太を踏むようにしてみっともなく懇願した、休暇は要らないから、もう一度あの勇者と全力で戦わせてくれと!


 当然、創生神様はその願いを最初は渋った。お仕事した後なのだからお休みはちゃんと取らないと駄目よと我に諭すように言ってきたのだが、こんな気持ちを抱えたままで休暇とか逆に気が休まらない。むしろ勇者の事が気になりすぎてきっと何も手につかない!! 地球の漫画の続きは気になるが、それだってきっと素直に楽しめない!!


 そしてそんな我の言葉に創生神様は……感激していた。数千年近く自分に従順だった我が、初めて我儘を言ってくれたと、歓喜の涙を流すほどだった。「女神」に任命した方は我儘放題なのにと心配されていたとのことだった。何やってんのあいつ?


 それから創生神様は頑張ってくれた。滅茶苦茶頑張ってくれた。どれくらい頑張るかと言うと、我がどうにかしてすぐに世界に生まれるように、しかし他の命を犠牲にしないようにと、絶妙に運命を色々といじってくれたのだ。


 そしてその結果……本来は我を倒した勇者と聖女の間には一人娘が生まれるのだが……その前に、息子が追加で生まれる様にしてくれた。具体的には運命をいじって良い雰囲気になるような状況を色々と作り出し、その結果、若い男女は本来であれば頑張らなかった場面でも頑張る様になり、我が生まれるという事らしい。

 力技だったのか、それをやり遂げた後の創生神様はなんだか滅茶苦茶にやつれていたが、顔だけは満足気だった。我の我儘のせいでごめんなさい。でも、ありがとう。


 しかし、これは我には非常に嬉しい事だった。息子なら、いつでも気軽に勇者と全力で戦える! 四六時中戦えるのだ!! 全然関係ない所に生まれて戦うまで時間がかかるとかは苦痛だから、我の要望を最大限汲んでくれたのだろう。本当に感謝しかない。

 ちなみに、クソビッチは地球で合コン三昧だとさっさと休暇を貰って居なくなった。あいつに選ばれた男って神の加護を受けて才能開花に加えてとんでもない幸運持ちになるから、地球のバランスを崩さなきゃいいけど……。


 まぁあいつのことは良い。我は創生神様に最大限の感謝をし、再び勇者と相まみえられることを全力で喜んだ。


 そして旅立ちの日……人間の寿命は短いけれど、あの世界にはきっと今までで一番長く滞在することになるだろうから、身体に気を付けてねと創生神様からお気遣いの言葉をいただいた。

 確かに、今までは魔王の役目だったから長くても4年程度でやられてしまっていたから、世界をゆっくりと見て回ることもほとんどなかったな……。


 最後に創生神様は我にアドバイスをくれた。今回のは特例中の特例で、今までは魔王の身体に魂を下ろしていたからすぐ全力を出せてたけど、今回は我の魔王としての力が身体に完全に馴染むのには時間がかかるとのことだった。

 それも、十五歳にもなれば完全に身体に力は馴染むので、全力で戦うなら十五歳が良いですよと。教えてくださったのだ。


 全力が出せない状態が十五年も続くのは不安もあるが、それもそれで非常に楽しみだった。その状態でも勇者に挑んで、色々と試してくれるわと意気込んでいた。


 そして創生神様に我は別れを告げ……勇者の息子として生まれ変わったのだった。


 今ではこうやって日々、我は勇者と事あるごとに勝負している。かけっこ、鬼ごっこ、ボール投げ、戦いごっこ、魔法ごっこ……どれもこれも魔王としての力を使いながらも、勇者には今のところ全敗北を喫している。しかし楽しい! 全力を出して負けることの何と悔しくも楽しい事か!!

 我は生まれ変わって良かったと、充実した日々を過ごしている。


「お父さん、明日はお仕事? 王都に行くんだっけ?」


「そうだぞー。だからな、ライルズ。俺が居ない間は、お母さんと妹の事はお前が守ってやってくれな」


「うん、僕が皆を守るよ!!」


 任せておいてくれ勇者……いやさお父さん!! だから仕事に気を付けて行って怪我をしないようになるべく早くに帰ってきて、我とまた全力で戦ってくれ!!

 我の言葉にお父さんは嬉しそうな笑顔を浮かべ、我もお父さんに全力の笑顔を向ける。夕日に向かって並んで歩いていると、訳もなく幸せな気分になってくるのは全力を出して戦った後だからだろうか。


 今の我は人間の年齢で九才……あと六年で創生神様の仰っていた十五歳になる。


 あぁ……十五歳の全力を出せる日が今から楽しみだ。

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