第311話 シューツの動き
ルンド城防衛に成功したあと、私はしばらく休んでいた。
敵軍の動きを見張らないといけないが、動く気配もなく、恐らく動くこともないだろうから、やることがなくなっていた。
シークエン砦を陥落させればという意見も出たが、あくまでクランの指示は領地の防衛である。
下手な行動は取らないほうがいい。
まあ、本音を言うとしなくていい戦はなるべくしたくないので、攻撃を仕掛けていないのだが。
今回は本当に殺されると一瞬思ったので、精神的なダメージは結構多い。
なるべく休憩していたかった。
そんな感じでゆっくり過ごしていたのだが、そんな日々もすぐに終わりそうだ。
クランから書状が届いたからだ。
新しい指示が書かれた書状のようだった。
アンセルからくる征伐軍と戦えという書状だろうか。
カナレに戻って防御を固めろという指示だったら最高なのだが、その可能性はかなり低いだろう。
私は書状を開いて中を読んでみる。
「なに?」
驚くべき内容が書かれていたので思わず声を上げてしまった。
「どんな指示が書かれてあったのですか?」
リーツが尋ねてくる。
「キャンシープ の水軍に攻められてセンプラーが陥落したらしい。その上、シューツ州がサイツに侵攻を始めたとか」
「そ、それは大変な事態ですね」
リーツも焦ったような表情を浮かべる。
「私たちにはセンプラーの奪還。それからサイツを見張るために置いていた兵で、サイツの援軍に行ってほしいとのことだ」
「指示が二つですか……サイツへの援軍はミレーユとトーマスに任せるしかなさそうですね」
「そうだな。急いで書状を送ろう。センプラーには我々が援軍に行こう」
「そういたしましょう」
私は急いでミレーユとトーマス宛に、書状を書く。
「しかし、我々がルンド郡を離れてしまうと、いざ攻められた時、落とされてしまわないか?」
書状を書きながら、リーツに質問をした。
「どうでしょうか。恐らく敵は兵糧が切れておりますので、しばらくは動けないかと。そもそも、今のパラダイル の戦力で、城攻めが出来るか疑問ですがね」
「そうか。ならば離れても良いか」
「はい。どっちにしろ指示が出ているので、我々はセンプラーに行かざるをないと思いますが」
「そうだな……しかし、休めると思ったのに、また出陣か。休む暇もないな」
「それが戦ですから」
愚痴を言ったら、リーツが大人の返答をしてきた。
今回のような大戦が起きたら、休む暇はやはりなくなってしまうだろう。
早くカナレ城に戻り、リシアに会いたいものだ。
早く会うためにも、戦を早く終わらせないとな。
「出陣の準備をしてくれ」
「承知いたしました」
センプラーへと向かうため、出陣の準備を行なった。
○
シューツ州、州都プレキド。
都市の少し離れた場所にある工房に、シューツ総督のブラン、軍師のヴァルトが訪れていた。
工房の中には大きな船が一隻置いてあった。
「本当にこれは飛ぶんだろうな」
「もちろんである! このわしが作ったのだから飛ばないわけなかろう!」
ヴァルトの質問に答えたのは、白髪頭の男だった。
顔はそれほど老けていない。30代後半くらいだが、頭は白髪だらけである。
背が高く、体型は細い。白衣を纏っている。
彼の名はハイネ・ブラウン。
実力が認められ、技術者としてシューツの総督家に仕えている人物である。
家臣であるが、口の利き方は荒っぽくて、とてもブランに忠誠を誓っているようには見えない。
実力があるのでその辺は大目に見ている。
「しかし、ミーシアンが作っているものと、少し形態が違うように見えるが?」
「当たり前だ! 同じものを作るなど技術者としては恥である。わし独自の改良を加えた、飛行船なのじゃ!」
「ほう……と言うことは性能がいいということか?」
「性能は大して変わらん!! デザインがこっちの方が良くて、乗る兵も戦に出るのが楽しくなって、士気が上がるはずじゃ」
「デザインの話だったのか……」
ブランとヴァルトは、ハイネを呆れた目で見る。
「ちゃんと飛ぶか見せてもらいたい」
「分かった分かった。見ておれい」
ハイネは工房の天井を開け、合図を出す。
しばらくすると飛行船がふわりと浮き始め、空高く飛び上がった。
「おお!!」
「本当だったのだな!!」
飛んでいるのを見て、ブランとヴァルトが歓声を上げた。
「本当に決まっておるじゃろう。わしを誰だと思っておる。飛行船のアイデアに関しては、ずっと昔から頭にはあったのじゃが、ほかの研究もしたくて後回しにしておったのだ。それを他のものが先に開発しよって……完成品のデータを見ながら、開発すると言うのは非常に屈辱的じゃったな」
ハイネはあまり嬉しそうではなく、愚痴を言っていた。
「よく作ってくれた。今回は多額の報酬を用意したぞ」
「当然じゃ! よし、これでほかの研究もできるぞ!」
ブランに報酬について言及があり、ハイネはやる気に満ちた表情を浮かべていた。
「存分に別の研究をおこなってくれ。それで飛行船の設計図に関しては、貰っても良いか?」
「ん? 好きに持ってってええぞい」
特に自分が開発した設計図を他人に見られるのに、抵抗はないようだ。
「それでは貰っていく」
ヴァルトは設計図を手に取った。
「今回は本当によくやった。この飛行船に関しては早速利用したい。乗組員を借りてもよいか?」
今、シューツ州はサイツへの侵攻を始めている。
飛行船が使えるなら、一刻も早く使いたい。
今から飛行船の乗組員を育成するのは、難しいのですぐに経験者を使いたかった。
これに魔法兵を乗せれば、すぐに戦える飛行船になるだろう。
「なぬ? 乗組員はわしの工房の弟子どもなのだが……まあ、しばらくはアイデア出しで、実際に開発に移るのは後になるじゃろうから、別に連れて行っても構わんぞ。なるべく死なせないように頼むぞ」
「承知した」
ヴァルトは頷いたが、正直命の保証があるとは思っていなかった。
飛行船は敵も持っているので、空戦が勃発するだろう。
そうなると、墜落させられる危険性も多い。
一応、突風を吹かせて、落下速度を遅くする風魔法があるため、全員にそれを使えるように風の魔力水の入った、小型魔法触媒機を渡すつもりではあるが、咄嗟に発動できないかもしれない。墜落するということは魔法攻撃を当てられているということなので、その衝撃で気を失ったりしてしまった場合は、魔法が発動できないので死ぬしかない。
カナレの飛行船の方が、熟練度は高いので強く勝率はそれほど高くはないだろう。
とにかく間違いなく、危険な仕事ではあった。
(それでも仕方あるまい。こちらに飛行船がある場合、敵も好き勝手空を動けなくなる。自軍の兵たちも飛行船に対して対抗手段があると言うだけで、士気が下がりにくくなるだろう)
ヴァルトは飛行船があるなら使わないといけないと思い、多少の被害は仕方ないと思っていた。
「それではこの飛行船を急いで輸送しましょう」
「そうだな」
サイツとの国境付近に、飛行船の輸送を開始した。




