第310話 復帰
サイツ、首都ペンドラ。
最上階にある円卓にて、白熱した議論が交わされていた。
「ですから、今のままではサイツは落とされてしまいます! 陛下! ご決断を!」
サイツ州の軍師ラダスが大声で叫んだ。
「むう、しかしだな……それはクラン殿を怒らせてしまうことになりかねぬし……」
弱気な口調で言ったのは、サイツ国王カイルだ。
彼は、普段は芸術品収集など、趣味に没頭しており、軍議になど参加することはないのだが、今回は非常事態なので流石に国王にもいてほしいと、半ば無理矢理軍議に連れてこられた。
「現在、シューツ州からの侵攻を受けております。力強く皆を統率できるリーダーが必要なのです。アシュド様を今一度ペンドラに呼び寄せて、元帥として任命すべきです」
ラダスが力説する。
現在、サイツはシューツからの侵攻を受け、危機的状況に陥っていた。
ミーシアンも同時に攻められており、大軍での援軍は期待できない。
撃退するにも、ミーシアンとの戦で強制的に体制を変えられ、まとまりがない状態で、国王カイルも戦に関しては素人。
誰か全体を統率すべき人材が必要不可欠だった。
ラダスはその人材にアシュドを押していた。
元帥は軍を統率する役職だ。大体の州では総督が軍を率いているので、わざわざ元帥を置いているところはない。
ただ、サイツは国王が兵を率いることなど出来ないので、元帥を決める必要があった。
「反対だ! 奴は今は辺境の領主の一人だ! 元帥に任命させるなど納得できんぞ!」
一人の貴族が反対する。彼はミーシアンから派遣された男である。
ペンドラにはサイツへの援助という名目で、多くの人材が送り込まれていた。援助とはあくまで名目。本当の目的は、裏切りを防ぐため。それから、サイツをミーシアンの都合のいいように操るためである。
アシュドを元帥にするというは、ミーシアンにとっては問題である。
サイツ独立の危険性を増やしてしまうからだ。
元々総督をやっていたアシュドに、再び権力を与えるというのは、受け入れ難い提案である。
「良いですか。よく考えてください。このままシューツが攻めてきて、落とされればミーシアンもサイツも何の得もないですよ。アシュド様が軍を統率しなければ、間違いなく負けます」
「そ、それはそうだが、そもそもアシュドを戻したからといって勝てる保証などない!」
「そうだ。ほかに適任者がいるはずだ!」
「いません! ミーシアンからきたあなたがたでは、指示をまともに聞かぬものもおるでしょう。私は兵を統率するような器ではありません。これほどの国難に兵の指揮を任せられるのは、アシュド様を置いて、ほかにおりませぬ」
ラダスの言葉に反論できず、ミーシアンの貴族たちは黙って見つめるしかない。
「陛下。もし、敵にペンドラを占領されれば、あなたは殺されるかもしれない。もし、生き延びたしても、あなたの所持するコレクションが全て敵に奪われることになります」
「わ、わしのコ、コレクションが敵に!? それだけはあってはならんことじゃ!!」
自分の命ではなく、コレクションがなくなることに拒否感を示した。
ラダスはその国王の様子を呆れた表情で見る。
「そうです。クラン様は確かに良い顔はされないかもしれないですが、それでも危機を脱するための措置といえば納得してくれるはずです」
「そ、それは……むむむ、しかし、何の相談もせずに決めるのも……」
「今はミーシアンも敵に攻められており、相談する余裕などクラン様にもありません! 決めてください! この場で!」
「……しかし」
「さあ! コレクションがなくなっても良いのですか!?」
ラダスは大きな声を出して、カイルを追い詰めるように言った。
「わ、分かった。アシュドをペンドラによ、呼べい」
コレクションがなくなるというのが、決め手になったのか弱々しい声でカイルは指示を出した。
数日後。
ペンドラの軍議の間にアシュドが復帰した。




