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第298話 アシュド面談

 アシュドに返信の書状を出したら、返信はすぐ来た。

 この書状を書いたらすぐに出発します。十四日後くらいに到着です。と言った内容が書かれていた。

 返信を待たずに出発するとは、かなり迅速に行動する男だな。

 それから14日後。

 予定通り、アシュドがカナレ城に来た。

 アシュドが来たという報告を受けた私は、急いで応接室へと向かい、アシュドを待った。


 後ろにはリーツがいる。

 流石に一対一で会うのは気が引ける。

 アシュドは武闘派な男という情報は出回っていないが、それでも私が一対一で勝つのは難しそうだ。


 リーツがいれば安心だろう。

 しばらく待ち、アシュドが応接室へと来たという報告があったので、部屋の中に通せ、と家臣に指示を出した。

 アシュドが部屋に入ってくる。

 予想より小柄な男だった。年齢は40代後半くらいか。

 貫録を感じる顔だちをしている。元サイツ総督だけあって、様々な修羅場を潜り抜けてきたのだろう。


 鑑定結果をごまかす方法をアシュドも知っているかもしれないが、それでも気になるので一応私はアシュドに鑑定をかけた。


 アシュド・リンドヴァル ♂ 47歳

 ・ステータス

 統率 92/93

 武勇 70/88

 知略 99/99

 政治 100/101

 野心 66

 ・適性

 歩兵 A

 騎兵 A

 弓兵 B

 魔法兵 C

 築城 C

 兵器 D

 水軍 D

 空軍 B

 計略 S


 帝国暦百六十七年七月三十日、サマフォース帝国サイツ州ラマスカ郡トロップで誕生する。両親はすでに死亡。兄が二人すでに死亡。妹が一人。息子一人、娘三人。合理的な性格。芋類。読書。包容力のある女性が好み。


 かなり強い。

 年齢のせいか武勇が少し落ちてはいるが、ほかのステータスは申し分ない。

 このステータスは完全には信用はできないが、下克上を起こしてサイツの総督まで成り上がった男である。

 このくらいのステータスを持っていても、不思議なことではない。


「初めまして、アシュド・リンドヴァルと申します。よろしくお願いします」


 だいぶ歳下である私に、深々とお辞儀をして挨拶をしてきた。


「アルス・ローベントです。遠くからよくぞ参られました。こちらこそよろしくお願いします」


 挨拶を返した。


 その後、応接室の椅子に座ってもらい、私たちは向かい合って座った。


「お話通りまだお若い。おいくつでしたか?」

「15です」

「私の息子と同じくらいですね、私の息子はまだまだ未熟者でして、アルス殿とは雲泥の差です」

「私もまだまだ若輩者ですよ」


 アシュドはにこやかに世間話をしてきた。

 最初は少し威圧感を感じたが、こうして話していると、ただのおじさんにも見える。


「そんなことはありませんよ。クアット郡の統治も見事です。ここまで早くギルドを手懐け、領地経営を安定させるのは、並大抵の手腕ではない」

「……それは……家臣の手を借りたまでですので」

「家臣の力はアルス殿の力と一緒ですよ」


 クアット郡の統治についてかなり詳しそうだな。思ったより色々情報を収集しているのかもしれない。


「飛行船の設計者もアルス殿が見出されたとか。本当なら凄まじい戦功ですな。クアット郡とプルレード郡の領地を貰うのも、当然のことですね」


 シンを私が連れてきたことも知っているのか。

 相当情報を集めているようだな。

 辺境の領主になって、そのままのんびり過ごそうと思っている人間が、ここまで情報を収集するということは考えにくい。

 やはり、まだ何らかの方法で権力を取り戻そうと、画策している可能性は高いな。


「飛行船を作れたのは偶然ですので……もし、私が見つけていなくても、彼はどこかで飛行船を開発していたと思いますよ」

「そうでしょうか? アルス殿、あなたには人材を見抜く目があると噂があります。その目で、人材の能力を見抜き、飛行船の開発を成し遂げた。あなたの力が成し遂げさせたと言ってもいい。つまり、サイツ州はあなたの力に敗北したのです」

「……」


 にこやかだった顔が、少しづつ迫力のある表情になってきた。


 私は何も言えず、彼の言葉を聞き続ける。


「アルス殿、サイツと手を組みませんか?」

「手を組む?」


 いきなり何を言い出しているのか、疑問に思う。


「手を組むも何も、サイツは今となってはミーシアンの味方ではありませんか」

「ミーシアンではなく、ローベント家がサイツと手を結ぶ気はないか、という意味です」

「ローベント家がサイツと手を結ぶ?」

「簡単な話、アルス殿は、ミーシアンから独立する気はありませんか?」


 アシュドがそんなことを言ってきたので、流石に混乱する。

 何を言っているんだこの男は。


「あなたが独立すれば、ミーシアンは大混乱に陥るでしょう。飛行船の多くは未だカナレ郡にありますし、迂闊に攻め込めないはずです。サイツはその期に乗じて、傀儡である国王を排斥し主権を取り戻します。それからサイツとローベント家で手を組んで、ミーシアンを退ける。なかなかいい戦略だと思いませんか?」

「……何を言っているか私には理解できないですね。ローベント家がクラン様を裏切ることはあり得ません」


 堂々と裏切りの提案をしてくるアシュドに向かって、私は毅然とした姿勢でそう言い放った。

 クランの方針に、若干の不満があるのは間違いないが、裏切るのはデメリットが大きすぎる。

 サイツが手を組むと言っているが、信用できない。


「アルス殿、予言しておきますが、ミーシアンはこれから苦境を迎えます。各州が協力をして、ミーシアンを攻めるという流れになるでしょう」

「それは……ありえるとは思いますが、こちらには飛行船がありますので、十分対抗が可能であると考えています」

「それはどうでしょうか? いくら飛行船があると言っても、単純な兵力の差を覆すのは困難ですよ」


 正直軍事には詳しいわけではないので、アシュドの言葉が間違っているとは言い切れない。

 ただ、一方的にやられる展開にはならないはずだ。

 そもそも、他州が手を取り合って連携してミーシアンを攻めるのは、難しいだろう。サマフォース帝国で内乱が発生し、各州が自治を始めてから、もうかなりの年月が経っている。


 共通の敵が出てきたとはいえ、今更仲良く出来るとは思えない。


「兵力差があるというのは、本当に他州がひとまとまりになれるということを前提とした考えです。そう簡単にはいかないでしょう」


 そう説明したのはリーツだった。私の代わりに軍事のことについて反論してくれたようだ。


「それは一理あります。恐らくミーシアン征伐の連合軍は、各々勝手にミーシアンに攻め込むと思います。ただ、それはそれで、戦線が分かれてミーシアンからすると辛いでしょう」

「……」


 確かにそれはその通りだ。多方面から戦を仕掛けられると、かなり厄介そうだ。飛行船の数が単純に少ないし、全ての戦線に導入できないかもしれない。


「実はサイツにシューツからの間者が多く入り込んできております。目的は恐らくサイツの調略。ミーシアンが連合軍の攻撃を受け、弱体化したらサイツにとっては独立のチャンスになります。その時、サイツに独立を促すため、間者を放って情報の収集や、邪魔者の暗殺などを企てているのでしょうね」

「サイツを調略……」


 連合軍を組まれて、サイツの独立まで許してしまうと、かなりミーシアンにとっても苦しい戦を強いられることになる。


「とまあ、色々言いましたが、アルス殿と手を組みたいと申し出たのは、正直に言ってしまえば、アルス殿がミーシアンにいる限り、サイツは簡単に独立できないからなんです」

「なぜですか?」

「クアット郡とプルレード郡を押さえられているのが、結構痛いからですね。飛行船を使えば、クアット郡からサイツの州都をあっさりと陥落させられてしまうかもしれません。そうなると、独立の成功確率は低くなる」


 クアット郡は、サイツ州都からそこまで遠くない位置にある。この郡を握られているのは、サイツからすると厄介な事実なのだろう。


「アルス殿が独立をしてしまえば、ミーシアンは壊滅すると思います。アルス殿が治める領地も増えるでしょう」

「もし私が独立してミーシアンが滅んだら、最終的にローベント家も滅ぼされるでしょう」

「連合軍はクランの首を取れれば満足すると思いますよ。それでも、もしアルス殿の領地を連合軍が攻めてきたら、サイツが全力で支援すると約束いたします」

「……そもそもアシュド殿は今は辺境の領主のはず。そのような話を持ち込める立場にないはずです」

「ははは、表向きはそうですね。ですが、実情は違いますよ。州都でサイツの国政に関わっているものの多くは、元……いや、今も私の家臣で、私の指示に従ってくれていますよ。サイツの独立がなったら、再び私が総督として、サイツ州を統率するつもりです」


 何の悪びれもせず、自分がサイツの国政に影響を与えていると言い切った。

 私がクランに報告すれば、自分の身が危ういかもしれないのに、わざわざ言うとは。       

 殺されない自信でもあるのか?

 彼を処刑したら、場合によってはサイツ各地で反乱が起きる可能性もある。

 そうなると、ミーシアンからすると厄介極まりない。

 反乱と同時に、他州の連合軍が攻めてきたら、厳しい戦を強いられてしまう。


「……まずあなたをそこまで信用できませんし。そもそも、先ほど言った通り、私はクラン様に忠誠を誓っております。裏切るなどあり得ません」

「……そうですか。このままアルス殿と手を組めなかった場合、サイツはミーシアンを裏切れず共闘するしかなく、ミーシアンともども連合軍の前に敗北する。当然、ローベント家も同じく、敗れ去るでしょう。そうなってもよろしいのですか?」

「……そんなことにはなりません。戦になれば、勝てばいいだけです」

「勝てばいい……それはその通り。正しいですね」


 アシュドはニヤリと笑みを浮かべた。

 こちらが動揺しているのを見透かしているようだった。


「ここに来たのは、その話をするためですか?」

「はい。まあ、易々と手を組むと言ってもらえるとは、もちろん思っておりませんでしたよ。ただ、これから戦が起こるのは間違いありません。そして、戦況がどうなるかも今は分かりません。もし旗色が悪くなった時は、私の話を思い出してください」


 アシュドはそう言って立ち上がった。

 このまま帰していいものだろうか。

 明確に裏切りの誘いを受けたのだ。

 この事実をクランに話せば、アシュドは間違いなく処罰をされるだろうが……


 ただ、正直彼の話は、ローベント家に利がないわけではなかった。

 クランに心の底から忠誠を誓っているというわけではないので、場合によってはローベント家を守るため、決断を下す必要はあった。


「リーツ殿。あなたは、智勇に優れた名将だと聞いております。最後にあなたの意見も聞かせてくれませんか?」


 アシュドはそう質問をしてきた。

 リーツをマルカ人だからと馬鹿にはしていないようだ。

 リーツに流れている良い評判を聞いて、彼が名将であると判断しているようである。


「そうですね。アルス様が独立すべきという意見……とても面白いと思います」


 リーツが予想外の言葉を発したので、私は驚く。

 あり得ない話だと切り捨てると思ったが、そうじゃないのか。


「リーツ殿は賛成ということですか?」

「いえ、ひとつ気に入らないところがあります。同盟を組むという点ですね。正直、サイツは信用ならないところも多いです。サイツがアルス様の軍門に降るというのなら、その話も受けた方がいいかもしれませんね」


 ぐ、軍門に降る?

 中々やばい発言をしている。本気で言っているのだろうか?

 それとも、断るための方便か?


「軍門に降る……ですか」


 リーツの言葉を聞き、流石のアシュドも少し驚いたように目を見開く。


「なるほど、君の配下になるというのなら、それもありかもしれないな」


 その後、アシュドはニヤリと笑みを浮かべそう呟いた。


「我々が信用できないという気持ちは理解できますし、確かにアルス殿を頂点に据えれば、サイツの統治もより良いものになりそうではありますね。ただ、こちらも立場がありますので、そう易々と明け渡すわけにはいきませんね」

「そ、そうでしょうね」


 私は動揺しながらアシュドの言葉に返答をした。


「ただ、状況次第ではそれも視野に入れる必要がありそうですね」

「し、視野には入れるんですか」

「はい、あくまで状況次第ですが」


 にこりと笑みを浮かべながらそう言った。本気で言っているのか冗談なのか、判断に困る。


「それでは用は済みましたので、私はこれで。今回のお話した件、是非ご検討してください」


 そう言い残して、アシュドはカナレ城を去っていった。


「ふう……」


 何だか疲れたので、私は椅子に深く座った。


「今回の話どう思う?」

「先ほど答えた通りですね。そんなに悪い話ではないかと」

「本気で言ってるのか?」

「僕はアルス様はもっと高い地位にいなければならない方だと思っていますので。いつまでも、一領主の位置に甘んじる必要はないと思います」


 リーツは本気で言っているようだ。

 そもそも、彼はこういう男ではあったな。前は私が皇帝になれば良いとか、言っていた気がする。

 賛成するわけだ。


「アシュドの件はクラン様に伝えるべきだと思うか?」

「……はっきりと断るのでしたら、伝えてもよろしいかと。僕はこのまま伝えずに検討した方がいいと思います。この先戦が起きるという可能性は、十分ありますし、飛行船が敵に研究されて、対策を考えられてしまった場合、数の差で戦に負けるということも考えられます」

「そうだな……」


 私も飛行船が無敵の兵器だとは思っていない。

 サイツをあっさり攻略できたのは、敵が飛行船に関する対策を全く取れていなかったからだ。

 飛行船自体、どうやっても攻略できないものでもない気がする。

 その方法は私には思い浮かばないが、この世界には様々な魔法があるため、飛行船攻略に役に立つ魔法があるかもしれない。

 過信しすぎるのも良くないだろう。


 その後、信頼できる家臣たちを集めて、一旦軍議をした。


 内容が内容だけに、クランの息がかかった者に知られると不味い。

 最近は、クランの好意なのか、領地を多く与えたから監視をしたいと思っているのか、クラン直属家臣が手助けという名目で、ローベント家へ派遣されている。


 大っぴらに軍議をやると知られる危険性があるので、軍議は極秘で行った、

 結論としてはやはりクランには伝えず、保留した方がいいということになった。


 戦が起きる可能性は高く、アシュドの予想通りの展開になる可能性もある。

 アシュドを完全に信頼できるわけではないので、手を組んだ方がいいというわけではないが、選択肢として残しておいた方が良さそうだという意見が多かった。


 私も基本は同意見だった。

 こういう結論を出したということを、クランに知られると非常に不味いので、軍議の内容は極秘ということにした。


 アシュドが去ってから数週間後。

 アンセルとパラダイルでミーシアン征伐のための挙兵が行われているという情報が入ったため、急いでアルカンテス城に来て、軍議に参加しろという書状が届いた。


 戦が起きないでほしいと思っていたが、その願いはあっさりと打ち砕かれた。


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― 新着の感想 ―
斎藤道三、三好長慶みたいな感じの能力ですね
更新ありがとうございます。 アシュドのステータスが思いの外高いのに驚きました。そして、その能力に違わずアルスに同盟を持ち掛けてきました。かなり、厄介だと思います。少なくとも、アシュドと会談した事はクラ…
織田信長が包囲網をしかれた頃の状況に似ていますね。 対ミーシアンの州のどこかが実はすでにクランと内応済みだと予想します。
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