第297話 面談希望
私はカナレ郡に帰還した後、普段通りの生活に戻っていた。
クアット郡の統治に関しては、度々情報が入ってくるが、今の所うまくいっているようだ。
生産力も上がっているし、民からの評判も上がったため、兵として志願する人物も増え、兵力もどんどん増強されているらしい。
ミーシアンはサイツを実質的に支配下に置き、さらに独立宣言などを行なったことで、他州から敵意を向けられているだろう。
いつ戦が起きてもおかしくはない状況だ。
戦力はちょっとでも増やしておきたい。
飛行船についても、郡内での生産は順調だ。
新型の開発も進んでいるようだが、まだ実用化には至っていない。
カナレ郡以外では、まだ飛行船を作る体制は整っていないようで、量産は出来ていない。
ただ、着々と準備は進めているようだ。
技術者を増やし、飛行船を数百隻用意できれば、戦に負けることはほとんどなくなりそうだ。
まあ、そうなると、クランの様子からすると、サマフォースをミーシアンの手で統一するための大戦を仕掛けかねないので、あまり良いことではないかもしれない。
統一されて戦が起こらなくなるのは良いことかもしれないが、統一するまでどれだけ時間がかかるかは分からない。
いくら飛行船があると言っても、全土を侵略するのはすぐには終わらないはずだ。
下手したら数十年かかるか……そんなに戦をし続けるのは正直ごめんである。
早いところ平和になればいいんだが……
ミーシアンがかなりの領地を獲得して、敵に攻め込まれないくらい強くなれば、戦は起こらなくなりそうだが、クランはそれでは満足しなさそうな気がする。
今ローベント家は、ミーシアン内でもトップクラスの領地を持つ貴族だ。
歴史が深い貴族ではないが、それでも実力があるだけに徐々に発言力は増してきている。
クランに戦をしないよう諫言をできるくらいの立ち位置にはいるのだが……
あんまり色々言って、クランとの関係性を崩すのもまずいし、今のところは何も言わない方がいいかもしれない。
まあ、この手の政治的なことに関しては、私だけの独断で決めるのはまずいので、家臣たちの助言を聞き決めていこう。
それから以前に私を狙った暗殺者の捜索を、シャドーに頼んだ。
殺されかけた恨みがあるから、というわけではなく、鑑定結果をごまかす方法を、あの暗殺者は知っているだろうから、探し出さないとまずい。
今のところまた鑑定結果をごまかされていないか心配で、あまり新規の人材を取りづらくなっている。新領地も増えたので、人材は早く増やしておきたい。
暗殺者の捜索は急務だった。
ちなみに暗殺者捜索を提案したのはリーツである。
彼が提案したのは私怨大きそうな感じだった。暗殺者を思わず殺してしまいそうなくらいの勢いだったので、捕縛に成功したときは、彼を何とかなだめないといけなそうだ。
そんな感じで統治を進めていたある日、書状が届いた。
〇
「元サイツ総督、アシュドが私と面談したいだと?」
私宛に届いた書状をリーツが代わりに読み上げ、その内容に私は驚いていた。
手紙の差出人はアシュドだった。
直接会ったことはないが、もちろん名前は知っている。
「はい、間違いないです」
「何故? 彼は総督の座を下ろされた後、何をしてるんだった?」
「辺境の領主になったはずですね。ただ、完全に追放したわけではなく、現サイツ国王の直属の家臣にも、彼の息のかかったものはいるでしょうから、完全にサイツ国内への影響力を失ってはいないと思われます」
辺境の領主になっていたのか。
サイツの降伏を決めたのは、アシュドだ。処刑したらサイツが降伏を取り消して、また抵抗しかねないと思い、危険人物と分かっていたが処刑はしない、とクランが決めたんだったな。
「そのアシュドが何の用で私に面談したいと?」
「一応理由は、クアット郡を治める新領主殿に挨拶をしたいとのことですが……元サイツ総督として、クアット郡に善政を敷いていることにお礼が言いたいと」
「妙な理由だな。別にアシュドは元クアット領主というわけではあるまい。仮にクアット領主だったとしても、善政を敷いてるからと言って、お礼を言いにくると言うのはおかしな話だ」
理由がよく分からないので、どうしても警戒せざるを得ないな。
何らかの策略があるかもしれない。
サイツ州がミーシアンからの独立を企んでいる場合は、クアット郡などを治めているローベント家は大きな障壁となる。
逆に言えばローベント家さえ何とかしてしまえば、十分独立のための戦を起こせると、アシュドが考えていても不思議ではない。
「何らかの計略の可能性があります。会うのはリスクがあると思いますが……ただ、アシュド殿と関係を築くのは悪い話ではないと思います」
「まあ、それはそうだな……」
総督の座を下ろされたとはいえ、今もなおアシュドは高い影響力を持っているだろう。
もし、友好的な立場になれたら、これから先、色々メリットは大きいかもしれない。
クアット郡の統治も今はうまくいっているとは言え、この先どうなるかはまだ分からない。
場合によっては大規模な反乱が起きる可能性だってある。
アシュドと友好関係を結べれば、反乱が起きた際、力を貸してくれそうだ。
また、私に暗殺者を差し向けた、ボロッツはアシュドの家臣である。
もちろん今は違うが、忠誠を誓っていたみたいなので、完全に無関係というわけではないだろう。
もしかすると、ボロッツの差し向けた暗殺者のことについて知っているかもしれない。
仲良くなったら、暗殺者の情報を聞き出せる可能性もある。
「あと、計略と言っても、流石にアルス様を直接暗殺に来るというわけではないでしょう。もし暗殺に来たとしてももちろん止めますが……恐らくですが、何かローベント家に儲け話をしにくるか、もしくは嘘の情報でローベント家を困惑させにくるかのどちらかです。もたらされた情報をきちんと調べて動けば、問題はないでしょう」
「確かにそれはそうだな。有能な家臣たちも多いし、どんな情報を伝えてきても、それが計略なのか本当なのか見破ることは出来るはずだ」
「はい、それに関してはお任せください」
リーツが力強く返事をした。
その様子を見て私は、
「アシュドと会おう。早速返事を書くぞ」
会うと答えを出した。
 




