第296話 合議後②
「今回の征伐軍は中々シューツにとっていいものになりそうですね」
シューツ総督ブランとヴァルトは、並びながら城の廊下を歩いていた。
「そ、そうか? 予想通り纏まりがなさそうで、ちょっと不安なんだが」
「連携は取れるか微妙ですが、逆に各々ミーシアンを攻めることにメリットを感じて攻めることになるので、裏切りは出づらそうかと。まあ、ローファイル州を除いたらですが……」
「確かにローファイルが普通に兵を出すと言ってきたのは意外だったな」
「余裕がないから1万しか出せないようですがね。隙があったらアンセルかキャンシープを攻め落とす気かもしれませんね」
「うむ……そ、そうなると、大丈夫なのか? 今度はローファイルが強くなりすぎてしまわないか?」
「どちらかというと、ローファイル州がアンセルを攻めれば、アンセルの勢力が強大になるのを防いでくれると思いますね。ミーシアン征伐が成功すれば、アンセルの勢力はサマフォース帝国で一番強大になるでしょうからね」
「なるほど……確かにアンセル州には皇帝陛下もおられるし、実力が戻ってくれば、サマフォース帝国はあっさりと再びアンセル州の手で統一されることになりそうだな……」
「……まあ、皇帝陛下が今後どうなるかはわかりませんがね。まだ若いので、積極的に動く気がなさそうですが、もう少し年齢を重ねれば、国政に口を出したりされるかもしれません。そうなると、シャクマからすると邪魔な存在になるので、下手すれば追放されたりする可能性もあるかと」
「追放……? 皇帝陛下を? そんなことをすれば、アンセル州内外に多くの敵を作りかねないぞ?」
「そうですね。ですが、強い権力とは簡単には手放し難いものです。リスクを負ってでも、サマフォース帝国を自分の手にしようと考えるのも、おかしくはありません」
「ふむ……確かに今アンセルの実権を握っているのは、あのシャクマだ。何をしでかすかは未知数だ」
シャクマに関してはあまりいい噂は流れていなかった。
表向きは有能で、政策も民に恩恵を与えるものが多く、意外と領民からは支持を得ていた。
ただ、ライバルの貴族を暗殺した、邪魔な貴族に罪を着せ、一族郎党処刑した、などの噂があったする。実際、邪魔な人物が死んだり失脚していったりしたことで、シャクマは今の立場についている。証拠はないので表立って糾弾はできないが、噂はある程度正しいだろうという見方をするものも多い。
「あの話はしなくて良かったのか?」
「飛行船の試作機の開発が、ほとんど終わっているという話ですか? 別にしなくても良いでしょう。下手に話せば、技術を共有しろと要求される恐れがあります」
「いざという時は飛行船を使うことになるかもしれんし、その時は非難されるかもしれんぞ」
「別に非難されても、まだ開発が成功するか分からなかったので、言えませんでしたと、説明すれば良いんですよ。別に嘘でもありませんしね」
「そうだな……」
シューツ州も飛行船の開発を行なっており、ミーシアンで運用されている飛行船のデータをハイネ・ブラウンという開発者に渡し、飛行船の開発を依頼したところ、思ったより早いスピードで開発は進んでいた。
元々ダメもとでやった計画だったが、案外ミーシアン征伐軍の戦が起こるまでに、実践投入出来るレベルになる可能性があった。
「とにかく我々は宣言通り、サイツ州の攻略の作戦を練りましょうか。サイツは州内の反乱分子が多いので、計略を使って陥とすということも出来そうですので、まずは密偵を放って情報を探ることから始めましょう」
「そうだな」
二人は今後の方針を決めた後、シューツ州へと戻っていった。