表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

291/303

第291話 クアット郡へ

 数日後。

 私はクアット郡を訪れていた。

 クアット郡の統治は、ある程度ミレーユに任せるつもりではあるが、あくまで領主は私である。

 最初に領民たちに姿を見せておいた方がいい。

 私は馬に乗り町の中を歩いていた。

 リーツ、ミレーユがあとに続いている。

 そんなに長くいるつもりはないので、リーツも連れてきた。今は城主代理はリシアが務めている。彼女なら問題なくやってくれるだろう。


 またランベルクを任せているヴァージも一緒に来ている。

 領民との関係を良くしたいと思ってきたので、彼みたいな口の達者なものは役に立ちそうだ。

 ランベルクは昔から仕えている執事に任せている。短い間ならそれで大丈夫だろう。

 馬に乗っているとかなり目立つので敵に狙われないか心配だ。一応、周囲は歩兵で固めている。また、事前に狙撃しやすそうな場所を、ファムたちに調べて貰って、そこを抑えているので狙撃もされないと思う。この世界には銃はないとはいえ、弓や魔法で遠距離から狙い撃たれることもあるので、注意しないといけない。


 大勢の領民が私の姿を見るために道脇に集まってきていた。

 領民たちの表情を見てみるが、決して歓迎はされてなさそうである。敵意を向けている者も珍しくはなかった。


「あいつが新しい領主? まだガキじゃねーか」「ガキに見えてあの悪魔ミレーユを家臣にしてるような奴だぞ。極悪人に決まってる」


 そんな会話も聞こえてきた。クアット郡はミーシアンが陥落させてから、しばらくの間反抗勢力が存在して、それを治めるための人材としてミレーユを派遣したのだが、一体その時なにをしたのだろうか。

 かなり評判が悪そうだ。この土地をミレーユに任せていいのか、疑問に思えてきた。

 クアット郡は武力で制圧した土地だ。ある程度、領民に恐れられるくらいではないと、反乱が起きまくって、統治どころではなくなる。そう言う意味ではいいかもしれないが……

 ただ、ここまで反感を買っていると、領地からの移住者も増えて人口が減ったりしかねない。

 もっと領民からの支持を得られればいいのだが、どうすればいいだろうか?


 馬で町中を歩き回った後、私たちはクアット城へと入った。

 だいぶ長い事馬に乗り、その間、領民たちの敵意が混じった視線を浴び続けてきたので、精神的にも肉体的にも疲れた。


 その日は、一旦休憩した。


 翌日、会議を開いた。


「思ったより領民から悪印象を持たれているようですね。かなり恐れられているようなので、反乱は今のところ起きる可能性は低そうですが……」

「ま、そこに関してはアタシが色々やってやったからね」


 ミレーユがどや顔している。


「恐れられているのは良いというわけではない。戦が起こった時、クアット郡の領民がローベント家のために命懸けで戦ってくれるとはとても思えない」


 リーツがミレーユに向かってそう言った。

 確かに戦が起きたら、クアット郡の兵士たちも率いることになるだろうが、今のままだと士気は高まらないだろう。敵前逃亡する恐れもある。


「今の状況から民衆からの支持を集めるにはどうすればいいと思う?」


 私は家臣たちにそう尋ねた。


「そうですね……まずは都市の有力者と会われるのが良いと思います。彼らに良い印象を持たれれば、徐々にですが領民の心情も変わってくるでしょう」


 都市では商人や職人など、様々な職業の人物が働いているが、それぞれの職業をまとめるリーダーが存在している。クアット郡がローベント家の所領になったからと言って、リーダーは変わらない。無理やり変える事も出来なくはないが、そんな事をしたら統率が取れなくなって、都市の機能がマヒしてしまう可能性が高い。


 大体どの都市でもそれは同じだ。カナレもそうなっている。

 職業のまとめ役をやっているだけあって、リーダーの影響力は高い。味方に付けたら、ローベント家の印象を良くするような情報を積極的に流してくれるだろう。


「有力者たちが流した情報は領民たちも信じると思いますので、ローベント家を良く思うものが増える可能性は高いです」

「どうすれば気に入られるだろうか?」

「信用できる人物であると分かってもらえるのが大事だとは思います。ただ、人柄の良さだけで認めてくれるほど甘くはないとも思います。各職業のまとめ役をやっている方々なので、ローベント家がどのくらい自分たちに利益を与えてくれるのか、というところは見られると思います」

「利益を与えてくれるかどうか……か」


 逆にやりやすいかもしれない。感情を優先する相手だったら、クアット郡を占領した相手ということで、会う事を拒否されるかもしれないからな。そうなったら、仲良くすることなど不可能だ。


「一度、この街の有力者たちを集めて話をしたいが、その前にどんな人物なのか事前に知っておいた方が良さそうだな」

「そうですね。ファムたちを使って情報を集めましょう」


 リーツがそう言った直後、


「あ、その役目僕も手伝いますよ」


 ヴァージがそう発言をした。


「町の人と仲良くなって情報貰ったりするのは得意なので、ぜひ任せて下さい!」


 自信のある様子でヴァージはそう言った。

 確かに彼は口が上手い。カナレでも町民との交渉役を任せたりもしているので、適任だろう。


「それではヴァージも頼んだ」

「任せて下さい!」


 リーツに頼まれて、嬉しそうにヴァージは返答した。

 それからクアット郡の領地の運営方針を話し合った。

 ミレーユは全部自分に任せろと不満げな様子だったが、全部任せるのは不安である。


 ちゃんとやればミレーユは有能だが、細かいところを雑にする傾向があるので、最初は色々口を出していった方が良いだろう。彼女の野心の高さも警戒しなければいけない。下手に軍事力を上げさせたら、何をしてくるか分からない。


 まあ、今のところ裏切るような傾向は見せてはいない。大丈夫だとは思う。もちろん警戒するように、ミレーユの下に付ける家臣には言いつけておくが。


 会議が終わる。

 町の有力者と会って話すまではカナレには帰れなくなった。

 ヴァージとファムたちが情報を持ち帰ってくるまでは、特にやる事もない。


 この町で人材発掘を行いたいが……


 以前、鑑定スキルを使って登用した人物が、刺客だったことがどうしても脳裏をかすめてしまう。

 奴は鑑定結果を何らかの方法で誤魔化していた。

 その方法を知っている者が、サイツ州内にいる可能性がある。そう考えると、才能のある者を見つけても家臣にするかどうかは慎重に決めなければならない。


 サイツの実権はミーシアンが握っているが、まだまだサイツ州内には反抗勢力が多くいるという話だ。クアット郡を取り返すため、刺客を放ってきても不思議ではない。


 色々ネガティブなことを考えたが、結果的に人材発掘を行うと決めた。


 良い人材を見つけてもすぐには家臣に出来ないが、クアット郡にどんな人材がいるかは知っておきたい。もし、優秀な人材を発見したら、その人材は本当に優秀な人材か、刺客かのどちらかだろう。見つけ次第、シャドーに見張らせる必要がありそうだ。もし怪しいところがないようであれば、スカウトしてみるのも良いだろう。


 ということで人材発掘を行ったが、流石に一日だけでは優秀な人材は見つからなかった。


 素性を隠して人材発掘は行ったのだが、クアット領民のローベント家に対する評判は、あまり良くなかった。

 嫌っている者たちも多かったが、それ以上に恐れている領民も多かった。


 これからミーシアンから領民が移動してきて、元のクアット領民は追い出されるか奴隷みたいな扱いを受けると思っているようだった。


 もちろんそんなことはしない。ミーシアンから移住してくる人はいるだろうが、特に優遇するつもりはない。

 ただ、クアット領民の不安も当然だろう。彼らからしたら私たちは侵略者にほかならない。


 このままだとクアット郡から出て行って、ほかの場所に移住する領民も出てきそうだな。

 そうなると、街の活気もさらに落ちてくる。


 なるべく早く領民から信頼を得ないといけないな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
待ってました。というより、心配してました。 続きを書いていただき、ありがとうございます。これで安心して眠れます。
更新ありがとうございます。 占領地の統治は難しいのが常なので、アルスも頭が痛いでしょう。悪魔と呼ばれるミレーユは一体何をやったのかも不安だと思います。 定番としては、地元をよく知る人をミレーユの補佐に…
ミレーユとアルスは 韓信と劉邦の関係みたいですね。 アルスは劉邦のような君主になるのかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ