第287話 クアット城攻略
それからクアット城攻略について軍議を行った。
規模の大きな城であり、さらにサイツ総督がミーシアン攻めに遠征を行っていた兵士たちを引き連れてきたので、大勢の兵がいる。
ミーシアンの方が兵士の数は多いのだが、1.5倍程度だ。
本来なら城を陥とすなら倍以上は兵士の数は欲しいところである。
ただ、今回は飛行船という兵器が存在している。城の防御機能を無力化できるので、陥落させることは出来るはずだ。
野戦でも飛行船は使える兵器なので、敵が野戦を仕掛けてきても有利に戦うことができる。
軍議を行った結果、特に変わった策や意見は出なかった。
クアット城まで進軍を行い、敵が野戦を仕掛けてくるなら応戦して敵兵を出来る限り減らす。その際、飛行船を使用して、敵兵の統率を乱せば自軍の被害少なく、勝利することができるはずだ。
敵兵が籠城してきたら飛行船でクアット城を破壊し、突入して攻略する。
クアット城のあるクアットは、結構規模の大きい城郭都市である。爆撃をすると民間人も巻き込んでしまう恐れがあった。
一応爆撃の少し前に警告はするのだが、巻き込まれる民間人はいるので心苦しいけど、やるしかない。普通に突入しても民間人に被害が出ることは出るだろうし、仕方ない犠牲として割り切るしかない。
軍議が終わった。
攻め込むならなるべく早い方がいいと、クランは準備を最速で終わらせてクアット城へ向けて出陣した。私たちも後に続いて出陣をする。
サイツ軍は籠城はせず、野戦をしてくるようだ。飛行船の存在も考えると、妥当な選択だろう。
サイツ軍は要所にすでに布陣をし終えていた。
クアット城に行くには、街道を通る必要があり、その街道に大勢の敵軍が布陣していた。
ほかにも山道を抜けていくルートもあるが、そこにも敵軍は布陣をしている。
こちらは道も狭く少数しか通れないので、布陣している兵も少なかった。
クランは全軍で街道の突破を目指す。
下手に兵を分けて主力の兵力が落ちてはいけないので、全軍で攻めることを選択したようだ。
サイツ軍は大型の触媒機を大量に並べていた。
州内にいる能力の高い魔法兵を集めたのだろう。
魔法は攻めより守りの方に有利に働く。
大型触媒機は機動力がなさすぎるので、攻城戦で使うのは強いが、野戦だと結構使いづらい。
これを通常の方法で突破するのは非常に難しいだろうが、今回は飛行船を使える。
上空から大型触媒機を狙い破壊に成功すれば、敵の戦力は大幅にダウンする。
爆撃の精度は微妙なので、どのくらい破壊できるかは分からないが、あれだけ並べてあればいくつかは破壊できるだろう。
外れた場合も、大型触媒機は破壊できないが、敵兵には当たっている可能性が高い。密集している場所に当たったら、大勢の兵を討ち取れるはずだ。
また、敵将を爆撃で討ち取れればいいのだが、流石にそこまで上手くはいかないだろうな。
クランは敵が陣取っている場所の近くで、一旦進軍を止める。
「まずは飛行船で敵軍を攻撃する。その威力見せてもらうぞ」
「承知しました」
クランの言葉に私はそう返事をした。
飛行船は私たちが出陣した後に飛行を開始した。その後、追いついて今は軍隊のちょうど上空に浮かんでいた。
砦を攻めたときに比べると、飛行船は高度が低い場所に浮いている。
砦は塔などを作って、高い位置から攻撃してくるが、野戦だとそんなものはないので、少し高度を下げても敵兵の攻撃が当たることはない。
低い位置からの方が敵に攻撃を当てやすいので、なるべく低い場所を飛んだ方がいいだろう。
一旦何を狙うかを話し合うため、飛行船を下ろしたいところだが、流石に危険なのでやめておいた。元々、野戦を行うことになったら、敵の大型触媒機を優先して攻撃するよう指示は出してある。多分大丈夫だ。
飛行船に攻撃を始めるよう、音魔法で合図を送る。
少し低い位置を飛んでいたので、飛行船にも指示が届いた。
飛行船は指示を受け、敵兵のいる位置まで飛んでいき爆撃を始めた。
「なるほどな……敵は攻撃に対して手も足も出せない……大型触媒機を一方的に破壊し、さらに上空からの攻撃で恐怖与え敵軍の統率を乱している……」
クランは高台にて、飛行船の活躍を見守っていた。かなり関心している様子だった。
しばらく経過し、飛行船の攻撃は終了する。
「まだまだ大きい船ではないので、攻撃できる数には限りはあるな……ただ、あれを量産して大量に出陣させられれば……戦には絶対に負けなくなるだろうな」
クランはそう呟いた。これだけ大勢の敵がいる戦では、一隻の飛行船では少し力不足である。
まあ、と言っても見る限り、敵軍の大型触媒機を20以上は破壊して、さらに敵兵の統率を大きく乱しているので、大きな戦果を上げたのは間違いない。
特に敵の統率を乱す効果は思ったより大きいようだ。攻撃を加えることができない相手に、一方的に攻撃されるというのは、心理的に恐怖心を強く与えるようだ。
兵士からすれば災害にあったようなものだろう。ひたすら怖くて、立ち向かう気にすらなれなくても不思議ではない。
飛行船は爆発の魔力水を補給するため、ソーカン砦へと帰還していった。
「敵軍の統率は乱れている! 今がチャンスだ! 突撃せよ!」
チャンス到来と見たクランは、すぐに全軍に指示を出した。雄叫びと共に大勢の兵士たちが、サイツ軍に向かって突撃を開始した。
その後、敵軍は総崩れになって優勢になる……というわけにはならなかった。
敵の大将であるサイツ総督アシュドが、自ら前線に立ち、パニックに陥った兵士たちを立ち直らせる。
前衛の兵士が立ち直り、激しい抵抗にあった。
ただ、それでも敵は大型触媒機の数を大きく減らしていたので、火力不足に陥っていた。ミーシアン軍が優勢なのは変わらない。
それを見ての判断か、サイツ軍は撤退を始めた。殿に強く抵抗されてしまい、追撃が遅れる。
クランはここで逃すのは面倒なことになると、深追いすることを指示するが、その指示が仇となる。敵軍は撤退と同時に魔法罠を張っており、それに引っかかり討ち取られる兵が続出した。
指揮をしている貴族たちにも、何人か被害が出てしまう。やむなくクランは追撃をやめさせた。飛行船で敵の大型触媒機を破壊したり、敵兵も多く討ち取ったが結果として痛みわけに終わった形だ。
敵の総大将であるアシュドがサイツ軍をすぐに立て直したのがだいぶ痛かった。さらに撤退の判断も早い。撤退しながら罠を張るのも、よほど軍隊を上手く統率していないと出来ない芸当だ。
直接会ってないので、鑑定は出来ていないが、恐らく相当統率力が高いのだと思う。厄介な相手だ。
「今回はいたずらに被害を出してしまったが……まあ、敵は撤退してこの場所を確保すことが出来た。結果は勝ちと言ってもいいだろう」
クランは険しい表情を浮かべながらそう言った。
目的は一応達成は出来ているので、負けではないのは間違いない。被害出たことは間違いないが、それでもミーシアン軍の規模を考えれえば、大きな問題はない。優勢なのは変わらなかった。
「やはり飛行船で敵を乱し、大型触媒機を破壊できたのが勝因だろう。大型触媒機を多く破壊できたことで、敵軍は早々に撤退するしか選択肢がなくなった。やはり飛行船は戦では非常に有用なもののようだな」
クランは飛行船の働きに関しては高く評価していた。
「今後の戦を見据えて、早めに増産を行う必要があるな。クアット城の攻略戦に決着がつき次第、増産を開始しよう」
「それがいいと思います」
クランの言葉にロビンソンが同意した。
一隻だと確かに今後の戦は心もとないので、複数用意した方がいいのは間違いない。
「工房はカナレにしかないため、しばらくはカナレで作る。アルス、金や資材はいくらでも融通するから、飛行船の増産を行なってくれ」
「かしこまりました」
クランの指示に私はすぐに返答した。
今後クランから飛行船作成費用をかなり貰えそうだな。
あくまで飛行船への投資については、今後の話なので具体的な話はせずに終わり、クアット城攻略の軍議が再開される。
恐らく敵軍は籠城はせず、野戦を挑んでくるだろう。飛行船相手に城に篭っていては、勝ち目はないとは分かっているはずだ。
野戦でも前の戦いでは、ミーシアン軍にも被害があったが、有利なのは間違いない。野戦になれば純粋に数の多いミーシアン軍は、相当優位に立てる。
罠には引っかからないように気をつけて進軍すること。戦術は前回と同じく、飛行船を有効活用して、敵の大型触媒機を爆撃して出来るだけ減らし、火力不足にさせる。
敵軍は兵の立て直しが早いので、それを加味して敵軍が混乱しているからと勇み足にならずに、慎重に攻める。
一度戦ったので、その反省を活かして戦術を考えた。
そして、進軍を開始したのだが、敵軍は予想外すぎる動きを見せた。
クアット城に少数の兵を残して、サイツ総督の率いる軍隊が撤退していったのである。
○
「撤退する」
アシュドは軍議を開きそう宣言した。
貴族たちは驚きを隠せないという表情を浮かべている。
「な、なぜです! 後退する羽目にはなりましたが、先ほどの戦では敵兵を大勢討ち取ったのに!」
「直接戦って分かったが、攻城戦では勝ち目はなく、野戦でもかなり不利になる。敵を壊滅状態に出来れば良かったが、流石にクラン・サレマキアも無能ではなかったということだ。次からは油断はせず慎重に攻めて来るだろう。正面からぶつかってもいたずらに兵を失うだけでメリットはない」
「し、しかし、クアット城は大事な城でありますぞ! ここを守れなかったら、サイツ州は……」
「どの道、陥落すると言っているのだ。それなら被害は少ない方がいい。兵まで失えばそれこそ一貫の終わりだ」
アシュドの言葉に反論できるものはいなかった。
「クアットをミーシアンが簡単に統治できないよう、密偵を忍ばせておく。クアットは人口が多いため、安定して統治できるようになるには時間がかかるだろう。ミーシアンはクアットの状況が不安定なうちはほかの郡に攻め込めないはずだ」
「時間を稼ぐことは可能ですね。その間に飛行船への対処法を何とか見つけるということですね」
軍師のラカンはアシュドの言いたいことを推察した。
「その通りだ。飛行船への対処法さえわかれば、反撃は出来る。それまで時間を稼げば確実に勝利は可能だ。ミーシアン軍は優位に立っているとこちらを侮っている。そういう連中を倒すのは得意中の得意だ」
アシュドはそう言い切った。
自信満々な表情と、強気な言葉を聞き、家臣たちは反論するどころかアシュドに同意し始めた。
(まあ、そんな方法があればだがな)
内心は勝ち目は薄いとは思っていた。
それからサイツ軍は、最低限の兵をクアット城に残し撤退を始めた。
○
敵の予想外の動きに、罠を警戒して慎重にシャドーなど密偵たちに調べさせたり、軍議を重ねたりした。
結果、クランはクアット城を攻め落とすと決断を下した。
チャンスなのは間違いないし、クアット城を落とせば、めちゃくちゃ有利になるのは間違いない。
敵兵が少なくなったので、包囲するか、飛行船を使って攻め落とすか話し合ったが、飛行船を使うことで決定した。
クアットは規模の大きな城郭都市である。包囲して陥とすのは結構難しい。
それに包囲してから、アシュドの軍隊が方針を変え、ミーシアン軍を強襲して来るかもしれない。
包囲している間、飛行船をずっとクアット城の上空に飛ばしているわけにもいかないので、ソーカン砦に置いていくだろう。そうなると、敵軍と飛行船なしで戦闘を行うことになるかもしれない。もっとも負けるとは言い切れないが、兵を大勢減らされて、撤退を余儀なくされる可能性は十分にあった。
飛行船を使いクアット城を攻略する場合は、敵兵も少なくなっているし、簡単に陥落させられるだろう。
方針が決定し早速進軍を行った。
クアット城まで誰にも邪魔をされずに進軍する。
いつも通り飛行船で攻撃。
今までの砦より城自体の規模は大きい。ただ、防壁は長くなっている分、強度はあまり強くないようで割と簡単に壊れた。天守の方は防御が硬く簡単には壊せなかった。
爆撃はなるべく防壁や魔法塔、天守を狙うように指示はしているが、精度が高くないので、たまに街中にもおちてしまったようだ。
一応、爆撃前に避難勧告は出してはいるが、飛行船は今まで使われてこなかった兵器なので、何なのか分からず逃げなかった民間人も多そうだ。
被害が出てなければいいのだが……
防壁、魔法塔を破壊したので、城に突入を行った。兵士が少なかったので、割と簡単に占領できた。
こうしてクアット城は予想より遥かに呆気なく陥落した。