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第286話 ソーカン砦攻略戦

 私たちはクアット郡への侵攻を開始した。

 最初にソーカン砦を目指した。

 飛行船はまだ飛ばしていない。砦に近づくか、敵兵が陣取っている場所に近づいたら飛ばすつもりだ。


 敵軍は野戦を行う可能性が高いと思っていたが、籠城して砦を守るようだ。

 砦を守る敵兵の数はかなり少ないようだ。

 大勢の兵をクアット城に残している。

 まるでソーカン砦を守る気がないかのようだ。

 重要な拠点なので、捨てるのは不味いはずなのだが、何か意図があるのか?


 予想しない行動だったので、一旦進軍を停止し緊急で軍議を行った。


「敵軍の意図は何だと思う?」

「ソーカン砦を囮に使っているのだと思います」


 私の質問にリーツが答えた。


「囮?」

「はい。ソーカン砦を囮にして、飛行船についての情報収集をしたいんだと思います。また、飛行船を動かさせることで破壊もしやすくなります。ソーカン砦は重要な拠点ですが、それでもクアット城の方が守る優先順位は高いですし、可能性はあるかと」

「なるほど……敵軍からしたら飛行船はかなりの脅威だろうし、破壊したいと思っているだろうな。破壊できなくても情報は欲しいだろう」


 リーツの説明に納得した。


「となると、飛行船は使わず攻略した方がいいのか?」

「それはそれで敵からしたら狙い通りかもしれません。飛行船なしで砦を陥とすとなると、いくら敵が少数とはいえ必死に抵抗されれば、陥落させるのに時間がかかってしまいます。敵軍はその時間で傭兵をさらに雇って兵を増やしたり、兵糧や魔力水を集めたり、クアット城の改修を行ったり色々なことを出来ますし」

「どっちを選んだとしたとしても敵軍に取ってはメリットがある作戦ということか」

「まあ、ソーカン砦を陥とされるのは痛いでしょうから、メリットがあるのかどうかは微妙ですが、敵軍からすると現状では最善の策かもしれません。下手に大軍でソーカン砦を守りに行って、大勢の兵を失ってしまったら敗北は必至ですから。サイツ側も、ルンド城が取り返されクラン様が大軍を率いて、サイツへ侵攻しようとしているという情報はつかんでいるでしょうからね」


 リーツは敵の作戦を高評価していた。


「俺も敵の意図はリーツ先生が言った通りだと思う。今後どうすべきかと言うと、飛行船は使わずに砦は攻略すべきだと思う。情報を与えるのは不味いし、飛行船を破壊されるのはもっと不味い」


 ロセルがどのようにして戦を進めるべきか意見を述べた。


「アタシは飛行船を使うべきだと思うねぇ。敵兵が少数って言っても、砦を攻めるのは結構面倒なもんさ。クランがここに来るまでにはソーカン砦を陥落させておいた方が良い」


 今度はミレーユが言った。

 プルレード砦には劣るのだが、ソーカン砦はそこそこ防御力の高い砦である。

 時間を稼がれても厄介なのは間違いないし、クランが来ると同時にすぐに攻め込めるよう砦を早めに陥としておいた方がいいかもしれない。


「で、でも壊されるの怖くないですか?」

「そんなの厳重に守れば良いだけじゃん。そうすれば簡単には壊せないよ」

「え、ええ……? いくら厳重に守っても、敵に有能な密偵がいればヤバいですよ。サイツ総督のアシュドが直接軍隊を率いて指示を出しているようですし、サイツ州内では最高の密偵が飛行船を破壊しに侵入してきますよ」

「いくら優秀たってファム達以上の奴はそうそういないよ。大丈夫大丈夫」


 ミレーユは楽観的だが、一回暗殺させられかけた私としては、ファム達がいるからといって100%安心できるとは思えなかった。シャドー達の裏を搔いてくる強力な密偵をまたサイツが雇うかもしれない。


「そんな有能な奴いたら、別に戦に使おうとしなくたって、忍び込んで破壊していくよ。そんなことになるくらいなら、使おうとして壊された方が良いと思うよ」

「い、いや〜、戦に出動させれば破壊されるリスクが高くなるのは間違い無いですよ。ソーカン砦に何かを仕掛けている可能性もあります。空に浮かんでいれば攻撃を喰らう心配はないですが、ずっと浮かんでいるわけにはいきませんし、ソーカン砦を陥とした後、砦に一旦着陸する必要がありますし、そのタイミングで発動されたらひとたまりもありません」

「仕掛けるって具体的に何を仕掛けるんだい?」

「魔法系の罠です」

「そんなの砦を陥としたあと、すぐに解除すれば良いじゃないか」

「簡単に発見できない罠があるかもしれないですし、解除できるとは限らないです」


 ロセルとミレーユは議論を行なっていた。

 個人的に砦は早めに攻略した方が良いと思う。あと、飛行船を使わないで攻めた場合は、思った以上に兵に犠牲が出るかもしれないので、あまりやりたくない。少数とは言え、砦の魔法塔などはあるだろうから、そこからの砲撃だけで結構死者が出かねない。

 飛行船に関しては多少情報を取られても多分敵は防げないと思う。


 破壊されるのは確かに不味い。ロセルの言葉通り、砦内に罠があるかもしれない。


 飛行船を使って砦を陥落させたら、乗組員の兵糧とかが尽きるので一旦砦に着陸しないといけない。その際、罠があれば破壊されてしまう。飛行船を使わない場合は砦には好きなタイミングで移動できるので、事前に罠があるかどうかを調べてから移動すれば問題は起きないだろう。


 まあ、そもそも飛行船を破壊する罠なんて設置できるのか疑問だけど。


「罠というと具体的にどんな罠がありそうかな?」


 リーツがロセルに質問した。


「うーん、そうだね。魔法の使える間者を隠し部屋に忍ばせておいて、陥落したあとこちらの兵士に偽装して忍び込み、炎魔法で燃やすとか? 爆発系の罠は爆発の魔力水の取れないサイツでは仕掛けられなさそうだし……」

「あり得そうだね。援軍もいるから自軍の兵士の顔を全て把握は流石にしてないから、潜り込むことは可能だ。ただまあ、身辺警備を徹底すれば防げるとは思うけど。炎魔法が仮に当たっても、すぐに火を消せば飛行船もそうダメージは受けないだろうからすぐに直せるだろうし」

「私が力を使って、その場の兵士が敵かどうか見るという手もあるぞ」

「そ、そんな危険な真似はさせられません!」


 案を出したら即座にリーツに却下された。

 敵兵が忍び込んでいるかもしれない場所に行くのは、確かに危険だな。バレた瞬間私を殺すため襲いかかってくるかもしれないし。

 そもそも、前回鑑定スキルを使った際、ステータス偽装をされて痛い目に遭ったからな。

 サイツはステータスを偽装する方法を知っている可能性があるので、鑑定結果は信じられない。あんまり使うべきではないかもしれない。


 その後、話し合いを続け、結果飛行船を使うことを決定した。やはり砦攻めで被害が出るのは避けなければならない。

 飛行船は十分に防御すれば、破壊まではされないだろう。

 情報に関しては知られても構わない。完璧に対策するのは不可能だろう。飛行船が浮かんでいるところを見ただけで、飛行船を作るのも不可能だろうし。


 ソーカン砦を速攻で陥とした後は、クアット城を攻める準備をしながらクランの到着を待つ。そんな流れになるだろう。


 軍議を終え、私たちは進軍を再開した。


 一日経過。

 今頃、飛行船が砦から飛び立っただろう。今回も操縦するのはシンだ。正規兵ではないので、ここまで付き合わせて非常に申し訳ないのだが、飛行船の力を証明するためと操縦するのを率い受けてくれた。一回だけではまぐれかもしれないし、二回目も戦果が欲しいのだろう。

 あと、実際に飛行船を動かして見て、データも取りたいようである。実際に動かして見ないと分からないことも多いようで、普段は風の魔力水が貴重なので中々動かせないが、今回戦をするということで結構な量の風の魔力水を貰ったのでデータを取るには大チャンスのようだ。


 魔法を使うのは今回もシャーロットだ。

 あと、今回は地上からも魔法攻撃を行う。

 ロセルの話では、砦に備わっている魔法防壁は割と簡単にどこの魔法防壁を頑丈にするかを決められるらしい。なので上空からの攻撃に備えて、上の防壁を硬くしてくる可能性が高いということだ。

 ただ、上の防壁を硬くすると、その分別の場所が脆くなってしまうらしい。別の場所の強度を保ったまま、上の防壁を硬くするには魔法防壁発生装置を改良しないと難しいので、短期間では出来ないようだ。


 要するに正面か側面あたりの防御が薄くなっているかもしれないので、地上からも攻撃を加える。爆発の魔力水はクランが大量に輸送してきたので、あまり残りを気にせず使える。

 あんまり爆破しすぎて、砦を完全に破壊してしまうと不味いので、その辺は考慮しつつ攻撃はしたい。


 ソーカン砦の付近に到着する。

 しばらくして、飛行船も到着した。プルレード砦を陥とした時と同じ方法で攻撃を行う。

 確かに前回より、魔法防壁を破壊するのに手間取っていた。しかし、結局破壊に成功。その後、魔法塔を複数破壊し防壁にも被害を与えていた。そこで攻撃は終了する。爆発の魔力水がなくなったようだ。

 防壁の被害はそこまで大きくなかったので、まだ進入はできない。そこで持ってきた大型触媒機で爆発魔法を砦の側面に向けて撃つ。魔法を使うのはムーシャだ。敵の魔法塔は破壊したので強力な魔法は来ない。矢は降ってくるが敵兵が少ないので、盾で防ぐ。

 ムーシャは強力な一撃で側面の魔法防壁を破壊。


 それを見て砦に突入の指示を出した。


 敵兵は少ないので、進入されたらひとたまりもない。

 あっさりと制圧する。プルレード砦の制圧もすぐに終わったが、今回はそれより早く終了した。敵兵がそれだけ少なかったのだろう。

 その後、シャドーの力も借りて、隠し部屋がないか砦の中をしらみつぶしに探した。

 何部屋か隠し扉を発見し、実際中に敵兵がいたりもしたようで、捕らえたようだ。作戦を吐かせようとミレーユが拷問を行ったようだが、情報を吐くことはなかったようだ。最後どうしたかは怖かったので聞けなかった。


 隠し部屋は複数あり、誰もいない部屋もあったので、すでに外に出ている可能性が高い。

 怪しい人物がいた場合は報告するよう、兵士たち全員に指示を送った。


 報告があった人物は徹底して身体検査を行う。今のところ黒な人物はいないが、一応報告にあった人物は牢に閉じ込めている。白だったら可哀想だが、一応必要な措置である。


 飛行船の着陸を行なった際に、遠くから火矢が飛んできて一度船の側面に当てられたが、すぐに水をかけて消火し事なきを得た。腕の良い弓士がいたようだ。やはり離着陸の際は射程圏内に入る上に、防壁などで守られていない場所に出る必要があるので、攻撃を当てられるリスクがある。魔法攻撃はそこまで射程がないので着陸地点付近に敵がいないのなら、攻撃される心配はないが、弓に関しては腕の良い者が撃ってくると、相当遠くまで届くことがあるので、狙撃されてしまう。


 まあ、そんなに腕の良い者はそうはいない。

 火矢が雨のように降り注いでくるということはない。せいぜい今回のように一本当たるかどうかだ。それで飛行船を焼き払うことは不可能である。


 ヒヤッとしたが無事着陸した。

 飛行船の警護をシャドーとブラッハム隊に任せて、限られた人間しか近づけないよう厳重に警備を行った。


 無事ソーカン砦を陥落させることに成功。

 砦を修復しつつ、クランの到着を一旦待つことにした。



 数日後。

 クランからの書状が届いた。

 ソーカン砦をよく陥としたという労いの言葉と、プルレード郡に到着したので、こちらももうすぐ着くとのことだ。

 書状が届くまでもちろん時間がかかるので、これが届いてからクランがソーカン砦に来るまで、そう時間はかからないだろう。


 そう思っていた二日後。

 クランがソーカン砦に到着した。


「久しぶりだなアルス!」


 だいぶ元気そうな様子でクランは挨拶をしてきた。私は跪き挨拶をする。


「お久しぶりです、クラン様」

「独立宣言をした日以来か。あれからお主が倒れたと聞いて、肝を冷やしたぞ。あれから体調はどうだ?」

「今は絶好調です。ご心配をおかけして申し訳ありません」

「謝る必要などない。悪いのはサイツ州なのだからな」


 クランはサイツがやったことと確信しているみたいだった。一応、事の顛末を報告した際は、私を暗殺しようとしたのはサイツ州の可能性が高いが証拠はない、とは報告した。まあ、誰がどう見てもサイツが怪しいからな。


「ところで砦の攻略に飛行船を用いたそうだな。良かったら見せてくれないか?」

「かしこまりました」


 私はクランを飛行船を置いている場所へと案内した。


「おお、これが! 本当に飛ぶのか?」

「はい」


 だいぶテンションを上げているクランの質問を聞き、私は頷いた。


「見せてもらうことは可能か?」

「離着陸するのは少々危険な状況でして……」


 火矢で狙われていたことを話す。


「なるほど、それなら戦に行く際以外には飛ばさない方が良さそうだな。代わりに詳しい性能を説明してくれ」

「承知しました。それでしたら、私より適任者がおります」


 私はそういって、シンを呼んできた。


「彼はシン・セイマーロ。飛行船の開発者です」

「おお、彼が飛行船を開発したのか」

「え、えーと、こ、こんにちは~」


 シンはおっかなびっくりという様子で挨拶をした。彼はクランにはあったことがないので、何者かはわかっていないようだが、私のクランへの態度と、クランの身なりからかなり身分が上の者であるということを察しているようだった。


 その後、シンが耳元で「だ、誰でしたっけ?」と囁いてきたので、ミーシアン国王クランだということを説明する。


「ク、クラン様でしたか! よ、よろしくお願いします!」


 クランの正体を知ると、シンは一気に緊張した面持ちになりそう言った。


 辿々しい様子で飛行船の性能を説明し始めた。


「なるほど……それは確かに脅威だな……一方的に空から攻撃できるのか……プルレード攻略戦とソーカン砦攻略戦で大戦果を上げたのは船に乗っている魔法兵がシャーロットというところも大きいだろう。彼女はミーシアン最高の魔法兵だからな。ただ、ほかの魔法兵が乗っても、有用なのは間違いない」


 クランは感心したような表情を浮かべた。


「クラン様、飛行船について今後たくさん作れば戦で優位になります。また、戦以外でも様々な用途で活躍できると思います。まだこの飛行船は進化の余地が大いにありますので、宜しければシンに飛行船の開発費用を投資していただきたいと思っています」

「投資か。これは大金をかけるだけの価値のあるものだな。前向きに考えよう。ただ、この飛行船は将来的にはミーシアン全土で作れるようにしたい。今後、ミーシアン中の技術者をカナレに集めるので、彼らに作り方を教えてやって欲しい」

「だ、大丈夫ですよ!」


 シンは頷いた。

 これでミーシアン中で飛行船が作られ出したら、世界がだいぶ変わるな。


「よし、具体的な投資額は戦が終わってから話そう」

「あ、ありがとうございます!」


 シンは終始緊張していたようだが、クランとの話は上手くいきそうだ。クランの事だし、大量に投資してくれるだろう。


「飛行船があればこの戦。勝てるぞ。早速軍議を行う」


 クランはそう言って、家臣たちを集めて軍議を開いた。


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― 新着の感想 ―
シンに影武者を立てるべきではと考えたが飛行船技術者がすぐ増えるなら不要か
更新ありがとうございます! お~、いよいよ飛行船時代に突入ですか。楽しみになってきましたねー。
トーチャープリンセス:ミレーユw
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