悪虐非道の王女の最後
設定としては
主人公:17歳
義弟:16歳
背景としては、主人公の父親が自分の父親を殺害して王位を強奪。第一皇太子だった義弟の両親を離宮に隔離していたものの、義弟が5歳のときに彼らが反乱を企てて処刑される。義弟は反政府派への牽制を兼ねて王の養子という扱いになる。ただ、王妃が彼を嫌っていたため、幼いうちに騎士団所属として各地に出されていた。そこで力をつけて、反乱を起こす。
という感じです。
---誤字脱字報告ありがとうございます。
親愛なる弟へ
お元気ですか。私に聞く資格はないかもしれませんが。それでも体は大切にして下さいね。きちんと睡眠をとって、好き嫌いをせずに食事をして下さい。さて、この手紙は読み終わったら燃えてしまうから気をつけてね。お姉ちゃんとしてはこんな手紙で貴方に変な疑いが掛かるのは避けたいもの。勉強も剣も魔法も人付き合いも得意な自慢の弟。賢い貴方も気づいていたでしょう。いつかこうしなければならなかったということくらい。だからこの手紙は優しい貴方を赦すための手紙なの。私は貴方を恨んでないわ。だから貴方が私たち家族を恨みなさい。きっと優しい貴方は苦しむでしょう。その苦しみは私が背負うべきものだから貴方が苦しむ必要はないのよ。貴方は貴方の幸せを、将来を考えて生きなさい。
貴方の自由を私は自分勝手な理由で奪ってしまったわ。本当はね、後悔しているの。けれど過去に戻れたとしても同じ事を何度でも私は繰り返す。だって私達はその為の王女と王子なんだから。私ね、貴方のその小さい肩に重いものを乗っけてしまうひどい姉だわ。だけど、貴方なら出来ると思うの。だって私の自慢の弟で、私たち家族の誰にも似なかった心優しい子なのだもの。貴方はヒーローになりなさい。私達悪虐非道な行いをする王家から国を国民を救った救世主よ。貴方はそれを望まないかもしれないわ。人間の汚いところも知っているから。けれど、この荒んでしまった国には一点の陰りもないヒーローが必要なの。素敵な物語に出てくるヒーロー。貴方ならなれるわ。貴方、小さい頃憧れていたでしょう。知っているのよ。お姉ちゃん。
少し話がずれてしまったわ。これからの事を真面目に話すとね、各国に根回しは済んでいるの。ただ持って二年だと思っておいてね。それまでに国を治めないと痺れを切らした他国に乗っ取られちゃうから。別口に書類は纏めてあるから、資料庫から見つけてね。大丈夫、お姉ちゃんが関わっていることは漏れてないから。国内で問題になる様な貴族は多いけれど、それもリストアップしておいたわ。そっちは弱みとか色々書いてあるから人に見られないようにね。王が貴方に変われば貴方に忠誠を誓ってくれる貴族も多いと思うの。特に若い貴族と隠居した方々。ある程度は交渉しやすくしてあるけれど、仲間は大切にしないとダメよ。軍部は貴方がいるから大丈夫ね。父様にバレない様に人事とか結構頑張ったんだから、褒めてよ。お金の事だけれど、これが一番厳しいと思うわ。王族とか貴族の無駄遣いと誤魔化しが酷いから、本物の帳簿は酒場の店主に預けてあるわ。お店の名前は私の名前よ。店名が変わる前に行かないと分からなくなっちゃうから急いでね。暫くは節約しないといけないけれど、無駄遣いする人がいなくなったのだから、国が傾く程では無いと思うわ。節約とは行ったけれど、決して福祉の方面の予算は削らないでね。そうだ、裏でいくつかやっていたそれ関係の事もいい加減に表に出さないと行けないわ。そちらは基盤も人材も揃っているから貴方の都合がいいときにしてね。人材のことだけれども、お父様から庇いきれなかった方々も貴方が保護していたって事で戻してあげてね。優秀な方々だもの。勿論生活がある方には決して無理強いしては駄目よ。
貴方にも言われていたけれど伯父様の子どもの貴方を弟と呼ぶのは可笑しなことかもしれないわ。けれど、私は貴方を本当の弟の様に思っているの。こんなのが姉だなんて迷惑だと思うと思うけれどね。愛おしくて仕方ないわ。貴方がいたから私はここまで頑張れた。本当にありがとう。苦労ばかりかけてしまってごめんなさい。心から謝罪を。色々考えたけれどこれが一番良いと思うの。私達家族が居なくなれば、貴方という正しい王家の形に戻る。悪虐で我儘な王女を大衆の前に引きずり出す方が良いのかもしれないけれどそれは流石にお姉ちゃんも考えるものがあってね。だからこんな形でごめんなさい。
そうだ国が落ち着いたら隣国の学園に留学するのも楽しいかもよ。いい出会いがあると思うわ。同世代から引き離しちゃった事はやっぱり心残りだもの。学ぶことは無いかもしれないけれど、大人のドロドロとした付き合いとは違ったものが得られると思うの。
愛を込めて。リリー
私は書いた手紙を卓に置いて部屋の中央に置いた椅子の上に立った。王妃が見たらはしたないと言うだろうが彼女はもう居ないからいいだろう。一応親子であるがそんな情はとっくの昔に無くなった。鞭を振るう母に呪いをかけてくる父、親と見られなくなっても仕方がない。立っているのも億劫だけれどこれだけは怠けるわけにはいかない。毒杯片手に魔法陣の中心にある椅子に立ち天井から吊るされた縄に首を通す。なんと滑稽な姿であろうか。幸いにしてこれが人の目に晒されるのは私が死んだ後だろうから私への心のダメージは少ない、筈だ。
「誰が見つけるのかなぁ」誰でもいいが弟だったら嬉しい。ただ不確定要素を考えても仕方がない。「まぁ、新しい未来と弟の幸せを願って。乾杯」
ああ、やっと、死ねる。おやすみなさい。
「勝手に死なないで下さい。姉上」飲みかけた時いきなり誰かが叫んだ。驚いて盃を落とさなかった私を褒めて欲しい。時間的にまだ大広間に居ると思ったが。
「あら、可愛い弟じゃないの。どうしたの、入ってきたら危ないから外で待ってて下さいな」「その前に姉上はその椅子から降りて手に持っている物騒なものを離して下さい。」「なにお姉ちゃんにも広間に出てって欲しいの?それは無理よ。ごめんなさいね」「お前の姉さん何か誤解してないか」あら、お連れさんも居たのかしら。恥ずかしいわ。こんな格好。さっさと終わらせないと。「姉上。やっと国が変わろうとしているのです。一緒にいきましょう」「貴方が誤解しているわ。そこに私という古い物は不必要なの。」「姉上が居ないと僕は」「あらあら。お姉ちゃんてっきり嫌われていると思っていたのだけれど」「知っていますよ。姉上が誰よりも優しいことくらい。この国の誰もが知っていますから。だからどうか早まらないで下さい」「国民は私達を許さないと思うわ。それにね、お姉ちゃんそろそろ限界なの」事実、踏ん張ってはいるけれど、立っているのがやっとなこの足は震え出していた。「足だってもう限界。貴方の可愛らしい顔だってもうよく見えてないもの」魔法で何とか見えているようにみせていただけ。それを解除した今、持っている盃だって歪に、二重に見えている。「味覚だってもう無い。感触も、匂いだって怪しいわ。動かせば足も手も痛い。そろそろ、楽になりたいの。許して。可愛い弟」「なら、賭けをしましょう。貴方はその盃を飲む。貴方が死んでしまったら僕の負けです。ただ貴方が生き残ったら、生きてください」勿論この魔法陣は発動する前に壊しますけど。と弟は言いました。「受けて立ちますよ」
微睡みから、目を覚ますと弟がいた。「おはようございます。姉上はだいぶお寝坊さんでしたね。」どれくらい寝ていたのかしらと尋ねると一年ですと彼は泣きながら私に微笑んだ。
「大好きですリリー。ずっと小さい頃からこれからも。ずっと好きです。」