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なつまつり

作者: モナてる

どうも〜。三日で書き上げるつもりが五日ほどかかり、二千字で終わらせるつもりが10,000字になってたよねあはは。

え?聞いてない?


あ、今更ながらこちらぼくのDX3rdオリジナルシナリオ『Dancing in the Shadow』2卓目の3年後ぐらいを妄想して書いたものです。

こうだったらいいなって思いながら描いたやつです。

ネタバレも少々あり、卓外の方からしたらナンノコッチャってのもあり...まぁそんな感じです。

関係者から怒られたら消しますので悪しからず。

では、しばしのお付き合い

「ほら、累っち!!ナツキっち!!お祭り!!お祭りっす!!」

少年はかけていく。

「あっ!!ちょっとふりた!!前の紐解けてはだけてる!!!」

もう一人の少年は彼を追いかけ

「おい累。お前も尻尾出てるぞ。」

と残り一人の浴衣姿の少年が二人の襟首を掴み連れ戻す。


今日は夏休みも中盤の8月15日。街は夕焼けに落ち、その服を赤へと変えていく。

いつもより騒がしい蝉時雨に彩られながら、少年たちの声は喧騒に紛れて響いた。


「ほら、ふりたも累もこっちこい。これで…よし、っと。硬く結んだからもう大丈夫だろ。」

そう言い二人の甚平の紐を直す。

「ありがとうっすナツキっち!!でも俺、そっちの浴衣着たかったっす。」

「バカ言え。お前と累が着たらすぐパンイチになるわ。」

「なんで僕もさ!!!僕は大丈夫だよ!!!」

「ははは、ムキになるなって。本当のことだろ?」

「むぅ。」

少年は頬を膨らます。

それを見て大人びた少年は声を上げて笑った。


三人の少年、『家中 ふりた』『伊香鎚 累』『相沢 夏樹』は今日催されている一年に一回のイベント、《有栖川神社祭》のために夏樹の家に集合し、和服の着付けを行っていた。

主に和服は夏樹の所有物。それを二人に貸し与えるために集まったのだ。


「そもそも、そもそも、だがな?累、ふりた。お前ら二人が夏季テストにしくじって補講受けてなかったらこんな遅い時間になることもなくて時間かけて浴衣でもなんでも着れたんだぞ?」

「うっ…」

「大丈夫っす!!俺ずっと寝てたから遅くても元気いっぱいっす!!!」

「そういうことじゃねぇ!!!」


夏樹の魂の叫びは虚しく空を木霊した。


-------------------------


「ところで累、風香と歩はなんだって?」

神社へと続く道を歩きながら夏樹が尋ねる。

「あー、あいつら二人で行くって。ほら、二人付き合ってから初めての夏祭りだし。というか歩のあんなそわそわした姿みたら誘えないって。」

累は首をすくめながら答える。

「確かにな。いやぁあっちで会ったら茶化してやろうぜ。」

かっかっかと口を開けて笑う夏樹。

「あ、そうそう。ナツの方はどうだったのさ。累兎はなんかあるの?」

「あいつは支部で仕事があるんだと。まぁ十中八九支部長が支部ほったらかしにして絵描きにどっかの国行って三ヶ月帰ってきてないから仕事あいつが片づけてるんだろ。」

「あー…、確かに…。涼さんも違う支部なのにこの間死にそうな顔してアトリエから出て行ってたし、ありえるね。」

力なく笑う。

「累っち!!ナツキっち!!遅いっすよ!!なにやってるんすか夏祭りっすよ!夏祭り!!!」

なっつまつりっ!なっつまつりっ!と鼻歌交じりに走るふりた。その姿は祭りへと向かう人ごみに紛れつつあった。


そんなふりたを駆け足で追いかけつつ、

「あ!!ちょっとふりた!!!勝手に進むと迷子になるしそっち道違う!!!…ったくもう…ふりた高校入っても落ち着きないんだから…!」

「って累!!お前もはぐれるな!!おいっ、おいいい!!!」

と少年たちは道を大きく外れ駆けていく。

もうすぐ夜が訪れる。

蝉たちもいつの間にか鳴くのをやめていた。


-------------------------


祭り会場への道の端に、三人の少年たちは佇んでいた。

祭り会場に向かう人たちの視線など気がつきもせず。

「…んでそれで?何か俺に言うことは?」

「っ!!い、いやね?ふりたがね?猫追っかけ始めてね?それでふりた捕まえたけど猫が…ねこがっ!!」

「だまらっしゃい!!そもそも猫追っかけて裏路地入った挙句先に猫と戯れ始めたのお前だろ!!それに『ふりた!!なんだかこっちの方が近い気がする!!』って言って全く別の方向に進んでいったの誰だよ!!!」

正座するアホ二人、その眼前に仁王立ちの修羅。

「うぅ…返す言葉もなく…。」

「まぁまぁナツキっち。そんな累っちを怒らないでくださいっす。カルシウム足りてないんすか?牛乳あるっすよ、牛乳。飲むっすか?」

懐から牛乳を取り出し差し出すふりた。刹那、咆哮。

「あがあああああああああああああ!!!!!いらんわ!!!!しかも何日前のだそれ!!!」

「三週間ぐらい前のっす。」

ゲンコツが二人に飛ぶ。その拳は少年に大きなたんこぶを作る。

「いたっ!!なんで僕まで!!!」

「あははは、累っち。お揃いっすね!!」

「なんでふりたは嬉しそうなんだよ!!うぅ。」

「はぁ。涼さんに見つけてもらえたから良かったものの、もう夜じゃねぇか!!」

「涼さんすんごい哀れみの目を向けてたね。」

「誰のせいだ!!!ったく、祭り楽しみつつ花火いい席で見る計画が…。」

「ほら二人とも!!神社すぐそこだし早く早くっす!!」


「「おまえは先に行くなあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」


-------------------------


神社の敷地内には年に一度の祭りとあって町内全域から人が集まっていた。

すれ違う人々は皆思い思いにそれを楽しんでいた。


「ぜぇ…ぜぇ…ふりたのやつどこいった。」

夏樹は肩で息をしながらあたりを見渡す。

「はぁ…はぁ…。あっ、あれじゃないかな!!あのお面頭につけたでかいの!!って光ってないあれ!?」

煌々と物理的に輝く少年は、二人の方を見るとフランクフルトを咥え大量の金魚を持ったふりたが右腕をブンブンと振り回す。

「やっほー!!累っちナツキっち遅いっすよ!!二人の分の綿あめとお面、買っといたっすよ!!」

「ダメだってふりた!!こんな人混みで光ってちゃ…」

だが人々が織り成す喧騒は少しも止むことはなかった。

「…?なんとかなって、る?」

「どうしたっすか累っち?そんな慌てて。」

遅れて夏樹が到着する。

「…どうやらバレてはない、か?とりあえずふりた、その発光をやめれ。」

ふりたに纏わりついていた光は徐々に光度を落としていく。

「ってかほんっとふりた勝手にどっか行かないでよ!!そしてなんで光ってたの!!」

「気がついたらふたりともはぐれてたから見つけやすいように光ったっす!!」

「外で能力使っちゃダメって言われてたよね!?ねぇ!!?」

「累、無駄だ。こいつゼッテェ分かってねぇ。」

頭に疑問符を浮かべながら笑ういつものふりた。夏樹は累の肩に手を置き、諦めろと言わんばかりに首を横に振る。

「ほんとにふりたは、ふりたは…!!」

「そんなことより二人ともこっちっす!!誰もいない場所見つけたっす!!」

二人の袖を引っ張りながら花火っす花火っすと鼻歌まじりに進む。

「おととと。ふりたそんなに引っ張るなって。こけるこける。」

「ねぇふりた今僕の本気の説教を『そんなこと』って言った!?!?ふりた!?ふりたぁ!?」


三人の少年は思い思いのことを口にしながら人混みの中を進んでいく。

神社の本殿へと続く道を。


-------------------------


「ほらここっす!!誰もいないんスよここ!!」

階段を登り、ふりたが連れてきたのは神社の境内。祭りの会場より高い位置にあるため人で賑わっていると思われたその絶景ポイントは、閑散としており文字通り彼ら以外には人っ子一人いなかった。

「おー本当だ。ここ混むと思ってたけど異常なまでに空いてるな。」

りんご飴を齧りながら夏樹が感心したように言う。

「ったくもう。ふりたには本当振り回されっぱなしだよ…。」

そういう彼も綿あめを頬張り甘さに顔を緩める。

「累、その顔で言っても説得力ないぞ。」

夏樹はやれやれと肩をすくめる。

「それにしても絶景ポイントだな。静かだし。しかもちょうど真正面じゃないか?花火見えるの。」

「そうだねぇ。…まぁ今回はふりたの暴走に感謝するか。で、ふりたはどうしてここを?」

花火〜花火〜とはしゃぎ回るふりたに累は問う。

くるくると回るのをやめ、彼は無垢な瞳で笑いながら答える。


「だってミツキっちとも花火見る約束したじゃないっすか。」


予想外の返答に二人は息を飲む。

少しの静寂。

水を打ったように静まり返った空間に最初に声を放ったのは夏樹だった。

「そうだな。永見とも一緒に花火見る約束だったしな。それにここなら確かにあいつも観れるだろ。少し早いけど同窓会といこうや。」

その言葉に、累は少し寂しそうな笑みを浮かべて答える。

「…うん。きっと一緒に観れるよね。そうと決まればほら!二人とも準備準備!!もうそろそろ始まるよ!!」

累が二人を急かす。レジャーシートを取り出しそこに腰を落とす。

周りには誰もいない。絶好のポイント。

三人は思い思いに露店で買った菓子やラムネを口にし笑い始める。


突如、尾を引く光が闇夜のキャンバスに色を落とす。

ヒューという独特の風切り音を伴い上昇し、一気に弾ける。


破裂音とともに姿を現した彩り豊かな花。それは大きな、とても大きな光の花弁。


「わぁすごいね二人とも!!ど真ん中に上がってるし!!綺麗だし!!でかいし!!」

興奮した様子で累が叫ぶ。

「落ち着け累。わかったわかったから…。それにしても綺麗だな。」

「花火っす!!でかいっす!!!たまやぁ〜〜〜〜っす!!!!」

そう言うとふりたは立ち上がり光る風船を飛ばし始める。

その風船は弾け、中から小さな光の粒が溢れ出す。

「ふりた暴れると危ないしこんなとこで能力使っちゃ…、まぁいいか、誰もいないし…。」

隣に座る夏樹を見ると物思いげに花火と光の織り成す幻惑の空間を見つめている。

その口の端にはうっすらと優しげな笑みが見える。

「綺麗だね。きっとミケも永見もここでこの光景見てるよね。」

「そうじゃなぁ小童。確かに綺麗じゃ。こんなに美しいもの、何百年ぶりかの?」

「あははは、何百年て。そんな長生きしてるわけじゃあるまい…し…?」

「いやぁ何百年ぶりじゃて。長生きもしてみるものじゃの。それにしてもワシからの『ぷれぜんと』は気に入ったか?童ども。少し頑張ったんだからな、ワシ。」

「え…?あえ?え、ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!????????」

その叫びと同時に、ひときわ大きな花火が夜空に咲いた。


-------------------------


「ど、どうした累!?何かあったか!?」

友人の突如の奇行に夏樹が驚きを顔にする。

「み、みみみみみみみみミケが…ミケが!!!!!」

「ミケ?猫か何かでもいたのか!?」

「違うよ違う!!ほらここに!!」

累はミケ、そう呼ばれる神様がいる空間を指差す。

「…?何も見えないぞ?大丈夫か?暑さにやられたか?」

夏樹は累を本気で心配をする。

「はっはっは。こやつ、まだワシの姿が見えんのか。信心が足りないのォ。どれ、顔に『肉』とでも…。」

そう言ってミケは油性マーカーを取り出す。

「やめてミケ!!これ以上精神に負担かけないで!!追いついてないから!!」

袖を掴み引き留める。

そうすると目の前で風船を飛ばしていたふりたが戻って来る。

彼はミケを見つけ笑顔で駆け寄る。

「おぉ〜ミケっち!!お久しぶりっす!!!」

「おお、小童。元気にしておったか?」

そのやりとりを目撃した夏樹は訝しげな目をしたまま累に尋ねる。

「ミケってあれか?あの一件の時お前らに取り付いてたっていう、レネゲイドの塊か?」

問いに累は目を伏して気まずそうに笑い、答える。

「あぁ…、うん。そのレネゲイドの集合体、でいいのかな?それにしたってミケ!!なんで急に現れたのさ!!びっくりしたしそれに心配してたんだよ!?」

そう言われたミケはふりたと戯れていた手を止め、累の方に振り返りしたり顔で

「だってワシここの神様だもの。最近ようやっと力が回復してきての。以前ほどではないが、こうやって昔の依り代の姿で現界することができるぐらいにはなったわ。」

と言い放つ。

累はプルプルと震え始め、そして声を大に発する。

「ミケのばかぁ!!!どんだけ心配したと思ってるんだよ!!!!連絡ぐらいよこせよ!!!バカ!!バカ猫!!!バカぁ!!!!!」

それを聞くとミケは一瞬驚いた顔をして、そしてかっかっかと優しい笑みを浮かべた。

「曲がりなりにも神であるワシをバカにし、剰え心配だと?小童め、言うようになったではないか。ただ今日は祭りの席じゃ。無礼講じゃ無礼講。その不敬も許してしんぜよう。」

「うるさいうるさい!バカ!!バカ!!!」

ミケを叩き始める累。それを見たふりたは

「これこれ累っちの愛情表現なんすんね!!俺にもやっていいっすよ!!」

「愛情表現じゃないしなんでふりたはそんなに早く受け入れられるのさ!!!」

「これが度量の違いってやつっすかね?」

「このタイミングでふりたらしからぬ難しい言葉使ってんじゃないよ!!」


突如、その奇怪なやりとりを傍から見ていた夏樹が二人を制す。

「あー…俺には見えていないが、そこにミケ?がいるんだな?ところで神様よ、おそらく俺の声は聞こえているであろうから話すが、お前何しにここに?まさかただ単に二人に会うためだけに姿見せたわけじゃないよな?」

それを聞くとミケはニッと笑う。

「ほう、なかなか聡明ではないかこっちの小童は。…そうじゃな、おんしらに『ひんと』をやろう。小童共、おんしらはワシの本分覚えているか?」

その言葉が聞こえている二人は一様に首をかしげる。

そして些かの時間の後に

まずは累が

「人さらい?」

そしてふりたが

「猫っす!!!」

と答える。

「たわけ!!!!!」

まさに神速。電光石火のようなツッコミがミケの口から発せられる。

「…はあ、無礼じゃぞきさんら。不敬ものどもめ。ワシの能力の本分は『人の願いを叶えること』…力を望んだ者のな。おんしらにも渡したろうに…。助けた恩を忘れよって…。」

ぶつぶつと地面に『の』の字を書きながら拗ねる神様。


「ごめん、ごめんてミケ。忘れてないから…!!」

累がミケの肩に手を当てる。

「そんなことより、ミケっち何しにきたんすか?」

「おい小童、今ワシの本分を『そんなこと』呼ばわりしたか?」

「気のせい!!気のせいだから!!!」

累が勢いよくミケをなだめる。


しばしの静寂。なだめられて落ち着いたミケが仕切り直す。

「…まぁよい。あの件から三年が経ってワシの力もこうやって現界できるほどに回復した。そして今日は年に一度の『祀り』の日。ワシへの祈祷がなされワシが一年で最も大きく力のふるえる日。」

そしてミケは言葉を続ける。

「…ワシは力を与える神じゃ。ぬしらには世話になった。なんだその…約束、したんだろ?」

くいっとミケが親指で後ろを指す。


「ミケ何言って…え?」


先に気がついていたであろう夏樹は顔を強張らせ硬直している。


「まさか…」


一際大きい花火が夜空を一層明るく照らし出し、やがて残響は静寂に溶ける。



「これが花火か。綺麗だなぁ。産まれてから今まで見た中で、一番。久しぶり、かな?相変わらず元気そうだね、ふりた。背、伸びた?累。私抜かれちゃったなぁ。そんな幽霊でも見るような顔しないでよ、夏樹。...約束、やっと叶ったよ。」


-------------------------


「涼さんは今日はありがとう。あとは俺一人でやっとくから。」


鎖状瓦累兎はいなくなった支部長の代わりに仕事を行っていた。しかしあまりにも膨大な量のため3年前任務で一緒になった川澄涼に手伝ってもらっていた。


「そう?累兎さんもキリのいいところで上がられては?」

「大丈夫。あと少しだし、これやれば終わりだから。」


というやりとりが数時間前。

「そう言われて追い出されたけど、今日やることなかったんだよなぁ。」


帰路を進む。その際浴衣姿の人々を多く見かける。耳をすますと遠くで祭囃子が聞こえた。


そうか今日は祭りか。そんなことを考えながら歩いていると、聞き覚えのある声が響いた。


「ふりた!こっちの方がなんか近い気がする!!!」

「そうっすね!!さすが累っちっす!!」

「お前らちょっと待たんかあああああああああああ!!!!」



あの3人も変わらないな。ちゃんと最後にあったのは入学式だから一年前だっけ?


「…いいなぁ。」


意図せず声が漏れる。

自分の口をついて出た言葉に思わず驚き、そして何故だか可笑しくてたまらず笑ってしまった。


日常なんて、自分から一番遠い存在だと心に決めていたのだが、彼らを見ているとどうやら両方を叶えることも不可能じゃないのでは、と思ってしまう。

だめだ、だめだ。決意が揺らいでしまったら、『あいつ』に顔向けができない。

きっ、と顔を引き締める。


…気がつくとあたりは人々で埋め尽くされていた。

喧騒、屋台連が織り成す祭り独特の匂い、心地の良い和楽器の音色。それらに誘われ足が自然とこっちを向いてしまったのか。


祭りか。そういえば来たことがないな。

少し立ち止まり考える。

幸いにも今日の仕事はもうない。

そして不幸なことに、今は逸る自分の心を抑えるすべがない。

「…今日ぐらいはいいよね。いつも仕事頑張ってるし。今日ぐらいは。うん。うん。」

言い聞かせるようにつぶやく。


そう考えた次の瞬間には、自分はすでに神社への参道に足をかけていた。


-------------------------


初めて見るその光景は、自分が望んでいた『日常』、そして自分が今身を置く『非日常』のそれとは全く以てかけ離れていた。

それを表すなら『幻惑』『幻想』。光が踊り音が語る、そんな空間。


感動と興奮は一層勢いを増す。


「あれが…綿あめ…!!そんでこっちのが金魚すくいにヨーヨーすくい!!あぁ、お金足りるかな!!!」

足が自然に駆け出す。…まずはたこ焼きを買おう。その次にお面を買って。

そう考えているとふと浴衣姿の人間が目に入る。

…浴衣も着てみたかったな。来年もまた来れるかな。


あいつもどこかで見ているのかな。


突如物陰から何やら声が聞こえる。

「やめてください!!」

「いいじゃねぇか。こっちきて俺とデートでもしようぜ。」

「話してください。私待ってる人がいるんです!!」

「そんなのどうでもいいだろ。ほら早く。」


そこでは年端のいかない少女が、いかにもガラの悪そうな男に絡まれていた。


せっかくの祭りだ。こんなものを見せられて放っておくのは気分が悪い。


少女と男の間に割って入る。


「さすがに大の大人が、嫌がる女の子を無理やりどうこうするのはいくら祭りの席だからって、神様は看過しないと思うよ?」

「あぁ!?んだてめぇ!!」


そりゃそうなるか。

まぁでもいい。ここは言葉で諌めて、穏便に済まそう。


「だーかーらー、僕の目が黒いうちにどこかに行けって言ってるの!あまり痛い思いしたくないでしょ?」

それを言われると男は逆上した。

まずい、何か言葉を誤ったか。

「ああぁ!?!?!?お前俺の獲物横取りすんのか!?もやしみたいな男の分際でか!?ぶっ飛ばされんうちにどっかいけやおら!!」

前言撤回。こいつは実力行使でぶっ飛ばす。


ファイティングポーズをとる。

あちらの攻撃に合わせてカウンターだ。あくまで後出しの程は崩さずに。


「おらぁ!!!」

男が大ぶりのパンチを繰り出す。

後出し、後出し。


そして男の拳は…届くことはなかった。


「いででででででででえででっででえででで!!!!!!」


男の腕は、ヒョろりとした長身の浴衣姿の男に取られ捻られている。


「普通男が自分より小さい、それも女に手をあげるかね。」

その男はピアスだらけの耳をしていた。

そして狐の面をかぶり顔を隠している。


「ちくしょうテメェ!!覚えとけよ!?!?」

捨て台詞を吐きたまらず逃げ出す。

「あぁ、おとといきやがれ、ってな。」

狐面の男はくるりと振り返り、女の子を庇うようにかがんでいた僕に手を差し出す。

「大丈夫か。立てるか?」

手を取り僕は立ち上がる。

言葉が出ない。

「顔に傷は…なさそうだな。気をつけろよ?幾ら何でも、男とやり合おうだなんて。一応女だろ?お前。」

懐かしい声が聞こえる。

「なん、で…?」

いっぱい聞きたいことはあるのに、いっぱい喋りたい言葉があるのに。

捻り出せるのはたったそれだけのことだった。

「なんで助けたか?んーそれはあれだよ。楽しそうな祭りにふらっとやって来たら、可愛い女の子が目に止まってよ。ナンパしようとしたら男に絡まれてるんだもの。助けるだろ?普通。」


違う、違うよ。聞きたいのはそういうことじゃないんだよ。


「あー…でもその調子だとナンパは失敗するな。よかったよ。奥のお嬢さんも無事で。ナンパして噛みつかれる前に、俺はお暇するかね。」


踵を返し彼は去ろうとする。

言わなきゃいけない、言わなきゃいけないんだ。


「ま、また!!会えるよね!?」

違うよ、違うんだよ相棒。僕はお前にずっと会いたかったんだよ。


声が聞こえたのか定かではないが、彼は思い出したかのように振り返る。

「あ、そうそう。俺以外の男のナンパについていったら泣くからな。それと…」


花火が上がる。

最後の言葉がかき消される。


光が辺りを包む。

残光に照らし出されるのは、その男の後ろ姿と、ひらひらと振る左手の薬指に付けられた、銀色の指輪だけだった。


-------------------------


ばんっ、という大きな音とともに支部のアトリエが照らし出される。


もうこんな時間か。気がつかなかった。

ちょうどいい、一休みがてら屋上で花火でも見てくるか。


ちょうど手元に置いてあったタバコを手に取りアトリエを出る。


屋上へと続く階段を上っている最中にも花火の上がる音が聞こえる。


扉を開ける。

一際大きく咲いた花火が見える。

そしてそこには

「やぁ累兎君。ほら特等席だ。ちょうど今とてもいい構図が浮かんできてだね?これは僕の新・12傑作のうちの一つになること間違えなしゃああああああああああああああああああああ!!!!!」


やってしまった。顔を見た瞬間に怒りが抑えきれなかった。

フェリクス・フォンテネッレ、この支部の支部長にして俺が過労死寸前まで働いている最たる原因。そもそもこいつが定期的に支部を開けていなければこんなことにならなかった。


「ちょっと累兎君!?出会い頭にドロップキックはないと思うな!?」


まぁいいや。うるさいのが増えたが花火も見れるし、胸の塊も少しは解けた。

タバコに火をつける。


「あれ?累兎君、君禁煙してたんじゃ?」

「誰のせいだと思ってやがるんですかまったく。…んで今回はなぜ急に?」

佇まいを直しフェリクスは答える。

「ん、よくぞ聞いてくれた!!いやはやいやはや今回は中国の方で水墨画を描いていたのだけれどもね!?風の噂で、今日この日に有栖川で年1の花火大会があったらしいではないか!!そこでいてもたってもいられなくなり帰ってきた次第だ!!!」

「よくもまぁそんな飄々と…俺は支部長の面は別に拝みたくなかったです。」

「ははははは!!言ってくれるなこいつめ!!そして今私は何と言っても近代日本画にはまっていてね!!今日という日はちょうどいい題材というわけさ!!」

そう言うと彼はキャンバスに居直る。

「先ほど水墨画を三ヶ月もの間支部をほったらかしにして描いていたと。まぁいいや。んで、どうして今日この日のここなんです?花火大会なら他にもあるでしょう。それこそもっと大きいのも。」

フェリクスはその言葉を聞き、一瞬何言ってんだこいつって顔をしたのち、人差し指を累兎の顔の前で三度往復する。

「ノンノンノン。勉強不足だね累兎君。この三ヶ月何やってたの?」

殴ってやろうかこいつ。

「まぁ私から教えてあげよう。絵画を学ぶにはまず事象と伝承を知れ、だ。」

したり顔で続ける。

「そもそも祭りの発祥、それは神様を『祀る』ことからきてるんだ。盛大に神様をお祝いしてやろう、その代わり向こう一年幸せに過ごさせてくれ、って具合にね?」

「そのぐらいは聞いたことがありますよ。もっと具体的に。」

「まぁまぁ急くなって。焦ってちゃモテないぞ累兎君。」

殴ってやろうかこいつ。

「そうだね、どこまで話したっけ。あ、そうそう。祭りの発祥だね。そもそも、そもそも、だ。神様を祀るためには神様に一年に一回、この世界の近くに来てもらわなきゃいけないだろ?つまり、つまりだ。その時はこの街全体の、それも彼岸と此岸の境界線が最も曖昧になる日なんだ。さてはて、そこで、だ。この街、有栖川の神様、『宵神様』を思い出してみよう。」

少し考える。花火が咲く。


まさか?

だがそれが確かなら。


累兎はハッとした顔をする。

フェリクスは花火に目をやりパースを決めながら言い放つ。

「ここまで言えば君もわかったかな?宵神様は『夜に迷える魂』の導き手の神様だ。それこそ、逢う魔が時に迷ってしまった境界の曖昧な魂をね。そんな神様なら…曖昧になった時ぐらいどちらかの願いぐらい受け入れるんじゃなくて?」

彼は続ける。

「さてはて、急ぎたまえ。祭りはまだ終わらないが…、皆を集めて一刻も早く会いたいだろう?…ってもういない。相変わらずせっかちだなぁ、彼は。」

振り返るとドアが開きっぱなしだ。


それでいい。まだ少年なんだ。大人になってしまったら一つの角度に固執して、一目散に後ろに戻ることなんてできなくなる。振り返ることなんて後悔と懐旧だけになる。

君たちはまだ少年少女だ。十分に全力で戻ることができる。大抵の過去なら、やり直せるもんだ。


キャンバスに向き直る。

真黒の背景に彩りを添える刹那の花びら。

偶然と奇跡の輝きを忘れぬよう、懸命に下書きを進める。


「さて、どんな作品が完成するかな。まぁ出来上がるまでは何度だってやり直せるんだ。美しき物語を紡ぐように、優しき子守唄を歌うように。一つ一つ描いていこうではないか。」

筆を握る。パレットに色を落とす。

「刹那のために輝いた、大きな大きな大輪の花をね。」    ~了~


こんな話です。

各人のその後は各々の想像におまかせいたします。


楽しんでいただけたら、冥利に尽きますね。

長々とありがとうございました。


最後になりましたが、こちらの挨拶をもちまして、お礼と代えさせていただきます。

ありがとうございました。

--------------

Special thanks!

家中 ふりた⇔えビさん

伊香鎚 累⇔あけのさん

相沢 夏樹⇔月影さん

川澄 涼⇔ずっきーさん

フェリクス・フォンテネッレ⇔ひゃみゃさん

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