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地味でチビですが、一応天才です  作者: 和藤 結希花
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出会ってしまいました

 壁のドアを開けると、真っ暗。超真っ暗です。

 電気をつけるからと、ナタルさんとターヤさんが暗闇の中に入って行った。


「えーと、確かこのあたりに……」

「いだっ!なに人の足踏んでんの、このバカ副室長!」

「す、すみません‼︎」


 バ、バカ……。上司が部下に罵倒されてる……。ここの実質的な上下関係がすぐにわかりますね。

 しばらくしてパッと明かりがついた。


「お、お待たせしましたローランさん。どうぞお入りください」

「あ、はい」


 言われるがままに、恐る恐る中に進んだ。


「うわぁ……」


 入ってみると、そこには先ほどの客間とは比べ物にならないくらい、たくさんの薬草や鉱物や液体などが瓶詰めにされてずらりと棚に並べられていた。


「すごいですね! こんなにたくさん!」

「はい。この研究室は王から直接支援を受けているので、仕入れも他の研究所よりずっとしやすいのです」

「へーっ! あ、これトリキ石じゃないですか!すごく希少な!」

「あら、よく知っていたわね。これはマリン島から取り寄せたのよ」


 トリキ石とは、マリン島という島国でとれる希少な解毒作用のある鉱物だ。

 例えば毒性のある水の中にトリキ石を浸すとその水は解毒され、飲めるようになる。そんな滅多にお目にかかれないすごい石なのだ。

 だが、さすが王宮の研究室。そういったものも手に入るらしい。


 他にもあれはなんだ、これはこうだとさまざまな薬や鉱物、物質などを教えてもらった。

 ……ところで。


「ここでは、何の研究をしているんですか?」

「「あ」」


 ここに置いてあるものを説明するので満足していたらしい。

 ……一応私、明日から働きに来るんですが……。


「こ、ここではですね。まだ使い道が見つかってない物から、もう見つかっている物まで細かく調べて新たな使い道を見つける研究をしているのです」

「新たな使い道?」

「はい!」


 彼はなんだかウキウキした様子で説明してくれた。


「薬を例に挙げると、例えばこのクーラの実。今は風邪薬だと浸透されておりますが、実は乾燥させてから食べると肌をツルツルにする効果もあり、美容にも良いのです」

「え?そんなこと聞いたことありませんが……」


 ナタルさんは手のひらサイズの赤黒く丸い実を愛おしげに撫でまわす。


「そうでしょうね。この発見は一昨日のことでしたから。数日のうちに世間にも公表しますので、きっと女性中心にこのクーラはバカ売れすると思います」

「はぁ⁉︎」


 ……なんということでしょう。思っていた以上にすご過ぎる研究室のようです。研究の結果によっては経済をも回してしまうのか。恐ろしくも思うが、興味も湧いてきた。


「それは、お薬に限らず食べられないものも対象なんですか?」

「はい。先ほどのトリキ石などの鉱物や木なども対象です!」


 私の質問に嬉しそうに答えるナタルさん。余程この研究室を誇りに思ってるんだなぁ。

 ターヤさんはそんな彼に落ち着けというように肩を叩いた。


「常に最先端を追求する研究をしているから、自分で言うのもなんだけど、ここにはかなりのエリートだけが集められているわ」

「エリート……」


 そうか、だからあの人は……。



「あー、来てたの!やっほー皆の衆〜」



 やる気のなさそうな間延びした声が研究室内に響いた。

 声のした方を見ると今思い出していた人と、……誰だろう、私より頭一つと半分くらい背が高いが、彼は至って平均の身長だろう。私がチビなだけだ。たぶん年はあまり変わらないと思う。


「お疲れ様、研究室長」

「研究室長! 今までどこ行ってたんですかぁっ」

「ごめんごめん〜。でもナっちゃん、ちゃんと説明できてたみたいじゃん。ね?カヨリン?」

「あ、はい。あなたに説明されなかった分、ナタルさんとターヤさんに説明してもらいました」

「そっかそっか〜。よくやったよ、ナっちゃん。それにヤっちんも」


 よしよーし、と二人の頭をなでるもターヤさんは舌打ちしながらベリッとその手を剥がす。

 彼は私をこの研究所にスカウトしてくれた張本人で、タカ=オーリックさんという。

 茶色の髪の背の高い男の人だ。

 前に会った時三十路直前って自分で言ったり、人を勝手にあだ名で呼ぶ変な人。


 私はカヨリン。そして今初めて聞いたが、ナッちゃんがナタルさんでヤッちんがターヤさんなのだろう。


 ちなみにこの人が前に言ったおばあちゃんが腰抜かしてしまった原因です。バリバリの貴族服を着てスカウトしてきたのは今でも忘れない。


「おいっおい……っ」

「ん?」


 研究室長の横にいた少年が彼の白衣をチョイチョイと引っ張り、小声で呼びかけている。めちゃくちゃ聞こえてるけど。


「俺をほっとくんじゃねーよっ」

「ああ、ごめんごめん忘れてた〜」


 なんか研究室長、さっきから謝ってばっかりだなぁ……。


「研究室長さっきから謝ってばかりね……」


 あ、それ私も今思ってましたよ、ターヤさん。


 研究室長は「えーと」と言いながら頭をかくと、右の手の平を上にして、少年の方へ向けた。よく、目の前の人に自分の隣にいる人を紹介する時にやるあのポーズだ。

 彼はにっこり笑った。


「カヨリン、こちらはレオン様だよ〜」

「はぁ」



………終わり?


「紹介それだけかよ!」


 少年は研究室長に向かってケンケン喚く。彼の背が高いため、つま先立ちになりながら。研究室は笑いながらどうどうと少年を宥める。まったく反省してませんねぇ。


 少年は諦めたのか、ため息をして私に向き直った。

 よく見ると、銀髪がすごく綺麗なイケメン君だ。


「俺はレオン=クラヴェリ。お前と同じ14歳で、一応王宮の者だ」

「……クラヴェリ?」


 ……ちょっと待って。待って待って待って。

 庶民の私でさえ聞いたことがあります。そしてその姓名乗っていい人なんて限られているはずで。


「……王子様、ですか?」


「おう」


 恐々と聞いた私に対して、少年は堂々とした態度で腕を組み、仁王立ちで私を見下ろす。

 ……どうやら雲の上の、そのまた高いところにいる人に出会ってしまったようです。


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