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地味でチビですが、一応天才です  作者: 和藤 結希花
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いざ、都会へ

 ガタゴトと馬車が揺れる。

 私は、ぼーっと移り変わる外の景色を見ていた。

 田舎から来た私には、少し煌びやか過ぎる都会の街はなんだか現実とは違った世界に見えて、無性に田舎に帰りたくなる。田舎にいい思い出がそんなにあるわけではないが。


 赤、黄、青、緑、白、ピンク、水色。

 人々に目をやると、やはり黒髪の人はいない。


 いつも思う。


 みんなはカラフルな髪を持っているのに私はなんでこんな真っ黒な髪なのだろう。


「こっちに来ても、この髪のせいで私は浮いちゃうのかなぁ……」


 ここはオウリン王国、首都ナノン。

 その中央にある大きな王宮はオウリン宮殿という。



 私は今日からその宮殿の一角のとある研究室で働くことになる。



 王宮に着き、衛兵の人達に取り継ぐとすぐ迎えが来た。

 ワタワタと迎えに来たのは男の人で、少しよれた白衣に眼鏡をかけている。真面目そうだけどこっちまでドキドキが伝わってくるほど緊張気味だった。


「お、お待ちしておりました!……えーとっ、あのお名前って……」


 あれ?履歴書に書いたはずなのに。

 まぁいいか、これからずっとここでお世話になるんだし。


「カヨリ。カヨリ=ローランです。よろしくお願いします」


 そう言い、にこっと笑ってみせる。すると相手はああ!と思い出したようで、手を差し出してきた。


「ローランさん!始めまして、ナタル=エルワンと申します。一応、研究室では副室長をやってます」


 え⁉︎この人が副室長⁉︎

 わ、若いなぁ……。差し出された手を両手で握りながらそう思った。


「お若いのにすごいですね!おいくつなのですか?」


 びっくりしたので思ったことをそのまま言ってしまった。だって本当にまだ20代にしか見えない。


「に、25歳です。まだ14歳のあなたに若いと言われると微妙な気分ですねぇ……」


 そう、私は14歳。一応つい最近まで学生だった。


 数日前、王宮の研究室の研究室長さんが直々に私の家に勧誘しに来たのだ。あの時はかなりびっくりしたなぁ……。

 ただの平民で田舎育ちの私の家に場違いな貴族様が、高そうな正装で来られたものだから、一緒に住んでいるおばあちゃんが腰抜かして、それはもう大変だったのだ。


 こちらへどうぞ、と案内され、仕事場に向かった。

 しばらく王宮を右へ左へと繰り返していると、『特別研究室』というプレートが貼ってあるドアの前に着いた。


 ギイ……と音を立ててドアが開く。

 研究室の中は棚がいくつもあり、いかにも怪しそうな剥製や、粉や草花が入った瓶、鉱物がズラリと並べてある。

 その他には机、顕微鏡など、うん。とにかくどっからどう見ても研究室だった。


「『特別研究室』での仕事内容については何か聞いてますか?」

「いえ……何も知らないです」

「あー……やはりあの方は説明省いていたのですね。では説明させていただきますねこちらは……」


 彼が説明しかけたところで壁が開き、白衣を着た女性が、のそのそと出てきた。

 よくよく壁を見てみると扉になっている部分がある。

 な、何この隠し扉⁉︎わかりにくい!


 あまりの衝撃に思わず突っ込みを入れてしまった。

 まぁそれはともかく。


 私は女性の方を見た。歳は20代前半だろうか。

 薄いベージュの髪が肩で切り揃えられていて、まつ毛が長くて、肌は白くて……。語りきれないが、とにかく美人さんだった。


「ふわぁ……」

「あ、ターヤさん! 仮眠できましたか?」

「うん、はい……なんとか……」


 ふと、彼女は私の存在に気づいたようでナタルさんに、誰?と目で訴えていた。


「こちらはカヨリ=ローランさん。新しく我々の研究室で働いてくれる方ですよ。ローランさん、こちらはターヤ=アゼマさん、ここの研究員です」



 ナタルさんに紹介してもらい、お辞儀をして「カヨリ=ローランです。よろしくお願いします」と言った。



 ターヤさんはというと、ジーッと私を見て微動だにしない。


「…………」

「…………」

「…………」


 しばし流れる沈黙。

 なんだ、この空気は!き、気まずい……。

 どうしようかと考えていたら、ガッと肩を掴まれた。


「……え?」


 何なに⁉︎ 私なんかまずいことした⁉︎

 彼女を見るも俯いていて表情がわからない。

 軽くパニクっていると何か彼女がブツブツと言葉を放っているのに気づき、耳を澄ませた。


「……か、可愛い……っ」

「え?」


 聞き間違いかと思い聞き返した。


「声も可愛い! ちっちゃくて、ツインテールで何この子天使過ぎる!」


 彼女はすごい剣幕で私を褒めちぎりなさった。


 私はどう反応すればいいのかわからず曖昧に笑う。

 ツインテールはともかく、確かにチビだが、可愛くないし、黒髪で地味だし、天使とは程遠いが、美人な彼女に褒めてもらえたのは素直に嬉しい。


 ただのお世辞なのかもしれないが、ありがたくその言葉を受け取っておこう。

 きっと天使と言われるのはこれが最初で最後だよ。うん。しっかり胸に刻みました。


「ありがとうございます。ターヤさんもすごい美人さんですよね!」

「そんなことないわよぉ〜」


 私達はしばし、女子トークに華を咲かせた。

 ナタルさんほっぽいて。


「おっと、ナタルさんの存在忘れていたわ。ほら泣いてないでしゃんとしてください副所長!」


 ナタルさんを見れば部屋の隅っこの方でしくしく泣いていた。

 背は高いのになぜだろう、小動物に見える。

 ターヤさんはそんな彼をなでなでしながら謝っていた。


 上司をなでる部下……。


「ず、ずびばぜんっろーらんざんっ。ぼく、な、泣ぎ虫で〜」

「いえいえ、私こそほっといていてすみませんでした」


 ぺこりと謝る。

 ナタルさんはようやく落ち着いてきたようでスーハーと深呼吸を繰り返していた。


「で、では改めてこの研究室での仕事について説明しますね!まず、この部屋は客間です」

「え?ここ客間なんですか?」

「はい、本当の研究室は奥の部屋にあります」


 顕微鏡とか薬草とか普通にあるんですけど。もし、万が一にもいじられでもしたら……。


「あ、ここにあるのは、全部紛い物だから大丈夫よ。もし泥棒がきても、これだけたくさん精巧に作られた偽の薬草や鉱物があれば研究室だって勘違いして、目当てのものにそっくりなものを取ってっちゃうのよ」

「まぁ、鍵はかけてますけどね。国家機密の物ばかりなのでこうでもしないと危険なのです」


「…………」


 ……すごい。セキュリティ万全だ。

 どんなに良い鍵をかけても、ドアを破壊されればそれまでだ。しかし、これならば心配いらないだろう。

 先ほどのわかりにくいドアはこの為だったのか!

 というか、私はこんな国家機密を知る立場の職業に就くのか。改めて考えるとすごいことだなぁ。


「では、こちらの本当の研究室についての説明をしますね」


「はいっ!」


 ここが私の新しい居場所になるんだ。

 そう意気込んで返事をした。


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