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エィム1 帰宅

 家に帰ると僕はすぐさまパソコンを立ち上げた。

 時刻は19時53分。間に合った。

 インターネットを立ち上げ、お気に入りに登録されたサイトへアクセスする。

 開いたのは、TRPGのオンラインセッション用に開発された『とろんとふ』というツール。簡単に言うとオンラインセッションに特化したチャットサイトのようなものだ。

 シンプルなエントランス画面にはいくつかの部屋が並んでいる。

 その一番上、ルームナンバー0の『第二期 冒険者学園』と書かれた場所にマウスオーバーすると、入室者の名前がずらっと表示された。

「うん、大丈夫。まだ来てないね」

 呟くと同時にダブルクリックして、入室のパスワードを入れる。

 数秒のロードの後、『冒険者学園』の部屋が表示された。

 大きく画面を占有するファンタジー的な港町の画像。赤と青で色分けされた簡易な戦闘マップ。端の方に寄せておかれているいくつかのコマ。

 画面の下部にあるチャットとログの欄にカーソルを合わせる。

 名前欄の下向きの三角ボタンを押すと、たくさんの名前が並んで表示される。いくらかスクロールして『エィム』という名前に設定する。

 文字色を003300、深い緑に設定して、ようやっとキーボードに手をかけた。

「こんばんわー、っと」

 ブラインドタッチと呼ぶには少し頼りない速度でタイプすると、すぐにみんなから返信が来た。

 みんなからの返信を横目に見つつ、僕はようやく服を着替え始める。



 冒険者学園。

 それが僕の所属するTRPGコミュニティの名前だ。

 活動方針は『暇なときに暇な人があつまってセッションやRPをする』。

 活動方針の通り、まったり系のコミュなのかと思いきや、設立当初は30名近いメンバーがいて、毎日2~3卓づつ立卓されていた。

 僕も設立当初からここに所属している一人で、当時は時間もあり余っていたことから毎日卓に参加していたものだ。

 ちなみに僕のキャラクター名は『エィム』。銃使いでロリでドMのキャラクターだ。

 最近は、いろいろあってメンバーが減り、キャラクターたちのレベルの関係もあって、立卓率はそれなりに落ちている。

 それでも僕がここに足を運ぶのには理由があった。



 僕に、あるいは『エィム』に向けられた挨拶のログをスルーしつつ、昨日の夜から今までの分のログにサッと目を通す。

「へぇ、ドラさん今シナリオ執筆中かぁ。いつごろ卓立つんだろ?」

 ログ読みが終わると、その後はまったりとみんなの会話を流し見ておく。

 何々という武器が欲しいとか、いついつまでに卓立てたいとか、適当な話題に適当に相槌を打ちながら、別のタブを開いて動画をぼーっと眺める。

 集中してみているわけでなく、ちらちらと時計を確認しながらなんとなく流しているのだ。

「……そろそろか」

 言って、動画を閉じるととろんとふの画面を開く。

 その数瞬後、ログに動きがあった。

『システム:「リク」さんがログインしました。』

 その表示を確かめると、すぐにキーボードに指を走らせ、どこぞの寄り目なイラストのあいつのように、ッターン!、とチャットを送信した。

『エィム:おかえり、リクお姉ちゃぁんっ!』

 返事はすぐに来た。

『リク:ただいま、エィムぅ! 今日も疲れたよぉ! ぎゅぅっ』

「ふひゃぁぅ! ぎゅぅしてきたぁ! リクお姉ちゃん可愛すぎィッ!」

 両手で顔を隠して後ろにのけぞる。

 きっと今の僕はとてもにやけているに違いない。

 心の中でそう思いながら、なんとかのけぞりを戻して返信を打つ。

『えへへぇ♪ お疲れ様ぁ ぎゅむぅ』

 脳内に、自分のキャラクターであるエィムとリクが熱い抱擁を交わしているイメージが沸き上がる。

 同時に自分が破顔していくのもわかった。

 エィムは私ではないが、僕が扱うキャラクターである以上、半分は自分だと思っているし、この冒険者学園においてはエィムが僕と他の人とをつなぐ窓口になっているのだ。

 エィムが幸せを感じれば、僕だって幸せを感じる。

 他のみんなに冷やかされつつも、僕はリクお姉ちゃんと甘いおしゃべりに興じた。

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