訓練だけど…
戦闘訓練、と聞いて少し期待していた自分はやはりまだ何処かこの異世界という場所に幻想を信じていたのだろう。
そしてその期待は半分ほど裏切られ、半分ほどはそれ以上の物となって目の前にあった。
「…さすが勇者候補様…素晴らしい魔力操作です。」
今は最前線にて邪悪の動きを阻害している騎士団長の代わりにこの国の首都であり中心である王城の守護をしているという金髪碧眼の屈強な女性、守護騎士という称号を持つ女騎士はそう言ってくれた。
だが、俺はそれよりも鎧とは思えないお姉さんの凹凸のある体がクッキリと出ている幾何学模様の入ったボディスーツの様な装備のまま笑顔でじりじりと距離を詰めてくる事が非常に心臓と下半身に悪いという事を言いたい気持ちでいっぱいになる。
そんな俺の手のは魔族(謎)な十一人目の護衛兵士、いや、偽兵士から剥ぎ取った刃が殆ど無い、エストックや鎧通しの様な釘の様な短剣とそこから発生する結晶によって形造られた幻想的な刃があった。
魔法、それは正義、魔法、それは愛、どこか遠く。世界中の映像が集まる再生ボタンが目印のサイトで見聞きした文言を思い出す。昔の戦隊モノを見ると心安らいだあの頃は今はもう遠い昔だが、しかしながらこの世界には奇跡も魔法もあるのである。それならば今俺が持っているものがなんであるかもわかるだろう。
『魔導式力場展開型小型変形短剣』
非常に長い上に風情のかけらもないパンクな名称のそれは略称がある。
『魔導剣』『魔剣』
そう、これはあの魔剣である。マジカルなパワーを宿したスーパーウルトラカッコウィイソード…なんか変な形だなとかこれじゃあ縄も切れないとか思ったのは過去の話、結晶の様な魔性の色合いを見せる刃を生み出したこの剣は間違いなく魔法の産物である。
さて、今更…というには少ししかこの世界にきて時間がたっていない、しかしながら大量の書物を読み漁り王様の話を聞いた上でこの訓練を受けている俺にとっては今更すぎるのだがこの世界には『科学』というものは存在せずその代わりに魔法というものがあるのだ。
そもそも魔法というのがどういうものなのかはまだ書物による軽い知識しかないが…いや、俺が文字を読めるというの時点でそれはすでに魔法の結果であり俺たちに掛けられた魔法の効果なのだがそれはまた別の機会で…俺は刃を消し少しだけ自分の中の何かが減ったという感覚を感じそれを覚えながら目の前のエロスを感じる女騎士さんに向き直る。
女騎士さんはそれを見て満足げに説明を始める。
「こんな旧式のものを見たのが久しぶりで少し興奮してしまいましたが…わかっていただけましたか?この世界には魔法、というものが存在し、それがこの世界における最大の武器でありこの世界を支配する法則です。」
彼女はその身にわかりやすくオーラの様なものを纏って見せながらそう言った。
彼女が、そして書物における知識ではこの世界の魔法とは、すなわちその生物の持つエネルギーであるとされている。放出されるエネルギーは余剰エネルギー故に使い切っても少し疲労を感じる程度らしいが…まあ、それはいい、重要なのはこのエネルギーというのが如何なるものにでも変化しうるものであるという点である。
つまりこの世界の中で魔法というのは自分の持つエネルギーを生命力を何か別のものに転化するものである。という事だ。
運動エネルギーに変えれば身体能力が上がったり風や水を自在に操れたり…どうやら分子とか原子とかは存在していない様なので色々なものを作ったりは出来ない様だが、幸いにも化学エネルギーや電気エネルギー、熱エネルギーなどにも変換できるので手から雷を発生させたり、砂鉄ブレードを生み出したり、自由度自体は高い…ついでに何かから何かへ変換するときのロスもほぼ無いようでエネルギー保存の法則さんは息をしている様だ。
というかやはりここは異世界なのだなと思うのは魔法というのは存在だけではない、まず物質のあり方やあらゆる物理法則的なものも同じ様に見えてだいぶん違う。
例えば物質は小さな粒状の…まあ原子と分子では出来ておらず『大地のエネルギー』『水のエネルギー』などなど五大元素のエネルギー、どうやら『エッセンス』と言うらしいものが混ざり合い物質を生み出している様だ。
それと同じ様に物理法則先輩はその座を『精霊』もしくは『神』と言うものに譲っており重力の様な物はあるがそれは神が命が生きやすい大地から離れすぎない様に生み出したものであるとか、現代人にはちょっと厳しい様なファンタジーが現実として、思い込みや迷信ではなく実在のものとして存在していた。
というか昨日の晩に確かめて見たがたしかにこの世界のそれらは曖昧で確定しないものだった。ベッドの上にある天蓋から鏡を百回ほど落下させて見てそれをタイマーで測って見たのだ。
実験方法は簡単、鏡に糸をくくりつけ天蓋に付いているカーテン見たいなものを掛ける場所に糸を通し年上系ロリメイドであるキティさんに頼んで糸を引っ張ってもらい一番上にまで鏡が来たら合図に合わせて糸を離すというものだ。
もちろん計測方法も適切であるとはいえないし合図なので誤差は生じるが…紙のようにひらひらと舞い落ちることもあれば一気に加速して落ちることも、それどころか十回に一度くらい横や斜めなど不可思議な方向に落ちる事もあった。
まあ幸い鏡は割れなかったが、それは何度か地面に落ちそうなところをナカイケさんのナイスキャッチによって救われたからである。量産品である皿を一枚借りて落とせばやはり割れたし落ち方はともかく落下によるエネルギーは存在はしているのに落下の仕方が一定ではないという不可思議な結果が出た。
こんな感じじゃ弓や銃なんかは実用化できるのか心配だったが弓や銃の軌道は射手の魔法、つまり生命エネルギーの変換による直線運動が優先されるらしいのでまっすぐに飛ばすのは可能らしい…長距離の狙撃にはまた別の方法があるというがまあそれは今はどうでもいい、問題なのはここは地球のように見えてもここにいる知性体が人間と…俺たちと同じ見た目や骨格をしていたとしても地球にあった常識や法則は通用しないという事である。
時間は元に戻り、俺の意識は再び口を開いた女騎士に向く。
「跳ねれば宙に浮きますし、二段ジャンプなんて魔法なしでは出来ません、似通った場所は多いですし勇者候補様がいた世界と似ていますが、そちらは科学、こちらは魔法、全く別の法則が支配する別の世界であるというのをまず念頭に置いて…では、戦闘訓練を始めましょうか。」
「はい。」
ところで…なぜ俺が邪悪と戦う…というかこの世界の住人や王様に文句を言ったりしないか疑問に思う人もいるかもしれない、何せ俺たちは懇切丁寧に事情を説明されたとしても、この世界が本当に聞きに瀕していても結局のところ異世界人であり拉致被害者なのだ。普通の神経なら、それこそ俺のような模範的な一般人なら『もうこんな危険な場所にはいられない!早く元の世界に帰すんだ!』とか喚くだろう。
だが、しかし、だがしかしである。
元の世界に帰ってもすでに両親が居ない、いわゆる天涯孤独でありあちらとの世界が希薄な状態ならどうだろうか?
勉学に励み社会の役に立つ人材となって活躍する。…それもいいだろう、だが、誰もがどこかで異世界ラノベに惹かれるように、都合のいい幻想に惹かれるように、何か餓えの様なものを感じている。
少なくとも俺はもう覚悟完了済みであるし、人の生き死にも自分に関係しなければどうでもいいと思っている様なごくごく一般的な人間だ。
両親や祖父母の死は非常に悲しかったし、涙も流したし、ちょっとだけ傷心を理由に家で思い出に浸ったりとしたが、いや、そのせいで、と言うべきか…
ざっくりといってしまうと『割り切って』しまったのだ。
『人はいずれ死ぬものだ』とか、『いつどこで何があってもおかしくない』とか、あらゆるものを俯瞰してしまったのだ。
それは同時に世界を、生きるべき社会というところに疑問符をつけ、誰しもが持つ飢餓感に人一倍敏感になってしまう原因となったのだ。
『人の中で生きていく』というのがめんどくさくなってしまった。と言えばいいのだろうか、いや逆に現代の希薄さに耐えられなくなったというべきか…
なんにせよ俺は、俺という存在は、いるべき世界というのを見失ってしまったのだ。
そんな俺に元の世界への執着や、家族や友人があちらにいるゆえの寂しさとか…そんな感情は、存在し得ないのだ。
それ故に俺はこの世界で生きてもいいと思えるし…年上系ロリメイドとか、鼠耳美女とかちょっと目からハイライトさんがやばい感じに逃亡した美人女騎士とか…色々と良いものが沢山あるこの世界に惹かれている。
いや、もっといってしまうと…イエスロリータ、ノータッチもいいが合法ロリとかいう違法存在がいるのならそっちがいいといいますか…いや、ろりこんではない、ちょっと小さいものが好きなだけだ。
ちょっとダメなお姉さんとか、ポンコツだけど凛々しいお姉さんとか…リアルに存在しない生物が好物な俺としてはそんな存在が普通にいるこの世界が滅ぶなんて許せない、というだけだ。
いや、別に滅んでもいいけど死ぬなら美女を助けてとか、美少女とサムシングHなことをしたりとかかかかか…
いや、まあ、うん、そういうことだ!(意味不明)
なお、今日の訓練はマラソンでした。久しぶりの有酸素運動は辛かったです。