すっごーい…
「諸君らを異世界より召喚したのはこの世界に住む我々のような常人では邪悪に触れることすら叶わないからであり…」
さて、長い長いお話を聞いているのもいいがぶっちゃけ世界を救うにしても自立するにしてもタイムイズマネー、時は金なり、無駄にはできない。
必要事項を聞いた後鼻歌交じりにうちに着込み直しておいた鎖帷子の鎖の数を数えるのにも飽きてきた。
要するに邪悪とやらをどうにかしろという話であるというのに…いや、まあ、異世界から来た。しかも高校生に丁寧になぜ呼ばれたのかについて繰り返し説明させられるよりは最初の一回で長くても全てを話してしまう方が効率的なのかもしれないけど…
「面倒だな…」
俺は途中入場してきた王女とイケメソくんとその他大勢による三文芝居を見るために謁見に来たわけではない、ぼっち特有の存在希釈(影が薄いだけ)のアビリティを使い謁見の間を抜け出す。
部屋の鈴置から取っておいた鈴を鳴らしメイドさんを召喚する。
「何か御用でしょうか?」
「書庫ってありますか?」
「こちらでございます。」
カギカッコ3個分の時間が吹き飛び俺は王城の中にある書庫と言う名の半地下に来ていた。もちろん、メイドさんも一緒である。
扉を開けようとするが建て付けが悪いのか開かない、振り返って見ると首を傾げているメイドさんカワイイヤッター。
メイドさんもガチャガチャとノブを回すが一向に開かない…っ!
ばぎゃん
激しい破砕音的なサムシングとともにノブがポロリ、ドアもばたり、
「……開きました。」
「ソウデスネ。」
これはメイドさんと俺との秘密ということにしドアっぽく見える様に最早ただの枠と化した扉のあったはずの空間の横、つまり壁にそれらを立てかけた。
…あとで色々請求されたらどうしよう…まあ貴族様の財布と襲われた勇者という免罪符、召喚初日に王女様とその他大勢を助けたって言う功績でどうにか手を打って…打って…
「うわお、メルへーん。」
「めるへん…ですか、確かに不思議な光景ではありますが。」
そこでは巨大な本棚と空飛ぶ本による一大スペクタクスが起こっていた。みるぶんにはいいが本が飛ぶというのはいささか面倒くさいような気もする。
なぜって?そりゃあ、読みたい本が勝手に動いたら困るだろう?
しかしそれよりも問題なのは今すでに俺の首元にナイフが、ついでにドワーフなメイドさんにもナイフが突きつけられているということであり、それに比べたら本が空を飛んでいるのは実害がないだけマシなのかもしれない。
「…誰?貴方は、何処から、いえ、なんで此処に?」
下から見上げるような視線は下から見るとふた通りの見え方がある。
一つはロリィとかショタァと超絶可愛い美少女とかが涙目とかで見上げてきて心とハートがブレイクオン!しそうな物と…
「そちらこそすごいご挨拶ですね、結構遠いところから王様に呼びつけられた哀れな常識人になんて事をするんだ。」
睨みあげる…というのだろうか?まあ、ただただ身長的に下にいるだけで媚びることも可愛らしく見せようともしていない、むしろ敵意と害意と殺意にまみれて狂気の混じったものである。
彼女は自分もナイフを突きつけられている事に特に危機感を感じていないらしく俺の首にナイフを近づけていく。
それに合わせて俺も彼女の首に…そんな馬鹿正直にやるかよバーカ!
いくら危機感を感じていなくても視線は動く。その凶器に吸い寄せられる。
俺はその隙をつくとかそんなこともなく後ずさろうとして転んだ。いや、頭から宙返りするように彼女のナイフを蹴り上げそれと同時に手にあったナイフを投擲しつつ片手を床について後ろに下がる。
蹴り上げられた手と投擲され左足を狙ったそれを避けるために体を捻るような形になった彼女の片手はナイフを離してはいないが、今の態勢ではまともに投擲したり切ろうとも出来ない、俺はメイドさんの襟を後ろから掴み俺の後ろの下げて書庫らしく置いてあった椅子を蹴り机を倒して蹴り上げた相手のナイフをキャッチする。
バキョンというのだろうか破砕音とともに机の一部を彼女が投げたらしいナイフが削り取ったが机に身を隠していた俺とメイドさんには当たらなかった。
「ヘーイ、何をそんなに怒ってるのさ?」
「…侵入してきたものは、許可がない限り抹殺対象、そう言われている。」
え、そんなやばいセキュリティなの?此処は?
いや、それは無いな、少なくとも1日経ってるのに俺たちのことを告知していないならそれはかなりの無能である。が、あの王様とその部下、ついでに心がイケメンな兵士のことを考えるとそれは無い、そういえば昨日見たメモに…いや、というか今更だがなんでこの世界の言葉がわかるんだ?
そんな思考をしていたからだろうか?俺が転ばせて後ろにやったメイドさんがヒソヒソと喋り出す。
「…勇者様、あれはホムンクルス、錬金術によって生み出された意思のある人形です。ついでに言えばおそらくアレは…」
うーむ、美少女に耳打ちしてもらうとか最高だな!俺は腰に下げた剣を抜き机の影から飛び出す。
するとまるで待ち構えていたかのようにホムンクルスとやらの少女がナイフを構え…構え…アレェ?多くなぁい?
「命令遂行。」
「バックステッポう!」
もう一個あった椅子を左手で投げつけもう一個あった机を打ち倒す。めちゃめちゃな破砕音とともに高速で放たれたらしいナイフが椅子と机をチーズのように穴だらけにしていく。このまま隠れていてもこのまま一緒に穴あきチーズにされるだけなので机から本棚に移動する。
「…書物の破壊は禁止されています。攻撃を中止、索敵を開始…」
にゃるほど、タレットのようなものなわけか、命令された以上のことはしないと見た。
むむ、と言うことは命令をした人がいるはずであり、それは昨日のメモで身が落ち合う場所が書庫であるのに関係してい「何を騒いでる!人形!」…うわぁ…
現れたのはあからさまに昨日の黒ずくめの仲間っぽい男、人形遊びの趣味があるとは恐れ入った…が、なんだ、アレだよ、ロリ巨乳とか夢詰めすぎだろ、もっと現実見ろよ?ほら、あのひんぬーなメイドさんを…って、あ。
「ふむ…侵入者か…そこだな?」
うあ、まずい、俺じゃなくてメイドさんがヤヴァイ…この本棚倒れる?むぐぐ厳しそう…っく!人命には変えられん!
俺はスマホの電源を昨日ぶりにつけ置き、最近はやりと聞いて一応いれて置いた最初が無音で10秒後に爆音を鳴らすブービートラップ用の音源を選択音量をマックスにして…静かにダッシュ!
更に奥の本棚の裏に隠れ10秒が早いかメイドさんの悲鳴が早いか…いや、まあ、助かっては欲しいが俺が命を投げ出すほどじゃ無い、ほどほどに陽動出来たと星になった美少女に敬礼!
「ここだ「バアアアアアアアアアアアンンンンン!!」何事だ!」
だだっ広いといっても体育館程度、しかし大音量のそれは予想以上に広範囲に音をばら撒き爆音を轟音にした。
男は机の裏にいるメイドさんではなく本棚の方からした爆音に気を引かれゆっくりと歩いていく。
俺はといえばクラウチングスタートのポーズをとり。下に隙間のある本棚の構造に感謝しながら男の足がスマホをに近づいていくのを見て…ダッシュ!本棚を回り込み、あのいけ好かない男の作ったロマンの塊の後ろに出る。ロマンの塊が胸をぶるんと揺らしてこちらを振り返るが…すでに俺は彼女の胸を突き、喉を裂いていた。
ドンと肉の塊が自立する力を失い倒れる音が響き男がこちらを見る。俺を発見しそれに押し倒され血のようなものを流す有機物であろう何かを見て剣を抜くが…横合いから飛び出した白黒の少女、というかドワーフな美少女怪力メイドが振り回した机で顔面を撃ち抜かれ、吹き飛び、本棚をいくつか倒して止まる。
明らかに頭が吹っ飛んでいるが…まあ、うん、
「こわーい。」
「…ソレ、体くねらせて真顔で言われるとキモいですね。」
辛辣メイドの毒舌!我々の業界ではご褒美です!
「…この方も魔族ですね、恐らくここに潜入してきて失敗したのに気がつかなかった哀れで愚鈍なバカですね。」
丁寧語でも、そしてしかも死体に向けてその言い草とは…流石に引きますわ。
俺はこのホムンクルスを構成していた何かが今ようやく壊れたのを感じ意思を感じなくなったそれからナイフとなんだか収納量がやばいベルトとかにつける小さなポシェット…というのかな?よくわからないがそういう感じの収納具を貰っておく。
というか…
「改めて見るとすげえな。」
ワンピース、ノーパン、太ももポシェット…きっと頭がぱーっんしちゃった魔族のいけ好かない人とは趣味があったのかもしれない。
「ま、どうでもいいけどね。」
「…あなた、本当に一般人?」
ああ、それはよく言われる。俺はさあねと答えてとりあえずこの状況を放置して本をメイドさんに頼んで一緒に探してもらう。
目的は…『この世界のルール把握』だ。とりあえずメイドさんの方が詳しいので俺は床や壁に刺さったホムンクルスの使ってたナイフを四次元ポケットめいたポシェットに突っ込むことにした。
「本を探すのでは?」
「一緒にいて、メイドさんが探す。俺はかたずけてから探す。ダメかい?」
ひどく微妙そうな顔をするが「まあいいです。」と言って探してくれるメイドさんまじ天使、サイコー、キュート、プリチー!
「…頭吹き飛ばしますよ?」
「すいませんかんべんしてください。」