謁見だけど…
朝食はおそらく今まで日本の一般家庭に生まれて18年間過ごしてる間に触れたことも食べたこともないような素敵なフルコースであった。ごちです!
満足感に浸って一人水差しに入っている柑橘の匂いのする水を飲んでいると後ろからプニプニと突かれた。
…断じて俺がプニプニとしているわけではない、確かに俺の体はどちらかといえば柔らかい筋肉で構成されており、柔軟性と筋収縮力は高いしスポーツ関係の仕事でよく人の筋肉を触っている父親にも『オマエノキンニクサイコー』と言われているほどのものである。が、プニプニとしているのは俺ではない、それは俺の斜め後ろにいるクォータードワーフの合法ロリメイドの柔らかな指である。
「何かいかがわしいことを考えている場合じゃないですよ?みなさんもう謁見の間に行ってます。」
「おっと、そうだった。」
そういえばそんなことを言われていた。俺ってばうっかりー☆…やめよう、キモい。
軽く椅子を引こうと思い椅子に手をかけると俺が載ったままだと言うのに椅子が後ろに下げられた。
振り返ると其処には椅子を掴む合法ロリメイドさん、
「ドワーフですから。」
「ソウデスカ。」
あまりおちょくらないようにしようと思ったが、これはこれでスリリングな楽しさと言うか、多分だがものを持ったり引いたり持ち上げたりするのは日常的な動作ゆえ慣れているからその怪力が活かされるがそのままぶん殴られるぶんには技術が伴っていなければ痛いだろうが特に問題はないだろう。いや、むしろご褒美な可能性が大いに存在する。
とりあえず合法ロリメイドの導きに従いスルスルと廊下を進むと謁見の間の近くの廊下に着いた。昨日来た時とルートを比べるとどうやら防犯用にかなり遠回りして来たのだとわかる。
俺が一人ニヤリとすると
「部外者が覚えたら記憶消去だそうですよ?」
「ナルホド…」
早々に忘れることを勧められました。そして優雅に一礼し今度は従者の控え室に戻っていく彼女はやっぱりロリ可愛かったです。
兵士さんがこちらに気づくとなんだか妙な顔をされたが、恐らく昨日俺が血祭りにあげた中に仲のいい同僚がいたのだろう、少しカマをかけてみる。
「…すいませんでした。」
「っ…いや、謝る必要はありません、奴は金に目が眩んだ愚か者です。勇者候補様もそのような人を試す言動はお控え下さい。」
露骨な反応とともに帰って来たのは理知的な答え、そして配慮ある大人の注意だった。やはりフツメンは内面がイケメンである。美人よりも美男よりも内面がイケメンな方が俺は好きである。…だが、やはり顔と胸も重要だよね!
「いや…やはり太腿が至高か…?」
「私はやはり胸ですかね。」
ふぅむ、顔はフツメンで趣味も普通とか大丈夫かこの兵士さん、優しすぎだろう。あれか?早死にするタイプか?『俺に任せて先に行け!』とか『故郷に帰ったら彼女とパン屋をするんだ…』とか言っちゃう系か?
謁見の間までそう遠くないのにもかかわらず俺とフツメン兵士さんは濃厚な時を過ごし、いつの間にやら扉の前に立っていた。
得られた情報はかなり多い、昨日のアレはやはりナントカ伯爵の単独の暴走…と言うことになったらしい、紙のことについてさりげなく聞いてみたがそれについては知らない様子だった。
また、俺たちに襲いかかって来た奴と俺を襲って来た奴は違うらしく。俺の顎を蹴り上げて顔が大変な感じになってしまった人はどうやら人ではなく魔族的なアレだったらしい…え、マジで?と思ったが魔族と人間の見た目の差は小さいものもいれば大きいものもいるらしくその差が大きければ大きいほど強いらしい、つまり昨日の彼は下っ端どころか魔族と定義されるかどうかも怪しいレベルのものだったらしい…
「勇者候補様だ!お通ししてくれ!」
「おいしょぉぉぉ!」
「すみません!」
そんな考え事をしている暇などないようでクソ重そうな木製の扉が気合いとともに少し開けられたと思うと俺はドタドタと扉の中に入れられ仲の豪奢で荘厳な中世風の装飾たちに感嘆する間も無くクラスメイトがイケメソ君と昨日死体を近くで見て固まっていた子以外揃っている中に到着、とりあえず皆も揃って間もないようなのでセーフであった。
「うむ。」
玉座にいたのは昨日も見た白いひげをたくわえた青い目の王様、おじさんとかじじいとかそう言う感じでなくマジで王様だと一目でわかる。威厳だろうか?王族的なオーラとかが出てるのだろうか?なんにせよ王様がそこにはいた。
…まあ、生き物は皆平等である。俺は別段力むことなく姿勢を正し列の中に埋没し謁見の開始を待った。
始まりはすぐだった。大臣らしき人物が王様に耳打ちをすると王様は少し悲しそうな顔をして玉座をたった。
「では、まずはじめに言わせてもらおう。本当に申し訳ない。」
そう言って頭を下げる王様を何故か誰も止めなかった。
「まず諸君ら呼び出すために多大な犠牲があった事を明示しておく。諸君らは総勢二十名だそうだが、我々が諸君らを異世界より呼び出すために使った人間の数は大凡千人である。」
「そんな!」
どよめくみんな、ついでに遅れて来た顔の青いイケメソ君が兵士に体を支えられながらも声をあげる。
「うむ、その犠牲を払うだけの危機が、そして異世界より諸君らをわざわざ呼び出し危険に晒してしまうのをよしてしまうほどの危機がこの国、ひいては世界に迫っているのだ。」
もう一度頭を下げる。それに合わせて謁見の間にいる兵士も、大臣すらも頭を下げる。
「まず、その脅威について話そう。昨日感じてもらった通りこの国には諸君ら日本人のよく知る物や技術の大半が存在している。流石にいんたーねっととやらやけーたいなどは無いが、それに近いものやその下地となる技術はできつつある。しかしそれでも、我々はその脅威に、撃ち勝てなかった。」
王様がそういうと魔法っぽい何かで大臣が巨大なスクリーンを中空に映し出した。
其処には世にも恐ろしい怪物…では無く生物かどうかすら怪しい無機質さと明らかな有機物感を伴う触手のようなものが蠢くナニカの画像が出される。
「これが、諸君ら勇者候補を呼び出した理由、その名も『邪悪』である。すでに世界には三つの『邪悪』が根付き、我々は今全力を持って対処に当たっているがどうあがいてもその源に邪悪の根元に近づけないのだ。」
ざわめきは大きくなり、本格的に異世界の情勢が説明され始めるとオタク系は震え上がり、イケメソ君の顔はさらに青ざめ、クラスメイトの半数は恐慌した。
そう、マジで世界は救いを求めていたのだった。