御食事ですけど…
目が覚めた。身体に異常は感じない、どうやら年上系ロリメイドは俺を殺す気は無いしらしい、とりあえず時間を確認しようと思ったが窓の外が暗く月が二個出ているのでおそらく夜だ。
ぐー
「お腹空いたなぁ。」
腹が減ってはいくさはできぬ、根性よりも筋力よりも切実に飯が欲しい、しかして今は夜、それもおそらく夜中である。ロリメイドを叩き起こすなど言語同断、懐と言う名の内ポケットに入れた貴族さんの財布を開けてひっくり返すが中にあるのは金ばかり、仕方ないのでそれを仕舞って水差しに入った水をコップにちょっと入れてよくかき回してハンカチでふき取る。
それをちょっと舐めて見て…五秒…十秒、問題なし、水差しから普通に水をコップに移して飲む。
「ふむ?」
窓から見える町っぽいものはこの中世っぽい城があるにも関わらず見慣れた電灯のような明かりが少しだけ見えた。あと水も水道水じみた高クオリティ、水差しを再度調べると底に青い色の少しだけ発光する石がはまっていた。魔石か?クリスタルか?よくわからないが多分魔法的なサムシングだ。
触ったりバラしたりしたい衝動にかられるがやめておく。
俺は別に悪人を自称するわけでも無いし、悪党であろうとも思っていない。
俺は生きる為に、死なない為に非道にも外道にもなるがそれ以外では善良でいたいただの一般市民である。
イケメソ君やその取り巻きみたいに正義感と倫理観を振りかざし、人の良いところだけを見るような、そんな見ようによっては美しくも有る生き方や価値観を押し付けられないし押し付けたくも無いので有る。
また、逸般人君みたいに世間一般からかけ離れた何かを持っていてそれでいて心のどこかで世間一般との関わりを切望し、殺せるのに殺さない、助けられるのに助けないとういう人外的な生き方はどうも真似できないので有る。
ある種どちらにも振り切れない半端者とも言える俺だがそれでも人間とはそう言うもので有るのだろう。
…まあ、それがこの不思議水差しを壊す壊さないの判断に関係するかは諸説あるだろうが、一つ言えるのは俺は壊さなかったと言うことだけだ。
ぼんやりとベッドの上で座っていると体のあちこちから金属音がする。
そういえば剣も短剣もポケットナイフすら没収されていない上に鉄のブーツと籠手をしたままだった。
「メイドさんのボディチェック…受けたかった。」
とりあえずそれらを一旦外して水に濡れたハンカチで磨くうちにもう一度俺は眠りに落ちた。
目覚めは人を殺めたと言う事が結構深層心理的に嫌な出来事だったらしく悪夢と心のピョンピョンする画像の二画面構成で知能指数が下がりそうだった。
「おはようございます!」
輝くような笑顔である。見ただけで目から水クリが出そうだったが、耐えて挨拶を返す。
「ん゛、おはようございます。」
この部屋に一つしかない扉をあけて入ってきた幼い顔の年上系ロリメイドさんは今日もポニーテールとか言う苦行じみた髪型をしている。個人的にはワンレンが好きだし、知り合いから聞いた話ポニーテールやツインテールができるほどの髪の毛があると重くてやってられないらしいのだ。きっと内心凄い感じになりながらこの髪型にしているのだろう。脱帽である。
「朝食は勇者様方全員に集まっていただいて食堂で、その後は謁見の間で謁見でございます!」
「はい。」
しかし、ピョンピョンと眼下で動くポニーテールと幼げなだけで年上なメイドは見ているだけで男子高校生の約九割が摂取できないビショウジョニウムが補給できる。ネットもテレビも無いような世界でまさかここまで高濃度のビショウジョニウムを補給できるとは…やるな異世界!
渡された水濡れタオルを特に警戒せずに使う。昨日は暗くてわからなかったがタオルも水差しの近くにあったらしく。俺が一生懸命ハンカチを真っ黒にして汚れを取った鉄の籠手とブーツと鎖帷子を装備し直しながらちょっと後悔したが、ロリメイドさんが洗濯してくれるらしいのでプラスマイナスゼロを通り越して俺ポイント一万点増加、色々と有頂天である。
タオルでさっぱりしたところで食堂まで案内してもらう。その間にも情報収集は欠かさない、今の俺はかなり高レベルな情報弱者、一般常識すら怪しいレベルだ。
しかしてここで聞かずにどこで情報を仕入れられるかわからない以上多少彼女からの心象を落としてもいいので情報を集める。
きいたことは多岐にわたり、答えも様々だったが、個人的に衝撃だったのはこの年上系美幼女(矛盾)がクォーターにドワーフだった事、俺は殺した兵士も王様も近衛も大臣も他の皆に付いたメイドも全て人族に見えたので異種族がさらっといるのに驚き、ついでにドワーフなのにずんぐりむっくり見たいな感じではないので驚いた。
ちなみに彼女にそこらへんを詳しく聞くとなんと他の皆に付いたメイドも獣人やエルフ、妖精や精霊など色々と混ざっており、異世界人といえど人間に別の何かが混じっている彼彼女らを受け入れられるかどうかなどをテストする意味合いも有ったらしい…っく、犬耳メイド!見たかったでござる!
「ぶっちゃけちゃうと差別自体は有ったんですけど差別できるほど余裕がなくなってきたというのが大きいと思いますよ?」
「成る程?」
なんだかひどく意味深なセリフを最後にし長い長い廊下の途中、食堂と読める外様用らしい扉の前にストップし華麗にターンを決めると先ほどまでの親しげな笑顔からスマイルフリーなファストフード店のような笑顔になると
「では、こちらが食堂でございます。どうぞごゆるりと御食事を楽しんで下さい。」
「…なんかちょっとキャラ変がひどいな。」
にこやかにケツをぶっ叩かれたが残念、我々の業界ではご褒美だ。
まあ、少々不恰好な感じの入場になったが周囲を見渡す。
「おお…」
「素晴らしいでしょう?このお城で謁見の間、王族のお部屋、それに次ぐ規模と価値を持つ部屋です。」
耳元にメイドの吐息付きとは最高ですな。チラリと横を見るとなんだか目が怪しい、どうやらドワーフの血が騒ぐらしいのか建築物や調度品を見る目がうっとりとしている。
まるで絵画の中のようなと言うと言い過ぎかもしれないが、荘厳な雰囲気と豪奢な調度品と清潔感のある白いテーブルクロス、並んでいる銀の蓋をされた料理の数々…
「ドキドキワクワクだな。」
まさに中世王侯貴族の晩餐会、THE・モーニング、ぐっどもーにんぐ娘、俺は適当な席に着き斜め後ろにはロリっ子メイドが控える。
ゆっくりと体が沈み込んでいくような席のクッションに思わず笑ってしまう。
「ま、気長に待つかな。」
「それがいいと思います。」
その後30分ほど経ってかなりぎこちない感じのクラスメイト19人が入場してきた。
ついでに言うと男子生徒のほとんどがメイドさんと一発やった感が出ていたのでとりあえずおめでとうと言っておこう。
そして少し経って料理長っぽい服を着込んだ熊が出てきて思ったよりも可愛らしい声でメニューを説明してくれた。
「本日のメインはレッドブルのステーキです。」
そしてメインの肉料理、少々エナジードリンク的な響きだったが柔らかく肉汁たっぷりでとっても美味しかったぜ。
何故か周りからジロジロ見られた上に皆んなちょっと食欲がないらしい、結構残していた。