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楽しい訓練だけど…


五十嵐千尋は可愛らしい。

その可愛らしさと演技通りに動けば剥がれない皮を被って自分に有利に生きていこうとするただの人間だ。


だが、それは逆に言えば想定外に弱いと言う意味でもある。


「という訳で昨日に引き続き体力作りだ。チヒロ…と言ったか。貴女は参加する前に魔法についての説明を少し、貴方は昨日の借りを返すのでちょっと走ってなさい。」


「わかりました。」


守ってくれる。

其れイコール自分で頑張る必要がない、が彼女の世界のルールだった。

だが、彼女がその身を委ねたのは残念ながら廃スペック一般人、一般人の恐ろしさは自分と同じかそれ以上を周りに求めるということ、それは庇護者にも及ぶ。

それは親が子供を教育するのと同じように、あわよくば自分を超え、自分に楽をさせてくれまいかと知恵を教授し資源を投入するのと似ている。

つまるところ彼にとって庇護者は育てるべきものであり、現在の千尋は強くなることを強いられているのだった。


「ほえ…」


巨大な王城の訓練所、一周がフルマラソン程度の其処を全力疾走する彼を見ながら彼女は自分の未来を悟った。


(あ…これは間違えた…)


ついでに言えばこの世界の女性の美しさに太刀打ちできないとも思った。



「…ふむ?大変に遺憾だが彼の方が魔法が上手いな…もう少し瞑想していなさい。」

「ぎりぃ…」


今日も今日とてランニング、二年間のうちになまった体を叩き上げなければこの先生きのこれないだろう。魔法によってエネルギーの操作が容易にできるので昨日の不意打ちの時のように倒れるエネルギーすらも推進力に変えて加速していく。


「トラ○ザム!」


もちろん、量子化はしない、人間が突然量子化なんてする訳ないだろ?


超超前傾姿勢での加速はついに訓練場の壁を走れる程度までになり俺は束の間のニンジャごっこを楽しむ事にした。因みに加速によって生まれる破壊、つまり運動エネルギーの速度以外への変換は全て強制的に速度へと変換しているのでこうなっているだけで単純な推進力の水増しと違いガリガリと何かが削れている感覚がするが昨日の今日でもう慣れた。さすが五十人分のエネルギーを埋め込まれた肉体である。おそらく規格外的な量のエネルギーを宿しているのだろう。


「ま、この世界での基本っていうのをまだみたことがないけどね。」


守護騎士さんも魔女先生もどう考えたって超一流の人間だ。才能と努力とさらにそれを超える狂気めいた決意によってあそこにいるのだ。守護騎士さんは昨日なんとか倒せたが多分同じトリックをもう使えないだろう。



ズサー、ズサー、ズサー、ズサー、ドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエホワイ!!


「…何ですか…あれ。」ロリ

「勇者様候補だろ、なんかやばい動きしてるけど。」戦士長

「なんかやばいとかそういうレベルじゃないですよ!?何で1ミリも足を動かさずスライドしたり突然飛び跳ねて加速したり空高く吹き飛んだりするんですか!?はっきり言って人間の動きじゃないですよ!?」隠密


なんだか出来そうだからやった。反省はしていないし後悔もしていない、そう!俺は一般人!退きません!こびへつらいません!反省しません!一般人に逃走はない事だー!…いや、まあ、そんな覇王めいた心構えはないけれどね、いまの某ツールアシストデーモンキャッスルめいた動きは魔法の応用である。


エネルギーの操作、今回は運動エネルギーの完全制御を試してみたのだ。

それによってゲームのような技を繰り出す時に発生する不自然な運動エネルギーを再現しそのまま動いているだけだ。

ちなみにやろうと思えばカサカサ移動もできるがこの世界のもゴキブリはいる。ついでになんか格好いい名前で呼ばれている。だが嫌われている。

…うん、まあ、仕方ないね、ゴキブリだもんね。


「シキソクゼッ!シキソクゼッ!シキソクゼッ!シキソクゼッ!」


「ブフゥっ!?ちょっwwきみww」


「奇妙な動きをする…というか魔法の無駄使いだな…」


頑張ればショーリューケーンとか色々出来そうだが…まあ、今は良いだろう。今の所難しそうなのはエネルギーを放つというところが難関のハドゥケン!とかキエンザン!とか其処らである。運動エネルギーは基本的に物体に働いているものである。なので空中というものを一種の物体として捉えればいけるかとも思ったのだがまあ何もない空間に高速で張り手をしても風が吹くだけだ。発勁のような浸透頸は非常に簡単に出来そうなのだが何かを放出するのがどうしても出来ない…やはりこれが人間の魔法の限界なのか…


その後もムーンウォークめいた後ろ歩きでスライド移動したり、その状態で短剣型の魔導具の結晶刃を展開したり元に戻したりを繰り返しながらフルマラソンをホバー移動したりしていたのだが、五十嵐さんの方がひと段落ついたところで再び模擬戦という流れになった。




「いいですか?勇者候補様…いえ、変態様。今日は絶対にあんなことしないでくださいね?」


「つまりあれ以外のことはしてもい「メキョォ!!」ウン、ソウダネ、セクハラ、ダメ、ゼッタイ。」


「…っ…」


さて、ロリメイドさんに脅されたり。昨日のことを思い出して顔を赤らめるクールビューティー守護騎士さんにほっこりしたりしたが模擬戦である。今日俺が選んだのは…


「大剣…か、なかなか妙なものを選ぶな。」


「え?そうですかね、やっぱかっこいいじゃないですか。」


「…そ、そうか。かっこいいか。」


勿論昨日と同じ短剣でも良かったがあれは少々使い易すぎる。せっかくの訓練なのだ使ったことのない武器を使ってみるのが一番だと思わないか?


…いや、というか実際近接戦闘用のものしか置いてないから明日はできれば遠距離武器も触りたい。


「案ずるな、今日の昼食後は遠距離装備の訓練だ。魔女殿の講義は夜になるが…貴方にとっては良いことだろう?」


「俺にとってはというかこの国にとっては…じゃ無い?」


俺がいるとみなのSAN値がガリガリ削れちゃうのだろう。全く。こんな善良な一般人を捕まえてなんて酷いことをいうんだ!


「試合開始の合図は私が。」


そう言ってロリメイドさんが旗を掲げる。

守護騎士さんは昨日と違い魔法によって展開された鎧を着込み装備も完全な対人専用、直剣と中盾、大楯と槍かとも思ったが守護騎士の名の通り騎士剣と騎士盾という感じの木製武具だ。


「はじめ!」


初動は守護騎士さんは突進、俺は待ちである。

何せ木製とはいえ人の身の丈を超える鈍器であるマトモに振るえる訳がない、さらにいえば剣術初心者の俺にこれを使いこなせるわけがない。


「そう、思ったら私の負けだ!」


「あら、バレちゃった。」


騎士盾を前に突進してきた彼女に向かって右手一本で大剣をぶち当て発生した運動エネルギーを操作し自分の体を操り人形のようにして彼女の剣戟の範囲から逃れる。

構えは低く。大剣を右手にそれを背負うようにして獣のように構える。人の身にはいささか大きい此の剣も魔法がある世界では通常の武具である。


俺は地面を踏みつけ魔法で地面と足とに発生する力を往復させ地面を揺らす。しかし守護騎士さんは既にこちらに今度は剣を前に突っ込んできている。その足は俺の行動を読んでいたかのように宙に浮いており、震脚擬きは効いていない、それを確認した俺は地面を左ストレートで砕き捲き上る土を大剣でなぎ払い高速化して吹き飛ばす。


木製盾は石礫で吹き飛んだが魔法によって顕現した金属鎧は大量の土砂が当たっても凄まじい音が鳴るだけで変わりない、ついでに言えば木製剣はまだある。だが、彼女の突進は防げたようだ。


「なかなか、悪辣な攻撃をしてきますね。」

「そうじゃないと一瞬でなます切りですからね。」


大丈夫だろうか、まだタネは割れていないだろうか、いや、さっきのマラソンで気がつかれたかもしれない。


「…なるほど…」


彼女の小さな呟きは聞こえたが無表情で切り返し、俺は大剣を彼女に向かってぶん投げた。


彼女は飛んできた大剣を往なしそのまま俺に突っ込んできて…


背後から吹き飛んできた大剣をすんでのところでもう一度いなした。


「やっぱり…教えてもいないのに『武具操作』の基本を既に理解したようですね。」


「ちぇ、やっぱりそういうのあるのか…」


俺はまるで独りでに手に戻ってきた木製の大剣を右手で受け止めて傍に突き刺し寄りかかる。


「一体…」


「あれは人間に許された唯一の魔法その基本使用法の一つにしてある意味最強の一つです。」


五十嵐さんとロリメイドがバトル漫画の驚く役と説明役みたいな事をしているがこんなのはただの手品である。


「力の操作つまり動きの操作だ。今はまだ決まった風にしか動かせないけど…多分この世界の人ならみんなできるようなものでしょ?」


「ええ、厨房を任されているベアー宮廷料理長も初動だけ与えて独りでに鍋をかき混ぜさせたり野菜を切ったりフライパンを動かしたりしています。しかし確かに一般的ですがそれは飽くまで生まれつきこの力に慣れ親しんできた故の結果です。勇者候補様のように1日2日でなるようなものではないですよ。」


…驚愕!クマ料理長は人間だった!?


「え?料理長が…人間…?」


「っむ、知らなかったのですか?あれは着ぐるみです。」


いや、知るわけないだろまだきて何日かしか立ってないんだぞ?


「守護騎士様、勇者候補様…特に彼はまるで無茶苦茶ですがまだこの世界に数日しかいないんですよ?」


「……ああ、そう言えばそうだった。」


大丈夫かこの人、さっき数日で使えるようには云々言ってたよな?大丈夫?マジで大丈夫か?


というかまだ模擬戦中であり決着はついていない、


「いえ、決着は着きました。」


彼女がそういうと木製盾を持っていた左手の小手が吹き飛んでいる上に剣も穴あきチーズのようになっているのや極め付けに後ろから吹っ飛んできた大剣に鎧の肩の部分が吹っ飛ばされているのをみせてきた。


「素人に、しかも安物とはいえ騎士鎧を持ち出してここまでの損害を与えられたのです。飽くまで模擬戦であるこれは死合いではありません、それに昨日のことも私の弛みが生んだ油断の産物、故にこれ以上戦う意味はないでしょう。」


…まあ、それもそうだけど…


「本気じゃない相手に全力ぶつけてこれなんてこの先が危ぶまれるねぇ…」


「…ふふ、気づいていましたか。」


彼女は守護騎士、つまり守りが専門である。今回は不自然なほど攻めてきていたが…彼女の守りをその身で体感する事が無いように、ちょっと控えめに生きていこうと思った。





あれ、私の出番は?


安心しな勇者候補の嬢ちゃん、俺も今回は最初しか喋ってねえぜ。


隠密なんで影が薄くてなんぼですが…これが登場人物が増えるが故の定め!




魔法…二種類の意味で使っています。一つは異能力的なもののこと、もう一つはその源泉である謎エネルギーの事です。

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