クラスメイトだけど…2
よく考えれば部屋に知り合いを、それも女子を入れるなんていつぶりだろうか、俺は目の前にいるクラスメイトに目を向ける。
「け、ケモミミ美女…っく、手が早い、ロリロリなメイドさんとイケメン衛兵さんだけじゃ飽き足らず忍者なケモミミ美女も完備とかコノシロの戦闘力は化け物かっ!?」
見れば見るほど…というか、一緒にいればいるほど残念さが滲み出てくるスルメのような味わい深い少女だが、今は彼女の頼みを聞くために呼んだのだ。
「…満足したかな?」
「っは…満足しました!」
正気なのか怪しいが…まあいいか、結局の所マトモかどうかなんて自分にしかわからない、他者からの評価なんて相対的なものは自分にとっては社会からどう見られているかの指標にしかならない、彼女のような目麗しい、そして普通じゃない少女にとってはそんなもの関係ないのだろう。
まぁ、で、それで、だ。
「何を俺に頼みたいんだ?言っておくが俺はただの一般人だからな、格闘技世界チャンプめいた武力も無ければ知識もそこそこ、何か良いところがあるとすれば勤勉さくらいなものだ。」
彼女はそれを聞いてまたヘンテコな顔をしていたが彼女はすぐに素面に戻り言う。
「…君はさ、初日に自分がやった事を思い出したりしないの?」
「いいや、別に、関係ないヤツのことなんか考えるだけ無駄だろう。それならもっと美少女のこととか色々考える。」
そういうと彼女はさらにヘンテコな、いや、『想定通り意味不明だった』と言う感じの呆れるような反応をして言う。
「単刀直入に言えば私を守ってほしいの。」
…ふむ、これはアレだろうか?
「嘘告白とかそう言う遊びか?」
女性が男性に向かって守ってほしいと言うのは中々大胆と言うか、女性らしさを前面に押し出した狡い手というか…端的に言えば普通ありえないシチュエーションだ。
「違うよ、初日に君以外が兵士になすすべなく捕まった時に死にたくないって、思って、君が一番強そうだったから君に靡くことにしただけ、君のことが好きなわけじゃないし、何か見返りが欲しいなら私に払える全てを投げ打つよ。本気と書いてマジと言うヤツだ。」
うう〜む、
「本当らしいな。」
まあ、本当なのは良いとしてだ。
「死にたくないならこの城にずっといれば良いじゃないか、ここの国王様もマトモな人っぽいし、俺たちは拉致被害者、見た目だけ中世だけど法整備も完璧だ。人権侵害は無いだろう。」
一緒にいてくれるだけじゃあダメだ。人という字は人と人が互いに寄り掛かろうとしてどっちがもっと楽ができるか虎視眈々と狙っている字だと聞いたことがあるし、俺もそばにいるだけで良いような美少女はロリメイドさんだけで十分だ。それ故に彼女にはある程度の能力を求める。守るにしても守る対象がパッパラパーではやってられないからな。
だからこそこの質問への答えで…見極める必要がある。
少し間が空いて彼女は返答する。
「ダウト、国王様がマトモそうでもやってることは絶対にブラックに片足突っ込んだグレーだよ、異世界テンプレとは言わないけど邪悪ってやつに私たち以外が対抗できないならどうやって今の人類の生息圏を維持しているのか説明がつかない。」
ふむふむ、俺のように知識を貪ってからその答えを出すのではなく想像と現状からそこまで予測したのか…
「ふむ…」
彼女は俺の方をじっと見つめ生唾を飲む。何故にそこまで緊張しておるのか不明だが…まあ。
「そうだね、君一人くらいなら守れるかもしれない。」
「まじ!まじで!いい?言質は取ったよ!?」
「ああ。」
君の利用価値が無くなるその日まで、君のことを守ってあげよう。せいぜい死なないように、ギリギリの線を見極めて、離れられないように丁寧に…なんて、ヤンデレめいたことは言わないが、俺は自分一人守れるか怪しい一般人、ただの可愛い子を守ってやれるほど強く無い、だから彼女が死なないように死ににくくなるようにせいぜい水先案内人を務めるとするかな。
凄まじい喜び様の彼女の中では彼を利用する算段が着々と組み上げられていたが、初動すらつかみきれなかった彼の行動を彼女が予想できるはずもなく。彼女の地獄はジワジワとその扉を開けられようとしていたのだった。
「…なんの躊躇いもなく誰かを傷つける才能か…」
一般人を自称する彼に逸般人と呼ばれていたマジカル古武術(笑)の使い手は今日の出来事を振り返っていた。
『一般人である俺が…』
その中心はどう見ても逸般人である彼になる。といっても今日も昨日も食堂に行ったり気配を消して場内をうろついていただけだ。彼の行動を完璧に知っているわけでは無い。
「誰もあいつの名前を知らない…か。」
だが彼の過去を知ることはできる。彼の刻んできた過去を、そして膨大な彼に関する噂と事実に隠された些細な違和感を、意図的なのか、それとも誰もが彼に興味がなかったのか、彼のことを知っている人間は多いが彼の名前を知る者はおらずさらに言えば彼の友人であるとか彼と能動的に受動的にでも話したことのある人物がいないという異常事態に逸般人は冷や汗を流す。
「三人称でよってのみ語られる都市伝説…ね。」
彼は実体のある伝説だった。
やってきた事は知れ渡り、その容姿も、異常なまでに普通にこだわるあり方も知られているのに誰も彼もが彼の名前を知らない、いや、知っている人間はいるのだろう。だが覚えていない、思えば自分もクラスメイトと言う希薄な関係ではあったにしろ同じ教室にいたはずのなのだ。それなのに彼の名前を知らない。
「ああ、クソ。イケメン委員長がいれば1発なんだが…」
優等生という言葉を擬人化したような幼なじみ、クラスのトップカーストの三人と昔からの馴染みであった彼はこの国の姫と共にふらりと何処かに行っている完璧超人を思い浮かべる。彼は在籍した全てのクラスの生徒名を覚えていたり、生徒手帳の内容を暗記していたり、ありえないほどの善性を持っていたりと色々とおかしいのだが…
「いると面倒臭いがいないのも面倒とは…さすが委員長だぜ。」
いると彼の幼馴染、自分の幼馴染でもある空手バカと読書バカが姦しかったり、クラスの女子の騒音発生力が53万に跳ね上がったりと弊害はあるが、こういう時にこそ痒いところに手の届く彼の存在が無いのは辛かった。
「…つーか、姫さんとくっつくのはいいがあいつらどうにかしてくれ…」
委員長のことを考えているうちに『彼』よりも直近の危機、というか迷惑…端的に言えばストレスである幼馴染女子二人組についての恨み言が出てきた。
それによく考えなくても『彼』は無闇に何かを殺めたり、騒動を起こしたりはしない、そうすべき時にそうしているだけ、日常の中で際立った違和感を発生させるだけで今のような異常自体の中ではその異常は異常では無い、
「…いまは、傍観だな。」
3日後に始まるという勇者としての訓練という物も彼の悩みの種ではあったが道場のそれよりは楽だろうと考え、とりあえず寝ることにした。
「ユウトユウトユウトユウト…」
だが、狂気はすぐそこまで迫っていたのだった。
「アノオンナアノオンナ…」
「…まずいね…」
「どうしたのですか?勇者様。」
「ああ、なんでもないですよ、それよりももう遅いです。今日はお休みになってください。姫様。」
委員長、生徒会長、部長、さまざまな呼ばれ方をするが彼の本名は別にある。
初日からこの国の姫と共にあり今も彼女の精神衛生上のためと言うことで特別待遇の彼だが、今それは重要ではなく。彼にとっても今の役職は非常にまずかった。
(薫と楓、怒ってるよな…いや、というか多分…闇に落ちてるだろうなぁ…)
姫から離れられないといういまの状態は彼の得意とする。いや、彼を完璧超人たらしめる人間関係の構築と維持と言う彼の武器が半ば封殺されているような物だ。それに加えて彼は難聴でも無ければ察しが悪いわけでもない、幼馴染の感情に気づいていないわけがないのだ。
それを知ってなおいまの状況をどうにか保たなければならない理由が彼にはあったが異世界にきてもそれが有効なのか…彼は頭を抱えた。
(っく…い、胃が…)
なんだか姫もコッチにアレな目を向けてるし、王様はそこらへん気にしてないみたい、というか何か企んでるし、物理系逸般人である親友は色恋には疎い上に僕の事情を知っていて放置してくれてる完璧な友人だし、ちょっとチャラ男みたいな見た目の幼馴染はこういう時に役に立たないし…ウグゥ!?
「恨むよ…霧切君!」
そうやって頭とお腹を抱え恨めしそうに『彼』の名をつぶやいた完璧超人はダークなオーラが漂う二人の部屋へズタボロの体で調停に向かう。
完璧であろうとしているのではなく。ただあるだけで見かけは完璧超人風になってしまう彼の内面は、そして胃は、常に穴だらけであった。
完璧超人…白鳥は優雅に見えるが水面下で凄まじい努力をしている。つまりそういうこと。