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クラスメイトだけど…


書庫を出た時刻は不明だ。何せあの書庫にあった時計はつい昨日あった戦いで粉砕されている。ついでに最近城に侵入者が多いことから外からの物資輸送を一時的に止めているらしく新品が届くのは一週間後らしい、まあ、それはいいのだ。


「「「………」」」


「ねえ、キティさん、俺はなんでこんなに睨まれているんだろうね?」


「…ご自身の胸に手を当てて考えてみてください。」


時刻はぴったり食事時、魔女先生が気を使ってくれたのかもしれないが、この状況はおそらくロリメイドさんたちが危惧していた状況なのではないだろうか。



彼女たちは俺の護衛であり監視であり一応建前上専属お世話係的なアレである。まあ、度重なるセクハラ行動によりロリメイドさんの鉄拳が光り気味だがそれでもこの城の中にいる勇者候補、召喚された異世界人の中でこんな破格の待遇(のように見える)を受けているのは俺とイケメンくんだけである。


…そういえばクラス転移というやつをしたのはいいが我らが担任は何処に行ってしまったのだろうか…俺がそんな現実逃避めいたことをしながら熊のシェフが作ってくれた謎肉のステーキベリーソース似の何か和えを食べていると俺の前に移動してくる女子がいた。


「…こんばんは。」


「こんばんは。」


何処と無く見たことがあるような、同じ教室に痛んだから見たことがあるに決まってるんだが…ああ。思い出した。


「睨みつけてた女子か。」


「…驚いた。名前すら覚えられていないなんて想定外だよ。」


茶髪、赤い髪留め、黒い切れ目、すらりと鼻は通っているが眼鏡と隠しきれないクマが何処かオタク臭を感じさせる。


「貴公、さてはオタクだな。」


「…どう反応すればいいの、それ。」


どう反応すべきかと言われても久方ぶりに喋るただのクラスメイトというのにどんな反応をすればいいのか困っているのは俺の方なんだが?


「とりあえず、笑えばいいんじゃないか?」


「その万能ワードは禁止…っというかそんな話をしにきたんじゃないよ、私は。」


ふむ、コミュニケーションはお嫌い…ううむ?


「肉体言語で語り合う脳筋女子か…それはそれで。」


「妙なキャラずけしていないでとりあえず思考回路をまともにして。」


仕方がないので真面目にしよう。とりあえずロリメイドさんに水をもらってコップを傾け、肉料理のお代わりを頼む。


「で、何用かな。」


いや、どんな用があるかなど聞くまでもないのかもしれない、というか皆が皆露骨に嫌悪感に似た感情をぶつけてきているのだ。検討はつかないが何か面倒ごとなのはわかる。



クラスには絶対に三種類の人間がいる。

可笑しな根明と可笑しな根暗とそれ以外だ。


根明、根暗の双方は互いに何かしらの接点がある。良くあるのはいじめる方といじめられる方というわかりやすい物だ。

根明の方もグループの維持のためにそれを見逃すし、根暗の方はそもそも反抗を許されていない、高校では担任がまともで助かったが中学、小学といじめに加担するような、もしくはそれを意図的に見逃すような輩が担任だったこともあり中間にいるその他である私はいつ虐められる方に転ぶかわからない恐怖と戦っていた。


「ねぇ、見苦しいからやめてよ、はたから見なくても吐き気がするような茶番だからさ。」


そんな時、小学生だった頃に出会ったのが自称一般人、他称逸般人である彼だった。

彼はそう言いながらまともな教師を連れて来たり、逆上したいじめグループを内側から精神的にも物理的にも粉砕する。

中には成績や親の力でゴリ押すような奴らもいたが彼自身も成績優秀な上に証拠品として常に身につけている録音機や某名探偵めいた小型撮影具などを使用し権力に屈しないスタイルを貫き最終的に教育委員会をぶち抜いて裁判にもつれ込む一歩手前で相手が折れるなど様々な伝説を残しそれでもなお一般人だと名乗る彼はいつの日か『破壊者』の渾名をほしいままにした変人だ。

今でも彼の胸から出てくる鏡を見て顔が引き攣る人もいるほど大人も子供もそれどころか彼に助けられた側ですら怯えるという。



そんな彼とは前述の通り小学校からの付き合いであるはずの私はつい先ほどまで彼の中では名も知らぬ一般人Aだったのだろうが…


「とりあえず自己紹介をしようと思う。」


「…ほぅ?」


この世界において彼ほど頼もしい人間はいないだろう。少なくともあの歪んだイケメンくんよりも行動が読み切れる彼の方が一緒にいて安心できる。


「私の名前は五十嵐千尋、覚えていないでだろうけど小学校からずっと一緒のクラスの美少女よ。」


「自分で言っていくスタイル…まあ、少女だし可愛いのは確かだが美少女かと言われる疑問符がつかないか?」


…ふぅ、青筋が立ちそうになったが耐えたわ、ええ、耐えるのよ千尋17歳、読者モデルとして築いてきたくだらない自信やプライドなんてこの変人の前では無意味!ただのオタク系少女で通すしかない!


「折り入って頼みが「いいよ。」……ほえ?」




「ほえ?」


目の前には何やら色々と考えていたらしい少女が思考停止したのかヘンテコな顔で乗り出してきていた。

だがそこは重要ではない、クラスメイトが頼みをしてきたというのが重要なのだ。


「いいぞ?何かは知らんが一般人である俺が協力できる事なら何でもやってやろう。」


普通の人は女の子からの頼みは断らない、それが目麗しい少女のものならなおさら断る要素などない、それにクラスメイトなだけだが逆に言えばクラスが一緒というだけでも普通は繋がりを感じるものなのだ。故に俺は彼女の頼みを聞く。


「ほほほ、本当にぃ!?」


大声を出さないでほしい俺は一般人故悪意には強いが注目に弱いのだ。というかなんで俺はオタク君たちに睨まれているんだろうか、ここはひとつ読唇術を…えーと?『ヌボアアア、千尋殿が!千尋殿が破壊者殿に媚を売っているぅぅ!ゆるざん!』…ふむ、媚を売っている…か…俺はそんな大層な存在なのか?



っは、いけないいけない、ちょっと動揺しすぎた。やばいなさすが破壊者料理ひとつで女子生徒の心を粉砕しただけはある。なんの関係もないけれど全てが予想外すぎる。というか誰が彼の事をどうにか出来るって考えたんだ!一体どこのどいつだ!?……私だね、うん、私だ。


「ああ、本当だ。というかなんでそんな驚いているんだ?そんなに薄情なやつだと思われていたのか?」


(…人間をざっくざっくと無表情で殺しておいて薄情…というか普通のやつだと思う人なんていないよ!)

と、言いたいのを押さえ込んで…


「うん、まあそうだね。」

(いやー、そんなわけ無いじゃないか…)


「そうか、なるほど…」


(・x・)?


オ…オイぃぃぃぃ!?何アニメめいた本音と建て前の反転しちゃってんだぁ!?マイマウス!?wtfどころじゃないよ!大失敗だよ!?何でわざわざ頼みごとをする相手をけなしちゃってんのォォォ!?


「いや、大丈夫だ。予想の範囲内だ。」


その言葉に再び私の脳内は真っ白になった。


彼の言葉が意外だったのは私だけではなかったようで彼の隣にいた小学生高学年のように見えるメイド少女がステーキを目の前に置きながら危険人物を見る目を彼に向ける。


「…さすがは勇者候補様…と、言いたいところですが、一般人を名乗る以上そんなことが出来るのはおかしいのでは?」


すごい!私たちがいつも言いたかった事をこんなあっさりと!そこに痺れる憧れ…


「?何を言ってるんだ。これくらい普通だろ?」

「…そうですかぁ…」


あ、だめだ。やっぱり彼は彼だった。


「まあいいや、とりあえず後で部屋に来てくれ、今はステーキを食べる的な仕事で忙しい。」


「アッハイ…」


これが、彼と彼のクラスメイト、いや、彼と同じ勇者候補の中で唯一彼の同伴者となった五十嵐千尋と彼の始めての会話だった。


モッピー知ってるよ、これはヒロインじゃないんでしょ?

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