魔法だけど…
奇跡も魔法も、神も精霊も、悪魔だっている滅亡間近な異世界生活、はーじまーるよー。
「…なんか、こう…どーんと凄いのが撃てないんですかね?」
俺は指先に灯る灯火を見ながら魔女先生に聞く。
「人の、持つ魔法は、その力の、向きと、性質を、変えるもの…複雑な、操作は魔導具、を使わなければ、不可能。」
こんにちは全国のDT…もとい魔法使いたる資格者達よ、俺は今異世界召喚されて3日目にして異世界の醍醐味魔法というものに触れて見ている。
が、それは思いのほか融通のきかないモノだったよ…
そもそもこの世界において魔法とは『人類の備える力を変換する力』というものであり、そこに魔力、とか術式、とかは存在しない、原則として力の性質や向きを変えたりする事ができる。いや、それしかできないものなのだ。
そしてそれのみが純粋な人族に許される異能、『魔法』である。
鼠のお姉さんが使う変化は正確には魔法ではない、体質である。
獣の因子がある獣人は人族の中でも特異な存在で、その身は人族としての姿と半人半獣の姿、そして獣の姿の三種類の姿を持っている。
鼠のお姉さんだったら鼠耳が生えている今が人間形態で以前捕まえた時の様な鼠の姿が獣の姿、まだ半人半獣の姿を見ていないが…まあ、それはおいおいである。
今記憶すべきは魔法とはその身の持つ万能のエネルギーを変質また変換する力であり、それ以外の能力を持つものは例外なく純粋な人間ではなく。また、広義の意味では今この世界において人族とされる者も純粋な人類とは言い難いらしい、という事だ。
そもそもの話、力の向きや性質の変換がどう言った物なのかそれがどういう原理で起こっているのかとかについては…よくわからない、なんで人間は手足があって二足歩行して万年欲情しているのか、と純粋無垢な子供に聞かれてもわからない様に、もしくは説明不可能な様に、この世界において魔法とは当たり前なのである。
常識であり、周知の知識であり、誰もがその強弱はあれど使うことのできるマジカルなパワーなのだ。
そして魔法の使い方は非常にシンプル、簡単すぎてモンキーにでもできちゃう簡単仕様だ。
念じる。
その一手である。
そこに物理法則とか面倒くさいものはない、飛んできた矢や石をその意思でもって跳ね返そうと思えば幾ばくかの疲労感とともにそれは現実となるのだ。
そして物理法則はないこの世界だがなんとエネルギー保存の法則やらなんやらは存在している。
まあ、魔法が力、つまりエネルギーというものを概念的に使う物なのだから致し方無いのだが…どうやら奇妙なことに、というよりも物理法則さんが仕事していないこの世界だというのに落下開始から落下終了までの高さに応じて発生する運動エネルギーはどんな落ち方でも同じなのだ。
つまり石を投げてから相手に当たるまでで発生する運動エネルギーやなんかは速度や飛び方はともかく常に一定なのだ。
この原則、法則を元に魔法は成立しているらしい。
これを捻じ曲げるのではなく少し手を加えたり、向きを変えたりするのが魔法である。
無から一を作ることはできないが一から百を生み出せる。それがこの世界の魔法なのだ。
そしてこの魔法が最も役に立つのが戦闘時、剣を振るその勢いを加算したり、剣の運動エネルギーを熱や電気、時には横向きの力を突然縦に変えたりする。また、念じることでできるので訓練次第では脊髄反射めいた勢いで高速戦闘をしながら使えるので魔法の力を磨くことはこの世界で成り上がる上で重要なファクターであると言えるだろう。
だが、どれにも言える事だが無いエネルギーを発生させることはできず、発生したエネルギーに干渉することがこの力の本質であり本領である。
なので単純に身体的な能力を強化するというよりは体を使って発生する力を増幅させたりする。というのが魔法なのである。
それに比べて、魔女の術は無から有を生み出すこともできるし、時空を歪めたり景色を塗り替えたり、認識をズラしたりもできる。
その代償としてさまざまなものがあるが彼女の場合それは孤独であり死なない体である。
勿論異世界らしく不死身を殺す武器もあるそうだがそれすらも効かない完璧な不死である彼女は死ねない、死なないというのが代償となっているらしくそういうタイプの魔女は最初はヘッポコもいいところだが年月を経るごとに強力な術を使える様になっていくらしい…うん、チートかな?
「まぁ…私は、そのほとんどを、忘れて、いるがな…」
そう悲しげにいう魔女先生だが残念な気持ちなのはこちらである。
どうも魔女に男は成れないらしい、というか後天的な魔女というのはいるが強制TSだったり、オカマだったりラジバンダリ…魔人という者もいるらしいがそれはそれで条件が大変そうである。
それはさておき、つまり人族の持つ魔法はそれぞれの種族が備える異能の中でもかなり微妙な感じの物なのだ。
エルフは精霊と対話できるらしいし対価を払えばその力を借り受けることもできるらしい、ドワーフは種族的な怪力と武器のセンスなによりもその頑強さは人類の中でもトップクラスだし、魔女は素敵な術が使えるし…そんな中でドワーフの怪力と正面から打ち合えるほどになるには膨大な訓練が必要で、多少水流や風向を操って圧縮してはなったりはできるが精霊のそれとは比べられないほど脆弱で、魔女の術よりは応用範囲が狭い、比べることもあれだが魔族という邪悪の眷属が持つ異能の様に常にその身に宿っていたり、その異能が世界の理の外にあるわけでも無い…まあ、強いは強いし、現騎士団長という人物は魔法と剣技だけで攻撃が通じないはずの邪悪の侵攻を年単位で送らせているという超人である。可能性がないことはないが……
「ぶっちゃけ、勇者候補、であり、もともと、特に戦闘技能、のない人間…邪悪、は倒せても、其処に、たどり着けない、かも…というか、多分、無理ね。」
「いや、そんなはっきり言わんといてください。」
俺は指先に集中させていた熱エネルギーを霧散させる。同時に熱エネルギーによって加熱され燃え上がっていたチリはそのエネルギーが加えられなくなったのと同時に燃えるのを停止して指先から灯火は消え去った。
いや、まあはっきり言われなくともわかっているがこんなチンケな手品で世界が救えるならこれをベースに発展を遂げたこの国が、世界が、危機的状況に陥るわけがない。
「…だから、貴方たち、は『勇者候補』、人間を、辞めてもらう。それだけよ。」
そう、人間以外の持つ特殊な異能、それを獲得し人間から『勇者』を作る事、それがわざわざ多大な時間と力を注いで異世界人を呼び出す理由であり邪悪に対抗できる武器足り得る存在なのだ。
(まあ、多分他にも色々あるんだろうがな。)
魔法の講釈を聴きながら、俺は邪悪に干渉できる異界のもの、この世界の外からきた物の有効な活用法に思い馳せる。
そう、例えば…不慮の事故で死んだ異世界人の体を使って武器を作るとか…ね。
「…あなた、いい性格、してるわね。」
魔女先生の呟きは俺の思考を読んだ為に呟かれたものか、それともそんなことを考えついた俺への侮蔑か…その意図は分からなかった。
さて、空気が悪くなったが魔法の話の続きだ。
この世界には魔導と呼ばれる魔法を使った工業の様なものが盛んに行われている。
様々な特性を持つ魔物の素材や『魔石』と呼ばれる異能の根源、生命の力を宿す強大な力を宿す石を使い国中に魔法を行き渡らせ生活を豊かにしたり、高性能な魔物の素材を擬似的に精製したりと、その技術は日々進歩している。
そしてそれは当然武器や防具、兵器に転用される。
「今、となっては、魔女の術、も人の、技術より、優れている。とは、言えないわ。」
勿論空間を歪めるだとかそう言う点では未だ人間の魔導は魔術に遅れをとるが単純な破壊兵器や武具ではドワーフやエルフ、そして人間の技術を結集した魔導具の方が優れているそうだ。
「…もう、暗くなるわね、今日、はここまで、また、明日に会いましょう?」
「おう?もうそんな時間ですか?」
新しい知識というのは学んでいて飽きないものである。しかも魔法やら魔導やら…最終な幻想とかそう言うゲームの中のようなエキサイトな学問があるのだ。現代オタク系日本男児としてはまだまだ興味は尽きない。
だが、朝の守護騎士さんとの戦闘訓練や読書漬けの午後という対照的な時間が俺の体力を削っているのは確かである。
昼飯はロリメイドさんにサンドイッチを運んできてもらったが晩飯くらいはきちんと食べたいということもあって今日のところは大人しく帰ることにした。
「じゃあ、また明日もお願いします。」
「…ええ、また、明日。」
最後まで目隠しを外さなかった魔女先生の『また明日』は華やぐような笑みとともに俺の気力を回復させたのはいうまでもない。
…読書という行為は他者との繋がりが薄くなりがちである。
それは本を読んでいる本人がほんと向き合っているからであり、一種の集中状態である。
だがそれは本を読んでいない者に訪れるわけではなく。むしろ規則的に動かされるページとそれがめくられる音は読書をしている人物を監視する方に凄まじい眠気を感じさせる。
「…んお、終わったのか?」
「ううー、まさか勇者候補様がこんなに学者気気質だったなんて…やばい、途中から寝てませんでした?私。」
「…二人とも…」
ロリメイドことキティが危険人物な勇者候補の動向の監視と護衛である兵士長アレクサンダーと元隠密のグレイラットがすでにグロッキーなのを見て頭を悩ませたのはいうまでもない。
まとめ、
魔法…人類種の持つ異能力。
魔女…人類の異能を超える『魔術』の使い手。
魔導…人類の持つ魔法によって形造られた技術。
魔法の根源…生命力。
魔力はない!魔力っぽいものはあるけど基本的にない!
ついでに人間以外は二つから三つの異能を持っている。
人間は力の操作
ドワーフは手と力と才
エルフは目と祈りと血