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第五話

「……会いたくない」

 僕の呟きは、六畳間に拡散し、静寂に溶けていった。ボロアパートは通気性抜群で、室内は絶対零度もかくやという気温を保っている。そのため、呼吸する度にちろちろと白い煙が口元をうろつく。なんか幻想的。きれい。

「…………会いたくない」

 僕は下半身だけをコタツの中に入れ、上半身は畳の上に投げ出すようにしていた。ジイィィ、とコタツの稼働音が聞こえてくる。そろそろ上半身も冷えてきた。首根っこまでコタツに浸かろう。そう思うのだか、気力がわかない。

「………………会いたくない」

 卓上で起動しっぱなしのノートパソコンは、焼け付きを防止するために一定時間毎に壁紙を変化させている。お気に入りのラノベのヒロイン、お気に入りのアニメのヒロイン、お気に入りのエロゲのヒロイン。スクリーンの女の子たちは、笑顔で僕を見ている。

「……………………会いたくない」

 嗚呼、やっぱり二次元はいいなあ。どうして、僕の生きる世界は立体なんだろう。僕が世界にうまく適応できないのは、3D酔いが原因なのかもしれない。平面の方が生きやすいって、絶対。ていうかさあ、前々から疑問に思ってたんだけど、どうしてまわりの奴らは人生ノーマルモードだってのに、僕だけは人生エクストリームウルトラベリーハードモードなんだよ。難易度設定ミスりすぎだろ神様。すぐにでも抗議文書を天界に提出したい。武井ヒロシの大幅なスペック変更を希望する。

「…………………………会いたくない」

 まずはコミュ力から、次に顔、次に身体、次に知力、ていうかもう全て最初からやり直してしまいたい。異世界転生してチートでハーレムな人生を送りたい。もしくはエロゲ主人公みたいな人生がいい。次は最新OS搭載のハイスペックな仕様で頼むよ神様。

「………………………………会いたくない」

 新たに生まれ変わった武井ヒロシは、恵まれた家庭に生まれて、恵まれた環境、恵まれた友人を持つんだ。隣の家にはおせっかいな幼馴染みが住んでいて、小さい頃からお互いを意識しつつも、なぜだか素直になれない。そして、いつも変態的な行動ばかりして痛い目みる悪友がいて、無口な先輩やら元気ハツラツな後輩やらがいる。ついでに生徒会長とか、文学部の部長なんかもいたりする。攻略次第によっては、女の子全員が僕に尽くしてくれるハーレムルートまである。

「……………………………………会いたくない」

 あれ? 最高じゃね、この世界。どうやったら行けるんだよ、誰か教えてくれ。こんなユートピアに行けるのなら、何を差し出したっていい。あれかな、死ねば行けるのかな。俗世から解脱すればいいのかな。どうよ、涅槃とか目指しちゃう? ようし、なんかやる気がわいてきたぞ。そんな桃源郷に行けるのなら、明日から頑張っちゃうぜ。目標は仏陀先生だ。さあ、いざ行かん、理想郷!

「…………………………………………会いたくない」

 うん、そろそろ現実逃避は止めよう。

「会いたくなあああああああああああいいいいいいぃぃぃ!」

 絶叫しながら、水揚げされた魚のようにビチビチと畳の上を跳ねる男がひとり。もう誰だか言わなくてもわかるよね。そうです。僕です。

 しばらく頭を掻きむしり、もんどりを打った後、電池の切れたロボットのように停止する。

 疲れた。それに、あんまりうるさくすると他の住人から怒られるかもだし。冷静になろう。クールになれヒロシ。うん、落ち着いてきた。

 ふはぁ、と溜め息とも深呼吸ともとれる息を吐き出して、上半身を起こす。そして、卓上のノートパソコンを手早く操作して、一件のメールをクリックした。

『明後日、午前一時に伺います』

 妹から届いた一通のメール。僕の精神が崩壊しかかってる原因はこれだ。そして、このメールに書かれている明後日というのが、今日だったりする。つまり、後一時間ほどで、涼子は僕の元へやってくるというわけだ。

 彼女が何をしにこのボロアパートへやってくるのかは、僕がひきこもりニートであることを鑑みれば、容易に答えを導き出せるだろう。答えはズバリ生活費。ひきこもりニートである僕の元に、こうやって月に一回、生活費を渡しにくるってわけだ。

 なら、なぜ妹と会うのを嫌がるのか。妹からカネをたかるクズのくせして、言うことが生意気じゃないか、と。全くを以て、その通りだと思う。反論のしようがない。

 しかし勘違いしないで欲しい。僕自身、涼子には感謝している。彼女というライフラインがなければ、文字通り僕は餓死してしまうのだから。ありがたいと思わないわけがない。

 けど、こればっかりは理屈じゃないのだ。

「…………」

 暗澹とした気持ちで、差出人の武井涼子の文字を見つめた。

 ま、どちらにせよ、僕に選択肢はない。なぜなら、ひきこもりに逃げ場はないからだ。昔からあーだこーだ苦悶しながらも、涼子との面会は行ってきた。たとい死ぬほど嫌でも、我慢するしかないのだ。

 降参です、と宣言するように両手を高く上げ、仰向けに倒れこむ。電灯の光が思いのほか眩しく、目をつむる。仄白い光が、眼底に残る。

 そんな時だった。大家さんの言葉が頭をよぎったのは。

「ヒロシは、もう変われてるよ、か……」

 大家さんの口車に乗せられて、初めは乗り気になっていた。だけど、実際はどうなんだろ。僕は、本当に変われているのだろうか。イマイチ実感がわかない。

 なにせ今でも絶賛ひきこもり中なわけだし、心理的にも経済的にも自立していない、どこに出したって恥ずかしくない絵に描いたようなひきこもりニートだ。

 だけど――と僕は考えてしまう。

 もし大家さんが言うように変われていたのなら、ひきこもりニートから脱出できていたのなら、今夜はどんな選択をしていたのだろうか。いつもとは違う、大胆な選択肢を選びとったのだろうか。

 そうだな。そしたら多分、僕はきっと――

 閃いた。

 閉じていた瞼を剥くようにして見開くと、起き上がり、手早くキーボードの上に指を滑らせた。

『私事で申し訳ないのですが、急用を思い出しました。今夜は帰宅できそうにありません。今月の生活費は、ポストの中に投函しておいてください。追伸・いつもお仕事お疲れ様です』

 そしてカーソルを送信のところに合わせ――躊躇した。

 勢いに任せてこんな文章を書き綴ったはいいが、本当にやれるのか。

 ――やめとけよ。

 弱気な僕が忠告してくれる。

 ――出来もしないことを妄想するのはよして、おとなしく妹を待っていようぜ。

 が、メールを送信した。

 送信完了と映るディスプレイの文字を見て、改めて決意する。

 そして立ち上がると、顔を洗うために洗面台へ向かった。洗顔料は使わずに、水のみで洗う。キンキンに冷えた水道水で顔を洗い、清潔なタオルで力強く拭うと、幾分か気分がサッパリした。

 鏡で自分の顔を見る。顔の腫れはスッカリひいていて、今ではその痕跡すら残っていない。怪我は完治。相変わらずのブサイクさは変わらないけれど。

 次は押し入れに向かい、中から数少ない衣服を取り出す。なぜかコートが見つからなかったので、厚手のジャケットで代用する。服を着替え、最後にニット帽を目深にかぶった。

 さて、僕がこれからしようとしていることは唯一つ、武井ヒロシの常套手段である逃走であった。

 生活費がなくては生きていけない。だけど、涼子と会うのは嫌だ。それなら、生活費だけを置いてもらって、涼子には会わなければいい。こんな素敵なアイディアが思いつくなんて、ヤバい僕超天才。

 ただし、一見完璧にもみえるこの作戦には、大きな穴があった。作戦達成の必要条件に、僕の外出が含まれていることだ。ひきこもりに居留守は使えない。ならば、実際に家を出て、留守の状態を作り出すしかない。

 たぶん、無理だろう。内心、そう思っていた。自分はきっと、外に出れない。

 今までも、ずっとそうだった。今日こそは外に出てやると意気込んで、勇猛果敢に外出の準備をするのだが、いざドアの前に立つと、固まってしまう。ドアノブを握りしめたまま、押し開くことができない。そして結局、また寝間着に着替えなおして、しとどに枕を濡らすのだ。いつも、その繰り返しだった。

 今回もまた、同じことを繰り返すのだろう。限りなく確信に近い予感。だが、それでもいいと思った。今夜だけは、とことん大家さんの戯言に付き合ってやろう。そう決めたのだ。

 滞っている世界に、一石を投じる。それだけで、ひきこもりニートには御の字の結果なのである。

 踵の潰れたスニーカーをきちんと履きなおし、ドアの前に立つ。

 すぅー、はぁー、と大きく深呼吸。

「行くぞ」

 冷えきったドアノブを握り、押し開き、外に出た。扉を閉めて、施錠する。赤く錆びた階段を降りて、通りに出る。

「あれ?」

 思わず振り返って、背後のボロアパートを見つめる。闇の中に佇むその姿は、さながら幽霊屋敷のようだった。

 それを見て、ようやく実感する。

「……出られた」

 出られてしまった。いともたやすく。葛藤らしい葛藤もなく。赤子の手を捻るが如く。

「は、ははは……」

 自然と、笑いがもれる。

 タララッタッタッター。ヒロシは、ひきこもりニートからノーマルニートへレベルアップした。

 イヤッホー、と歓喜の快哉をあげたくなるが、近所迷惑を考慮して、小さくガッツポーズするにとどめる。

 久しぶりに踏みしめる地面の感触が新鮮で、意味もなくステップしてみた。固い。いつも足裏に感じている畳の柔らかさと違う感触だけで、楽しくなる。

 大家さんの言っていた事は、今の今まで全て半信半疑だった。けれど、総じて撤回させていただこう。

 僕は、変われている。昨日までのうじうじしてた自分とは、もうオサラバだ。外出のひとつやふたつ、お茶の子さいさいだぜ。楽勝楽勝。ヒャッホー!

 人目がないのを確認してから、路上で小躍りする。言葉にできないくらい最高の気分だった。今の僕なら、空を飛ぶことだって、就職することだって容易にこなせる気がする。三次元なんてもうアレだよ。ヌルゲーですよヌルゲー。

「って、調子に乗りすぎだろ僕」

 ここら辺で、さすがに自省する。達成感に酔いしれるのはいいが、本来の目的を忘れてはいけない。とっととボロアパートから退散しなくては、涼子と出くわしてしまうかもしれない。

 今の僕は、遠足前の小学生のようにそわそわしていて、妙に落ち着きがない。気持ちを静めなくては。

 冬の冷たい空気を、肺が痛くなるほど吸い込み、吐き出した。それでも、マグマのようにたぎってくる昂揚は抑えられなかった。嬉しさのあまり、にまにまと頬が緩んでしまう。

 が、立ち往生していても話が進まない。とりあえず、歩き出すことにした。具体的な行動計画はたてていなかったが、構わないだろう。涼子が帰るまで、適当に街を練り歩いていればいい。

 それでは、出発進行。

 通行人も車両も通らない静かな道路を、ひとりぼっちで歩き始める。

 空はおののくほどに真っ暗で、砂粒みたいな星が、ばらまいたように散らばっている。それらを眺めながら、のんびりと歩を進める。

 最初こそ、雲の上を歩いてるようなフワフワした足取りだったけれど、次第にしっかりしてきた。

 そして、なんとなく手持ち無沙汰になってきたので、お気に入りの中二妄想を開始した。

 妄想の中の僕は、日本政府のシークレットエージェントだった。表沙汰に出来ない秘密裏の事件を政府から依頼され、それらの任務を鮮やかに達成する。

 僕はファンタジー系の妄想よりも、こういうハードボイルドな妄想を好んだ。学校にテロリストが侵入してきて、その日たまたま屋上で居眠りをしてた僕は、みたいなのは大好物である。

 政府から与えられたコードネームはH。僕は、いやHは、古今東西の武術を組み合わせた独自の格闘術をあやつり、肉弾戦では無敵の部類に入った。

 銃の扱いもピカイチで、ハンドガン、ショットガン、アサルトライフル、スナイパーライフルと種類を問わず、高い精度の射撃能力を有している。優秀という言葉が、ピタリと当てはまるような男だった。

 だが、有能かつプロフェッショナルなHにも、弱点と呼べるものがひとつあった。それは、突発的な不幸体質だ。Hの任務はいつも、突然のアクシデントと共にやってくる。

 たとえば、あそこの角を曲がったら、逃げ惑う黒髪の美女がHに抱きついてきて、こう嘆願する。私を助けて、と。

 彼女の背後からは、黒服の、いかにも怪しげな男たちがこちらに向かって駆けてくる。手には大口径の自動拳銃。銃社会と無縁の日本じゃあ、到底拝めそうにない代物ばかりだ。

 やれやれ、とHはいつものように軽く肩をすくめ、ニヒルな笑みをひとつ見せた。そして、誰にでもなく呟くのだ。今回も難しい任務になりそうだぜ、と。そして、黒髪の美女の手をとって、夜の街を走り出す。

 きっと、今夜もそんな展開になるに違いない。

 脳内の妄想を加速させながら、Hは角を曲がった。

「あっ」

 そこで、OLさんと鉢合わせた。

 踵を返して、逃げ出した。

「ちょっと――」

 OLさんが僕の(もうHはいいや妄想終了)背中に何か言葉を投げかけているが、当然無視。全速力で逃げ出す。

 先ほどまでの楽勝ムードは雲散霧消。すいません。正直、調子に乗ってました。やっぱり、外は恐い!

 しばらくの間、無我夢中で走った。冷えた夜の空気が目にしみて涙が出るが、それでも速度は緩めなかった。一歩でも多くOLさんから離れるため、必死だった。

 ここまでくれば、もう大丈夫だろう。そう確信できる地点までやってくると、近くの電柱に全体重を預け、火照った身体を冷やした。ぜえぜえと息が荒く、額からは汗が噴き出している。

 さて、どうしようか。

 部屋に帰りたいというのが本音だが、そうもいかない。あちらはもう涼子が到着しててもおかしくないし、これでもし鉢合わせでもしてしまったら、まさに本末転倒であろう。意を決して外出した意味がない。

 やはり当初の計画通り、このまま街を歩き続けるのが賢明なのか。OLさんと出くわすリスクは継続するが、多少はやむを得ないだろう。OLさんに見つからないよう最大限の注意をはらいながら、街を徘徊するしかない。

 奇しくも先ほどのハードボイルド妄想と妙にマッチングする結論を出して、額の汗を拭った時だった。

「待ちなさいっ!」

 闇夜を切り裂く、鋭い声。発生源を追いかけると、そこにはこちらに向かって走ってくるOLさんがいた。

 なんで追いかけてくるんだよ!

 反射的に、僕も再び駆け出す。爽やかとは程遠い汗を振りまきながら。

 深夜の閑静なベッドタウンに、二人の足音がこだまする。追う者と追われる者。なんと奇妙な追走劇だろう。

 へたに休憩を入れてしまったせいで、足がだるくなっている。ヘロヘロになりながらも、逃走経路を模索した。

 走っていて気づいたのだが、この街は曲がり角が非常に多い。そのため、場所によっては迷路のように複雑に入り組んでいる。住宅の数が多いからだろうか。原因はわからないが、なにはともあれ、この地形を利用しない手はない。

 OLさんを振りきるために、角を曲がったり、曲がらなかったりと、とにかく無作為に走った。彼女の視界から消える回数が増えれば、そのぶんT字路などの分岐点の時に、迷いが生じるだろう。僕が走った方向は、右なのか左なのか。その逡巡の分だけ、余分に逃げることができる。

 けれども、OLさんはホーミング機能でも付随しているのかってくらいに、正確無比に追いかけてきた。まるで鳥の視点から、この住宅街を俯瞰してるかのように。僕の目論見は外れ、二人のいたちごっこは続いた。

 元から、僕の運動神経は最低部類に入る。しかも、ひきこもりニートという最悪の要素が加わり、運動能力は下の下。いくら相手が女性とはいえ、追いつかれるのも時間の問題だった。そろそろ年貢の納め時か、と僕も諦めかけていた。

 しかし、勝利の女神は僕に微笑んだ。

 必死に足を動かしながら、首だけを軽く後ろに回して、OLさんの足元辺り、正確には彼女の履いている靴に目をやった。

 OLさんの履いている靴は、いかにも社会人の女性らしい、ややヒールの高いものだった。当然のことながら、僕の履いているスニーカーみたいに、運動性に富んだ靴ではない。OLさん自身も、非常に走りにくそうにしていた。

 靴のハンディーというのは、思ったよりも大きかったらしい。僕と彼女の距離は、徐々にではあるが、確実に離れていった。

 勝った。

 僕は確信する。天は自分に味方している。

 あまりにも距離が離れてしまえば、OLさんの魚雷みたいなホーミングも機能しないはず。この調子で走り続けていれば、僕の勝利は約束されるのだ。

 はっはっは! 恨むのなら僕じゃなくて、そんな踵の高い靴を履かなくてはならない社会人になった自分を恨むんだな!

 と、心の中で悪罵を送り、目の前にぶら下がっている勝利の二文字にほくそ笑んでいたのだが、

「だから、待てって言ってるでしょうがっ!」

 OLさんが、思いがけない行動に出る。このままでは追いつけないと判断したのか、履いている靴を脱ぐと、それを両手に持って、素足のまま駆けだしてきた。なんたるバイタリティ。おいおい人生全力投球すぎるだろ。

 楔から解き放たれたOLさんの走りは、先ほどとは雲泥の差だった。もともと、運動神経も優れているのだろう。ぐいぐいとスピードを上げて、離れていた間隔をみるみると縮めていく。白星が一転、黒星に変わる。

 ちくしょう、捕まってたまるか。

 全力稼働中の足に鞭うって、更にスピードをあげた。筋肉痛も辞さない、鉄砲玉の如き勢いだった。

 ――のだが、デレていた勝利の女神が、ツンに変わった。

 運動不足が祟ったのだろう。激しく地面を蹴りつけて進んでいた足が、空中でもつれてしまい、空回りして、そして、

「へぶしっ」

 道路の上に、顔から滑り込んだ。

 顔全体が満遍なくアスファルトにズルズルとすれて、熱を帯びたような痛みが襲ってきた。

 やっと前回の傷が完治したってのに、またもや顔面を負傷するとは。なんなのですか。僕は常に顔に傷がないとダメな呪いにでもかかっているのか。畜生、これ以上ブサイクになったらどうするんだよ。責任とって養ってくれよ。

 って、そんなことを憂いている場合じゃない。早く逃げなくちゃ。

 すぐに立ち上がろうと、両腕に力を込めたのだが、

「ぐえっ」

 物凄い力で、上に引っ張られた。猫のように首根っこを捕まれ、ぐいと上昇した目線の先には、OLさんの顔。全力で走った所為か、頬が上気していて息が荒い。肩が激しく上下している。

 彼女は乱れた息を整えることもせずに、僕に対して冷然と言い放った。

「少し、付き合ってもらえるかしら?」

 果たして首肯する以外に、僕に何が出来たというのだろうか。是非、皆に問いたい。

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