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ゾディアックサイン  作者: カラス
その名はムー
69/73

船上生活~マイ~

自分が好きな作品が、ネットで見ると大体叩かれて辛いです……


「うっしゃあああああああ‼」


 甲板に上がった泰吾は、見慣れぬ物体に言葉を失った。


「なんだそれ……?」


 甲板にいたのは、青い防水パーカーを羽織るマイだった。暑い天気のなか、長袖長ズボンと見ている泰吾も汗だくになりそう恰好だ。いつもは赤いサイドテールだが、今回は後ろでまとめてポニーテールにしており、より凛々しい印象を受ける。

 だが、もっとも珍しいものは、マイの右手からぶら下がるものだ。

 ピチピチとよく動く、


「鮫⁉」


 そう、鮫だった。一メートル強ほどの大きさだが、紛れもない鮫だ。


「いやいや、お前それ危ないだろ‼ 何人食い釣り上げてるんだ⁉」

「大丈夫大丈夫。こいつ、安全な奴だから」

「安全って……」


 マイは、尾ひれから持ち上げているため、宙ぶらりんの鮫は、何とかしてマイの足元に食らいつこうとしている。鋭い歯がいつマイの足を引き裂くのかが気が気でならない。


「お前、そんなの釣ってどうするつもりだ?」

「決まってんじゃない。あたしはここのシェフよ。料理するに決まってるでしょ?」

「鮫って食えないだろ⁉」

「さあ? 肉ついてるなら、焼ければ食べられるわよ、きっと」

「お前何も知らないのかよ⁉」

「肉は大体焼ければうまいのよ。これ、レクトリア王国流の考え方ね」

「四本足は椅子以外食べられる中国みたいだな」

「まあとにかく、これ今日のご飯ね」


 マイは鮫を甲板中央の大きなクーラーボックスに投げ入れる。よく見れば、クーラーボックスの中には小魚が数匹すでに捕えられていた。


(あの魚たちは果たして中に戻るまでに無事で済むのだろうか)


 泰吾の心配を気にすることなく、マイはポケットから何かを取り出した。


「泰吾、あんたもやる? 釣り」

「釣り?」


 思わず受け取ったそれは、折りたたまれた釣り竿だった。なんてことはない、市販品だ。


「どうせ暇でしょ? エクウスも今日はこれ以上進めないって言ってたし。燃費悪いわね」

「そうだな。……餌はあるのか?」

「あるわよ。ほれ」


 マイはクーラーボックスの隣を指さした。彼女が持ってきたらしき釣り道具の詰め合わせ。片隅の小さなビンの中には、なるほど確かにうねうねと餌らしき虫がうごめいていた。


「……そうだな、俺もやるか……」




「暇だな……釣れないな……」


 泰吾は、釣りの経験はない。

 待ち時間が釣りの魅力だと言われているが、泰吾にはそれがいまいち分からなかった。

 マイがどんな顔をしているのかと覗いてみると、


「ふ~ん、ふ~ん」


 鼻歌を歌っている。


「なあ……マイ」

「何?」

「釣りって……退屈だな」

「退屈?」

「少しな」

「退屈なのね。ああ、そういえば」


 マイは、何かを思い出したかのように切り出しした。


「ねえ、あんたさ、今あたしたちといるのどう考えてるの?」

「どう、とは?」

「だからさ。世界平和部のことよ」


 マイが気まずそうに呟いた。


「ほら、あんたって、形式上はあたしに掃除として、雇われているわけじゃない? それに、たまたまエンシェントだったからこそ世界平和部にいるけど、べつに無理にあたしたちと一緒の行動をする必要はないのよ」

「ああ、そういうことか。俺はべつに気にしていない」


 そういいながら、泰吾の脳裏に過去のことが蘇った。

 学校の用務員として掃除をしていたら、たまたまマイと出会い、弱みを握られたせいで彼女専属の掃除屋にさせられた。そして帰りにたまたま自らがエンシェントという、古代の遺物を体にもつ者だと理解させられ、空と明日香と出会い、今度はナラクという名の悪人と戦い、羽月と美月と関わり、エクウスに振り回され、凶悪犯罪者の独川(どかわ)極哉(ごくや)との戦いになり。

 最近は博物館で、泥棒の金、銀、マキラと衝突し、町全体が火災に巻き込まれた。


「思い返せばとんでもない日常だったな。たった二三か月だが」

「ああ、あんたと知り合ってからそれくらいか。いろいろあったわね……」

「いろいろな」


 世界平和部になって行ったことは、エンシェントという人に話せない内容だけではない。人助けがメインの活動となって一か月たつが、


「以外に人助けって大変だな」

「言えてる言えてる。迷子のペット探し、最初のあれ大変だったわ~」

「猫に負けてたからな」

「うっさい!」

「あと、最近だと兄弟喧嘩の仲裁とか、落とし物探しとか」

「まさか机の中にあったとは……」

「変な日常だよな」

「変すぎるわよ。……ん?」


 ここで、マイが何かに注目した。ツンツンと泰吾を叩き、


「ちょっと、引いてる引いてる‼」

「え?」


 泰吾の釣り糸が、ギリギリと音を立てながら引いていた。


「あ、これどうするんだ⁉」


 思わず立ち、引っ張る。が、見えないものの方が力強く、泰吾を、彼の腰にしがみつくマイを同時に海へ引きずり込む。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」

「ああああああああああああああれえええええええええええええええええええ‼」


 泰吾とマイの悲鳴が、水しぶきの中に消えていった。

太平洋にいるサメには、きちんと人並みの大きさのものがいます。

食べられるかは知りません

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