船での食卓
なんか新しい話を思いついてしまった。頑張って平行して投稿しようかな……
「酷い目にあった……」
シャワーを浴びたのにスッキリしない。自業自得だと理解はしているが、納得はできない泰吾は、テーブルクロスを片付けた。
傍目ではマイと空が食器を洗い終え、書類をテーブルに乗せている。
「よし、みんな! 一回集まって!」
マイの号令に、談話室に散らばっていた全員が再びテーブルに着く。明日香だけは部屋の角で腕を組んでいるが。
「さて、改めて今回の調査について整理しましょ」
さっきまで食卓だったテーブルは、彼女の手によって、資料置き場へ変貌していた。世界地図を一番底に敷き、彼女が所属する組織、ゾディアックから持ってきたのであろう資料を机の角に重ねている。ほかにも方位磁石やら計算機やら、何の役に立つのかさっぱりわからないものが多い。
席に着いた泰吾は、改めてこの船の談話室を見渡す。学校の教室ほどの広さに、長方形のテーブル。両端には、長い木製の棚が伸びており、その上にはいろいろなところで採ってきた、値段がつかなかったのであろうさまざまなものが並んでいる。いくつか写真立ても混じっており、エクウスが笑っているのがなんとも目立つ。
後ろには甲板につながる階段、前には個室や浴室へ続く扉がある。
泰吾の隣には空、反対側にエクウスが座った。さらに、彼の隣にこの場にいる中ではひときわ幼い少女が座っている。どうもサイズが合わない白衣は、出港から今までの間についたのか、油汚れが多い。眼鏡の表情に感情があまり現れない、ツインテールの少女。
白珠羽月。彼女もまたゾディアックのメンバーであり、レストラン月光の看板娘である。
「今回の目的地は、ここ」
マイは、どこから取り出したのか、指し棒でパンと太平洋上の一点を指す。
アジアからもアメリカからも、オーストラリアからも大体同じくらい離れた場所。ほかの島々もない、地図上はただの海でしかない場所だ。
「ここに、謎の物体が出現したんだよな?」
「ええ。七月に入ってすぐにね」
泰吾の言葉にマイは頷いた。
次は、羽月が小さな声で発言する。
「海底から浮上したその物体は、言ってみれば島のようだった、と近隣の島の住民は主張しています」
「へっ、島が空飛ぶかよ」
エクウスが鼻で笑うが、羽月は続ける。
「それだけなら、調査隊が向かうところですが、浮遊を始めたこの島は、暗雲を作り出し、まるで台風のようなものを纏った、とのことです」
「普通の近代ヘリや船舶じゃ、とても突破できないらしいわ。しかも、それが絶え間なく続いている。ゾディアックがその調査に向かうことになったのはそのためよ。今回の任務は、この謎の島の調査。可能な限り多くのデータを入手、持ち帰れって話。都合がよかったわ、アンタが船持ってて」
「へっ。俺がいなかったらどうするつもりだったやら」
エクウスは首を振りながらも、じっとマイが指した地点を見下ろしていた。船長として、目的地の見定めはどれほど大事なのか、泰吾には見当もつかない。
「あと、できることなら、この大陸の暗雲をかき消してほしい、っていう命令がゾディアックからきているわ」
「暗雲? 最初に言ったやつか?」
「ええ」
マイは、新しい紙を机に置いた。びっしりと英語で書かれた辞令で、暗雲がもたらす被害についてつづられていた。
「あの島が作る雲なんだけど、どうも大気そのものに影響しているらしいの。大気を伝って、世界中に広がって、大雨を降らせているそうよ。日本にはまだ来てないし、しばらくは問題ないでしょうけど、放っておけば水災害なんかも起きるかもって」
「ハワイやグアムなんかは、もう被害が出ているだろう? ゆっくりはできないな」
「そいつは笑えねえな。が、残念ながらこの船は燃費が悪くてな。半日しか動かせねえ。んで、ゾディアックさんはそれだけの力をどうするんだ? 横取りすりゃ、世界征服だってできそうだ」
「仮に発生装置があった場合の処理は、現場判断に任せるそうよ。島は可能な限り保存状態を保って調査隊に引き渡し、が条件だけど。そういえば羽月ちゃん、支部長はこの件に関してなんか言ってた?」
羽月の父は、レストランの店長であり、ゾディアックの日本支部の支部長らしい。らしい、というのは、泰吾は未だに会えたことがなく、時折の行動の成果を耳にするだけだからだ。
羽月は首を振り、
「発生装置、のようなものは、破壊するべきだそうです。人の手には余る代物だろうと」
「人の手に余る、か……」
「まあ、それはどうでもいい。それよりエスカ」
目的確認も済んだところで、エクウスは自分の目的に念を押す。
「契約はちゃんと守ってもらえんだろうな」
「はぁ……ちゃんと申請してよね」
「あったりめえだ」
「なんだ?」
頭を抱えるマイは、細々と切り出した。
「今回船を出す代わりに、ゾディアックにエクウスが入手したデータを高額で取引できるようにしたのよ。本部も納得してはくれたけど、おかげでアタシたちにエクウスが見つけていないデータをたくさん集めて来いって言われて。でも、こうでもしないとアンタは持って帰るでしょ?」
「ああ。俺はトレジャーハンターだからな」
「全く……たぶんゾディアックだけじゃないと思うけど、アンタみたいな遺跡荒らしには苦労してんのよ。貴重な出土品を勝手に動かされちゃ堪んないわ」
「おいおい、失礼な。俺は許可取ってんぞ。勝手に無法者にすんな」
「え?」
「え?」
「え?」
「うそ……?」
エクウスが法を重んじる。その性格とはあまりにも釣り合わない事実に、泰吾もマイも空も羽月も、我関せずを徹底している明日香でさえも開いた口が塞がらない。
「……おいおい、待てや‼ なんだよ、その反応⁉ 俺がまるで無法者みたいじゃねえか」
エクウスにそう憤慨されても、
「お前はむしろアウトローだと思っていたが」
「むしろエクウスが法を守っているって……」
「結構ビックリです……」
「ただの泥棒が法を語るか……」
「でも、エクウスさん家に居候してから、一回も問題起こしてないですね……」
順に、泰吾、マイ、空、明日香、羽月。
さすがにエクウスも、堪忍袋の緒が切れたようだ。
「俺はこれでもな‼ 善人なんだぜ‼ 所有物なんざ盗んだこともねえし、殺しもやらねえ!」
しかし、エクウスがどれだけ叫ぼうと、泰吾たちは耳を信じることはできなかった。
最近新しい趣味を始めたいと考え始めました。釣りなんか面白そう




