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ゾディアックサイン  作者: カラス
古代いろいろ
65/73

前を向いて

第三章、これにて終了です!

「で、敵の目的は何だったんだ?」


 泰吾はそれしか呟けなかった。

 ナラクを倒したあと、空を連れて明日香たちのもとに駆け付けた時には、もうマキラの姿もなく、退屈そうに伸びをするエクウスと、空中で如意棒で雲をかき乱して雨を降らせる明日香しかいなかった。


 すでにあの火災から一週間。七月に入り、梅雨の季節も過ぎ去ったころ。

 流石は東京といったところか。復興のスピードには目を見張るものがあり、あの大火災の舞台となった沿岸部も、ほんの少し建設中が残るのみで、他はほとんど元通りになっていた。

 学校も二日だけ休校になったものの、すぐに再開、期末テストの影が見えてくる中、泰吾たちはいつものように退屈な部活動として世界平和部の部室で、定例会議を行っているところだ。

 結局猫の一件以来、依頼が舞い込んでくることもなく、人助けという活動内容はただの三日坊主で終わりそうだった。


「ただ壊したかっただけ、としか言いようがないじゃん? でもあそこまで大騒ぎを起こすかなあ?」


 マイも首を傾げていた。確かに、レリクスからすれば、世界そのものを敵に回しかねない事態を引き起こしてまでリターンがあるとは思えない。


「私も疑問だったけど、少なくともあたしたち限定でも、損害はあったそうよ」

「損害?」


 私たち限定、ということは、ゾディアックの誰かだろうか。

 そう、泰吾が疑問に思ったとき、答えたのは、部室のドアが開く音だった。


「エクウスの指輪が盗まれたらしいわ」


 平静を取り繕っている明日香が、スタスタと席へ歩みながら言った。

 いつものように凛々しい雰囲気だが、目には隈ができており、足取りも少しだけふらついている。内面からにじみ出る疲労感は大きいらしい。


「お疲れ、明日香。ゾディアックへの報告も大変だったでしょう?」

「ふ、私がリーダーでよかったわ。貴女なら、一か月は報告書から離れられなかったでしょうからね」


 マイへの悪口をいう余裕もなさそうで、明日香は肘で顔を支える。少し休ませたいと泰吾が思っても、彼女はそれを制し、


「彼らレリクスの目的は、どうやらあの風来坊さんが発掘してきた指輪みたいね」

「指輪?」

「ほら、エクウスが理事長に売りつけようとしてたじゃない? あれよ」

「ああ」


 数分だけのことだったので、形状は思い出せないが、確かに指輪を取引しようとしていた。

 しかし、あの指輪のためにあそこまで大規模な火災を引き起こすだろうか。


「あの盗賊、指輪を海から発掘したらしいけど……ぐっ……」

「アンタそんなに眠いなら寝なさいよ。アタシが説明するから」

「曲解軽口お姫さまに、そんな手間はかけさせられませんわ……」


 しかし、明日香の強がりもここまで。手が彼女を支えきれず、その場で倒れてしまった。よく放課後まで起きていられたなと、泰吾は思わず感心してしまった。


「アンタは知ってるでしょ? マキラが連れてる、金と銀のコンビ」

「ああ」

「あの二人に、先頭のさなかにくすねられたらしいのよ。それで、マキラが戦闘後に撤退したらしいから、あの指輪が目的だったんじゃないかって話になってるわけ」

「あの指輪にそこまでの価値があるのか?」

「さあ? ゾディアックのアタシや理事長でも、なにも感じなかったんだけど。それよりさ」


 マイは、詮無き事である指輪の話を切り上げ、明日香のつむじを見やる。


「定例会議もすることなさそうだし、部室は明日香に任せて、ちょっと行かない?」

「どこに?」


 泰吾の言葉に、マイはにっこりとほほ笑んだ。





 弓道場には、熱気が立ち込めていた。

 試験一週間前を目前に控え、夏の大会を控え、弓道部が真剣になるのも当然だ。

 

 滴る汗をぬぐい、空は弓を構える。


 いつもとなんら変わりない。狙いを定めて、矢を放つ。


 外れた。

 また外れた。


 無常に地面に突き刺さる矢を見つめながら、空は最後の矢に手をかけた。


「……ふぅ」


 そういえば、こんなふうに真っすぐ的と向かい合うなんて、最近なかった気がする。


「結局、単に怯えていただけなんだよね、私」


 矢を弓にかけかけながら呟く。ほかの生徒たちは、空を見つめているか、各々の練習のために気づかない。


「今でも、人を傷つけることになったら怖いと思うけど……」


 汗が蒸発し、少しだけ涼しく感じる。傾いている太陽の光が、空の汗に反射して、周囲に溶けていく。


「でも、一歩でも、前を見なきゃだめだよね……」


 弓を引き絞る。弦が早く飛ばしたいといわんばかりに彼女の右手を引っ張るが、その眼の照準を合わせるまで黙らせる。


 そして、


「……!」


 矢を放った結果に、空は爽やかにほほ笑んだ。見物している生徒たちの何人かも、彼女のスランプ脱出を喜んでいる。


 矢の回収に行こうと矢取り道へ行こうとしたとき、入り口の来客が手を振っているのが目に入った。


 空も手を振り返し、彼女と同じくらいの笑顔の赤髪と、静かに笑顔を浮かべる男へ駆け寄っていった。

夏休み中に弓道体験してみたいです

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