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ゾディアックサイン  作者: カラス
古代いろいろ
64/73

烈風

色々反省点が残る第三章でした

 毒を乗せた風が、ビルの谷間で竜巻を起こす。

 竜巻の乱気流に乗り、空は宙を泳いでいた。


「ははぁ‼」


 竜巻に巻き込まれた極哉も、空気の流れには逆らえず、ともに上昇している。


「やっぱお前は面白い‼ もっと遊ぼうぜ‼」


 自由で移動することすらできない。風を操る空の前に、極哉は圧倒的に不利なはずだ。だが、極哉にとって、それは刺激的なスパイスでしかない。

 乱気流を足場に、上空の空へ急速接近。手の毒牙から漏れる毒液が風に乗り、空のもとまで運ばれてくる。


「熱っ……!」


 いくらか頬に当たり、皮膚がただれる。しかし、空が弓を引き絞る力は衰えない。


「らぁ‼」


 極哉の蹴りを右手で防ぐ。ずっしりとした重みが、空の全身に走った。

 しかし、空も負けてはいない。自らの体を駆使し、極哉の体に応戦する。


 肉体と肉体がぶつかり合う音は、エンシェントなどという異能を完全に無視した、人間同士のぶつかり合いだった。


「ああ、やはり戦いはいい‼」


 極哉は半分虚ろな目で、そう叫ぶ。何かにとりつかれているように、盲目的に戦いを望んでいる。


「頭がすっきりする! 楽しい、愉快、爽快‼」

「やっぱり、貴方は人間じゃない‼」


 極哉の顔面に拳を叩き込む。雅風の装甲が薄いため、彼の骨に「ゴツ」と当たった音が、空にも帰ってくる。


「人を殴って、痛くない……不快感を何一つ感じない……‼ ただ、殺そうとするだけなんて、やっぱりただのゴーレムだ‼」

「ゴーレム……ああ、ゴーレム‼ いい‼ いいぜえ‼ 俺はゴーレム‼ ならば、だれでも殺せる! 誰でも壊せる‼」

「……少しは、否定して‼」


 歯を食いしばり、空は極哉の上からかかと落としをした。極哉はこの攻撃を察知できたはずだが、あえて防御することはせず、その一撃をその身に受けた。

 垂直落下とともに、極哉の体は地面にめり込む。しかし、


「が……カカカッカ」


 ゆっくりと起き上がり、空を見上げる。


「……私は、貴方を傷つけることを、何かを傷つけることを恐れない……!」


 空は、竜巻を手元に集め、新たな矢とした。

 流れるような動きで、空はその矢を放つ。


「はははぁ‼」


 放たれた矢は、極哉の一閃により切り落とされる。だが、それで役割は果たした。


「はぁ……」


 溜息にも似た極哉の笑み。それは、空が弓を掲げながら迫ることへの高揚感だった。


「やぁ‼」


 弓を使った斬撃が、極哉の体を天空へ切り上げる。


「次!」


 さらに、極哉が空中で停止したころを見計らい、その上から、今度は切り落とした。

 人間ならまず助からない速度で、極哉はまた墜落する。しかし、それでとどめにならないことは分かっていた。

 もくもくと舞う土煙の中からもがく影に向かい、空は容赦なく狙撃する。

 土煙が爆煙へと変わり、轟音が竜巻を散らす。

 人間と戦っている空ならば、ここで極哉のもとに駆け付け、安否を確認するところだろう。

 だが、


 ゴーレム相手の空ならば、情けを加える理由は一切ない。


 煙の中に見えたほんのわずかな動きでも、

 もう一度矢を放つ。


 それは、驚くほど無音に彼のシルエットに突き刺さる。しばらく何も聞こえなかったが、やがて


「がああああああああああああああああっはははははははは‼」


 悲鳴と笑い声の交じりが聞こえてくる。


「いい、いいぞ‼ やはりお前はいい!」


 狙ったわけではなかったが、矢は的確に極哉の心臓を射抜いていた。右胸から風の棒を伸ばし、全身血濡れになりながらも、極哉はその片目でギラギラと空を睨んでいる。


「片目、心臓‼ お前は俺を本気で殺そうとしている‼ 本気で命を奪おうとしている‼ だから、だからだからあああああああああああああ‼」


 体が崩れてしまうような全身の伸縮の末、極哉は再び、ビルを足場に空へ接近。


「お前を、殺したいいいいいいいいいいいいいいい‼」


 しかし、極哉の言葉すべては、空の翼が巻き起こしている風により遮断されていた。風を操る雅風の能力は、音の伝達さえも掻き消す。

 空の目には、極哉はただのゴーレムでしかなかった。


「これで、終わらせる……」


 風が、空の弓に集う。木製らしき雅風の弓は、緑の風の集合体と呼ぶべき姿だった。


 そして、極哉が空の目前で躍りかかったとき、

 空の口から、その言葉が紡がれた。


烈風斬(れっぷうざん)


 振るわれた風は刃となり、極哉の体を微塵に引き裂く。その哀れな姿が空の前に晒されることはなく、追加で発生した横長の竜巻が、奥の廃墟ごと彼を吹き飛ばした。


 やがて、竜巻が収まったとき、極哉も建物も、地面のアスファルトさえも、溶けたかのように消えていた。




「……空……」


 泰吾が騒ぎを嗅ぎ付けて、空の背後に追いついくまで、それから一分満たない時間を要した。

主人公を持て余していたなんて言えない……

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