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ゾディアックサイン  作者: カラス
古代いろいろ
63/73

似た者同士

出・オ・チ

 ハウリングエッジが、火花を散らす。ナラクのステッキを弾き、泰吾は完全に優位に立っていた。

 赤い一閃が、ナラクのマントを引き裂く。


「卑怯者のお前に、負ける道理などない」


 泰吾はそう吐き捨てる。同時に、ナラクの体を、明るい炎が包んでいった。


「がああああああああああ‼ 馬鹿な、バカなバカな‼」


 暴れて悶え、炎を消したナラクだったが、すでに全身は炭まみれ。とても戦えない状態だった。

 そのナラクに、泰吾はハウリングエッジを突きつける。


「観念しろ」

「わ、私を……」


 ギリリと歯を食いしばるナラク。彼はハウリングエッジを弾き、フラフラながらに立ち上がった。


「私をバカにするなああああああああああああ‼」


 強い目つきで泰吾をにらむ。泰吾は思わず静止し、その隙にナラクは影となり、姿を消してしまった。


「ま、待て‼」


 彼がいた地点に駆け付けるももういない。


「……逃がしたか……エスカ!」


 最初の不意打ちによって気を失ったマイを押し起こす。頬を叩くが、頭を打ったのか、動く様子はない。


「……仕方ない」


 ここにいるのは危険だ。せめてと、彼女をバス停に寝かせ、泰吾は自由気ままな二人を追いかけていった。


 目の前の東京タワーが燃えている。その姿は、この大火災の象徴とも取れた。






 正直に言うと、明日香は苦戦していた。


「お前、弱い」

「お前、弱い」


 一糸乱れぬ金と銀の連携。どれだけ深い仲でも、ここまで同じ動きをこの戦闘で行うことは不可能なのではないか。

 すでに今さっき、エクウスも二人の連携によって地を舐めさせられ、さっきの理事長との取引にだそうとした指輪を奪われた。

 あの指輪が目的だったのだろうか。


 明日香はそう思いながらも、如意棒を振る。しかし、それは銀ではなく、その背後の信号機を叩き折るだけだった。


「ちょこまかと!」


 苛立ちから棒術ががむしゃらなものになるが、なおさら論理的な銀の動きに追いつけない。それどころか、銀に気を取られてばかりいると、背中を金の蹴りに晒されてしまう。


「ぐっ……」


 またしても、金の蹴りだ。明日香は振り向きざまに如意棒をふるっても、それはエクウスがしゃがんでかわす以外、何も生まなかった。


「危ねえだろ‼ どこ見てんだ⁉」

「貴方こそ、すこし乱暴に動かないで! 如意棒に当たるわよ‼」

「動かねえで勝てるわけねえだろうが‼ てめえも死にたくねえなら、少しは真面目に抵抗しやがれ‼」

「黙りなさい、この脳筋無鉄砲盗賊! 貴方が下手に動くせいで如意棒が満足に動かせないじゃないの‼」

「ああ⁉ だったら自分の動ける範囲で動きやがれ‼︎ 俺の邪魔しねえ範囲でなら!」

「なんて身勝手自己中山賊なのかしら、貴方は。美月さんも見る目がないわね、このガサツお粗末さん」

「ああ?」


 金の蹴りをはじき返し、エクウスは完全に視線を明日香へ入れ替えた。


「……前々から思っていたが、やっぱテメェ嫌いだ」


 乱戦のさなかだというのに、エクウスは銃口を明日香へ向けた。


「羽月やら空やら泰吾やら美月やらに遠慮してやったが、はっきり言わせてもらうぜ。アイツらの前に。テメェが失せろ」

「言ってくれるじゃない。新参者のくせに。それに、貴方が嫌おうと、私の方が立場が上なのよ。身をわきまえなさい」

「へっ、お笑い種だぜ。この期に及んで組織の立場たぁな。周りを見やがれ」


 エクウスはサーベルで、火の海と化した町を指し示す。


「テメェがゾディアックのなにもんで、それがどんな力を持つのか、気に掛ける輩なんざテメェ一人だっつうの」

「……ふふ。それもそうね。それで、何が言いたいのかしら?」


 この時、エクウスの空気が少し変わった。

 地獄のように熱いこの場所で、まるで冷気が現れたかのように冷たく。


「……俺は気に入らねえもんは全部ぶっ潰す。敵は当たり前だ。たとえ味方でも、例外じゃねえ」

「……いい考えね」


 明日香も、如意棒を振り回して銀を追い払う。そのまま棒先をエクウスに向けた。


「私も、貴方のその無秩序で乱暴な考え方を参考にするわ。今後はそうやって生きるのも面白そうね。少しだけ見直したわ。気が合うわね」

「ああ。本当に奇遇だな」


 明日香はにやりと笑む。心なしか、ここ最近で、一番嬉しいとさえ思ってしまった。





「「貴方テメエが、今の最大の敵よ(だ)‼」」





 その様子を眺めていたマキラは、困惑を隠せなかった。敵たちがいる道路の上の高速道路から、ただひたすら目を点にしていた。


「漁夫の利を狙えばいいんでしょうけど、私たちのことは……?」

「マキラ様」

「マキラ様」

「分かっていますわ」


 頭を支えながら、マキラは背後に仕える金と銀に指示を下した。




 銃弾を打ち落とす。


 常人からは冗談のような一文だが、オーパーツ、緊箍児の力によって得られた身体は、それを現実のものとしていた。


 如意棒によって真っ二つに裂かれた銃弾がアスファルトに着弾、その地表を削り飛ばした。


「はっ‼」

「らぁ‼」


 如意棒とサーベルが火花を飛ばす。エクウスも長い間世界各地で遺跡荒らしをしていただけあり、ゾディアック有数の棒さばきの動きについてこれることに、明日香は内心舌を巻いていた。しかも、エクウスはこちらがわずかでも隙を見せれば発砲をしてくるので、こちらとしてはたまったものではない。


「おらおら、どうしたどうした⁉ そんなもんじゃねえだろ‼ リーダーさんよお!」

「言ってくれるわね、この……」


 エクウスの猛攻に悪態をつく余裕もなく、徐々に押されていく。


「仕方ない……筋斗雲‼」


 明日香はサーベルを防ぐとともにエクウスの胸を蹴り、上空へジャンプ。口笛を吹くとともに、どこからともなく金色の雲がその姿を現す。


「させるかよ‼」


 エクウスも、彼女が空中へ行くことは戦況の不利だと理解していた。即座に散弾を雲に打ち込み、筋斗雲を霧散させた。

 だが、


「今‼」

「間に合わねえ‼」


 エクウスが筋斗雲を消し去っている間、どうしても明日香への注意がそれてしまう。サーベルを彼女の軌道に振っても、彼女に集中していなければ当たるはずがない。やむを得ず、エクウスはバックステップにより、如意棒をよける他なかった。


「……前言撤回。狡猾な戦略が少しうぜえ」

「あら。褒め言葉かしら?」

「へっ。性格悪いな。昔の仲間を思い出すぜ」

「光栄ね。気まぐれ盗賊さん」


 明日香は如意棒を持ち直す。


「お次はこれはどうかしら?」


 明日香はポニーテールの房から、髪を数本抜いた。それらに息をかけると、髪は煙とともに、明日香と同じ姿のものへと変化した。


「なんだと……⁉」

「棒術には飽きたでしょう? 次の手品よ」


 エクウスは驚愕の表情を見せる。しかし、すぐに燃え滾る眼を宿し、


「何言っていやがる……むしろ、面白れぇ‼」


 腰の位置で銃を乱射する。合計五十体の明日香の分身体のうち、半数近くがこれにより消し飛んだ。

 さらに、数人単位で同時に攻めてくる明日香たちも、サーベルで受け止めては切り付け、すべて討伐していく。どうしてもサーベルが間に合わない場合は、蹴りで如意棒を相殺し、勢いをつけた回転蹴り、ひるんだところにこめかみへの発砲で対処していた。


「へっ。掃除は終わったぜ」


 最後の一体を両断したエクウスは、クルクルと銃を回転させて明日香に向ける。


「次の手品は考えたか?」

「さあ、どうかしらね?」


 沈黙。それに我慢できない手前のビルが、炎に耐え切れずに崩壊した。その土煙で互いの姿が見えなくなった瞬間、明日香は駆け出した。

 エクウスも同じことを考えていたようで、すぐに彼女の視界に現れ、サーベルで切り付ける。如意棒と数回にわたって火花を散らし、またしてもフリント式の銃口が明日香に充てられる。


 発砲する、その直前。


「……そう」


 明日香は、サーベルを受け止める如意棒を上空へスライドさせる。ひらひらと宙を泳ぐ如意棒をしり目に、明日香はその場でうつ伏せに伏せる。

 同時に、エクウスの銃が火を噴いた。


「……がっ‼」


 誰にも命中していないはずの銃弾。それは、背後から明日香を狙っていた金の鎧に確かに命中していた。


「何っ⁉」


 遠目のマキラが驚いている間に、エクウスはさらに銃を連射させる。無尽蔵の弾丸数を思わせるエクウスのオーパーツは、やがて頑丈だった金の鎧を貫通し、銃弾の雨が奥の車にすら降り注ぐようになっていった。

 同時に、明日香はスライディングによりエクウスの又を潜り抜け、エクウスの死角に迫っていた銀ののど元を蹴りあげる。鎧のせいでダメージはないが、人ひとりを跳ね返すくらいの威力はあった。


「……がっ‼」


 さらに、銀が空中で身動きをとれなくなっている間に、さらに急上昇。落下中の如意棒を掴むと同時に、銀の脳天に一気に振り下ろした。

 いかに頑丈な鎧といえど、脳天への一撃と、それに伴う地面への追突。銀がピタリとも動かなくなる説明には十分だ。


「その様子だと、見事に騙されたようね、物欲まみれ迂闊さん」


 エクウスの隣に着地した明日香は、そう告げた。


「貴方たち……仲間割れしていたんじゃなかったの……⁉」

「本気で騙されていたみてえだな」


 マキラの慌てぐらいに、エクウスも愉快そうに笑った。


「よく言うだろ? 敵をだますにはまず味方から」

「もっとも、私たちは同じ考えを同時にもったらしいけど」

「まさか……同時に味方を攻撃しようと考えたというの……⁉」


 マキラが信じられないという表情をしているが、事実そうなのだから仕方ないでしょうと、明日香は肩をすぼめた。


「まだ知り合って長くはないけど……どうやら、私たちは似た者同士らしいのよ」

「まったくもって不本意だがな」


 マキラが歯を食いしばる姿は、とても愉快だった。

今年も半分過ぎるんですね……正直、半年前のことが遠い昔のことに思えるんですけど

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