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ゾディアックサイン  作者: カラス
古代いろいろ
62/73

人じゃない

Twitter始めたはいいけど、結局触らない……というか、これ使ったらスマホ中毒治せないですよね?

「ああ……会いたかったぜ」


 にやりと微笑む悪魔。その眼差しは、屈強な人でさえ物怖じするに違いない。

 そのような眼に、たかが高校生の空が耐えられる道理はない。体が震え、足が地面をこする。


「独皮……極哉」


 静かに、悪魔の名前を口にする空。極哉は満足そうにうなずき、


「覚えているよな……? この目を」


 極哉は自らの右目を指さす。人間の眼の代用となっているのは、黒い眼帯。瞳があった場所に描かれた絵は、不気味な蛇がこちらに喰らいつこうとしているものだった。


 あの傷を作ったのは自分だ。その仇として、自分を恨んでいるのは当然だ。

 しかし極哉は、さほど憎しみを露わにせず、こう口にした。


「なら……遊ぼうぜ?」

「っ⁉」


 極哉は憎むどころか笑顔になっていた。そして、生身のまま炎のなか、空に向かって走り出す。


 空は急いでエンシェントになろうと雅風を取り出すが、パニックにより取りこぼしてしまう。拾い上げようにもすでに接近した極哉がいるので、両腕で防御することを選んだ。


「オラっ‼」

「きゃっ‼」


 極哉の蹴りは、空をまるでボールのように、道路標識まで吹き飛ばした。標識が彼女の背中でひしゃげ、全身が痺れる。


「ゲホッ、ゲホッ……いっ……いまの……」


 腹の痛み。空の体をここまで蹴り飛ばすなど、人間業ではない。口の中に鉄の味を感じながら、空は極哉を見上げた。


「ああ……いいぜ……体がなじんでいやがる……」


 目を白黒する空とは対照的に、極哉は満足げに自らの体を見下ろしている。なにも着用していないのに女性である空が目を覆わないのは、蛇の刺青があまりにも大きく、裸体とは思えないからだ。


「ルヘイスのやつに礼でも言っとくか。こいつはいい‼」


 極哉はさらに、手ごろな車を殴った。すると、殴られたフロントドアはまるで紙のようにくしゃくしゃになり、彼が手を引っ込めると同時にドアごと抜けた。


「こいつは面白い‼ どんどん楽しくなってきたぜ」


 極哉はそのままフロントドアを空に投げつける。


「っ!」


 地面を転がることでキリキリ回転するフロントドアを避ける。彼女の頭上でそれが標識をバッサリと切り落とし、空の背筋が凍る。


「どうなってるの、あの体⁉ 人間のレベルじゃない……!」

「ハハッ‼︎ さあな、俺も詳しくは知らない」


 極哉はそんなことはどうでもいいと言わんばかりに、腰を下ろす。


「それより、遊ぼうぜ?  この目の分は、お前で遊ばないとなぁ‼」

「っ‼」


 極哉は続いて彼女の顔へ蹴りを放つ。寸でよけた空は、極哉の首筋を狙って手刀を振り下ろした。柔らかい手ごたえで、極哉の喉をつぶしてしまう威力だが、それでも極哉は笑っていた。


「はは……」


 少しは堪えたのか、極哉も距離をとる。かすれた笑い声だったが、


「無駄だ……今の俺は、オーパーツを体に染み込ませているからな‼」


 一瞬で回復した。それと同時に明かされた事実に、空は眉を顰める。


「オーパーツを、染み込ませている?」

「オラァ‼」


 しかし、極哉は空に考慮の時間を与えない。型などない、荒くれた攻撃が、空を襲う。

 武術経験から、彼の動きは読めるが、それでも極哉は一切焦りがない。

 しかし、防戦一方では勝負に勝てない。歩道の段差につまずき、空はバランスを崩してしまった。


「しまっ……!」

「ハァ!」


 さらに不幸は続くもの。尻もちをついた彼女の髪を鷲掴みにした極哉が、彼の顔まで彼女の頭を持ち上げる。


「ぐっ……」

「アハハハハハッハハハハハ‼ おら、どうした⁉」


 極哉は、宙吊りの空の腹を蹴った。口に含んだ血を吐きながら、ボールのように跳ねる。


「はは……、ハハ‼ 戦えよ! 遊ぼうぜ‼」


 遊び。空の耳に色濃く残る、その言葉。


「遊びって、何ですか……っ‼」


 まともにエンシェントになれないことも忘れた空は立ち上がった。


「公園で、事件を起こして……」


 最初に彼と戦ったときのことが脳裏に浮かぶ。


「目を失ってまで戦って……!」


 ルヘイスの城での出来事が思い出される。


「あなたにとって、遊びって何ですか⁉ こんなことが、楽しいんですか⁉」

「ああ……楽しい……」


 極哉は乾ききった声でつぶやいた。


「だから、俺は、壊す。殺す」

「なによ、それ……っ! 楽しいって……!」

「ああ……たまには、話でもしようか? ああ⁉」


 極哉の蹴りは重く、受け止めても空の体を浮かばせる。


「俺は、ずっと暴力とともに生きているんだ」


 極哉の拳をかわし、彼の胸元に拳を入れる。少し体勢がずれても、小柄な空の抵抗など極哉には大きくない。すぐさま猛攻が始まり、空は防戦に転じる。


「殺すか殺されるか、食うか食われるか。それが、だんだんと生を感じてきたんだ」

「そんな……」

「食うか食われるか……生きるか死ぬか‼ このなかに一度入ればもう抜けられない‼ お前も、来いよ‼ 楽しいぞ‼」

「それ……それは、人間じゃない! 食うか食われるかって、動物と同じじゃないですか‼」

「ああ……動物か……それはいい‼」


 距離を引き離した極哉は、狂ったように口角を吊り上げる。


「どっちが人間だろうなァ⁉ 退屈な家のなかでぬくぬく過ごすか、あるべき本能通りに生きるか⁉ アッハハハハッハハッハハハハッハ」


 煙がもくもくと昇っていく中の極哉は、まさに人ではない。


「……私、たぶん怖がっていました」

「ああ?」


 空は一度空気を吐き出し、


「人を傷つけたくない、そう考えていました。でも、あなたは違う……」

「はは……違う?」


 空はポケットから雅風を取り出す。これまで何度も使ってきた相棒の笛は、ところどころに傷が入り、空とともに駆けてきた時間を感じさせた。


「私は、独皮極哉という人間を傷つけることに怯えていました」

「俺を傷つけることに……何を恐れる必要がある?」

「人を傷つけることは、同じくらい自分を傷つけることですから。でも、貴方は違う」


 空は、極哉の顔に目を戻した。目を失い、人を亡き者にしながらも笑みを絶やさない人物。


「あなたは、もう人間じゃない。人間とは思えない。ただの猛獣。ゴーレムとなんら差はない……!」


 度重なる不運の中、たった一つだけ幸運があった。


「はははははは‼ なら、どうする?」

「私は、ゴーレムと戦うために、エンシェントになった……だから‼」


 それは、空が投げ出された地点が、彼女が雅風を落としたところだということ。

 エンシェントになる、その道具があったこと。

 そして、極哉に対する恐怖を、いつの間にか考えなくなっていたこと。


「いつもとなにも変わらない……! ゴーレムを破壊する! それだけです‼」


 雅風を唇につけた。

 それに呼応するように、極哉も唇をなめた。蛇の入れ墨に、生命が宿る。


「いいぜ……。今度はエンシェントとして、遊ぼうぜええええええええええええ‼」


 紫の毒が蔓延する夜空に、緑の清風が吹きすさぶ。


 そして、炎を吹き消しながら、二人のエンシェントが、地を蹴った。

パソコン修理代が20万円。素直に別のやつ買います

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