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ゾディアックサイン  作者: カラス
古代いろいろ
61/73

火災の悪夢

「なんだこれ……」


 夕焼けの街にやってきた泰吾は、そのあまりの惨状に唖然とした。多くの建物が炎を噴き出し、黄昏の空を赤く染め上げている。

 人々は逃げまどい、色とりどりの街が紅蓮一色になっている。

それだけではない。


「ーーーーーー‼︎」


 四足動物型の陶器色のボディと青いエネルギーライン。ヤギ型のゴーレムが、泰吾たち一行を迎えた。


「くっ……」


 舌打ちとともに、泰吾の体が白い光に包まれる。

 イニシャルフィストとともに光の矢となり、ヤギの首を貫いた。一瞬でその体を爆散させた泰吾は、着地とともにあたりを見渡す。


「なんだこれは……⁉ なにがどうなっている⁉」


 ゴーレムはヤギだけではなかった。大小さまざまな動物のゴーレム、以前羽月が誘拐されたときに大量発生した人型ゴーレムなど、無数のゴーレムが、体を使ったり手の銃器を駆使して破壊活動を行っていた。


「わけわかんないけど、とにかくやるしかないでしょ!」


 マイもすでに炎の剣を振るい、人型ゴーレムを一気に切り伏せている。


「でも、なんなのよこの量‼ またルヘイスの奴が悪さしてんの⁉」

「原因究明よりも先にするべきことがあると思うんだけどね、緊急時無駄口お姫さま」


 彼女の背後から不意打ちをしようとした人型ゴーレムの頭を叩き割った明日香。そのまま頭上で青い棒、如意棒を回転させ、とびかかってきた人型ゴーレムを粗方薙ぎ払った。


「……睦月さんは?」

「お前今まであいつの様子がおかしいことに気付かなかったのか」


 群がる人型ゴーレムをいなしながら、泰吾が呟いた。明日香が頷くと、マイが手短に空のスランプを語った。


「そう。あの子も限界ね」

「限界って……」

「理由はともあれ、一度戦えなくなるのは致命的よ。そこからずるずると何もできない自分に憤ることになるわ」

「ずいぶん見てきたように言うんだな」

「まあね。詳しく聞きたいかしら?」

「今はいい」


 泰吾が最後の人型ゴーレムを殴り倒し、この場は収束した。本来はどこにでもある十字路のはずが、乗り捨てられた車から火の手が上がり、アスファルトの道路もひび割れている。


「ずいぶんと世紀末な状況だな、これは……」


 イニシャルフィストを解除しながらそう漏らす。自動車のそばで転がっている煤こけた熊の人形を拾い、なんとなくひしゃげた車のボンネットに置いた。


「へっ。んなにぶっ壊したところでしょうがねえだろうが」


 隠れていたゴーレムを狙撃したエクウスが言った。


「ったく、どこのどいつだよ、こんなにめちゃくちゃしやがって……」

「ほかの場所にもあるだろうな、これは……」

「手分けするしかないわね」


 明日香は口笛で呼び出した雲に飛び乗りながら言った。


「それじゃ、死ななければまた会いましょう」

「あ、ちょっと明日香!」


 明日香はマイの呼び声にも応えずに飛び去って行った。マイは不機嫌そうに地面を蹴り、


「もう‼ こういう状況で戦力分散は賢くないこと、あいつが一番よくわかってるクセに!」

「筋は通ってんだろうが。敵が不特定多数だしな。悪いが、オレも別行動させてもらうぜ」


 エクウスもまた、一瞬で走り去っていった。


「エクウスまで……泰吾はどうする?」

「俺は単独行動よりも集団でいたほうがいいからな。ユニゾンを考慮に入れるから」

「よかった、脳筋だけじゃなくて……ん?」


 マイが一安心した瞬間、不安げな表情を浮かべた。そして、


「危ない!」


 何かに気付くマイが、泰吾を突き飛ばす。何があったのかと彼女のほうを向くと同時に、その場に黒い影の柱の出現を目撃した。


「なっ……⁉」


 泰吾の驚愕は、消えた影の底から倒れたマイの姿により更なる驚きとなる。


「エスカっ‼」


 駆け寄っても、実体化した質量に押し潰されたマイの体は反応しない。幸い出血はないようだが、脳震盪だろうか、気を失っていた。


「くそ、いまのは一体……」


 泰吾は目を凝らして警戒する。敵は分かっている。不意打ちという卑劣を行う影使いは、


「どこだ、ナラク‼」


 幾度となく敵対してきた奇術師。空を媒体にし、羽月を苦しめた敵。

 すると、泰吾に応答するように、背後の影から気配があった。身をかわすと、黒い筋とともに、闇に紛れたマントが現れた。


「……久しぶりだな、白いエンシェント」


 ひしゃげた街灯に着地した黒い影。マントが払われ、長身の奇術師がその姿を現した。


「これまで何度も邪魔された……その罪、その身をもって償え‼」


 黒いシルクハットと鋭い目つき。ナラクの姿を確認した泰吾は、マイの手元の剣のペンダントを拾い上げた。


「この騒ぎは、お前たちの仕業か……」

「我々のボスがこの町に用があるらしかったのでね……それは別として、貴様‼」


 ナラクがステッキを泰吾に向ける。


「一度ならずに二度までも、私の邪魔をするとは……っ! 覚悟はできているんだろうな‼」

「覚悟? よく言うな」


 泰吾はマイのペンダントを握りしめる。そこから溢れる赤い炎とともに、泰吾の体もまた、白い光に包まれていく。


「俺たちの町を破壊した、お前こそ! 覚悟するべきじゃないのか⁉」


 やがて渦を巻く光の柱。白と赤が切り裂かれ、そこには赤いマフラーを靡かせるイニシャルフィストがいた。

 赤い、ハウリングエッジを持った泰吾。羽月により「ユニゾン」と名付けられた能力が、闇夜を照らし出す。


「さあ、決戦と行こうか‼」




「ずいぶんと被害範囲が広いわね」


 この場所に来てから、もう何体目になるだろう。如意棒で人型ゴーレムの体を引き裂き、周囲を警戒する。

 ここに来てからの無双ぶりに恐れをなした人型ゴーレムたちは、一定以上の距離から近づこうとしない。意思なくとも、危機管理能力は備えているということか。

 明日香は、背後の地下鉄の駅の入り口から、ここが赤羽橋駅だと知る。東京タワーを目前にしたこの場所までにゴーレムの手が回っていることに、彼女は人為的なものを感じた。


「ここまでくるといくらゾディアックでも隠し切れないわね……どうしたものかしら?」

「そもそも隠す必要もねえだろ」


 発砲音とともにぶっきらぼうな声。悪趣味なフリントロックピストルをくるくる回しながら歩み寄ってきた。無論、近くにいた人型ゴーレムをすべてサーベルで切り伏せた上で。


「そもそも、ハナから情報開示していりゃ少しは被害減らせたんじゃねえの?」

「貴方は民衆のパニックを理解していないそうね。ゴーレムなんてものが天災どころか、このところ頻発していますなんて公表してみなさい。さぞ愉快なことでしょうね」

「ったく、めんどくせえな……、文明人てのは。前に寄った部族なんざ、秘密の概念も持ってなかったぜ」

「あら、随分平和な部族ね。どこかしら?」


 明日香は如意棒を頭上で旋回、周囲の敵を薙ぐ。届かない遠方の人型ゴーレムは、すでにエクウスが撃ち落としていた。


「……さて、次は……‼︎」


 エクウスが移動しようとした途端、彼の体が何かに弾かれたように跳ぶ。すると、彼がいた場を細長い鞭が叩く。


「……!」


 すかさず明日香は、如意棒を釘のように打ち付け、鞭を固定。鞭を手繰り寄せ、相手を暗闇から引きずり出した。


「がっ!」


 すると、何かが落ちる音。鞭が建物の屋上に伸びていたことに気づき、敵の転落を考えたが、その心配はなさそうだ。すぐそばで起き上がる影が、炎に照らされ、露になる。


「やってくれたわね……」


 悪趣味なヒョウ柄のコート、下品な肉体を強調させた服。鋭い目つきの女性がこちらを睨んでいた。


「どうしてくれようかしら、この傷……」


 彼女の頬には、今のいざこざで付いたらしき、切り傷があった。建物から転落してそれ程度で済んだといういことは、彼女もまたエンシェントということか。


「私の、この、美しい顔を‼ よくも、よくもおおおおおおおおおお‼」

「あら? 傷物のほうがワイルドで似合っていてよ? 残念粗暴美人さん」


 すでに彼女は敵だと認識している。おそらく、先日博物館を襲ったというエンシェントだろう。

 明日香はエクウスに目配せし、彼女との臨戦態勢に入る。

 女性も歯を食いしばりながら、指を鳴らした。

 すると、金と銀の閃光とともに、二人の鎧が彼女の前に現れ、跪いた。


「参りました、マキラ様」

「参りました、マキラ様」

「金、銀、奴らを始末、オーパーツを奪いなさい‼」


 マキラなる者の命令により、二人の無機質な従者はこちらを向く。覗き穴すら見当たらない鎧越しに、殺気を感じた。


「面白え。かかって来いよ」


 エクウスもそれに応じた挑発。

 そして、

 マキラを除いた四人が、一斉に地を蹴った。

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